コラム：佐藤さとう久ひさ理子さとこ　Paris, je t'aime - 第だい110回かい

ロマンポルノ、フランスでも高こう評価ひょうか　神代かみしろ辰巳たつみ監督かんとく作さくは初期しょきゴダールが撮とった「エマニエル夫人ふじん」との声こえも

（C）1975日にち活かつ株式会社かぶしきがいしゃ

フランスに来きてからもっとも驚おどろいたことのひとつに、ふつうの映画えいが館かんで日本にっぽんのロマンポルノが掛かかるということだった。もちろん、しょっちゅう機会きかいがあるわけではないが、それでも何なん本ほんかはフランスで劇場げきじょう公開こうかいをされているし、レトロスペクティブや映画えいが祭さい枠わくでの上映じょうえいなどを含ふくめると、案外あんがい観みられる機会きかいがある。その中なかには、映画えいがとして批評ひひょう家かから高たかい評価ひょうかを受うけているものもある。

ロマンポルノというのは、60年代ねんだいのカラーテレビの普及ふきゅうとともに斜陽しゃようになった日活にっかつが巻まき返かえしを図はかるため、1971年ねんから制作せいさくし始はじめたレーベル「日活にっかつロマンポルノ」を指さすが、フランスにおいて注目ちゅうもくされるきっかけとなったのは、パリで開催かいさいされる「エトランジュ・フェスティバル」の存在そんざいが大おおきい。1993年ねんに始はじまり、エロティシズムに限かぎらずあらゆる面めんで、エトランジュ（変かわった）で突出とっしゅつした作品さくひんを紹介しょうかいするこの映画えいが祭さいでは、これまで神代かみしろ辰巳たつみ、小沼おぬま勝まさる、西村にしむら昭五郎しょうごろうといった監督かんとくたちの作品さくひんを紹介しょうかいし、コアなファンを開拓かいたくしてきた。そうしたファン層そうからじわじわと評判ひょうばんが広ひろがり、批評ひひょう家かや映画えいが人じんにもロマンポルノの存在そんざいが知しられるようになったのだ。「ロマンスX」などで知しられるフランスの監督かんとく、カトリーヌ・ブレイヤにかつて取材しゅざいをしたとき、神代かみよの「四畳半よじょうはん襖ふすまの裏うら張はり」（1973）を観みて、いたく感動かんどうしたと語かたっていたことを覚おぼえている。

さらに評価ひょうかを定さだめることになったのが、日活にっかつスタジオ生誕せいたん100周年しゅうねんを記念きねんして、2011年ねんナント国際こくさい映画えいが祭さいで開催かいさいされたレトロスペクティブと、それと連動れんどうする形かたちで（プログラムは異ことなるものの）パリの国立こくりつ映画えいが博物館はくぶつかんシネマテークが、同年どうねんから2012年ねんにかけて開催かいさいしたレトロスペクティブである。両者りょうしゃとも日活にっかつ創成そうせい期きからのさまざまな作品さくひんを上映じょうえいするなかで、ロマンポルノも他た作品さくひんと同格どうかくの、重要じゅうような存在そんざいとして紹介しょうかいした。

（C）1975日にち活かつ株式会社かぶしきがいしゃ

シネマテークのプログラム・ディレクターを務つとめるジャン＝フランソワ・ロジェは、「ロマンポルノはジャンル映画えいがとしてのみならず、日本にっぽん映画えいがの歴史れきしにとって重要じゅうよう。とても大胆だいたんで、定型ていけいに捉われない個性こせいがある。たとえば神代かみしろ辰巳たつみの幾いくつかの作品さくひんは、まるで『気狂きちがいピエロ』時代じだいのゴダールが『エマニエル夫人ふじん』を撮とったように感かんじられる」と評価ひょうかする。

今日きょう、ロマンポルノがフランスで、一般いっぱんレベルで認知にんちされているとは言いい難がたいが、それでも少数しょうすうの映画えいが愛好あいこう家かに留とまらず、また女性じょせい観客かんきゃくも含ふくめて興味きょうみを呼よび起おこしているのはたしかだ。2019年ねんにはフランスのElephant Filmsから、ロマンポルノの代表だいひょう的てき5作品さくひんと、ロマンポルノから影響えいきょうを受うけた5人にんの現代げんだいの監督かんとく、塩田しおだ明彦あきひこ、白石しらいし和彌かずや、園子そのこ温あつし、中田なかた秀夫ひでお、行くだり定てい勲くんの作品さくひんをカップリングしたDVDセットが発売はつばいされた。（現在げんざいは品切しなぎれ）

また日仏会館にちふつかいかんフランス国立こくりつ日本にっぽん研究所けんきゅうじょが毎年まいとし発行はっこうする研究けんきゅう雑誌ざっし「Ebisu」が初はじめて日本にっぽん映画えいが特集とくしゅうを組くんだ今年ことしの4月がつ号ごう、「鏡かがみの映画えいがたち：日本にっぽん映画えいがの40年ねん（1980～2020）」のなかで、ロマンポルノの研究けんきゅう家かで批評ひひょう家かであり、日本にっぽん映画えいが祭さいキノタヨの選考せんこう委員いいん長ちょうも務つとめるフランス人じんディミトリ・イアンニが、「日活にっかつロマンポルノにおけるプロデューサーの役割やくわりと軌跡きせき」と題だいして寄稿きこうしているのにも注目ちゅうもくしたい。

当時とうじの日活にっかつのプロデューサーたちに取材しゅざいをし、長年ながねんロマンポルノをアカデミックに研究けんきゅうしているイアンニは、その重要じゅうよう性せいについて、「日活にっかつはロマンポルノを他たの作品さくひんと区別くべつすることなく、少すくなくとも題材だいざいゆえにモラルやイデオロギーに縛しばられることなく制作せいさくし、市場いちばに出だした。そのことが、いわゆるジャンル映画えいがやB級きゅう映画えいが、アメリカで言いうところのセックスプロイテーション・フィルムといった枠組わくぐみにロマンポルノが押おし込こまれることを防ふせぐことになったのだと思おもいます。もちろんこれだけ量産りょうさんされているだけに作品さくひんの質しつは様々さまざまですが、神代かみしろ辰巳たつみや田中たなか登のぼる、小沼おぬま勝まさるといった才能さいのうのある監督かんとくたちが質しつを保たもってきた。ほとんど2週間しゅうかんぐらいで撮影さつえいを終おえる超ちょう低てい予算よさんのスタイルは同時どうじに、監督かんとくに自由じゆうと大胆だいたんさをもたらすことになった」と語かたる。

2018年ねんには、「お尻しり映画えいが祭さい（Festival du Film de Fesses）」というパリの映画えいが祭さいで、神代かみしろ辰巳たつみの作品さくひん群ぐんをはじめ日本にっぽん映画えいがのセレクションも担当たんとうしている。そのなかで、神代かみしろ作品さくひんとしては珍めずらしいコメディ「黒くろ薔薇ばら昇天しょうてん」を紹介しょうかいした理由りゆうを尋たずねると、こう解説かいせつしてくれた。

「神代かみよのフィルモグラフィのなかでは『四畳半よじょうはん襖ふすまの裏うら張はり』や『赫い髪かみの女おんな』の方ほうが評価ひょうかは高たかい。ただ『黒くろ薔薇ばら昇天しょうてん』は、自身じしんを投影とうえいしたような、芸術げいじゅつ作品さくひんを作つくりたいという監督かんとくと彼かれにくどき落おとされる女優じょゆうの物語ものがたりが、ユニークなアイロニーを醸かもし出だしているコメディで得え難がたい味あじがある。当時とうじロマンポルノに出演しゅつえんする女優じょゆうを探さがすのが大変たいへんだったのは事実じじつで、そうした背景はいけいも本ほん作さくは反映はんえいしている。また神代かみよは俳優はいゆうの演技えんぎではなく、身体しんたいから生うみ出だされる＜真実しんじつ性せい＞に注目ちゅうもくしていた監督かんとく。その意味いみで、本ほん作さくは主演しゅえんの谷たにナオミに演技えんぎをさせるのではなく、真しんにそこに存在そんざいさせることに成功せいこうした作品さくひんでもある」

海外かいがいで本格ほんかく的てきに評価ひょうかされる日活にっかつロマンポルノを、いまあらためて観み直なおしてみるのも興味深きょうみぶかいのではないか。（佐藤さとう久ひさ理子さとこ）

（C）1975日にち活かつ株式会社かぶしきがいしゃ