コラム：佐藤さとう嘉よしみ風ふうの観かん々楽々らくらく - 第だい12回かい

第だい12回かい：僕ぼくたちへ向むけての「愛あい」についての指南しなん書しょ

いよいよ師走しわすとなりました。今年ことしは私わたし、佐藤さとう嘉よしみ風ふうにとっても様々さまざまな変化へんかに富とんだ1年ねんとなりました。変化へんかの度たびに、自分じぶんの無力むりょくさを痛感つうかんするばかりでありまして、まるで自己じこ嫌悪けんおという名なの沼地ぬまちの中なかを、片足かたあしずつ引ひっ張はり上あげては歩あるいてきた様ような気きがします。しかし、その沼地ぬまちでの歩行ほこう運動うんどうが、人生じんせいにおいて実じつはとても貴重きちょうで有効ゆうこうなエクササイズであったんじゃないかと、今いまは感かんじております。

そんな中なか、この「観かん々楽々らくらく」は今回こんかいをもちまして終了しゅうりょうとさせていただきます。1年間ねんかん、大好だいすきな映画えいがについて、コラムを発表はっぴょう出来できた事こと、また、つたない文章ぶんしょうにも関かかわらず皆みなさんにこのコラムを読よんで頂いただけた事こと、大変たいへん嬉うれしく思おもっております。本当ほんとうに、ありがとうございました。心しんから感謝かんしゃの意いを捧ささげます。

さて「観かん々楽々らくらく」最終さいしゅう回かいにご紹介しょうかいします映画えいがは、12月27日にちより公開こうかいとなる映画えいが「そして、私わたしたちは愛あいに帰かえる」です。まさに最後さいごを飾かざるにふさわしいタイトルですが、若わかき俊英しゅんえいファティ・アキンが監督かんとく・脚本きゃくほんしたこの作品さくひんは、07年度ねんどにカンヌで脚本きゃくほん賞しょうを受賞じゅしょうしております。ヨーロッパの中なかでも人権じんけん問題もんだいや司法しほう問題もんだいなど様々さまざまな社会しゃかい問題もんだいを抱かかえているトルコと、現在げんざいもトルコ系けい移民いみんが数多かずおおく居住きょじゅうしているドイツという2つの国くにを交差こうささせ、その「のりしろ」の部分ぶぶんで重かさなり合あい、またすれ違ちがう3組くみの親子おやこを映うつし出だした作品さくひんです。監督かんとく自身じしんも、トルコ系けい移民いみん2世せいとしてドイツで生うまれており、ヨーロッパの社会しゃかい状況じょうきょうを非常ひじょうにリアルに知しる事ことが出来できる優すぐれた作品さくひんです。また、場所ばしょ・人物じんぶつ・時間じかんという3つの要素ようそが絶妙ぜつみょうに絡からみ合あうストーリーの展開てんかいも素晴すばらしく、監督かんとくの構成こうせい能力のうりょくの高たかさに驚おどろかされます。

この映画えいがの1つのテーマでもある「愛あい」という言葉ことばを考かんがえてみたとき、そのあまりに捉とらえがたい定義ていぎに僕ぼくたちは翻弄ほんろうされてしまうし、画一かくいつ的てきな宗教しゅうきょう観かんの無ない日本にっぽんにおいてはなお、曖昧あいまいな響ひびきを醸かもし出だしています。宗教しゅうきょうの画一かくいつ化かなんて事ことが、唯一ゆいいつの正解せいかいだとは言いえませんが、せめてもう少すこし、僕ぼくたちが「愛あい」についての考察こうさつや感覚かんかくを研とぎ澄すませていれば、この国くにで頻発ひんぱつする親子おやこ間あいだでの殺ころし合あいやトラブルの数かずも減へるのかも知しれません。

この作品さくひんは、そんな僕ぼくたちへ向むけての「愛あい」についての指南しなん書しょだと思おもいました。僕ぼくは今いままで「愛あい」というものを、ついつい自分じぶんの内面ないめんや周囲しゅういの人間にんげんの内側うちがわに探さがしてしまっていましたが、それは全まったくのおごりだったのかもしれません。どちらかと言いえば、僕ぼくたち自身じしんが「愛あい」という言葉ことばの定義ていぎの中なかにすっぽりと内うち存そんしており、その中なかでしか人ひととして生いきられないんじゃないかと映画えいがを観みていて感かんじました。

多おおくの人ひとがこの作品さくひんを観みて、09年ねんが愛あいに溢あふれた年としになればいいなあとささやかに願ねがっています。また皆みなさんにどこかでお会あい出来できる事ことを夢見ゆめみています。