コラム：芝山しばやま幹郎みきお　テレビもあるよ - 第だい19回かい

映画えいがはスクリーンで見みるに限かぎる、という意見いけんは根強ねづよい。たしかに正論せいろんだ。フィルムの肌合はだあいが、光学こうがく処理しょりされた映像えいぞうの肌合はだあいと異ことなるのはあらがいがたい事実じじつだからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映ほうえいされる映画えいがを毛嫌けぎらいするのはまちがっていると思おもう。「劇場げきじょう原理げんり主義しゅぎ者しゃ」はとかく偏狭へんきょうになりがちだが、衛星えいせい放送ほうそうの普及ふきゅうは状況じょうきょうを変かえた。フィルム・アーカイブの整備せいびされていない日本にっぽんでは、とくにそうだ。劇場げきじょうでの上映じょうえいが終おわったあと、DVDが品切しなぎれや未み発売はつばいのとき、見みたかった映画えいがを気前きまえよく電波でんぱに乗のせてくれるテレビは、われわれの強つよい味方みかただ。

というわけで、2週間しゅうかんに1度ど、テレビで放映ほうえいされる映画えいがをいろいろ選えらんで紹介しょうかいしていくことにしたい。私わたしも、ずいぶんテレビのお世話せわになってきた。BSやCSではDVDで見みられない傑作けっさくや掘ほり出だし物ものがけっこう放映ほうえいされている。だから私わたしはあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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｢シンシナティ・キッド」

写真しゃしん：Album/アフロ

展開てんかいはのろい。途中とちゅうで余計よけいなラブロマンスが入はいり込こんでくる。描写びょうしゃの陰翳いんえいも豊ゆたかとはいえない。

数かぞえ立たてれば、「シンシナティ・キッド」には欠点けってんが多おおい。とくに映画えいがの前半ぜんはん部ぶ、主役しゅやくのシンシナティ・キッド（スティーブ・マックィーン）が恋人こいびとのクリスチャン（チューズデイ・ウェルド）を追おって田舎いなかへ行いくくだりなどは、あくびを噛かみ殺ころすのに苦労くろうする。

だがこの映画えいがには、駄作ださくと切きり捨すてられない味あじわいがある。

最大さいだいの魅力みりょくは、マックィーンとランシー・ハワード（エドワード・G・ロビンソン）の対決たいけつシーンだ。映画えいがの公開こうかい時じ、マックィーンは35歳さいで、ロビンソンは71歳さいだった。

とくに驚おどろかされるのは、ロビンソンのオーラだろう。この役やくを演えんじるはずだったスペンサー・トレイシーが体調たいちょう不良ふりょうで降板こうばんしたあとを引ひき継ついだとは思おもえぬほど、この映画えいがのロビンソンは渋しぶくてしたたかで、役やくにはまっている。しかも、「食くえないおやじ」のイメージを打うち出だすだけではなく、年とし相応そうおうのやつれや衰おとろえもしっかり造型ぞうけいしているのだ。

一方いっぽうのマックィーンも、さすがに動うごきが速はやい。ポーカー映画えいがはしばしばボクシング映画えいがに喩たとえられるが、マックィーンの場合ばあいも眼めと手ての連動れんどうが実じつにめざましい。いいかえるなら、彼かれはポーカーに必要ひつような運動うんどう神経しんけいを備そなえているだけでなく、フィルムのカッティング（編集へんしゅうはハル・アシュビーだ）を楽たのしくさせるような運動うんどう神経しんけいも備そなえていたのだった。

そんなわけで、映画えいがの終盤しゅうばんに来くると、私わたしはやはり画面がめんから眼めが離はなせなくなる。ここでは、親子おやこほど年としのちがうふたりの俳優はいゆうが、技わざとカリスマ性せいの火花ひばなを散ちらしている。ちなみに、ふたりの「手て」がぶつかり合あう確かく率りつは、なんと4500万まん分ぶんの1という数字すうじになるらしい。

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「シンシナティ・キッド」

NHK衛星えいせい第だい2　3月23日にち（水みず）　00:15～02:00

原題げんだい：The Cincinnati Kid
監督かんとく：ノーマン・ジュイソン
出演しゅつえん：スティーブ・マックィーン、エドワード・G・ロビンソン、アン・マーグレット、チューズデイ・ウェルド
1965年ねんアメリカ映画えいが／1時じ間あいだ42分ふん

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「息いきもできない」

「息いきもできない」を最初さいしょに見みたときの印象いんしょうは忘わすれられない。鮮烈せんれつで、痛烈つうれつで、苛烈かれつだった。

技術ぎじゅつ面めんでのささやかな弱点じゃくてんはともかく、気合きあいがちがっていた。いまは「烈れつ」という文字もじを連つらねてしまったが、つぎは「切きり」という文字もじを並ならべたくなる。哀切あいせつ、痛切つうせつ、切実せつじつ。

原動力げんどうりょくは、なんといっても監督かんとく・主演しゅえんを兼かねるヤン・イクチュンの面構つらがまえだ。

ヤンが演えんじるのは、キム・サンフンという取立とりたて屋やだ。彼かれは債務さいむ者しゃをすぐ殴なぐる。債務さいむ者しゃのみならず、自身じしんの輩やから下かがもたつくとそちらも殴なぐり飛とばす。いわば「歩あるく暴力ぼうりょく」だ。その根ねっこには、父親ちちおやの暴力ぼうりょくが原因げんいんで母ははと妹いもうとを失うしなった少年しょうねん時代じだいの体験たいけんがある。出口でぐちのない暴力ぼうりょくの再さい生産せいさん、といっても過言かごんではない。

だが、「息いきもできない」は陰惨いんさんにならない。映画えいががはじまってほどなく、奇妙きみょうなカップルが生うまれるからだ。男おとこはもちろんサンフン。女おんなはハン・ヨニ（キム・コッピ）という高校こうこう3年生ねんせい。ヨニの家庭かていも機能きのう不全ふぜんだ。

このふたりが、2匹ひきの野犬やけんのように街まちをさまよう。ロマンスやセックスの匂においは立たちのぼらないが、ふたりはある種しゅの双子ふたごだ。共通きょうつうする性格せいかくは、不敵ふてきと純情じゅんじょう。どちらも口くちは悪わるいが、たがいがたがいの養分ようぶんであることに気きづいている。そして、そこにもうひとりからんでくるのが、ヨニの弟おとうとヨンジェ（イ・ファン）だ。ヨンジェは、不吉ふきつな影かげも運はこび込こむ。

というわけで、描えがかれている世界せかいは狭せまい。低てい予算よさん映画えいがの常つねで、主おもな登場とうじょう人物じんぶつはほぼ出でずっぱりだし、手持てもちキャメラの多用たようもやや眼めに障さわる。が、ヤン・イクチュンは自作じさく自演じえん映画えいがにありがちなナルシシズムを感かんじさせない。主人公しゅじんこうを世界せかいに直面ちょくめんさせ、罵倒ばとう語ごの山やまを笑わらえるほどうずたかく積つみ上あげながら、彼かれ自身じしんが映画えいがという小宇宙しょううちゅうに正面しょうめんから勝負しょうぶをかけているためだ。3度ど4度どと見返みかえしても、「息いきもできない」の鮮度せんどは不思議ふしぎに落おちてこない。

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「息いきもできない」

WOWOW　3月23日にち（水みず）　0:00～02:11

英えい題だい：Breathless
製作せいさく・脚本きゃくほん・監督かんとく：ヤン・イクチュン
編集へんしゅう：イ・ヨンジュン、ヤン・イクチュン
出演しゅつえん：ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク
2009年ねん韓国かんこく映画えいが／2時じ間あいだ11分ふん