コラム：芝山しばやま幹郎みきお　テレビもあるよ - 第だい48回かい

映画えいがはスクリーンで見みるに限かぎる、という意見いけんは根強ねづよい。たしかに正論せいろんだ。フィルムの肌合はだあいが、光学こうがく処理しょりされた映像えいぞうの肌合はだあいと異ことなるのはあらがいがたい事実じじつだからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映ほうえいされる映画えいがを毛嫌けぎらいするのはまちがっていると思おもう。「劇場げきじょう原理げんり主義しゅぎ者しゃ」はとかく偏狭へんきょうになりがちだが、衛星えいせい放送ほうそうの普及ふきゅうは状況じょうきょうを変かえた。フィルム・アーカイブの整備せいびされていない日本にっぽんでは、とくにそうだ。劇場げきじょうでの上映じょうえいが終おわったあと、DVDが品切しなぎれや未み発売はつばいのとき、見みたかった映画えいがを気前きまえよく電波でんぱに乗のせてくれるテレビは、われわれの強つよい味方みかただ。

というわけで、毎月まいつき、テレビで放映ほうえいされる映画えいがをいろいろ選えらんで紹介しょうかいしていくことにしたい。私わたしも、ずいぶんテレビのお世話せわになってきた。BSやCSではDVDで見みられない傑作けっさくや掘ほり出だし物ものがけっこう放映ほうえいされている。だから私わたしはあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「殺ころしの烙印らくいん」

(C) 日活にっかつ

宍戸ししど錠じょうはニューヨークで人気にんきがある。知名度ちめいどならば、石原いしはら裕次郎ゆうじろうや小林こばやし旭あさひよりも高たかいくらいだ。上映じょうえい会かいでは拍手はくしゅが起おきる。

無理むりはない。宍戸ししど錠じょうはモダンだ。田宮たみや二郎じろうや天知あまち茂しげるも昭和しょうわのハイカラだったが、その上うえを行いく。情念じょうねんや感傷かんしょうでだぶついたりせず、動うごきが速はやくて冗談じょうだん好すきだ。クライテリオンからは、「拳銃けんじゅう（コルト）は俺おれのパスポート」や「殺ころしの烙印らくいん」の高画質こうがしつDVDが出でている。

というわけで、「殺ころしの烙印らくいん」だ。

私わたしはこの映画えいがを1970年代ねんだい初はじめに池袋いけぶくろの文芸ぶんげい坐すわで見みて、仰天ぎょうてんした。当時とうじの日活にっかつ社長しゃちょうが「わけがわからん」といって鈴木すずき清きよし順じゅん監督かんとくを解雇かいこしたのは有名ゆうめいな話はなしだが、私わたしは社長しゃちょうの頭あたまを疑うたがった。これほど面白おもしろいアクションに、なぜいちゃもんをつけるのか。

トンネルを使つかった縦たて構図こうずの銃撃じゅうげき戦せん。荒野あらのと廃墟はいきょのロングショット。防波堤ぼうはていで車くるまの下したに隠かくれ、滑車かっしゃを使つかって敵てきに接近せっきんするシーン。追おわれた宍戸ししどが愛人あいじんのアパートに潜伏せんぷくする場面ばめん。そして、ボクシング・ホールでの最終さいしゅう対決たいけつ。

どのアクションにも、思おもわず拍手はくしゅを送おくりたくなる。固唾かたずを呑のむというよりは、どこかにヌケのよさがあって、爽快そうかい感かんとふくみ笑わらいを呼よび起おこすのだ。

逆ぎゃくにいうと、この映画えいがにはダレ場じょうも少すくなくない。とくに宍戸ししど錠じょうがふたりの女おんなと絡からむ愛欲あいよく場面ばめんは、どちらもいただけない。工夫くふうと気取きどりはわかるのだが、アクション・シーンに比くらべていまひとつ野暮やぼったく、ついついあくびが出でてしまう。

まあ、こちらはご愛嬌あいきょうだ。宍戸ししど錠じょうの俊敏しゅんびんな動うごきと不敵ふてきなユーモア感覚かんかくは、その欠点けってんを補おぎなってあまりある。それと、よく見みればわかることだが、この映画えいがの筋立すじだてはけっして支離滅裂しりめつれつではない。妙みょうな喧嘩けんかをふっかけられて、鈴木すずき清きよし順じゅんもさぞかしやれやれと思おもったことだろう。

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「殺ころしの烙印らくいん」

WOWOWシネマ　5月15日にち（水みず）　19：00～20：45

監督かんとく：鈴木すずき清きよし順じゅん
脚本きゃくほん：具ぐ流りゅう八郎はちろう（鈴木すずき清きよし順じゅん、大和屋やまとや竺、木村きむら威夫たけお、田中たなか陽造ようぞう、曽根そね中ちゅう生せい、岡田おかだ裕ひろし、山口やまぐち清一郎せいいちろう、榛はしばみ谷たに泰明やすあき）
撮影さつえい：永塚ながつか一栄かずえ
音楽おんがく：山本やまもと直純なおずみ
出演しゅつえん：宍戸ししど錠じょう、真理しんりアンヌ、小川おがわ万里子まりこ、南原なんばら宏治こうじ、玉川たまがわ伊佐男いさお、南みなみ廣ひろ
1967年ねん日本にっぽん映画えいが／1時じ間あいだ31分ふん

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「ロング・グッドバイ」

(C)1973 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved.

フィリップ・マーロウは誤解ごかいされている。みんながみんなとはいわないが、「汚よごれた裏町うらまちをひとり歩あるいていく気き高たかい男おとこ」という一節いっせつに幻想げんそうを抱いだく人ひとたちは、いまも珍めずらしくない。ただ私わたしは、フィリップ・マーロウはボギーではないと思おもう。まあ、ロバート・ミッチャムならば、ある種しゅの説得せっとく力りょくを持もつのだが。

では、エリオット・グールドが演えんじた「ロング・グッドバイ」のマーロウはどうか。異ことを唱となえる人ひとが多おおいのを承知しょうちでいうが、彼かれは1970年代ねんだいに紛まぎれ込こんだ50年代ねんだいの迷子まいごだ。ダークスーツに臙脂えんじ（えんじ）のナロウ・タイという服装ふくそう。ひっきりなしに煙草たばこを吸すい、事件じけんの謎なぞを解とくどころか、謎なぞに振ふりまわされてばかりいる不器用ぶきような探偵たんてい。この肖像しょうぞうに思おもい至いたった瞬間しゅんかん、監督かんとくのアルトマンは指ゆびを鳴ならしたのではないか。

映画えいがの舞台ぶたいは、70年代ねんだい前半ぜんはんのロサンゼルスだ。マーロウは夜中よなかの3時じに猫ねこの餌えさを買かいに〈スリフティ〉へ出でかけるような男おとこだ。そのあと彼かれは、頼たよってきた友人ゆうじんを、自分じぶんの車くるまでティワナまで送おくる羽目はめになる。こういうときは大体だいたい、危あぶない金かねの持もち逃にげが絡からむ。案あんの定じょう、マーロウはギャングに痛いためつけられる。

アルトマンは謎なぞ解ときに力ちからを入いれない。チャンドラーの原作げんさくから登場とうじょう人物じんぶつを抽出ちゅうしゅつし、本筋ほんすじから逸脱いつだつするような会話かいわばかりを重かさねさせる。アルコール依存いぞん症しょうの作家さっかや、命取いのちとりになりそうな女おんなは出でてくるが、銃撃じゅうげき戦せんやベッドシーンの起おこりそうな気配けはいはまず感かんじられない。

だが、「ロング・グッドバイ」は退屈たいくつな映画えいがではない。犯罪はんざいがらみのスリルやサスペンスは希薄きはくかもしれないが、登場とうじょう人物じんぶつの姿すがたはどれも記憶きおくに鮮あざやかだ。話はなし方かたや殴なぐり方かたや走はしり方かたのひとつひとつが重かさなり合あい、微熱びねつを帯おびた小宇宙しょううちゅうが悪夢あくむのようにあぶりだされてくる。この感覚かんかくに味あじがある。そういえば、アルトマンの名なを高たかめた「M★A★S★H　マッシュ」も、戦闘せんとうシーンが一切いっさい出でてこない戦争せんそう映画えいがだった。

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「ロング・グッドバイ」

WOWOWシネマ　5月11日にち（土ど）　0：45～2：45

原題げんだい：The Long Goodbye
監督かんとく：ロバート・アルトマン
脚本きゃくほん：リー・ブラケット
原作げんさく：レイモンド・チャンドラー
撮影さつえい：ビルモス・ジグモンド
音楽おんがく：ジョン・ウィリアムズ
出演しゅつえん：エリオット・グールド、スターリング・ヘイドン、ニーナ・バン・パラント、マーク・ライデル
1973年ねんアメリカ映画えいが／1時じ間あいだ52分ふん