コラム：下したから目線めせんのハリウッド - 第だい21回かい

ハリウッドでは「映画えいがスター」という存在そんざいがなくなりつつある？

「沈黙ちんもく　サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画えいがの制作せいさくに一番いちばん下したっ端ぱからたずさわった映画えいがプロデューサー・三谷みたに匠たくみ衡と、「ライトな映画えいが好すき」オトバンク代表だいひょう取締役とりしまりやくの久保田くぼた裕也ゆうやが、ハリウッドを中心ちゅうしんとした映画えいが業界ぎょうかいの裏側うらがわを、「下したから目線めせん」で語かたり尽つくすPodcast番組ばんぐみ「下したから目線めせんのハリウッド ～映画えいが業界ぎょうかいの舞台ぶたいウラ全部ぜんぶ話はなします～」の内容ないようからピックアップします。

今回こんかいのテーマは、「映画えいがスター」。業界ぎょうかい内ないでは「スターはいなくなりつつある」と言いわれていますが、そんな「スターの定義ていぎ」とは？　映画えいが製作せいさくにおけるバリューの変遷へんせんとともにスターの意味いみを語かたっていきます。

三谷みたに：今日きょうは「スター」についての話はなしをしたいと思おもうんですけれど。

久保田くぼた：アメリカでも「スター」っていう呼よび方かたはするんですか？

三谷みたに：しますね。意味いみとしても日本にっぽんで使つかわれているのと同おなじニュアンスです。久保田くぼたさん、「スター」と言いわれて、誰だれが思おもい浮うかびますか？

久保田くぼた：真まっ先さきに頭あたまに浮うかんだのは、錦野にしきの旦だん（にしきの・あきら）さんですね。

三谷みたに：たしかに（笑）。ではなくて、今回こんかいはハリウッドのスターについての話はなしをしたいので、ハリウッドの映画えいがスターと言いうと誰だれですかね？

久保田くぼた：トム・クルーズとか？

三谷みたに：おお～。トム・クルーズは間違まちがいなくスターですよね。で、そんなトム・クルーズは、業界ぎょうかいでは、ハリウッド最後さいごのスター、「ラスト・ムービースター」だと言いわれたりしています。

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久保田くぼた：そうなの？　でも、そのあとに出でてきた人ひとでもすごい人気にんきの俳優はいゆうさんはいそうな気きがするけど。

三谷みたに：そうですね。たしかに、人気にんきがすごい俳優はいゆうさんというのはいまも存在そんざいするんですが、「スター」と呼よぶほどかというと、実じつはそうでもなくなってきている、というのがハリウッドでの通説つうせつになってきているんですよね。ここで考かんがえてみたいのは、「スター」をどう定義ていぎするのか、というところですよね。久保田くぼたさんはどういうのが「スターの定義ていぎ」だと思おもいます？

久保田くぼた：うーん。生々なまなましい話はなしだけど、例たとえば、「総そう製作せいさく費ひの80％以上いじょうがその俳優はいゆうさんのギャラになる＝スター」かなぁ。

三谷みたに：それはまたすごい額がくですね（笑）。

久保田くぼた：80%はい過いすぎだとしても、「何なん％以上いじょうじゃないとその仕事しごとは受うけないよ」って言いえる人ひとな気きがする。

三谷みたに：ほうほう。

久保田くぼた：つまり、「その人ひとがいないと映画えいがとして成立せいりつしないから、それだけのギャラをくださいよ」って言いえるくらいの人ひと。

三谷みたに：その定義ていぎは、生々なまなましいですが、あながち遠とおくないです（笑）。

久保田くぼた：お。マジで？

三谷みたに：業界ぎょうかい内ないでよく言いわれるのは、「その人ひとが出でているから、お客きゃくさんがその映画えいがを観かんに行いく俳優はいゆう＝スター」ということですね。その人ひとが出演しゅつえんしていれば、どんな役柄やくがらであろうと、どんなストーリーであろうとも観かんに行いくということです。さっき久保田くぼたさんがおっしゃったように、そういう俳優はいゆうさんが出でていれば興行こうぎょう収入しゅうにゅうもある程度ていどは見込みこめますし、映画えいがの興行こうぎょう的てき成功せいこうに貢献こうけんする度合どあいが結果けっか的てきにギャランティに反映はんえいもされる面めんもあります。

久保田くぼた：なるほどね。

三谷みたに：一応いちおう、業界ぎょうかいでの定義ていぎはざっくりとそんな感かんじなんですけれど、同時どうじに、今いまの時代じだいそういう意味いみでのスターはなかなかいないよね、という話はなしもあるんです。もちろん、人気にんきの俳優はいゆうさんは大勢おおぜいいらっしゃるんですけれど、「この俳優はいゆうさんがこの興行こうぎょうを支ささえる」というレベルでのスターは、この10年ねんくらいで見みられなくなってきていると言いわれています。

久保田くぼた：えー。たとえば、レオナルド・ディカプリオとかは？

三谷みたに：そうですね。レオナルド・ディカプリオもものすごく人気にんきも実力じつりょくもある俳優はいゆうさんですけれど、それこそ「タイタニック」が公開こうかいされたあの頃ころみたいに、彼かれが出でているからこぞって皆みなが観かんに行いく、という感かんじではなくなっていますよね。そういう意味いみでは、さっき言いったような「スター」とまでは言いえないかなと。

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久保田くぼた：なるほどね。「世界せかい的てきに人気にんきがある」とか「演技えんぎがものすごく上手うまい」っていうのとは、また別べつの軸じくで「スター」というのは定義ていぎされている感かんじだ。

三谷みたに：そうですね。人気にんき・実力じつりょくがあったうえで、さらに飛とび抜ぬけた存在そんざいというい方いかたもできるかもしれないです。

久保田くぼた：でも、昔むかしはそういう俳優はいゆうさんがいっぱいいたような気きがするよね。

三谷みたに：そうなんです。どうして前述ぜんじゅつしたような定義ていぎでの「スター」がいなくなったのかということなんですけれど、そこにはいくつか要因よういんがあると思おもうんです。

久保田くぼた：うんうん。

三谷みたに：ひとつ大おおきな要因よういんとして、今いまのこの時代じだいって、「どういうものさしで観みる映画えいがを決きめるか」が、昔むかしと比くらべて、だいぶ変かわってきているんじゃないかなと。それこそ昔むかしだったら、「トム・ハンクスとジュリア・ロバーツが共演きょうえんしている映画えいがなのか！　これは期待きたいできるから観かんに行いこう」という考かんがえ方かたがみんなの頭あたまのなかにあったんですよ。

久保田くぼた：たしかに。

三谷みたに：それが今いまは、どちらかと言いえば「スター・ウォーズの続編ぞくへんだから」とか「ピクサーの映画えいがだから」といったような傾向けいこうになってるんですね。

久保田くぼた：価値かちの中心ちゅうしんが、出でている人ひとじゃなくて、ブランドだったり原作げんさくだったりに置おき換かわってるわけだ。

三谷みたに：そういうことです。

久保田くぼた：でも、なんでそういう潮流ちょうりゅうになったんだろうね。

三谷みたに：それは、巨額きょがくの予算よさんをかけた大作たいさくや、人気にんきのある原作げんさくを採用さいようする商業しょうぎょう路線ろせんに大手おおてのスタジオが大おおきくシフトしていったから、というのが挙あげられるでしょうね。

久保田くぼた：それで言いうと、NetflixやAmazon Primeとかもオリジナルで映画えいがやドラマを制作せいさくしているけれど、俳優はいゆうさんよりも原作げんさくにかなり投資とうししているように見みえるよね。

三谷みたに：それも潮流ちょうりゅうのひとつかもしれないです。でも、ネット映画えいがの領域りょういきでも、「スター」と呼よべるところまでは届とどいていないかなという印象いんしょうですね。たとえば、「ストレンジャー・シングス」という作品さくひんで人気にんきになったミリー・ボビー・ブラウンがブレイクしてたりするんですが、ここで話はなしている定義ていぎでの「スター」かと言いったら、ちょっと違ちがうのかなと。

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三谷みたに：もうひとつ言いわれているのは、インターネットの普及ふきゅうですね。ネットが出でてくる前まえって、お客きゃくさんが触ふれられる情報じょうほうって限かぎりがあったじゃないですか。

久保田くぼた：映画えいがだったらその手ての雑誌ざっしだったり、テレビでのインタビューとか。

三谷みたに：そこにインターネットが登場とうじょうして、爆発ばくはつ的てきに一般いっぱんの人ひとが触ふれられる情報じょうほうが増ふえていって、相対そうたい的てきに「メディアに出でている人ひとに対たいしての神秘しんぴ性せい」は失うしなわれていった面めんはあると思おもうんですよね。

久保田くぼた：SNSで私生活しせいかつが垣間見かいまみえたりね。

三谷みたに：そうですね。手ての届とどけかなった人ひとたちが身近みぢかになったのは、ファンにとっては嬉うれしかったりするんですけどね。インスタグラムとかツイッター、フェイスブックといったSNSが出でてきたことによって、一般いっぱんの人ひとが影響えいきょう力りょくを持もてるようになったのも、相対そうたい的てきにスターの価値かちを下さげていったともいえます。今いまだったら、個人こじんで発信はっしんして影響えいきょう力りょくを持もつ、インフルエンサーと呼よばれる人ひとが登場とうじょうしたりして、昔むかしはもっと少数しょうすうの、映画えいがとかテレビにでるような人ひとたちだけに割わり当あてられていた「スター」という存在そんざいが、どんどん分散ぶんさんされていったということもあると思おもいます。

久保田くぼた：そういう意味いみでは、映画えいがで賞しょうを獲えった作品さくひんが必かならずしも興行こうぎょう成績せいせきを叩たたき出だせなくなっているっていうのも、象徴しょうちょう的てきなのかもしれないね。

三谷みたに：それはありますね。2010年代ねんだい頃ごろからそういう流ながれはあって――私わたしがハリウッドに留学りゅうがくしていたのもちょうどその頃ころなんですが、フィルムスクールでも「だんだんとスターはいなくなってきている」ということを授業じゅぎょうで先生せんせいに真顔まがおで言いわれました。

久保田くぼた：そうなんだ。

三谷みたに：ちょうど2011年ねんにトム・ハンクスとジュリア・ロバーツが共演きょうえんした「幸しあわせの教室きょうしつ」という映画えいががあったんです。でも、その映画えいがが興行こうぎょう的てきに初はつ週末しゅうまつアメリカで1310万まんドルと出でだしが調子ちょうし悪わるく、最終さいしゅう的てきな興行こうぎょう成績せいせきも想定そうていされていたほどの成功せいこうではなかったんですね。

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久保田くぼた：二人ふたりともすごく有名ゆうめいだし、賞しょうとかも獲えってる人ひとたちだよね。

三谷みたに：そうです。それまでは「この二人ふたりが出でているからテッパンでしょ」と思おもわれていたのに、フタを開あけてみたらそこまでいかなかった。そこでにわかに、「スターという存在そんざいは、もう有効ゆうこうではないのでは？」という疑問ぎもんが出で始はじめてきたわけです。そこから予算よさんを大おおきくかける商業しょうぎょう映画えいがの台頭たいとうもあって、スターを軸じくにした映画えいが製作せいさくに翳かげりが見みえてきたわけです。

久保田くぼた：それで言いうと、たしかにトム・クルーズが「ラスト・ムービースター」だって言いわれるのもわかる気きがするなぁ。

三谷みたに：「スター」に関かんすることで、ちょっとした話はなしなんですけれど。昔むかしは、スタジオ専属せんぞくの俳優はいゆうさんがいたりしたんですよね。つまり、「その人ひとが出でていることによってお客きゃくさんが映画えいがを観かんにいく」という俳優はいゆうさんをそれぞれの映画えいがスタジオが抱かかえていて。そういう俳優はいゆうを育成いくせいするために、毎週まいしゅう、給料きゅうりょうを出だして、レッスンを受うけさせて、といったような「スターシステム」があったんです。

久保田くぼた：日本にっぽんで言いったら「東宝とうほうシンデレラ」（沢口さわぐち靖子やすこ、長澤ながさわまさみ、上うえ白石しらいし萌もえ歌かなどを輩出はいしゅつした女優じょゆうオーディション）みたいな。

三谷みたに：それに近ちかい仕組しくみですかね。ただ、それも徐々じょじょにシステムとしては機能きのうしなくなりつつあって。存在そんざいとして「スター」がいなくなることはないと思おもいますけれど、「何なにに価値かちを置おいて映画えいがを観かんにいくか」という観客かんきゃくの欲求よっきゅうとして、「出演しゅつえんする人ひと」という要因よういんは割合わりあいとして小ちいさくなっているのかもしれないですね。

久保田くぼた：たしかに。自分じぶんが今いま、どういう動機どうきで映画えいがを観みようって気持きもちになっているかを改あらためて見みつめ直なおしてもいいかもしれないね。

三谷みたに：なるほど。改あらためて自分じぶんの中なかでの映画えいがスターって誰だれだろうって考かんがえてみたり、どういう感覚かんかくで映画えいがを選えらんでいるのかを振ふり返かえってみると違ちがった映画えいがとの向むき合あい方かたができるかもしれないですね。

この回かいの音声おんせいはPodcastで配信はいしん中ちゅうの『下したから目線めせんのハリウッド』（#49 ハリウッドでは絶滅ぜつめつ危惧きぐ種しゅ!?「スターシステム」の凋落ちょうらく！）でお聴ききいただけます。