愛あいに乱暴らんぼう : 特集とくしゅう

【この主婦しゅふ、何なにかが“おかしい”】不審火ふしんび、行方ゆくえ不明ふめいの
愛あい猫ねこ、怪あやしい隣人りんじん、SNSの不倫ふりんアカ、床下ゆかしたへの異常いじょう執着しゅうちゃく
丁寧ていねいな暮くらしを送おくる主婦しゅふの日常にちじょうが歪いがんだ…何故なぜ？　江口えぐち
のりこの怪かい演えんじが誘さそう“異様いような知的ちてき興奮こうふん”に浸ひたれる刺激しげき作さく

8月がつ30日にちから公開こうかいされる映画えいが「愛あいに乱暴らんぼう」は、独特どくとくの魅力みりょくを放はなつ出演しゅつえん陣じんの“怪かい演えんじ”に引ひき込こまれ、不穏ふおんで不安ふあんで不可解ふかかいな“おかしい描写びょうしゃ”から目めが離はなせなくなってしまう。つまり、とてつもない“引力いんりょく”を有ゆうした作品さくひんだ。

「悪人あくにん」「怒いかり」など多おおくのベストセラーを発表はっぴょうしてきた吉田よしだ修一しゅういち氏しの同名どうめい小説しょうせつを、圧倒的あっとうてき演技えんぎ力りょくを誇ほこる主演しゅえん・江口えぐちのりこを筆頭ひっとうに、小泉こいずみ孝太郎こうたろう（劇げき中ちゅうでの“激変げきへんぶり”も要よう注目ちゅうもく！）、風吹ふぶきジュン、馬場ばばふみかといった実力じつりょく派は俳優はいゆうを迎むかえて実写じっしゃ映画えいが化か。

描えがかれるのは、しあわせな“主婦しゅふ”の日常にちじょう……が、少すこしずつ、少すこしずつ、でも着実ちゃくじつに“歪いがんでいく”様子ようす。何なにが原因げんいん？　何なにかが狂くるっている？　それとも――。

このヒューマンサスペンス、一瞬いっしゅんでも気きを抜ぬいたら重要じゅうような要素ようそを見逃みのがしてしまう……？知的ちてき好奇心こうきしんがビシバシと刺激しげきされ、身みをよじるような感情かんじょうの応酬おうしゅうに悶もだえてしまう意欲いよく作さくの魅力みりょく、本ほん特集とくしゅうでがっつりお伝つたえしていこう。

【不穏ふおん濃度のうどは1000％】一見いっけん“しあわせな夫婦ふうふ”の裏側うらがわに
不穏ふおんさが充満じゅうまん!日常にちじょうが崩壊ほうかい…この映画えいがは“心しん”が炙あぶられる

一体いったいどんな映画えいがなのか？　一いち歩ほ間違まちがえれば“全すべてが崩壊ほうかい”しそうな緊張きんちょう感かんが漂ただよっていて、その大元おおもととなっている愛あいのエゴや欲望よくぼうの炎ほのおが、あなたの“心しん”をじりじりと炙あぶっていく。

しかも予想よそうを遙はるかに超こえた“異様いような光景こうけい”も待まち受うけていて――こんな映画えいが体験たいけん、これまでに味あじわったことがないぞ……!?予告編よこくへんをご覧らん頂いただいたうえで、魅力みりょくを解説かいせつしていこう。

主人公しゅじんこうは、夫おっとの実家じっかの敷地しきち内ないに建たつ“はなれ”で暮くらす桃子ももこ（演えんじ：江口えぐちのりこ）。結婚けっこんして8年ねん、義母ぎぼから受うける微量びりょうのストレスや夫おっとの無む関心かんしんを振ふり払はらうように、センスのある装よそおい、手ての込こんだ献立こんだてなどいわゆる「丁寧ていねいな暮くらし」に勤いそしみ毎日まいにちを充実じゅうじつさせていたのだが、周囲しゅういで不穏ふおんな出来事できごとが続発ぞくはつする。

近隣きんりんのゴミ捨ごみすて場ばでは不審火ふしんびが相次あいつぎ、可愛かわいがっていた野良猫のらねこが失踪しっそう、不気味ぶきみな不倫ふりんアカウントまで目めにするように……。幸しあわせだった日常にちじょうは少すこしずつ、確実かくじつに乱みだれ始はじめていく。

やがて追おい詰つめられた桃子ももこは“床下ゆかしたに異常いじょうな執着しゅうちゃくを募つのらせる”。さらにはチェーンソーの匂においをうっとり嗅かいだり、夫おっと（演えんじ：小泉こいずみ孝太郎こうたろう）や義母ぎぼ（演えんじ：風吹ふぶきジュン）へ向むける眼差まなざしも変化へんかし…彼女かのじょの静しずかな暴走ぼうそうはエスカレートし、徐々じょじょに「予想よそうもつかない驚愕きょうがくの方向ほうこう」へと舵かじを切きっていく――。

おかしいのは桃子ももこ？　それとも周囲しゅういの人々ひとびと？一度いちど見み始はじめたら“この先せんどうなる？”と気きになりすぎて、瞬まばたきすらも忘わすれてしまうはず。

観みるとどんな感情かんじょうを得えられるのか？　原作げんさく者しゃ・吉田よしだ修一しゅういち氏しは「愛あいに乱暴らんぼう」の物語ものがたりを「ジャンル不明ふめい」と位置付いちづけている。鑑賞かんしょうすればわかるが、これはめちゃくちゃ納得なっとくだ。全ぜん方位ほういの感情かんじょうを刺激しげきしつつ、鑑賞かんしょう者しゃによっては“見みえ方かた”が異ことなってくるのだから。

例たとえば、人ひとそれぞれで「真ま逆ぎゃくの映画えいが体験たいけん」になるかもしれない。女性じょせいにとっては胃いがキリキリするような光景こうけいも、男性だんせいにとっては“笑わらい”が生しょうじるようなコミカルな場面ばめんに。また、その逆ぎゃくも然しかり。

ひとつの描写びょうしゃをとっても（例たとえば予告よこくにもある桃子ももこの絶叫ぜっきょうなど）感動かんどうや恐怖きょうふ、笑わらい、謎なぞ、これらが驚おどろくべきことに同時どうじに盛もり込こまれており、鑑賞かんしょう者しゃ間あいだの解釈かいしゃく違ちがいで“激論げきろん”が発生はっせいするような映画えいがなのだ。

しかも「いくつもの伏線ふくせん」が巧妙こうみょうかつさりげなく配置はいちされている。あえて「ヒントをアップで映うつす」なんて野暮やぼなことはしないので、気きを抜ぬいていると“真意しんい”に辿たどり着つけない。いわば本ほん作さくは、森もりガキ侑大監督かんとくからの“挑戦ちょうせん状じょう”。このチャレンジングな体験たいけん、映画えいがファンには絶対ぜったいに味あじわってほしい。

【この映画えいが、油断ゆだん禁物きんもつ】大量たいりょうに仕掛しかけられた“おかしさ”
あなたはいくつ読よみ解とける？全身ぜんしん感度かんど爆ばく上あげで鑑賞かんしょうして

ここでは、本編ほんぺんから抽出ちゅうしゅつした“おかしいポイント”を紹介しょうかい。ひとつの要素ようそだけでは意味いみ不明ふめい？　でも確たしかに共鳴きょうめいし合あいながら、重要じゅうような意味いみを生しょうじさせていく。映画えいが館かんで鑑賞かんしょうする際さいは、これらのポイントを絶対ぜったいに見逃みのがさないで。

桃子ももこは暇ひまさえあれば見みている…アカウントの主あるじは誰だれ？　どうやら不倫ふりんをしているようだが、その相手あいては…？

桃子ももこが“ある人物じんぶつ”に無理矢理むりやりプレゼントしたのは、家庭かてい菜園さいえんで育そだてたスイカ。“一瞬いっしゅんの描写びょうしゃ”を見逃みのがさないで。

餌えさをあげて可愛かわいがったのに、家いえに寄より付つかなくなった。鳴なき声ごえは聞きこえるけど“見みえない”……何処どこにいる？

隣となりに住すむ義母ぎぼ・照子てるこは野良猫のらねこを毛嫌けぎらいしている。そこまで？と感かんじるほど……まさかぴーちゃんは……。

桃子ももこが購入こうにゅうしようかどうかずっと迷まよっていた……これは“丁寧ていねいな暮くらし”に必要ひつよう？

桃子ももこが散ちらかったゴミを片付かたづけていると、その光景こうけいをじっと眺ながめている。誰だれ？　なぜ声こえをかけない？

昼夜ちゅうやを問とわず、近隣きんりん地域ちいきで多発たはつ中ちゅう。何者なにものの仕業しわざなのか？　犯人はんにんの“魔まの手て”は、桃子ももこの生活せいかつ圏内けんないにまで及およんで……。

居場所いばしょを失うしない追おい詰つめられた桃子ももこが執着しゅうちゃくし始はじめる。そこに“何なに”がある？　消きえたぴーちゃん？　それとも……。

「やめてください、私わたしを変人へんじんあつかいするのは」　臨界りんかい点てんに達たっした彼女かのじょは、衝動しょうどうと暴走ぼうそうの果はてに ――。

作品さくひん全体ぜんたいから匂におい立たつ“未知みちの衝撃しょうげき”の気配けはい、あなたは嗅かぎ取とることができただろうか。 これらはスクリーンで目撃もくげきすることで、その“おかしさ”がさらに際立きわだつ。だからこそ、是ぜが非ひでも映画えいが館かんへ向むかってほしい。

【吹ふっ切きれた怪かい演えんじ】“全力ぜんりょく”の江口えぐちのりこが凄すさまじすぎた
ダークすぎる小泉こいずみ孝太郎こうたろう→彼かれだと認識にんしきできない人ひとが続出ぞくしゅつ

これだけは伝つたえておかないといけない。本ほん作さくが、その演技えんぎ力りょくが極きわめて高たかく評価ひょうかされる“俳優はいゆう・江口えぐちのりこ”の凄すごみを、心しんの底そこから堪能たんのうできる作品さくひんであることを。しかも、共演きょうえんの小泉こいずみ孝太郎こうたろうもとんでもない“変貌へんぼう”を遂とげているのだ。

2024年ねんは「江口えぐちのりこの出演しゅつえん映画えいが」が立たて続つづけに公開こうかいされている年とし（「あまろっく」「お母かあさんが一緒いっしょ」「ブルーピリオド」など）。そんななかでも「愛あいに乱暴らんぼう」は、江口えぐちの芝居しばいを存分ぞんぶんに堪能たんのうできる主演しゅえん作さく。江口えぐちが全身ぜんしんから発はっするパワーが最もっとも濃密のうみつな1本ほんであることは間違まちがいない。

丁寧ていねいな暮くらしを心掛こころがける“平凡へいぼんな主婦しゅふ像ぞう”を精細せいさいに体現たいげんしつつ、追おい詰つめられた挙句あげくに発はっする“感情かんじょうの爆発ばくはつ＆暴走ぼうそう”が圧巻あっかん。「私わたしね、わざとおかしいフリしてあげてるんだよ」というセリフを“桃子ももこの言葉ことば”として表あらわした姿すがたは、今いまでも心しんに深ふかく、深ふかく突つき刺ささっている……。

撮影さつえい現場げんばでは、感情かんじょうの流ながれを反映はんえいした“演技えんぎプラン”をいくつも提示ていじしていたようで、脚本きゃくほんに書かかれたシンプルな文章ぶんしょうから、桃子ももこに対たいする“新あたらしい見方みかた”を創造そうぞう。それが本ほん作さくならではの「映画えいが的てきなラスト」へと結むすびついている。

江口えぐちだからこそ体現たいげんできた変容へんようしていく“唯ただ一いち無二むにのヒロイン”の姿すがた、是非ぜひスクリーンで目まの当あたりにしてほしい。

●エンドロールまで“誰だれだかわからなかった人ひと”も！　小泉こいずみ孝太郎こうたろう、パブリックイメージ“陽ひ”＆“清廉せいれん”を完全かんぜん払拭ふっしょくしたダークすぎるキャラに挑戦ちょうせん

小泉こいずみ孝太郎こうたろうといえば、明あかるく、清廉せいれん潔白けっぱくとしたパブリックイメージを持もっているが、今回こんかいの役やくどころ“真ま守もり”は180度ど真しん逆ぎゃく。桃子ももこに隠かくれて若わかい女性じょせいと不倫ふりんをしているというダークすぎるキャラクターだ。桃子ももこへの冷ひややかな態度たいど、虚空こくうを見みつめているかのような生気せいきのない目め……“心こころここにあらず”をパーフェクトに演えんじ切きっている。

内面ないめんだけでなくビジュアル（“前髪まえがみ”はミリ単位たんいで調整ちょうせい！）もこだわり抜ぬいて完成かんせいさせた真ま守もり像ぞう。小泉こいずみ自身じしんも手応てごたえを感かんじているようで「おそらく女性じょせいを敵てきに回まわすような人物じんぶつ。そういう役やくだからこそやりがいを感かんじた」と語かたるほど。

試写ししゃ会かいでは、重おもたい前髪まえがみで額がくや眉毛まゆげが見みえない外見がいけんに加くわえ、これまでのイメージとかけ離はなれすぎたキャラクターだったため、「小泉こいずみ孝太郎こうたろうが演えんじている」とわからなかった人ひとが続出ぞくしゅつ。なかには「エンドロールを見みて、ようやく“小泉こいずみ孝太郎こうたろうが演えんじていた”と気きづいた」という人ひとも存在そんざいしている。

しかも、小泉こいずみ自身じしんが「屋外おくがいの撮影さつえいでは、道行みちゆく人ひとに小泉こいずみ孝太郎こうたろうだと気付きづかれなかった。そんなことは初はじめてだった」と語かたっているほどの“変貌へんぼう”ぶりなのだ。

ちなみに、小泉こいずみと同様どうように好感こうかん度どの高たかいイメージを持もつ風吹ふぶきジュンも“怪あやしさ満点まんてん”で桃子ももこの義母ぎぼ・照子てるこを好演こうえん。謎なぞめいたストーリーで心しんを鷲掴わしづかみにされ、頻発ひんぱつする俳優はいゆう陣じんの演技えんぎ合戦かっせんに圧倒あっとうされてしまう……この映画えいが、やはり秀逸しゅういつすぎるぞ。

最後さいごに断言だんげんしよう。本ほん作さくが、江口えぐちのりこのキャリアを代表だいひょうする1本ほんになることは間違まちがいない。その観点かんてんからも、映画えいがファンにとっての必見ひっけん作さくだ。

そして、ここまで見みどころとともに“異様いようなポイント”を紹介しょうかいしてきたが、その全すべてを提示ていじしているわけではなく、まだまだ“謎なぞ”はたっぷり存在そんざいしている。しかも、それらの“謎なぞ”は投なげっぱなしでは決けっして終おわらず「普遍ふへん的てきなテーマ」を浮うき彫ぼりにしていくのだから驚おどろきだ。

自みずからの“居場所いばしょ”を求もとめて全身全霊ぜんしんぜんれいでもがく主人公しゅじんこう・桃子ももこ。その鮮烈せんれつな行ゆく末すえ、映画えいが館かんで是非ぜひ見届みとどけてほしい。