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バティモン5 望まれざる者 特集: 解説・レビュー/カルチャーショックの乱れ打ちに言葉を失い、呼吸さえ忘れる壮絶な105分 - 映画.com

劇場げきじょう公開こうかい 2024ねん5がつ24にち PROMOTION

バティモン5 のぞまれざるもの : 特集とくしゅう

2024ねん5がつ20日はつか更新こうしん

あなたは、はなパリ郊外こうがいの“現実げんじつ”を直視ちょくしできるか?
カルチャーショックのみだちに言葉ことばうしない、呼吸こきゅうさえ
わすれる壮絶そうぜつな105ふん 常識じょうしき端微塵ぱみじん粉砕ふんさいされる…
「レミゼ」につづく、圧倒的あっとうてき臨場りんじょうかんいきをのむ衝撃しょうげきさく

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自分じぶんらない世界せかいることは、映画えいが鑑賞かんしょう魅力みりょくのひとつだといえる。しかし、これから紹介しょうかいする作品さくひん鑑賞かんしょう体験たいけんは、ただ「らない世界せかいるもの」ではなまぬるい、「衝撃しょうげき世界せかい言葉ことばうしない、“覚悟かくご”をわれるもの」となった。

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その作品さくひんは、世界せかい激震げきしんさせた「レ・ミゼラブル」の新鋭しんえいラジ・リ監督かんとく新作しんさく「バティモン5 のぞまれざるもの」(5がつ24にち公開こうかい)。えがかれるのは、2024ねん夏季かき五輪ごりんひかえるはなパリ……ではなく、その郊外こうがい移民いみん政策せいさく最先端さいせんたんこる問題もんだい日本にっぽん一般いっぱん常識じょうしき一切いっさい通用つうようしないどころか、端微塵ぱみじん粉砕ふんさいされるカルチャーショックのみだちに言葉ことばうしない、呼吸こきゅうさえわすれる。壮絶そうぜつな105ふんが、「この“現実げんじつ”を直視ちょくしできるか?」と観客かんきゃくせまる。

この記事きじでは、あまりの現状げんじょう絶句ぜっくし、圧倒的あっとうてき臨場りんじょうかんいきをのんだ衝撃しょうげき映画えいが体験たいけんをレポート。ほんさくたら最後さいご、あなたはもうこの現実げんじつ無関係むかんけいではいられない。


予告編よこくへん】ここにはあなたがる「パリ」はない――

最大さいだい特徴とくちょう】カルチャーショックにさらされつづける体験たいけん
はなやかなパリのうらひそ問題もんだい目撃もくげき常識じょうしき端微塵ぱみじん

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ほんさく最大さいだい特徴とくちょうといえるのが、本編ほんぺん105ぶんあいだひたすら、カルチャーショックにさらされ、おどろつづける映画えいが体験たいけんはなやかなパリからは想像そうぞうもつかない、郊外こうがい勃発ぼっぱつする問題もんだいを、観客かんきゃく目撃もくげきすることになる。絶対ぜったいをそらしてはならない――。

この項目こうもくでは、筆者ひっしゃ本編ほんぺん鑑賞かんしょうし、衝撃しょうげきけた光景こうけいをご紹介しょうかいする。記述きじゅつするのはあくまでも一部いちぶだが、めば映画えいがかんでそのすべてを“体感たいかん”したくなるだろう。

●【衝撃しょうげき光景こうけい①:10かいてのスラム】
だい家族かぞくせま部屋へやらし、エレベーターもうごかない…
住人じゅうにんが「ひとにする場所ばしょじゃない」とつぶや劣悪れつあく環境かんきょう
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タイトルにもなっている「バティモン5」とは、移民いみん家族かぞくたちがおおらしているエリアにある団地だんちぐんいちかくのこと。

冒頭ぼうとうでカメラは、10かいての5号棟ごうとう「バティモン5」の全景ぜんけいうつし、内部ないぶへと侵入しんにゅうしていく。だい家族かぞくせま部屋へやらし、エレベーターはうごかず、みずれがえない。“10かいてのスラム”とも表現ひょうげんされる住環境じゅうかんきょううつされる。

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そしてショッキングなのは、死体したいはいったおもたい棺桶かんおけを、うえかいから1かいへとろすシーン。エレベーターはうごかないので、当然とうぜん人力じんりきだ。だい人数にんずうせま階段かいだんを、しつぶされながらはこんでいく。疲弊ひへいした住人じゅうにんの「こんなのひとにするところじゃない……」といういきじりの言葉ことばに、冒頭ぼうとうから冷水れいすいびせられたようにはっとさせられる。

ほかにくあてのない住人じゅうにんたちは、みたくもない場所ばしょで、明日あしたからもきていかなければならない――このような“カルチャーショック”が、本編ほんぺんでずっとつづくのである。

●【衝撃しょうげき光景こうけい②:違法いほう食堂しょくどう
行政ぎょうせいからかくれて、団地だんちないでこっそり営業えいぎょうちゅう そしてかえしのつかない事件じけんが…
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そんな団地だんちないで、さらにうたが光景こうけいたりにすることに。行政ぎょうせいからかくれて、こっそり“違法いほう食堂しょくどう”がオープンしているのだ。なぜそんな事態じたいになっているのか? その理由りゆう本編ほんぺんあきらかになる。

食堂しょくどうは、住人じゅうにんたちのいこいのとなっているようで、てくる食事しょくじすべておいしそうなのもになるが、まる行政ぎょうせいがわであるはずのふく市長しちょうロジェも、普通ふつう食事しょくじをとっている様子ようすがさらにおどろきだ。

やがて、この“違法いほう食堂しょくどう”で、かえしのつかない事件じけん発生はっせい。そして、行政ぎょうせい住民じゅうみんあいだ緊張きんちょうが、さらにたかまっていくことになる。

●【衝撃しょうげき光景こうけい③:しは“まどから”】
予告よこくナシで即時そくじ退命令めいれい「5ふんていって」
住民じゅうみんまどから家財道具かざいどうぐ投下とうか悪夢あくむのような惨状さんじょう
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げきちゅう最大さいだいの“理不尽りふじんきわみ”といえるのが、ある事件じけん発令はつれいされた、行政ぎょうせいからの“即時そくじ退命令めいれい即時そくじというのは文字通もじどおりで、住人じゅうにんたちは一切いっさい猶予ゆうよなく、ドアしに突然とつぜん最低限さいていげん荷物にもつで、すぐにいえからってください。5ふんに」という非情ひじょう通達つうたつける。

すおもちゃをえらぶようわれ、かなしそうにうつむども。ローンでやっと購入こうにゅうした冷蔵庫れいぞうこかかえ、やっとのことで階段かいだんりていくおとこたち。行政ぎょうせい強制きょうせいてきかつ不条理ふじょうりなやりかたに、住人じゅうにんたちの生活せいかつ無残むざんにも破壊はかいされ、むねいた光景こうけいつづく。

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ては、住人じゅうにんたちがまどから家財道具かざいどうぐはじめる事態じたいとなり、悪夢あくむのような状況じょうきょうに。ここにはききれないが、げきちゅうではまだまだおおくの、度肝どぎもかれる光景こうけいひろげられている。“現在進行形げんざいしんこうけい”で人々ひとびとくるしめつづけている問題もんだいすべてを、劇場げきじょうでしかとけてほしい。


【この“きょざい”に注目ちゅうもく将来しょうらいのアカデミーしょう候補こうほ
「レ・ミゼラブル」で絶賛ぜっさんのラジ・リ監督かんとく徹底てってい解説かいせつ

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メガホンをとるのは、「レ・ミゼラブル」で世界せかい称賛しょうさんびたラジ・リ監督かんとく。この項目こうもくでは、つね次回じかいさく動向どうこう注目ちゅうもくあつまっているラジ・リ監督かんとくの“ただいち無二むに才能さいのう”を徹底てってい解説かいせつする。

●【「バティモン5」の物語ものがたりは…】世界せかい絶句ぜっくさせた「レ・ミゼラブル」とつながりのストーリー どうさくばりの“衝撃しょうげきとテーマ”をあじわいたいなら、絶対ぜったいるべき
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ラジ・リ監督かんとく一躍いちやく世界せかいとどろかせたのは、監督かんとく自身じしんのルーツであるパリ郊外こうがい犯罪はんざい多発たはつ地区ちくモンフェルメイユを舞台ぶたいに、そのエリアをまる犯罪はんざい防止ぼうしはん(BAC)と少年しょうねんたちの対立たいりつを、スリリングにえがしたこう評価ひょうかさく「レ・ミゼラブル」。どうさくだい 72 かいカンヌ国際映画祭かんぬこくさいえいがさい審査しんさいんしょう受賞じゅしょうし、だい92かいアカデミー国際こくさい長編ちょうへん映画えいがしょうにもノミネートされ、世界せかい衝撃しょうげきあたえた。

「バティモン5」は、モンフェルメイユを彷ふつとさせる架空かくうまちモンヴィリエを舞台ぶたいに、さい開発かいはつ計画けいかくすすめ、エリア一掃いっそうをもくろむ行政ぎょうせいと、それに反発はんぱつする住人じゅうにんたちの衝突しょうとつ展開てんかいする。まさに、「レ・ミゼラブル」と地続じつづきの「移民いみんをめぐる問題もんだい」をスリリングにえがいたストーリー。つまりほんさくは、ラジ・リ監督かんとく前作ぜんさくの“衝撃しょうげきとテーマ”をふたたあじわいたいなら、絶対ぜったいるべき作品さくひんだ。

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また「レ・ミゼラブル」で横暴おうぼう警察官けいさつかんクリスをえんじていたアレクシス・マネンティが、ほんさくでは市長しちょうピエールにふんしている。ほか、ふく市長しちょうロジェやくのスティーブ・ティアンチュー、代議士だいぎしアニエスやくのジャンヌ・バリバールらも、「レ・ミゼラブル」とおなじく行政ぎょうせいがわにいる人々ひとびとえんじているなど、キャラクター設定せってい似通にかよっていることも、りょう作品さくひんにつながりをかんじさせる。

●【監督かんとく手腕しゅわんは…】並大抵なみたいていの“ちから”じゃあない ちか将来しょうらい、アカデミーしょうかがやくだろうラジ・リの“巨大きょだい才能さいのう”が、もの圧倒あっとうする
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ラジ・リ監督かんとくはインタビューで、「『バティモン5』という題名だいめいは、まさにわたしそだった建物たてもの名前なまえです」とかしている。ほんさくでは、みずか目撃もくげきし、体験たいけんしてきた窮状きゅうじょうを、生々なまなましい描写びょうしゃと、容赦ようしゃのないかたくちつたえている。

画面がめん隅々すみずみまで、並大抵なみたいていではないラジ・リ監督かんとくの“ちから”がわたっている。たとえば、ドキュメンタリーとフィクションの境界きょうかいっているかのような映像えいぞう絶対ぜったいてきあく存在そんざいせず、それぞれ立場たちば信念しんねん事情じじょうかかえた人々ひとびと衝突しょうとつし、複数ふくすう視点してん交錯こうさくさせる構造こうぞう最後さいご瞬間しゅんかんまで、さけしたくなるほどの緊張きんちょうかんつづく、容赦ようしゃのないかたくち皮肉ひにくぜながらも、根底こんていにある力強ちからづよいメッセージ。将来しょうらいのアカデミーしょう候補こうほともされるラジ・リ監督かんとくの“巨大きょだい才能さいのう”が、もの圧倒あっとうする。

●ちなみに…「レ・ミゼラブル」はスターチャンネルEXで配信はいしんちゅう&BS10 スターチャンネルで放送ほうそうちゅう 映画えいがかんでも復活ふっかつ上映じょうえい予定よてい
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ちなみに「レ・ミゼラブル」はスターチャンネルEXで配信はいしんちゅう&BS10 スターチャンネルで放送ほうそう。また、東京とうきょう新宿しんじゅく武蔵野むさしのかんで、期間きかん限定げんてい復活ふっかつ上映じょうえいちゅうとなっている。

もちろん「バティモン5」は独立どくりつしたストーリーで、「レ・ミゼラブル」をていなくても、すさまじい映画えいが体験たいけんあじわえる。しかし、「レ・ミゼラブル」とわせてると、より社会しゃかい問題もんだいへの理解りかいふかまり、あらたな発見はっけん出合であえるかもしれない。


編集へんしゅうレビュー】「けっして安全あんぜんけんのがれられない」
すさまじい臨場りんじょうかん×呼吸こきゅうすらわすれるラストに絶句ぜっく震撼しんかん

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ここからは、実際じっさい鑑賞かんしょうした映画えいが.com編集へんしゅうのレビューをおとどけ。とく衝撃しょうげきけた要素ようそ記述きじゅつするので、鑑賞かんしょうするかかの判断はんだん材料ざいりょうにしていただければとおもう。

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●【すさまじい臨場りんじょうかん観客かんきゃく傍観ぼうかんしゃから当事とうじしゃへとえる けっして安全あんぜんけんのがれられない映画えいが体験たいけん
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 どころは、ほかにはないレベルでの臨場りんじょうかん。その感覚かんかくつくしているのは、登場とうじょう人物じんぶつそれぞれの思想しそうがぶつかりい、エスカレートしていく構図こうずだ。

バティモン5の治安ちあん改善かいぜん目標もくひょうかかげ、強硬きょうこう手段しゅだんをとる市長しちょうピエール。移民いみんたちのケアスタッフとしてはたらき、やがてこえげ、暴力ぼうりょく抵抗ていこうつづける女性じょせいアビー。彼女かのじょおさななじみであり、暴力ぼうりょくでなければ解決かいけつできないと狂気きょうきおちいっていく男性だんせいブラズ。

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 筆者ひっしゃ住民じゅうみんたちを苛烈かれつ現実げんじつしつぶされ、その感情かんじょうつい体験たいけんし、激情げきじょうられる感覚かんかくおちいった。その一方いっぽうで、すべての問題もんだい終止符しゅうしふつため、強硬きょうこうにならざるをえない行政ぎょうせいがわにも感情かんじょう移入いにゅうしてしまう。爆発ばくはつ寸前すんぜんふくがっていく不満ふまんにくしみをたりにして、さんしゃあいだかれそうになる。権力けんりょく×抵抗ていこう×暴力ぼうりょく――さんしゃさんよう思想しそうかたよることなくえがかれ、もの正義まさよしをあぶりしていく。

 このすさまじい臨場りんじょうかんが、観客かんきゃく傍観ぼうかんしゃから当事とうじしゃへとえ、けっして安全あんぜんけんのがれられない」というおもいにさせるのだ。前半ぜんはんはカルチャーショックにおどろくばかりだったが、後半こうはんになると登場とうじょう人物じんぶつかかえる生々なまなましい感情かんじょうが、どくどくとながんでくるようにかんじた。どこか自分じぶん正義せいぎためされているような、こんなヒリつく映画えいが体験たいけん、そうそうめぐりえるものではない。

●【「レミゼ」につづ容赦ようしゃないラスト】あせにぎ緊張きんちょうかん呼吸こきゅうすらわすれる結末けつまつへ ラジ・リ監督かんとくしめす“こたえ”とは?
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 文字通もじどお最後さいごにして最大さいだいどころは、「レ・ミゼラブル」に匹敵ひってきする容赦ようしゃないラストシーンだ。

 権力けんりょく×抵抗ていこう×暴力ぼうりょくあやうい、いつくずれてもおかしくないバランス。緊張きんちょういと一瞬いっしゅんれることなく、筆者ひっしゃあせにぎりながら、物語ものがたり行方ゆくえ見守みまもるしかなかった。クリスマスイブに居場所いばしょうしなった住人じゅうにんたちのちからないに、行政ぎょうせい圧倒的あっとうてき権力けんりょくまえにしたアビーとブラズの眼差まなざしに……あちらこちらで、はげしいいかりがげつく。

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 「レ・ミゼラブル」では、緊張きんちょう状態じょうたい最高潮さいこうちょうたっし、結末けつまつ観客かんきゃくたくすような、余韻よいん半端はんぱないラストシーンが秀逸しゅういつだった。そしてほんさくも、ノンストップで、呼吸こきゅうすらわすれる結末けつまつへとすすむ。

 筆者ひっしゃはその結末けつまつから、暴力ぼうりょくのなかに解決かいけつさくはない」という、ラジ・リ監督かんとくからのひとつの“こたえ”をった。その“こたえ”にめられたラジ・リ監督かんとく覚悟かくごつよさは、ほんさくとおして、過酷かこく現実げんじつ体感たいかんしたからこそかんじられたともいえる。ラストと対峙たいじした観客かんきゃくは、一体いったいどうかんじるのか――? さまざまなひと感想かんそうき、かたいたい作品さくひんだ。

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