ジョン・カーペンターの要塞ようさい警察けいさつ

仲間なかまを殺ころされ復讐ふくしゅうを誓ちかうストリートギャングと移転いてん中ちゅうの警察けいさつ署しょに篭城ろうじょうする警官けいかんと囚人しゅうじんの攻防こうぼう戦せん。

1980年ねんから90年代ねんだいにSFホラー映画えいがで活躍かつやくした鬼才きさいジョン・カーペンター監督かんとくの商業しょうぎょうデビュー作さくで個人こじんには最もっとも好すきな作品さくひん。

1930年ねんから70年代ねんだいに多おおくの傑作けっさくを残のこした娯楽ごらく職人しょくにんハワード・ホークス監督かんとくの敬愛けいあいしているカーペンターは、ホークスの名作めいさく西部せいぶ劇げき『リオ・ブラボー』をリメイクに近ちかいカタチで取とり入いれながら他たのホークス映画えいがのエッセンスとして『三みっつ数かぞえろ』や『脱出だっしゅつ』のボギーとバコール的てき役柄やくがらを配置はいちしている。

それ以外いがいに目新めあたらしいのは、警察けいさつ所しょに立たて篭こもる状況じょうきょうと展開てんかいは、明あきらかにジョージ・A・ロメロ監督かんとくの現代げんだいゾンビ映画えいがの元もとになった名作めいさく『ナイト・オブ・ザ・リビング・デット』の影響えいきょうも大おおきいと思おもう。ただしこの映画えいがも60年代ねんだい前まえのビンセント・プライス主演しゅえんの恐怖きょうふ映画えいがの傑作けっさく『地球ちきゅう最後さいごの男おとこ』(1963年ねん)に影響えいきょうを受うけているはず。

本ほん作さくの優すぐれた点てんは、1976年ねんに囚人しゅうじん(白人はくじん)と警官けいかん(黒人こくじん)が協力きょうりょくして尊敬そんけいと友情ゆうじょうを抱いだきつつ危機ききに立たつ向むかう様ようを、当あたり前まえに扱あつかっていてところだと思おもう。
敵てきとなるストリート・ギャング達たちは全編ぜんぺんに渡わたってほぼ台詞せりふがなく、感情かんじょうも出ださずに淡々たんたんと隊列たいれつを組くみながら襲おそってくるところは正まさに生いきる屍かばね(ゾンビ)で観客かんきゃくの恐怖きょうふを増大ぞうだいさせる。

篭城ろうじょう事件じけんの発端ほったんとなる親子おやこの幼おさない金髪きんぱつ少女しょうじょ役やくのキム・リチャーズは、その前年ぜんねんくらいにディズニーのファンタジーSF映画えいがの『星ほしの国くにから来きた仲間なかま』(1975年ねん)に主演しゅえんをしている有名ゆうめい子役こやくを、ギャングが文字通もじどおり血塗ちまみれで殺ころす場面ばめんは、無造作むぞうさで凄すさまじい血糊ちのりと相あいまってギョッとする場面ばめんで、結構けっこう思おもい切きった起用きようと演出えんしゅつだと思おもうが、こんな子供こどもにも平気へいきで手てを掛かける極悪ごくあく非道ひどうなギャングならいくら殺ころしても観客かんきゃくの心しんが痛いたまないカーペンター監督かんとくの配慮はいりょかも(S気きが強つよいだけかも)
しかし『星ほしの国くにから来きた仲間なかま』(1975年ねん)はスピルバーグが名作めいさく『E.T』を創つくる際さいに参考さんこうにしたと思おもう映画えいがなのだが、カーペンターが利用りようするとイイ意味いみで邪悪じゃあくになるのが面白おもしろい。

主演しゅえんの俳優はいゆうで、主役しゅやくの伝説でんせつ的てき犯罪はんざい者しゃナポレオンを演えんじるダーウィン・ジャストンの太ふとし々しくもクールで頼たよりになる雰囲気ふんいきを醸かもし出だしており、ハマり役やくだと思おもう。その後ごにカーペンターとカート・ラッセルが創造そうぞうする近きん未来みらいダークヒーロー物ぶつでもある映画えいが『ニューヨーク1997』の名めいキャラクターのスネーク・プリスキンの原型げんけいでありこのキャラクターは後のちに日本にっぽんのゲームや漫画まんが・アニメにも影響えいきょうを与あたえている。
ちなみにダーウィン・ジャストン演えんじるナポレオンの吹ふき替かえは、剽悍ひょうかんな三枚目さんまいめ役やくが多おおい名声めいせい優ゆうの青野あおの武たけしが、落おち着ついた口調くちょうでクールに演えんじていて意外いがいにもハマり役やくだった。青野あおの武たけしはその後ごに『ニューヨーク1997』のスネーク・プリスキンも吹ふき替かえているのも不思議ふしぎな連続れんぞく性せいがあって面白おもしろい。

ホークス・ボガート映画えいがにおけるローレン・バコール的てき役柄やくがらの性格せいかくと雰囲気ふんいきのローリー・マージもクールビューティーで似合にあっており作品さくひんの質しつに貢献こうけんしている。
ナポレオンと二に人にんきりになって囚人しゅうじんでもある彼かれに「何故なぜ逃にげないの？」問とい掛かける場面ばめんでの会話かいわも泣なかせる。(でもあくまでもクール)

本ほん作さくの白眉はくびはハワード・ホークス監督かんとくの名作めいさく西部せいぶ劇げきりリオ・ブラボーの名めいシーンでネルソンがウェインに銃じゅう投なげ渡わたして危機ききを乗のり切きる名めい場面ばめんを違和感いわかんなく組くみ込こんであり、その引用いんようの巧たくみさと本ほん作さくの迫力はくりょくあるアクションの見みせ場ばになっており見事みごとなタイミングと撮影さつえいと編集へんしゅうのカッコ良よさに痺しびれる。
ちなみ「ハワード・ホークスはこの場面ばめんを、『赤あかい河かわ』や『はてしなき蒼空そうくう』状況じょうきょうを変かえた『脱出だっしゅつ』などの多おおくの作品さくひんで試こころみているが、これが一番いちばん有名ゆうめいかも。

監督かんとく・脚本きゃくほん・音楽おんがくで才気さいきを全開ぜんかいにした最もっともカッコいいカーペンター映画えいがで、低てい予算よさんなところを上手うまく演出えんしゅつしてハワード・ホークス映画えいがとゾンビ映画えいがの奇跡きせき的てき融合ゆうごう?!と、ホラー映画えいがの監督かんとくが活劇かつげきを撮とると一味いちみ違ちがう良よさを発揮はっきする指針ししんになったと思おもう。

要塞ようさい警察けいさつ以下いかに個人こじん的てきカーペンター作品さくひんベスト

『遊星ゆうせいからの物体ぶったいX』1982年ねん
要塞ようさい警察けいさつとは違ちがうアプローチでホークスの古典こてんホラーをリメイクした模範もはん的てき傑作けっさく

『ハロウィン』1978年ねん
近代きんだいホラーの仮面かめん殺人鬼さつじんきモノの原点げんてんにして頂点ちょうてん。ショッカーからオカルトホラーへのラストと凄すごい。

『ゼイリブ』1988年ねん
公開こうかい当時とうじは底そこの浅あさい社会しゃかい派はホラーと揶揄やゆする声こえもあったが、ここ10年ねん位いでシャレにならない現実げんじつ性せいを帯おびた予言よげんになった。ホークスやフォードも超こえる壮絶そうぜつな殴なぐり合あいも一ひとつの文脈ぶんみゃくを創つくったと思おもう。

『ゴースト・ハンターズ』1986年ねん
ホラーカンフーコメディとアジア人じん俳優はいゆうの早はやすぎる活躍かつやくをSFXで絡からめた傑作けっさく活劇かつげき。これだけ詰つめ込こんで100分ぶんの尺じゃくは凄すごい

『ニューヨーク1997』と『エスケープ・フロム・L.A.』
ほとんど同おなじストーリー展開てんかいでリメイク的てき要素ようそが強つよいが、媚こびないヒーローとはこれです

当時とうじ、知しり合あいが「これは隠かくれた名作めいさくだ」と言いってたのでVHSで観みたなぁ。
今回こんかいレンタルで観みなおしてみたんだけど、テンポが悪わるいなぁ、という印象いんしょう。
ちょっと期待きたいしすぎたかも。

なんか普通ふつうのシーンでも、「ここでグッと感情かんじょうが高たかまる！」ってシーンでも、全部ぜんぶバストショットなんだよねぇ…。
あと、編集へんしゅうがなんかよろしくないというか…。監督かんとく本人ほんにんがやってるみたいだけど…。

ジョン・カーペンター監督かんとく1976年ねんの作品さくひん。この次つぎ作さくに『ハロウィン』。
日本にっぽん未み公開こうかいの低てい予算よさんＢ級きゅうアクションだが、なかなか面白おもしろい。これぞ掘ほり出だし物もの。

就任しゅうにんしたばかりの警部補けいぶほがとある警察けいさつ署しょへ。移転いてん作業さぎょう中ちゅうで留守るすや後片付あとかたづけを任まかされる。

移動いどう中ちゅうの護送ごそう車しゃの中なかで一人ひとりの囚人しゅうじんが体調たいちょうを悪わるくする。目的もくてき地ちまでまだ遠とおく、仕方しかたなくその警察けいさつ署しょに立たち寄よる。

ストリート・ギャングに娘むすめを殺ころされた父親ちちおやが銃じゅうで復讐ふくしゅう。追おわれ、警察けいさつ署しょに助たすけを求もとめ逃にげ込こむ。

あっという間まに警察けいさつ署しょはストリート・ギャングたちによって包囲ほうい。
警官けいかんや囚人しゅうじんたちは協力きょうりょくし、立たて籠こもりながら必死ひっしに応戦おうせんする…。

各々おのおのの動向どうこうで始はじまる序盤じょばんは他愛たあいなく、ちと退屈たいくつ。
が、ストリート・ギャングの一人ひとりがまだ幼おさない娘むすめを無情むじょうに射殺しゃさつするシーンはショッキング。
そして警察けいさつ署しょへ、舞台ぶたいが整ととのった。ここから一気いっきに面白おもしろくなる。
ストリート・ギャングたちによる銃撃じゅうげきの雨あめ。迫力はくりょくもあり。
容赦ようしゃなく、一人ひとりまた一人ひとりと死しんでいく…。
武器ぶきも少すくなく、弾薬だんやくも減へっていく。電話でんわ線せんも切きられ、連絡れんらくの術じゅつも無ない。孤立こりつ無援むえん。絶体絶命ぜったいぜつめい。
ほとんど警察けいさつ署しょ内ないというワン・シチュエーション、限かぎられた登場とうじょう人物じんぶつ…低てい予算よさんを逆手さかてに取とった見みせ方かたに唸うならされる。

メインとなる登場とうじょう人物じんぶつは、警部補けいぶほ、署しょの女性じょせい職員しょくいん、囚人しゅうじんのリーダー。
彼かれら３人にんで立たち向むかい、ストリート・ギャングたちを倒たおすというのではなく、異変いへんに気付きづいた何処どこかの警察けいさつ署しょが駆かけ付つけ持もち堪こたえるまで。
ご都合主義つごうしゅぎのように倒たおすより、よっぽどハラハラさせる。
ありがちだが、次第しだいに友情ゆうじょう芽生めばえる警部補けいぶほと囚人しゅうじんリーダー、仄ほのかに匂におわせる囚人しゅうじんリーダーと女性じょせい職員しょくいん。
少々しょうしょうギザっぽいが、ユーモアも交まじえ、さすがの職人しょくにんジョン・カーペンター！

本ほん作さくはハワード・ホークスの『リオ・ブラボー』からインスパイア。
また本ほん作さくも2005年ねんに『アサルト13 要塞ようさい警察けいさつ』としてリメイク。
近年きんねんは『ハロウィン』もリメイクされたり、ただのＢ級きゅうチックなSFやアクションの鬼才きさいではなく、れっきとした名匠めいしょうジョン・カーペンターなのである。

始はじまってすぐ低ひくいシンセ音おんが響ひびきだし「あぁカーペンター映画えいがだわ」っていうね。
物語ものがたりはシンプルだが、人物じんぶつ描写びょうしゃやシチュエーションの描えがき方かたは丁寧ていねいではなく雑ざつというか大雑把おおざっぱ。70年代ねんだい映画えいがにありがちといえばありがち。

ただ警察けいさつ署しょに立たてこもりってからの展開てんかいは燃もえる。不気味ぶきみな敵てきの描えがき方かたはゾンビ映画えいがのようだ。

リメイク作さくは観みてないが、アイデアが上手うまいので金かねかけてしっかりと作つくり直なおしたいという人ひとがいたのも頷うなづける。