時計とけいじかけのオレンジ

スタンリー・キューブリック監督かんとく作品さくひん。
不朽ふきゅうの名作めいさくだ。

本ほん作さくの主人公しゅじんこう・アレックスが暴力ぼうりょくと無秩序むちつじょが蔓延はびこる社会しゃかいで、不良ふりょう少年しょうねんから善良ぜんりょうな「社会しゃかい」人にんになるために、懲罰ちょうばつから治療ちりょうへと向むかう。それは魂たましいの統治とうちといっても過言かごんではない。その統治とうちにおいて採用さいようされる治療ちりょう法ほうが、映画えいが鑑賞かんしょうである。目めを瞬まばたきができないように固定こてい器具きぐで見開みひらき、バイオレンス映画えいがやポルノ映画えいがをひたするみる。そして映画えいがにおけるイメージと現実げんじつ世界せかいを「連係れんけい」させ、現実げんじつの暴力ぼうりょくとポルノに吐はき気けを催もよおさせる。治療ちりょう手段しゅだんに映画えいがを取とり入いれるメタな視点してんと危険きけん性せいの指摘してきに驚おどろきつつ、この「連係れんけい」は重要じゅうような概念がいねんである。

例たとえばアバンクレジットで赤あかと青あおのショットを連係れんけいさせて別べつの色いろのイメージを産うみ出だしていたり、「雨あめに唄うたえば」のような陽気ようきな音楽おんがくと暴力ぼうりょくに満みちた映像えいぞうを連係れんけいさせて不穏ふおんなイメージを想起そうきさせる仕掛しかけをしている。このように物語ものがたりにおける鍵かぎとなる概念がいねんとともに映画えいがとは何なにか、イメージとは何なにかを問といかける重要じゅうような概念がいねんなのである。

治療ちりょうによる連係れんけいによってイメージは創出そうしゅつできたが、倫理りんり観かんは育はぐくまれない。
かつての懲罰ちょうばつでは内省ないせいによる改心かいしん、それによる倫理りんり的てきな行為こういが目指めざされていた。しかし心しんを治療ちりょうし終おえたのなら、正常せいじょうであることが暗黙あんもくの了解りょうかいになってしまう。だからアレックスの社会しゃかい復帰ふっき後ごの行動こうどう原理げんりも分わかる。

物語ものがたりの終盤しゅうばんでは、アレックスが暴力ぼうりょくとポルノに回帰かいきする。これは退行たいこうとも解釈かいしゃくできるが、善よく生いきるために、生なま権力けんりょくを握にぎらされず私わたしたちが社会しゃかいを統治とうちするためには、肯定こうてい的てきに受うけ止とめなくてはいけないのではないだろうか。暴力ぼうりょくとポルノを社会しゃかいから、一個人いっこじんから抹消まっしょうするためには、本ほん作さくのような魂たましいの治療ちりょうが必要ひつようになってくる。しかしそれは倫理りんり観かんを醸成じょうせいすることはない。ましてや連係れんけいによって別様べつようの暴力ぼうりょくやポルノをイメージさせることだってあり得える。だから暴力ぼうりょくやポルノを懐柔かいじゅうさせながら、社会しゃかいに組くみ込こむ遊あそびの仕掛しかけが必要ひつようだと思おもうのである。