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皆みなさん点数てんすうが低ひくい……あの…じゅうぶんブラックコメディーの傑作けっさくです。マスコミの変遷へんせんを知しる上じょうでも勉強べんきょうになる作品さくひんです。現在げんざいのきぐるいテレビは朝あさの情報じょうほう番組ばんぐみで占うらないをやってます。誰だれを拳銃けんじゅうで撃うったら変かわるのかね。

テレビ界かいの出身しゅっしんで法廷ほうてい劇げきの代表だいひょう的てき名作めいさく「十じゅう二に人にんの怒おこれる男おとこ」を発表はっぴょうした監督かんとくシドニー・ルメットは、そのデビュー作さくの実力じつりょくを継続けいぞくすることが出来できなかったが、1964年ねんにロッド・スタイガー主演しゅえんの力作りきさく「質屋しちや」で片鱗へんりんを見みせ、最近さいきんではアル・パチーノ好演こうえんのリアリズムの社会しゃかい派は映画えいが「セルピコ」と「狼おおかみたちの午後ごご」で復活ふっかつしてきたと思おもわれた。しかし、今度こんどのテレビ業界ぎょうかいの内幕うちまくを衝撃しょうげき的てきに暴あばいたこの話題わだい作さくは、あまり感心かんしん出来できない。勿論もちろん「十じゅう二に人にんの怒おこれる男おとこ」には遠とおく及およばず、「狼おおかみたちの午後ごご」にある予測よそく不可能ふかのうなストーリーの面白おもしろさも欠かける。深刻しんこくなドラマ「質屋しちや」とも、重量じゅうりょう感かんでは敵てきわない。キネマ旬報きねまじゅんぽうの1977年度ねんどベストテンの第だい2位いに選出せんしゅつされているが、これは全まったく理解りかいできない。ルメット監督かんとくなら、もっと完成かんせい度どを要求ようきゅうしなくては意味いみが無ないと思おもうのだが、どうしたのだろう。

視聴しちょう率りつ獲得かくとくに血相けっそうを変かえて人間にんげん性せい喪失そうしつの失格しっかく人物じんぶつたちが、カメラの前まえとスタジオ外がいで子供こどもじみた戦争せんそうごっこをするのは、それはそれで面白おもしろいと思おもう。しかし、それを表現ひょうげんするのに大人おとなの視点してんや批判ひはんが演出えんしゅつに欲ほしかった。ニュース報道ほうどう部ぶの主任しゅにんウイリアム・ホールデン始はじめ、この作品さくひんでオスカーを得えたフェイ・ダナウェイやピーター・フィンチの主要しゅよう人物じんぶつをそれなりに現代げんだいマスメディアの人間にんげんとして描えがいている。しかし、何なにかに取とり憑つかれたようなニュースキャスターのフィンチとその扇動せんどうに共感きょうかんし支持しじする客席きゃくせきの民衆みんしゅうとのスタジオシーンは、その社会しゃかい性せいより皮相ひそう的てきな作つくり話ばなしの可笑おかしさしかない。この風刺ふうしにはルメット監督かんとくの良よさが出でていないと思おもった。ダナウェイの熱演ねつえんについては改あらためて感心かんしんしたが、でもこの程度ていどの演技えんぎは彼女かのじょにとって普通ふつうだし、フィンチもこの役柄やくがらのお蔭かげでアカデミー賞しょうを受賞じゅしょうしたと思おもわせる。アカデミー賞しょうの悪わるい一いち面めんが出でたか、他たに評価ひょうかすべき俳優はいゆうが居いなかったのか、そのどちらかだろう。テレビはメディアの中なかで独立どくりつした強大きょうだいな武器ぶきになることは理解りかいする。その点てんを付ついた大胆だいたんで挑戦ちょうせん的てきな制作せいさく意欲いよくは買かうが、内容ないようが幼稚ようちではないだろうか。そこにアメリカらしい皮肉ひにくもある。ただ個人こじん的てきには響ひびかなかった。

テレビ出身しゅっしんのルメット監督かんとくが成なし得える初はじめてのテレビ内幕うちまく暴露ばくろ映画えいがだが、結末けつまつが安易あんいすぎてしっくりこない。また、その結末けつまつのスキャンダル性せいと、後半こうはんの社会しゃかい批評ひひょうに風刺ふうしの説得せっとく力りょくがない。それでもフェイ・ダナウェイの熱演ねつえんでラストまで引ひきずられる面白おもしろさは久ひさし振ぶり。どうせ皮肉ひにくならば、テレビの世界せかいを知しり尽つくしたルメット監督かんとくの遊あそびが出来できたのではないかと惜おしまれる。

　　1978年ねん　5月18日にち　　池袋いけぶくろ文芸ぶんげい坐すわ

　かなりブラックなアメリカ放送ほうそう界かいの裏側うらがわを描えがいた作品さくひんだ。賞しょうをいくつも獲得かくとくしているが、見所みどころは俳優はいゆうの演技えんぎ力りょくとブラックな設定せっていだけであり、作品さくひんそのものは大たいした出来できではないと思おもう。撮影さつえい終了しゅうりょう後ごにフィンチが死亡しぼうしたという事実じじつも考慮こうりょに入いれた上うえでの主演しゅえん男優だんゆう賞しょう受賞じゅしょうなのであろう。

　安やすっぽいテレビドラマの舞台ぶたい装置そうちと工夫くふうの見みられないフィルムワーク。女性じょせい重役じゅうやくのダナウェイとの不倫ふりん愛憎あいぞう劇げきがかなりのウェイトを占しめていることもつまらなくしている。

自宅じたくにて鑑賞かんしょう。TV業界ぎょうかい作づくり手ての裏うら側がわや恥部ちぶを告発こくはつ、昨今さっこんの醜態しゅうたいを予言よげんした様ような一いち作さく。ボテッとしたフォントのオープニングロールとタイトルコール。狂きょうえる男おとこの一言ひとことは低迷ていめいする報道ほうどう部ぶや製作せいさく部ぶ、果はてはテレビ局てれびきょくにとって、降ふって湧わいた様ような千載一遇せんざいいちぐうのチャンスとなる。そこから始はじまる狂乱きょうらんとも呼よべる局内きょくない外がいの権力けんりょく争あらそいと影響えいきょうされる視聴しちょう者しゃに世論せろん。唯一ゆいいつの良識りょうしきと思おもえる男おとこは派閥はばつ(権力けんりょく)争あらそいに巻まき込こまれ馘くびになってしまう。全ぜん篇へんに亘わたり、BGMはTVから流ながれるCMや番組ばんぐみテーマ曲きょくのみで構成こうせいされている。かなりイカレた内容ないようだが、マスメディアに興味きょうみがある人ひとにはマストな一いち作さく。80/100点てん。

・アチラを見みてもコチラを見みても始終しじゅう、写うつし出だされるのはおじさん達たちばかりで、地味じみ目めの画面がめんが殆ほとんどではあるが、'76年ねんと云いう時期じきに、コンプライアンスを声高こわだかに唱となえる反面はんめん、数字すうじに取とり憑つかれ狂騒きょうそうを繰くり返かえすメディア業界ぎょうかいの今日きょうを連想れんそうさせる本ほん作さくを作つくった意義いぎは大おおきい。ぜんざいの甘あまさを引ひき立たてるのは添そえられた一片いっぺんの塩しお昆布こぶであり、現実離げんじつばなれしたのが数多かずおおく描えがかれる映画えいが(エンタメ)界かいにも、派手はでさには欠かけるものの本ほん作さくの様ような渋しぶめの一いち作さくは貴重きちょうなビター･スパイスである。

・余あまり乗のり気きでなかったが、観み始はじめると描えがかれている内容ないようにグイグイ惹ひき込こまれた。明確めいかくな善人ぜんにんや悪人あくにんは登場とうじょうせず、各々おのおのがそれぞれの立場たちばで奔走ほんそうずる姿すがたは、部外ぶがい者しゃからは滑稽こっけいで狂気きょうきにも通つうずる感覚かんかくを憶おぼえる。テンポも悪わるくなく、ほぼ無駄むだが無ない引ひき締しまった展開てんかいは、観みている者ものを飽あきさせない。人気にんき者しゃが出でる甘あまいばかりのラブストーリーやお伽噺とぎばなしにしか思おもえない青あおいアニメ、超人ちょうじん達たちが翔とび交かうヒロイックものも悪わるくはないが、たまには武たけ骨ほねで骨太ほねぶとな本ほん作さくの様ような渋しぶい一いち作さくも観みておくべきである。自称じしょう“バリスタ”が淹いれる中途半端ちゅうとはんぱなコーヒーよりもウンッと目醒めざめが佳よい事ことは保証ほしょうする。

・求心力きゅうしんりょくが人一倍ひといちばい強つよく、上昇じょうしょう志向しこうの塊かたまりの様ような女おんな。そんな女おんなに惹ひかれ、25年ねんき上ずきあげた家族かぞくを顧かえりみない哀かなしい初老しょろうの男おとこ。顛末てんまつに救すくいらしきモノは存在そんざいしないが、鑑賞かんしょう後ごの後味あとあじも悪わるくない。ただともすれば古臭ふるくさく感かんじてしまう画面がめんをどう感かんじるかによる。よく見みると、何なん度どか登場とうじょうする｢ハワード･ビール･ショー｣内ないの観客かんきゃく席せきには毎回まいかい、複数ふくすうの同おなじ客きゃく(長髪ちょうはつに髭ひげを伸のばした男性だんせいや白地しろじに赤あかい縦縞たてじまのカーディガンを羽織はおる女性じょせい等とう)が見受みうけられる。

・本ほん作さくはP.チャイエフスキーのオリジナル脚本きゃくほんが基もととなっているが、'74年ねん７月がつ15日にち、米国べいこくのABCテレビの関連かんれん会社かいしゃWXLTテレビ(現げんWWSB)のトーク番組ばんぐみ｢サンコースト･ダイジェスト｣の生放送なまほうそう中ちゅうに女性じょせいキャスターC.チュバックが拳銃けんじゅう自殺じさつを遂とげた(彼女かのじょを題材だいざいにドキュメンタリー『Kate Plays Christine('16･R.グリーン監督かんとく)』と『Christine('16･A.カンポス監督かんとく)』の二に本ほんが映画えいが化かされている)。当初とうしょ、P.チャイエフスキーは否定ひていしていたが、後のちにこの事件じけんに触発しょくはつされ、本ほん作さくの脚本きゃくほんを書かき始はじめたと認みとめた。

・F.ダナウェイの“ダイアナ･クリステンセン”は、伝説でんせつのTVプロデューサー、リン･ボーレンがモデルになっているとされている。亦また、M.ワーフィールドが演えんじている“ローレーン･ホッブズ”は、共産きょうさん主義しゅぎ者しゃとしてメディアに迎合げいごうし、取とり込こまれた感かんのある実在じつざいした政治せいじ活動かつどう家かアンジェラ･デービスがモデルとなっている。

・犯罪はんざい者しゃ自みずからが撮影さつえいしたフィルムを鑑賞かんしょうする際さい、話題わだいに出でていたパトリシア･ハーストは実在じつざいの女性じょせい(身代しんだい目的もくてきで誘拐ゆうかいされた後のち、誘拐ゆうかい犯はん側がわの一員いちいんになったストックホルム症候群しょうこうぐんの富豪ふごう令嬢れいじょう)である。K.クロンカイトが演えんじている“メアリー･アン･ギフォード”はパトリシア･ハーストがモデルと思おもわれる。亦また、彼女かのじょの実父じっぷウォルター･クロンカイトは“ハワード･ビール”役やくをオファーされたが、興味きょうみが持もてず断ことわったとされている。

・P.フィンチが演えんじた“ハワード･ビール”はH.フォンダにオファーされたが、余あまりにもヒステリック過すぎるとの理由りゆうで断ことわられたと云いう。J.スチュワートも言葉ことばが汚きたないとの理由りゆうで断ことわったとされる。この役やくは、(上述じょうじゅつの)W.クロンカイト、(脚本きゃくほんも読よまず辞退じたいしたとされる)G.C.スコット、G.フォード、G.ハックマン、J.チャンセラーにオファーされたらしいが、脚本きゃくほん執筆しっぴつ時じのP.チャイエフスキーは、H.フォンダ、J.スチュワート、P.ニューマン、C.グラントを思おもい描えがいていたと後のちにインタビューで答こたえている。

・“マックス･シューマッカー”には、W.マッソー、G.ハックマンがオファーされたと云いう。最終さいしゅう的てきにG.フォードとW.ホールデンが最終さいしゅう候補こうほとして残のこされ、W.ホールデンがこの役やくを得えた。

・第だい49回かい(1976年度ねんど)アカデミー賞しょう主演しゅえん男優だんゆう賞しょう にノミネート直後ちょくご、“ハワード･ビール”役やくのP.フィンチは心不全しんふぜんで急死きゅうししたが、その後ご受賞じゅしょうし、アカデミー賞しょう史上しじょう初はつの死後しご受賞じゅしょうとなった(後のちに死後しご受賞じゅしょうしたのは『ダークナイト('08)』のH.レジャーが二人ふたり目め)。亦また、W.ホールデンの“マックス･シューマッカー”の女房にょうぼう“ルイーズ”役やくそしてB.ストレイトが同年どうねん同どう賞しょうの助演じょえん女優じょゆう賞しょうを受賞じゅしょうしたが、アカデミー賞しょう史上しじょう最もっとも短みじかい出演しゅつえん時間じかん(約やく五ご分ふん半はん)での受賞じゅしょうとなっており、'19年ねん８月がつ現在げんざい、この記録きろくは破やぶらていない。

・'07年ねんに千せん五ご百ひゃく人にん以上いじょうによる投票とうひょうにより決定けっていされたAFI(American Film Institute)が定さだめる｢AFIアメリカ映画えいが100年ねん｣の64位いにランクインしている。米国べいこくを代表だいひょうする映画えいが評論ひょうろん家かR.エバートの｢最もっとも素晴すばらしい映画えいがベスト100(Great Movies:The 100 by Roger Ebert)｣にもランクインしている。亦また、映画えいがプロデューサーのS.ジェイシュナイダーによる｢死しぬまでに観みたい映画えいが1001本ほん(101 Gangster Movies You Must See Before You Die by Steven Schneider)｣にもランクインしている。