火垂ほたるの墓はか（1988）

過去かこ数すう回かい鑑賞かんしょう
夏なつがくれば思おもい出だす不朽ふきゅうの名作めいさく
アニメで名作めいさくが数多かずおおくあれど映画えいが.comオールタイムベストがここまでしっくりくる作品さくひんを他たにあげることはできない

実写じっしゃ映画えいがの存在そんざいは知しっているがテレビドラマや舞台ぶたいの存在そんざいは知しらなかった
松嶋まつしま菜々子ななこ主演しゅえんのテレビドラマはきっと忘わすれていたのだろう
完全かんぜんにアナザーストーリーだし
観みてみたい気きもする

舞台ぶたいは終戦しゅうせん間近まぢかから直後ちょくごの兵庫ひょうご県けん神戸こうべ市し＆西宮にしのみや市し
父ちちも母ははも妹いもうとも主人公しゅじんこうも死しんでしまい家族かぞく全滅ぜんめつ

上半身じょうはんしんがミイラのようになってしまった母ははと栄養失調えいようしっちょうで死しにそうな節子せつこ
投なげつけられたドロップ缶かんの中なかから出でてきた節子せつこの遺骨いこつ
それが強烈きょうれつに印象いんしょうに残のこる

昭和しょうわ20年ねん9月がつ21日にち夜よるぼくは死しんだ
冒頭ぼうとうここから始はじまる
リアルを追求ついきゅうする高こう畑はたけだがリアルを超こえたリアルなら死者ししゃの立場たちばからの回想かいそうに辿たどり着つくのか
僕ぼくは毎回まいかいここでいきなり涙なみだが溢あふれてしまう
散歩さんぽのあとに餌えさを与あたえようとすると大量たいりょうな涎よだれを垂たらす飼かい犬いぬのように
まさしく条件じょうけん反射はんしゃまさしくパブロフの犬いぬ

ラピュタに比くらべると金曜きんようロードショーで放送ほうそうされなくなって久ひさしい
人間にんげんとはポジティブなものよりネガティブななものにすぐ食くいつくが飽あきるのも早はやいようだ
権利けんりの問題もんだいもあるのだろうがそんなものは話はなし合あいで乗のり越こえられるし毎年まいとし8月がつ後半こうはん頃ごろにETVで放送ほうそうすればいいのにな
日本にっぽん国こくから億おく単位たんいの多額たがくの補助ほじょ金きんを貰もらっておきながら尖閣諸島せんかくしょとうを中共ちゅうきょうの領土りょうどだと海外かいがいに宣伝せんでんするくらいなら容易よういに出来できるだろう

この作品さくひんは動画どうが配信はいしんもされていない
来月らいげつからNetflixで配信はいしんされるらしいがアメリカ限定げんていで日本にっぽんは対象たいしょう外がい
残念ざんねんである
DVDを借かりるか買かう他ほかない状況じょうきょう

清せい太ふとしは我慢がまんするべきだった
我慢がまんしていれば清せい太ふとしも節子せつこも死しなずにすんだという意見いけんがいつからか覚おぼえてないがネットで目立めだち始はじめた
大元おおもとはなにかと言いえば清せい太ふとしの声こえを担当たんとうした辰巳たつみ努つとむの発言はつげんのようだ
彼かれを批判ひはんする気きはないが僕ぼくは考かんがえが違ちがう
清せい太ふとしは軍人ぐんじんの息子むすこだし自尊心じそんしんを傷きずつけられることが何なによりも耐たえられなかったのだろう
自尊心じそんしんが低ひくい人ひとには清せい太ふとしの心情しんじょうは理解りかいできないのかもしれない
そんなわけで清せい太ふとしのあの行動こうどうについて批判ひはんする気きにはなれない
誇ほこり高たかい少年しょうねんが野菜やさい泥棒どろぼうとは辻褄つじつまが合あわないじゃないかとクレームがありそうだが人間にんげんとは矛盾むじゅんに満みち不合理ふごうりな存在そんざいなのだ

この年としになってみると西宮にしのみやのおばさんの立場たちばも理解りかいはできる
あの頃ころの自分じぶんではない

この作品さくひんに対たいし「戦争せんそうの悲惨ひさんさがー」とか「戦争せんそう反対はんたい」とかそういうありふれた感想かんそうを述のべる彼方かなた系けいのレビュアーには抵抗ていこうがある
原作げんさく者しゃの野坂のさか昭あきら如はどちらかというとそっちの方ほうのようだが
僕ぼくとしては過酷かこくな環境かんきょうに置おかれた人間にんげんがどのように生いきてどのように死しんだのかという人間にんげんドラマを描えがいたのだろうと初はつ見みからそう捉とらえていた
どうやら高畑たかはた監督かんとくも実際じっさいそんな感かんじらしい
そういえば手塚てづか治虫おさむも自作じさくについてそのような発言はつげんをしていた気きがする

高畑たかはた監督かんとく曰いわくやがて西宮にしのみやのおばさんが正まさしく清せい太ふとしが悪わるいという意見いけんが大勢おおぜいになると
またしても全体ぜんたい主義しゅぎの恐おそろしい世よの中なかになると予想よそうした
ヤフコメだけみてとっても実際じっさいにそうなりつつある
今更いまさらながら高畑たかはた勲いさおはただ単たんにアニメ監督かんとくとしてだけでなく人間にんげん的てきにも素晴すばらしい人ひとだったんだな感銘かんめいする次第しだいだ

声こえの配役はいやく
兄あにの清せい太ふとしに辰巳たつみ努つとむ
妹いもうとの節子せつこに白石しらいし綾乃あやの
心臓しんぞうが弱よわく薬くすりを飲のんでいる清せい太ふとしと節子せつこの母ははに志乃しの原はら良子りょうこ
西宮にしのみやの親戚しんせきの叔母おばさんに山口やまぐち朱美あけみ

高畑たかはた勲いさお監督かんとくは優すぐれた観察かんさつ眼めにより人ひとの所作しょさを描写びょうしゃしていき、キャラクター達たちに生いき生いきとした生命せいめい感かんを与あたえていきます。そしてそれとは別べつにとても冷さめた視点してんも持もち合あわせており、それらを作品さくひんの中なかに同居どうきょさせるのです。
本ほん作さくでももちろんですが、それは「平成へいせい狸たぬき合戦かっせんぽんぽこ」や「かぐや姫ひめの物語ものがたり」でも見みることが出来できます。
節子せつこのあどけない愛あいらしさに観客かんきゃくの心しんを作品さくひんに惹ひき込こんでおいて、その惨むごい最期さいごを見みせつけてくる事こともそうですが、高畑たかはた勲いさお監督かんとくは本ほん作さくを観客かんきゃくがただ気持きもちよく泣ないて終おわるだけの映画えいがにはしませんでした。

映画えいがの冒頭ぼうとう、清せい太ふとしが駅えきで息いきを引ひき取とる間際まぎわのシーンにおいて、行いき交かう人々ひとびとの中なかから「もうすぐ米べい軍ぐんが来くるのに恥はじやで…」という声こえが聞きこえてきます。
見みれば清せい太ふとしの他ほかにも柱ばしらに寄よりかかりうな垂しだれている複数ふくすうの人ひとの姿すがたが確認かくにんできます。（清せい太ふとしの元もとに無言むごんで握にぎり飯めしを置おいて行いってくれる人ひとの姿すがたもあります）
この物語ものがたりは清せい太ふとしを主人公しゅじんこうとしていますが、駅えきの柱はしらに寄よりかかる人ひとが複数ふくすういる事ことからも、戦時せんじ下かにおいて特別とくべつな話はなしでは無ない事ことが暗あんに示唆しさされます。
駅員えきいんも冷さめており、デッキブラシで突ついて清せい太ふとしが既すでに事切こときれているのを発見はっけんしても「またか…」と遺体いたいを片かたすこともせず、他たの少年しょうねんの状態じょうたいを確認かくにんしても特とくに救助きゅうじょするでなく、清せい太ふとしの遺品いひんのサクマ式しきドロップ缶かんを駅えき構外こうがいへ放ひります。

空襲くうしゅう後ごのシーンでは、「自分じぶんの家いえだけ燃もえ残のこったら逆ぎゃくに肩身かたみが狭せまい。焼やけてサッパリした」という様ような事ことを話はなす者ものもあれば、倒たおれた遺体いたいを覗のぞき込こんで自分じぶんの身内みうちでは無ない事ことを呑気のんきな調子ちょうしで報告ほうこくしている者ものもあります。

清せい太ふとしの母親ははおやも空襲くうしゅうによって全身ぜんしん火傷かしょうを負おい、翌日よくじつには亡なくなり、遺体いたいに蛆うじが湧わきます。母親ははおやの遺体いたいはその他たの遺体いたいと一緒いっしょに山積やまづみにされ、まとめて火葬かそうされてしまうのです。
その後ご清せい太ふとしは骨ほね壺つぼを抱かかえていますが、そんな状態じょうたいで火葬かそうされた遺骨いこつなんてどこの誰だれの者ものとも分わかりません。（しかし清せい太ふとしは横穴よこあなへ移うつった時ときもその骨ほね壺つぼを大切たいせつに持もってきているのです。）

節子せつこを火葬かそうするための炭すみをくれた叔父おじさんはまるで釣つり上あげた魚さかなの調理ちょうり法ほうをレクチャーするように遺体いたいの焼やき方かたを教おしえてくれます。清せい太ふとしはそれを淡々たんたんと聞きき、教おそわった通とおりに節子せつこの遺体いたいを焼やきながら何なにか頬張ほおばっているのです。

これらのシーンは戦後せんご世代せだいとしては一々いちいち衝撃しょうげき的てきなのですが、当とうの映画えいがの中なかの人々ひとびとは淡々たんたんとしており、大おおきく感情かんじょうを乱みだす人ひともいません。幼おさない節子せつこでさえ母ははを恋こいしがりはするものの、ほとんどの場面ばめんで抑圧よくあつ的てきなのです。人ひとの命いのちが余あまりにも無碍むげに失うしなわれていく戦時せんじ下かという特殊とくしゅな状況じょうきょうでも人ひとはそれに慣なれてしまうのかと思おもわせる恐おそろしい描写びょうしゃが続つづきます。

また清せい太ふとしと節子せつこが暮くらした横穴よこあなの前まえには池いけがあり、対岸たいがんに立派りっぱな屋敷やしきの屋根やねがチラチラ見みえるカットが本編ほんぺんに何なん度どかあります。そして映画えいがの終盤しゅうばんにその屋敷やしきへ３人にんの娘むすめがはしゃぎながら帰かえってくるのです。もんぺ ではなく スカートをヒラつかせ、蓄音機ちくおんきで流ながすのは戦時せんじ下かならご法度はっとだった外国がいこく語ごの唄うたです。おまけにそれが「ホーム・スイート・ホーム」とかいうふざけたタイトルの唄うたなのです。
このお屋敷やしきの娘むすめたちと清せい太ふとしと節子せつこの兄妹きょうだいには一体いったいどんな違ちがいがあったというのでしょうか？何故なぜここまでの皮肉ひにくを入いれてくるのか？正直しょうじき高畑たかはた勲いさお監督かんとくに少すこし意地悪いじわるな印象いんしょうも受うけるのです。

兄妹きょうだいが西宮にしのみやの叔母おばちゃんの家いえに居候いそうろうをはじめて近所きんじょでお風呂ふろを借かりた帰かえり道みちに蛍ぼたるを見みつけるシーンがあります。清せい太ふとしが捕つかまえた蛍ぼたるを節子せつこに渡わたそうとした際さい、節子せつこは誤あやまって蛍ぼたるを潰つぶしてしまいます。兄妹きょうだいに蛍ぼたるを殺ころしてしまった事ことへの感傷かんしょうはありません。

その後ご、兄妹きょうだいが横穴よこあな生活せいかつをはじめた際さいに大量たいりょうの蛍ぼたるを捕つかまえて暗くらい夜よるの横穴よこあなの中なかで放はなち光ひかり輝てるやかせますが、翌朝よくあさ蛍ぼたるは全すべて死しんでしまいます。
蛍ぼたるを埋葬まいそうする節子せつことの会話かいわで清せい太ふとしは、今いままで隠かくしていた母ははの死しを節子せつこが既すでに知しっていた事ことを知しり涙なみだします。節子せつこは掘ほり起おこした穴あなに蛍ぼたるを一いちまとめに埋葬まいそうしますが、その様子ようすが母ははの火葬かそうシーンと重かさなるのです。そして一言ひとこと「なんでホタルすぐシんでしまうん？」と問とい掛かけてきます。果はたして節子せつこは本当ほんとうに蛍ぼたるの死しについて問とい掛かけてきたのでしょうか？

兄妹きょうだいに命いのちを絶たたれた蛍ぼたるが自身じしんの命いのちを絶たった存在そんざいの正体しょうたいと何故なにゆえ命いのちを絶たたれなければいけなかったのかを理解りかいできないように、兄妹きょうだいも又また、何故なぜ自分じぶんたちの命いのちが絶たたれなければいけないのか、そして自分じぶんたちの命いのちを絶たとうとしている戦争せんそうとはどんな存在そんざいなのか理解りかいできていないはずです。

昨今さっこん本ほん作さくについての話題わだいの一ひとつに主人公しゅじんこう：清せい太ふとしの行動こうどうの是非ぜひに対たいする議論ぎろんが目立めだつようになっています。なるほど確たしかに居候いそうろう先さきの西宮にしのみやの叔母おばさんの家いえでの生活せいかつ態度たいどをはじめとした清せい太ふとしの行動こうどうには疑問ぎもんが湧わく個所かしょが多々たたあります。

しかし清せい太ふとしだって戦時せんじ下かでなければ両親りょうしんによって保障ほしょうされた衣食住いしょくじゅうを享受きょうじゅしながら、当あたり前まえに学校がっこうへ通とおっていればいい訳やくで、気乗きのりしない労働ろうどうを強要きょうようされる事こともなければ、両親りょうしんや家いえを映画えいがで描えがかれているような形かたちで奪うばわれる事こともなかったはずなのです。
戦争せんそうなんだから仕方しかたないだろうという理屈りくつは清せい太ふとしだって分わかっているでしょう。しかし理屈りくつが分わかる事ことと心情しんじょうとしてそれを納得なっとくできるかは別べつです。
もう少すこし大人おとなになれば納得なっとくいかなくとも自分じぶんが生いきていくためには仕方しかたがないと割わり切きって行動こうどうすることもできるでしょう。ですが生意気なまいき盛ざかりの14歳さいです。親類しんるいに対たいしてさえ素直すなおにハツラツと挨拶あいさつする事ことに何なにか抵抗ていこうを覚おぼえる年頃としごろです。
なぜ理不尽りふじんにも自分じぶんの家いえや家族かぞくを奪うばった戦争せんそうに労働ろうどうという形かたちで加担かたんさせられなければならないのか？清せい太ふとしは納得なっとくできなかったのではないでしょうか？
清せい太ふとしが始はじめた戦争せんそうでもなければ、清せい太ふとしに戦争せんそうに対たいするどのような責任せきにんがあるというのでしょう？それは清せい太ふとしと同おなじ戦せん時下じかに生いきる殆ほとんどの人々ひとびとに言いえると思おもうのですが（それでも大人おとなにはやはり少すこしずつの責任せきにんがあるとは思おもいますが）ただそういう世よの中なかだからと仕方しかたなしにでも戦争せんそうへ加担かたんしていくのではなく、納得なっとくできない事こと、理解りかいできない事ことに徹底的てっていてきに抗あらがったのが清せい太ふとしだったのだと思おもうのです。
清せい太ふとしは理論りろんを持もっていません。仮かりに持もっていたとしてもそれを展開てんかいすることが許ゆるされない時代じだいにおいて清せい太ふとしは議論ぎろんすることなく行動こうどうで、自分じぶんに戦争せんそうへの加担かたんを促うながしてくる社会しゃかい体制たいせいへ抗あらがったのです。私わたしが同おなじ立場たちばなら容易よういに社会しゃかいへ迎合げいごうするでしょう。しかし願ねがいわくばその様ような迎合げいごうを迫せまられる社会しゃかいにならないようにしたいものです。

私わたしは今回こんかいの鑑賞かんしょうで清せい太ふとしにどこかアメリカン・ニューシネマ的てきなものを見みましたが、清せい太ふとしの行動こうどうには支持しじできない部分ぶぶんも多々たたあります。その最さいたるものはやはり幼おさない妹いもうとを自分じぶんの生いき方かたの道連みちづれにしてしまっている事ことです。映画えいがのラストで現代げんだいの日本にっぽんを見みつめる兄妹きょうだいは一体いったい何なにを思おもうのか？清せい太ふとしの行動こうどうについて疑問ぎもんを抱いだく余地よちがある事ことも含ふくめて、それらは当然とうぜん意図いとして描えがかれたものではありますが、結局けっきょく未いまだに高畑たかはた勲いさお監督かんとくの意図いとするところが私わたしには分わからないのです。

中なか々繰くり返かえし見みる気きにはなれない作品さくひんですが、例たとえ間違まちがっていたとしても作品さくひんに込こめられた意図いとを自分じぶんなりに納得なっとくできるまで見返みかえす作品さくひんだと思おもいます。

今回こんかいはただ単純たんじゅんに、子供こどもにこんな生いき方かたや死しに方かたをさせる世よの中なかは嫌いやだなと思おもいました。

火垂ほたるの墓はか　評価ひょうか　星ほし4.7

となりのトトロと同時どうじ上映じょうえいされた本ほん作さく
この作品さくひんは高畑たかはた勲いさお監督かんとくの代表だいひょう作さくと言いっても過言かごんではないでしょう

火垂ほたるの墓はかを観みて主人公しゅじんこうの清せい太ふとしがクズなどと言いっている人ひともいるが、個人こじん的てきにはそんなことはないと思おもう　少すこし共感きょうかんできるところもあるが、それよりもせっちゃん（節子せつこ）が可哀想かわいそうな気持きもちでいっぱいです

最近さいきんは、金曜きんようロードショーでのジブリ映画えいがで火垂ほたるの墓はかが全まったく放送ほうそうされないので悲かなしいです　いつも終戦しゅうせんの8月がつ15日にち前後ぜんこうくらいにやってたので地上波ちじょうはで観みてみたいです

そして最後さいごに本ほん作さく「火垂ほたるの墓はか」や「かぐや姫ひめの物語ものがたり」などの脚本きゃくほん、監督かんとくを務つとめた高畑たかはた勲いさお監督かんとくに心しんからご冥福めいふくをお祈いのり申もうし上あげます。