マルタイの女おんな

伊丹いたみ十三じゅうざという監督かんとくは常つねに悪あくの権力けんりょくに対たいして怒いかりをぶつけるというか、こいつらは こんな悪わるいことをしているぞ、それに対抗たいこうするにはこうだ！・・って映画えいがを作つくってきた。マルサの女おんなもミンボーの女おんなも大病たいびょう人じんも。しかしこの作品さくひんはどうだ？ストーリーのほとんどが西村にしむらを使つかったギャグ。芸能げいのう界かいの裏話うらばなしに費ついやされている。新興しんこう宗教しゅうきょうじゃなくてもヤクザでも何なんでも会社かいしゃでもやるだろうって一般いっぱん的てきな悪あくを描えがいてしまっている。これは監督かんとくが本当ほんとうに作つくりたかった作品さくひんではなく、不本意ふほんいな作品さくひんではないか？という印象いんしょうを受うけた。彼かれが本当ほんとうにやりたかったのはやはり 新興しんこう宗教しゅうきょう ならではの悪あく・・ 無理むりな勧誘かんゆう、洗脳せんのう、無理むりな献金けんきん、脱会だっかいさせない・・そして新興しんこう宗教しゅうきょうと政治せいじ家か、警察けいさつとのつながりを暴あばく、さらには どうやって脱会だっかいさせるか、どうやってそいつらを追おい詰つめるか・・というようなことをやりたかったんじゃないだろうか？そしてそれを描えがこうとして企画きかくしてるうちに あの事件じけんが・・あれを自殺じさつだと信しんじているファンは皆無かいむであろう・・・なんてことを思おもった。
この作品さくひんが映画えいがとして面白おもしろいのは 中盤ちゅうばんまで。裁判さいばんシーンに向むかっていくところから急きゅうにつまんなくなった。

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女優じょゆうの宮本みやもとが殺人さつじん現場げんばをたまたま目撃もくげきし、裁判さいばんで証言しょうげんする事ことになる。
事件じけんの犯人はんにんはカルト教団きょうだんで、宮本みやもとは命いのちを狙ねらわれかねないので、
刑事けいじの西村にしむららが警護けいごとして常つねに行動こうどうを共ともにする。

そんな中なかでも教団きょうだんの刺客しかくは次々つぎつぎに放はなたれ、宮本みやもとは愛犬あいけんを殺ころされる。
宮本みやもと自身じしんも何なん度どか殺ころされかけるのだが、西村にしむららの必死ひっしの警護けいごにより助たすかる。
さらに不倫ふりんをしている事ことをつかまれ、教団きょうだんから直接ちょくせつ交渉こうしょうされたりもする。

さすがに怖こわくなり証言しょうげんをやめようかと考かんがえ始はじめた宮本みやもとだったが、
教団きょうだんの弁護士べんごしにプライドを傷きずつけられ、逆ぎゃくに意地いじになって腹はらが据すわる。

証言しょうげんの日ひ、護送ごそうの警察けいさつ車両しゃりょうを教団きょうだんのメンバーが襲おそい火炎瓶かえんびんが投なげ込こまれるが、
それでも西村にしむららの必死ひっしの対応たいおうにより助たすかり、証言しょうげん台だいに立たつ。
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女おんなシリーズの最後さいごの作品さくひん。
ここ1ヶ月かげつほどで続つづけざまに見みて来きたが、どれも面白おもしろかった。

宮本みやもとを初はじめとし、役者やくしゃがいつも大体だいたい同おなじなので、
すっかり贔屓ひいきの劇団げきだんの舞台ぶたいを見みているような感覚かんかくになって来きた。
そして各かく名優めいゆう達たちの演えんじるキャラも毎回まいかい変かわるので、その対比たいひも面白おもしろい。

この作品さくひんでは宮本みやもとに加くわえ、西村にしむらの役やくが際立きわだっていた。
刑事けいじ魂たましいを持もち、不器用ぶきようながらも忠実ちゅうじつに仕事しごとをこなす男おとこ。
そして舞台ぶたいに上あがるハメになったり、どこか三枚目さんまいめ的てきな雰囲気ふんいきもある男おとこ。
難むずかしい役やくどころだとは思おもうが、素晴すばらしい演技えんぎ力りょくだと思おもった。

それから新興しんこう宗教しゅうきょうは明あきらかにオウムを意識いしきしていた。
しかもオウムってセリフが出でて来くるシーンもあった。
こうして腫はれ物ものに触さわる部分ぶぶんが、伊丹いたみ監督かんとくの魅力みりょくだなあ。

なお証言しょうげんの時ときまで警護けいごが必要ひつような人ひとの事ことを、マルタイというらしい。
ラーメンのメーカーではない(場ば)

もう何なに作さくも作品さくひんを撮とっているとその監督かんとくのテイストが出でてくる。北野きたの武たけし作品さくひんも然しかりですが、俳優はいゆう陣じんも常連じょうれんさんが増ふえてきてなんとかファミリーと呼よばれたり、伊丹いたみ十じゅう三さん作品さくひんにも、明あきらかな常連じょうれんさんがいらっしゃる。

伊丹いたみ作品さくひんはほとんど見みているが、どれも飽あきのこないストーリー展開てんかいで、役者やくしゃの表情ひょうじょうもとても豊ゆたかで、宗教しゅうきょうや暴力団ぼうりょくだんなど際きわどいテーマを扱あつかっていても、シリアスさを感かんじさせず、痛快つうかいな社会しゃかい風刺ふうしコメディへと昇華しょうかさせている。本当ほんとうに唯一ゆいいつ無二むにの監督かんとくさんでした。

本ほん作さくは、今いままで観みた伊丹いたみ作品さくひんより風刺ふうしにもあまりキレはなく、コメディタッチな場面ばめんもあまりくすりとはしなかった。

字幕じまくと共ともに場面ばめん転換てんかんされるなど、ストーリーに引ひき込こまれはするけど、伊丹いたみ作品さくひんに顔馴染かおなじみの俳優はいゆうさんたちばかりだと、時々ときどき他たの作品さくひんとの違ちがいが見分みわけられず、本ほん作さく全体ぜんたいの印象いんしょうが薄うすまってしまうという感想かんそうを抱だいてしまう。

しかし、伊丹いたみ十じゅう三さんの創作そうさく意欲いよく、創造そうぞう力りょくはとても独創どくそう的てきでもっと撮とり続つづけて欲ほしかったし、まだまだ彼かれの映画えいがを観みたかった。

　日本にっぽん映画えいが専門せんもんﾁｬﾝﾈﾙで鑑賞かんしょう（4Kﾃﾞｼﾞﾀﾙﾘﾏｽﾀｰ版ばん）。

　実体験じつたいけんを優すぐれたエンターテインメントに昇華しょうかしてしまう伊丹いたみ十じゅう三さん監督かんとくの手腕しゅわんには唸うなるしかない。映画えいが人じんの鑑かんだな、と…
　テンポ良よく編あまれた物語ものがたりは、サスペンスとしてもコメディーとしても面白おもしろく、伊丹いたみ節ぶし全開ぜんかいの演出えんしゅつに引ひき込こまれました。
　最後さいごのビワコのセリフは伊丹いたみ監督かんとくの気骨きこつを代弁だいべんしているようで、本ほん作さく公開こうかい後ごに亡なくなられたのが本当ほんとうに残念ざんねんでならない。