日曜日にちようびは別わかれの時とき

古今ここん東西とうざいに恋愛れんあい映画えいがほど多おおく作つくられるジャンルは無ないと思おもうが、このジョン・シュレシンジャー作品さくひんになると常識じょうしき的てきな見解けんかいで押おし通とおすことは、作者さくしゃの主張しゅちょうに逆さからうようだ。愛あいすることの在あり来きたりな歓よろこびや美うつくしさとは大分だいぶかけ離はなれた、複雑ふくざつに絡からんだ男女だんじょ3人にんの関係かんけいには愛あいと虚むなしさが同居どうきょしていて、観みていて最初さいしょは少すこし重苦おもくるしさを感かんじる。それは受うけ入いれられない程ほどではなくて、事ことの成なり行ゆきがどうなるのだろうと知しりたいと思おもわせる、自分じぶんとは違ちがう異国いこくの男女だんじょへの興味きょうみを刺激しげきしてくる。40過すぎのユダヤ人じんの開業医かいぎょういダニエルの人付ひとづき合あいが苦手にがてな非ひ社交しゃこう性せい、夫おっとと別居べっきょし経営けいえいコンサルタントとして働はたらくアレックスの自由じゆうな生活せいかつ、そしてこの二人ふたりと肉体にくたい関係かんけいを持もちながら前衛ぜんえい芸術げいじゅつ家かとして将来しょうらい有望ゆうぼうなボブの前向まえむきな生いき方かた。三さん人にんはそれをお互たがいに認みとめ合あって、愛あいの束縛そくばくをしようとはしない。シュレシンジャー監督かんとくの演出えんしゅつは淡々たんたんとして穏おだやか、冷静れいせいな視点してんでこの異色いしょくの人間にんげん関係かんけいを描えがいていく。

ダニエルは自分じぶんの人見知ひとみしりの性格せいかくを容認ようにんして他人たにんとは距離きょりを置おきながら医師いしの仕事しごとを真面目まじめにこなす同性愛どうせいあい者しゃだ。ボブの前まえにも数すう人にんと関係かんけいがあったように描えがかれている。彼かれの表情ひょうじょうを見みていると、特とくに不満ふまん気きでもなく、といって喜よろこびを感かんじる出来事できごとも無ない。小説しょうせつならば、もっと感情かんじょうを理解りかいできるだろうが、演えんじるピーター・フィンチの巧たくみさで何なんとなく伝つたわってくる。ラストの独白どくはくには、生いきることに悔くいが無ない自信じしんを見みせる。アレックスを演えんじたグレンダ・ジャクソンもまた見事みごとな演技えんぎで、ダニエルと対照たいしょう的てきなアレックスの自由じゆう奔放ほんぽうさを表現ひょうげんしている。このふたりの確たしかな演技えんぎ力りょくが、この映画えいがの見所みどころであろう。アレックスの夫おっとの描写びょうしゃは無ないが、ふとしたことからボブ以外いがいの男性だんせいと関係かんけいを持もち、それが彼かれに感かんづかれる。ダニエルとの関係かんけいを持もちながら、ボブがこのアレックスの浮気うわきに気きを悪わるくするとこが面白おもしろい。（別わかれを意識いしきしてからまた関係かんけいを持もつところには理解りかいしがたいものがあるが）
芸術げいじゅつの才能さいのう豊ゆたかな若者わかものボブは、結局けっきょく二に人にんと同時どうじに別わかれてアメリカ進出しんしゅつを試こころみる。これが、このドラマ唯一ゆいいつの大おおきな出来事できごとだ。特殊とくしゅな三角さんかく関係かんけいは、呆気あっけなく突然とつぜんに分解ぶんかいして終おわる。ボブが二に人にんから去さったラスト、初はじめて出会であったダニエルとアレックスには、時ときの流ながれに逆さからわない大人おとなの極きょく当あたり前まえの挨拶あいさつが交かわされる。ここは巧たくみいと思おもった。この時ときのフィンチとジャクソンの演技えんぎがいい。

この映画えいがはストーリーを楽たのしむものではない。いつか愛あい（性せい）の関係かんけいは壊こわれるものと承知しょうちして、それぞれが自立じりつした生いき方かたを目指めざし、束縛そくばくや嫉妬しっとから解放かいほうされた新あたらしい（変かわった）男女だんじょ関係かんけいの日常にちじょうを過すごした男おとこと女おんなを見詰みつめる面白おもしろさだ。感動かんどうも共感きょうかんもないが、冷静れいせいな人間にんげんドラマが語かたり掛かける人間にんげんの愛あいおしさと淋さびしさが心しんに沁しみる作品さくひんになっていると思おもう。

　　1977年ねん　3月23日にち　　早稲田わせだ松竹しょうちく

ピーター・フィンチとグレンダ・ジャクソン共どもに実力じつりょくのある俳優はいゆうで、この映画えいがの演技えんぎも素晴すばらしかった。ボブ役やくの青年せいねんは、調しらべると音楽家おんがくかとしての方ほうが有名ゆうめいなマレー・ヘッドという人ひとだ。驚おどろくのは、登場とうじょうシーンの記憶きおくはないが、13歳さいのダニエル・デイ＝ルイス少年しょうねんが子役こやくで出でていたこと。これが映画えいが初はつ出演しゅつえんのようだ。監督かんとくのジョン・シュレシンジャー作品さくひんは初期しょきの「ダーリング」「遥はるか群衆ぐんしゅうを離はなれて」「真夜中まよなかのカーボーイ」「イナゴの日ひ」しか観みていないが、好すきな監督かんとくの一人ひとり。この映画えいがは、当時とうじとしては理解りかい不能ふのうな男女だんじょ関係かんけいと思おもったが、今いまの若わかい人ひとが観みたらどう感かんじるのだろう。イギリス映画えいがが好すきな人ひとには興味深きょうみぶかい映画えいがだとは思おもうのだが。
「ダーリング」「真夜中まよなかのカーボーイ」と、この「日曜日にちようびは別わかれの時とき」の三さん本ほんは、シュレシンジャー監督かんとくの演出えんしゅつの巧たくみさと個性こせいがあって大好だいすきな作品さくひんです。