反撥はんぱつのレビュー・感想かんそう・評価ひょうか

ー　タイトルの「反撥はんぱつ」はキャロルの自みずからの内気うちきな性格せいかくに、キャロル自身じしんの精神せいしんが「反撥はんぱつ」していく様さまを暗喩あんゆしている。だが、その精神せいしんの「反撥はんぱつ」の代償だいしょうは大おおきかった・・。－

■ロンドンで姉あねヘレンと暮くらすキャロル（カトリーヌ・ドヌーヴ）。
　姉あねが妻子持さいしもちの男おとこマイケルを毎晩まいばん連つれ込こむことに嫌悪けんお感かんを抱いだき、同時どうじに男性だんせいへの恐怖きょうふを募つのらせて、恋人こいびとのコリンに対たいしても接吻せっぷんするが、嫌いやそうである。
　ある日ひ、姉あねがその恋人こいびととイタリア旅行りょこうに出発しゅっぱつ。
　束つかの間まのひとり暮くらしを始はじめたキャロルは、情緒じょうちょ不安定ふあんていになり、少すこしずつ精神せいしんを崩壊ほうかいさせていく。

◆感想かんそう

・内向ないこう的てきなキャロル。姉あねヘレンが夜よな夜よなマイケルを連つれ込こんでセックスしている喘あえぎ声ごえに悩なやまされながらも、き入きいって居いる姿すがた。

・キャロルは男おとこと性せいを嫌悪けんおしつつ、実じつは興味きょうみがあるが内向ないこう的てきなために積極せっきょく的てきに行動こうどうできない。

・ヘレンがマイケルとイタリア旅行りょこうに出でかけている間あいだ、美容びよう室しつで仕事しごとに失敗しっぱいし家かに籠こめるヘレンが狂気きょうきを帯おびていく様ようは恐おそろしい。
ー　姉あねが調理ちょうり途中とちゅうでほったらかしにしていたウサギの肉にくが腐敗ふはいしていっても、ジャガイモの芽めがドンドン伸のびて行いっても、彼女かのじょは何なにもしない。(出来できない）
　　元々もともと、自活じかつ能力のうりょくがないのである。－

・男おとこに襲おそわれる妄想もうそうは明あきらかにキャロルの性的せいてき欲求よっきゅう不満ふまんを示しめしているし、壁かべに罅ひびが入はいるシーンは彼女かのじょの精神せいしんの崩壊ほうかいを暗喩あんゆしている。

・キャロルは様子ようすを見みに来きたコリンを撲殺ぼくさつし、風呂ふろ桶おけにぶち込こみ、滞納たいのうしていた家賃やちんを取とりに来きた大家たいかを理容りようナイフで滅多めった刺ざしにする。
ー　姉あねヘレンは家賃やちんを置おいてからイタリア旅行りょこうに出でかけたのに、彼女かのじょはそれを届とどけようともしない。ヘレンが対人たいじん恐怖症きょうふしょうである事ことも暗喩あんゆしている。－

＜じわじわと、心理しんり的てきに効きいてくるサイコホラー。
　主演しゅえんのカトリーヌ・ドヌーヴの美うつくしい顔かおと目めが、更さらに怖こわさを募つのらせている作品さくひんでもある。＞

同居どうきょの姉あねは愛人あいじんを連つれ込こみ夜よな夜よな情事じょうじにふけるが、それを聞きかされる潔癖けっぺき性せいの妹いもうとキャロルはだんだんおかしくなっていく。
しかしキャロルは姉あねの愛人あいじんにも「妹いもうとは美人びじんだな」と言いわれるほどの、町まちを歩あるけば男おとこたちが目めを奪うばわれ声こえをかけるほどの美貌びぼうの持もち主ぬし。ストーカー気味ぎみの恋人こいびとも素そっ気けない彼女かのじょの態度たいどに焦こがれて余計よけいまとわりついてくる始末しまつ。
キャロルは妄想もうそうに取とりつかれていく。それは汚けがれならしい中ちゅう年男としおとこにレイプされ、壁かべはひび割われ、壁かべから腕うでが生はえてきて彼女かのじょの体からだを触さわるといったもの。
仕事しごとにも行いけなくなっているのに姉あねと恋人こいびとは旅行りょこうに行いってしまう。キャロルは部屋へやから出でられないほど病やんでいるのに、恋人こいびとが押おし掛かけてきて、ドアを破やぶって入はいってくる。嫌いやがっているのにも気付きづかぬ自分勝手じぶんがってな男おとこを殺ころしてしまうキャロル。
姉あねの恋人こいびとの本妻ほんさいから電話でんわが掛かかってきて怒鳴どなられるし、死体したいはあるし、そりゃどんどん狂くるっていくわ。なのに遅おくれた家賃やちんを取とりに来きた大家たいかは勝手かってに入はいってきて金かねを渡わたしてもなかなか帰かえらず挙あげ句くの果はてにキャロルに襲おそいかかるから、カミソリで滅多めった刺ざし。

そしてついに姉あねたちが帰かえってくる。部屋へやは荒あれ放題ほうだい、死体したいはあるし、キャロルはベッドの下したで倒たおれてるし。それを抱だき上あげて運はこぶ姉あねの恋人こいびとは、なんだかニヤニヤしてるのは、キャロルに触ふれられた嬉うれしさか？
ラスト、キャロルたちの家族かぞく写真しゃしんがはっきり映うつるが、子供こどものキャロルは険けわしい顔かおで父親ちちおやを睨にらみ付つけている。つまり、彼女かのじょの男性だんせい恐怖症きょうふしょうの原因げんいんは、何なん度ども現あらわれるレイプの犯人はんにんは、父親ちちおやだったのか…？

登場とうじょうする男おとこ全員ぜんいんクソという、キャロル目線めせんのホラー映画えいがです

this is 思おもいっきりエセ芸術げいじゅつ映画えいが

原作げんさくを知しらないから理解りかいができてないのだろうか？
彼女かのじょはもともと、子供こどもの頃ころから要素ようそは持もっていたとして、度々たびたび彼女かのじょを襲おそう幻覚げんかくは何なにかしら過去かこにあったことが引ひき金がねになってるとか言いうことなのだろうか。
最初さいしょから異常いじょうとも思おもえる異性いせいへの嫌悪けんお感かんを見みるに、そういうことなのだろうか？と考かんがえながら見みてましたが。

美うつくしすぎたからほっといて貰もらえなかったんだろうなは想像そうぞうできる。
しかし嫌悪けんお感かんある姉あねの恋人こいびとにも最初さいしょは面めんと向むかって反発はんぱつしていたし、その後ご精神せいしんが破綻はたんしていくのが唐突とうとつに感かんじてよく分わからない。

好このみのジャンルでもないせいだけど、ドヌーブじゃなければ途中とちゅうで脱落だつらくした。

カトリーヌ・ドヌーヴは「昼顔ひるがお」や「哀かなしみのトリスターナ」に出演しゅつえんした頃ころから、エリザベス・テーラーと並ならび称しょうされる世界一せかいいちの美女びじょとして有名ゆうめいになった女優じょゆうさんですが「反撥はんぱつ」ではまだ初々ういういしい彼女かのじょを見みることが出来できます。
モノクロでも分わかるような輝かがやくばかりのブロンドで、終始しゅうしうつむき加減かげんのほっそりした顔かおと、薄うすいネグリジェに透すけた胸元むなもとがとても綺麗きれいで印象いんしょう的てきです。
当時とうじの流行りゅうこうだったのかもしれませんが、ほぼドヌーヴの顔かおにスポットを当あてるシーンが続つづいて、ポランスキー監督かんとくは御ご執心しゅうしんだったのでしょうか？そう言いえば何なんとなく「テス」のナスターシャ・キンスキーにも似にていますね。コクのある美うつくしさが素敵すてきです。
話はなしは男性だんせい恐怖症きょうふしょうの主人公しゅじんこうであるドヌーヴが、同居どうきょする姉あねとその恋人こいびとの情事じょうじの気配けはいに毎夜まいよ悩なやまされる内うち、次第しだいに精神せいしんを病やんで行いった挙あげ句くに殺人さつじんを犯おかしてしまうというストーリー。
シンバルやドラムのプリミティブな音おと使づかいや、壁かべから飛とび出だす腕うで、腐敗ふはいしてゆくウサギ肉にくの塊かたまり、干ひからびたジャガイモから延のびる芽め・・・ダリの抽象ちゅうしょう画がのような世界せかい観かんでドヌーヴの心理しんりを表あらわしているようなのですが、同おなじフロアに住すむ住人じゅうにんの飼かう犬いぬが、死体したいの臭においで吠ほえないのか？などと突つっ込こむのはナシです。
謎なぞなシーンもあって、所々ところどころに広ひろいリビングやキャビネット等とうがある瀟洒しょうしゃな屋敷やしきの部屋へやがカットインされるのは、昔むかし住すんでいたブリュッセルの家いえの中なかなのかな？
また、ラストに写うつし出だされる家族かぞく写真しゃしんでのドヌーヴは、父親ちちおやと距離きょりを取とって冷つめたい視線しせんを送おくっているけど、これも何なにかの暗示あんじなのでしょうか？
そう考かんがえても他たに伏線ふくせんとなるような会話かいわも無なかったし・・・
もう一度いちど観みてみようかなと思おもいます。
やっぱりドヌーヴは大好だいすきだと再さい確認かくにん出来できました！

1965年ねん（イギリス)監督かんとく:脚本きゃくほん:ロマン・ポランスキー
主演しゅえんのカトリーヌ・ドヌーブ。
この時とき、22歳さいになったか？ならないかの若わかさ。
キャロル（ドヌーブ)は一いち度ども笑わらわない。
美うつくしいキャロルには、男おとこの視線しせんさえ疎うとましい。
男性だんせい恐怖症きょうふしょうみたいで、その癖くせ、男おとこに襲おそわれる妄想もうそう（過去かこのトラウマなのかは不明ふめい)に、
震ふるえておびえる。

おびえたウサギのようなキャロルは、い寄いよってくるコリーが苦手にがて。
見みるからにハンサムで好感こうかん持もてる青年せいねんなのに。

キャロルが決定的けっていてきに壊こわれていく原因げんいんは、
《姉あねの不在ふざい》
多分たぶん、キャロルは脅迫きょうはく神経症しんけいしょうだと思おもうけれど、庇護ひご者しゃである姉あねが、愛人あいじんとイタリアへ旅行りょこうに行いった。
ひとりで過すごす時間じかん。
妄想もうそうが次々つぎつぎと襲おそって来くる。
《視覚しかくの異常いじょう》
部屋へやの壁かべがひび割われる、
壁かべから伸のびる手て、
鍵穴かぎあなから見みえる歪いがんだ視界しかい、
ヤカンに映うつる歪いがんだ自分じぶんの顔かお、

《音おとも不快ふかい》
修道院しゅうどういんの鐘かねの音おと、
蝿はえの羽音はおと、
電話でんわのベル、
部屋へやの呼よび鈴りん、

適切てきせつな精神せいしん科かの治療ちりょうが必要ひつようだった・・・そう思おもう。
カウンセリングと投薬とうやく・・・それを受うけていればここまで悪化あっかしなかったと思おもう。
腐くさって行いく「ウサギ肉にく」
芽めが出でて、萎しおれて鄙ひなびて行いく「ジャガイモ」
日ひに日ひに荒あれて行いく汚けがれ部屋へや。

ポランスキー監督かんとくの描写びょうしゃは容赦ようしゃがない。
美うつくしい花はな（キャロル)が、萎しおれて、腐くさって、壊こわれて、汚臭おしゅうを放はなつ・・・
精神せいしんが崩壊ほうかいして行いく様さまを最後さいごの最後さいごまで凝視ぎょうしする。

アパートの住民じゅうみん（死しにかけたような老人ろうじんたち)の好奇こうきの視線しせん。
珍めずらしい生いき物もののようにガン見みする老人ろうじんたち。
瀕死ひんしのキャロルを大切たいせつそうにお姫様ひめさま抱だっこする姉あねの恋人こいびと。

邦題ほうだいの「反撥はんぱつ」
命名めいめい者しゃの意図いとは不明ふめいだが、とても似合にあっている。

ロマン・ポランスキー監督かんとくによる1965公開こうかいの英国えいこく白黒しろくろ映画えいが。

カトリーヌ・ドヌーブの目めの、美うつくしさを通とおり過すぎた様ような不気味ぶきみなドアップから映画えいがが始はじまる。意図いとしてなのか、肉にく厚あつな二重瞼ふたえまぶたと睫毛まつげのモジャモジャ感かんがどこか卑猥ひわい。笑顔えがお一ひとつ見みせず、彼女かのじょの美うつくしさよりも暗くらさや被ひ社会しゃかい性せいが強調きょうちょうされる。

そして、ドヌーブが一人ひとりになってから、ヒッチコックを凌しのぐ様ような怖こわさが満載まんさいとなる。男性だんせい恐怖症きょうふしょうの彼女かのじょに迫せまるさまざまな音おとや光ひかり。彼女かのじょが恋人こいびとを撲殺ぼくさつするまで至いたる意外いがい性せい。あんな良よい彼氏かれしだったのに。そして家主やぬしを何なんと剃刀かみそりを用もちいて刻きざむかのように殺ころすのが、恐おそろしい。その後ご、初はじめて笑顔えがおの様ような表情ひょうじょうを彼女かのじょは示しめす。完全かんぜんに狂くるったのだろうか。

ラストの家族かぞく写真しゃしんの中なかで睨にらむ様ような視線しせんを父親ちちおやに向むける少女しょうじょ、彼女かのじょの恐怖症きょうふしょうは幼少ようしょう期きのトラウマなのだろうか。

全まったく救すくいのないドラマだ。でも、何なんとも個性こせい的てきで、今いままで見みたこともない映画えいがでもある。
人気にんき絶頂ぜっちょう期きに、長編ちょうへん第だい2作さく目めとなるロマンスキー監督かんとくによるこの映画えいがに出でる決断けつだんをするカトリーヌ・ドヌーブに驚おどろかされた。

脚本きゃくほんはロマン・ポランスキー、ジェラール・ブラッシュ。
撮影さつえいはギルバート・テイラー、音楽おんがくはチコ・ハミルトン、言語げんごは英語えいご。

出演しゅつえんは、カトリーヌ・ドヌーヴ 、イアン・ヘンドリー（姉あねの恋人こいびと、英えい俳優はいゆう）、ジョン・フレイザー（恋人こいびと、英えい俳優はいゆう）、イヴォンヌ・フルノー （姉あね、仏ふつ女優じょゆう）、パトリック・ワイマーク（家主やぬし） 。

正直しょうじきなところ、
この作品さくひんへは理解りかいが及およばなかった。

それは事前じぜんに散ちりばめられた幻想げんそうの要素ようそ
から、恋人こいびとと大家たいかの殺人さつじんさえ現実げんじつかどうか
判わからない鑑賞かんしょうを強しいられたからでもある。
そして、その現実げんじつか幻想げんそうか判わからない彼女かのじょの
思考しこうの展開てんかいがこの映画えいがの全すべてあるので、
製作せいさく側がわの論ろん的てきは解わからなくもないが、
観みている方ほうは、異常いじょうな展開てんかいを見みせる彼女かのじょに
どう共感きょうかんすれば良よいのか解わからなくなった。

潔癖けっぺき症しょうで内気うちきな妹いもうとの思春期ししゅんきにおける
情緒じょうちょ的てき不安定ふあんていの結果けっかとしても、
その要素ようそは序盤じょばんから既すでに存在そんざいしており、
「ローズマリーの赤あかちゃん」のような
“徐々じょじょに感かん”が無なく、
なぜ妹いもうとは初はじめから情緒じょうちょ不安定ふあんていなのかは
観客かんきゃくの想像そうぞうに委ゆだねられた感かんじだ。
家族かぞく写真しゃしんにヒントがありそうだが、
ハードルの高たかい設定せっていではなかったか。

また、救すくいの無ない結末けつまつでは
作品さくひんそのものへの共感きょうかんも得えられにくく、
「水みずの中なかのナイフ」での
倦怠けんたいの中なかでも続つづく夫婦ふうふへの、
「ローズマリーの赤あかちゃん」での
悪魔あくまの赤あかちゃんを生うんだとの戦慄せんりつさよりも
母親ははおや・母性ぼせいへの、等々とうとうの
ポランスキー監督かんとくの“想おもい”も
感かんじることは出来できなかった。

姉あねに対たいする嫌悪けんお感かんと、男性だんせいには潔癖けっぺきな対応たいおうを取とる内気うちきで変かわった女性じょせいかと思おもいきや、スローなテンポで進すすむ物語ものがたりに何なにも起おこらない雰囲気ふんいき。

ネグリジェ？から薄すすきらと透すけて見みえる裸体らたい、不思議ふしぎなエロさを垣間見かいまみるロマン・ポランスキーの演出えんしゅつ描写びょうしゃ、妄想もうそう？願望がんぼう？タンクトップへの執着心しゅうちゃくしん。

ヒビ割われ滑すべる壁かべから無数むすうの手て、現実げんじつの境界きょうかい線せんが分わからなくなる世界せかい観かん。

食用しょくように皮かわを剥はがされた状態じょうたいのウサギは、デヴィッド・リンチ監督かんとく作さく「イレイザーヘッド」での"スパイク"を、キャロルが犯おかされるのは「ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期さいごの7日間にちかん」で夜毎よごとのようにローラが襲おそわれるシーンを思おもい出だしてしまう！？

意味深いみしんなラストはオープニングの目めと繋つながる、スッキリしない終おわり方かたに疑問ぎもんばかり残のこる反面はんめん、中盤ちゅうばん以降いこうの怒涛どとうな展開てんかいが続つづきながらのスローなテンポにハマってしまう。

ポランスキー監督かんとくの初期しょきの恐怖きょうふ映画えいが。北欧ほくおう映画えいがの様ような雰囲気ふんいき、シュールレアリスム的てき映像えいぞう処理しょりと、イギリス映画えいがとは思おもえないポランスキー独自どくじの映画えいが感覚かんかくが確立かくりつしている。無表情むひょうじょうなカトリーヌ・ドヌーヴの役柄やくがらが更さらに恐怖きょうふを増幅ぞうふくする。美貌びぼうによって隠かくされた異常いじょうさを演えんじるのに、この時期じきのドヌーヴの無垢むくな美うつくしさが適てきしていたと納得なっとくする。主人公しゅじんこう以外いがいの登場とうじょう人物じんぶつのリアリティは優すぐれている。好このみが分わかれるが、ポランスキーの演出えんしゅつ力りょくを確認かくにんするに十分じゅうぶんなサイコホラー。

精神せいしんの崩壊ほうかいというものを、臆おくすることなく絵えと音おとで自由じゆうに表現ひょうげんしきっていて、見応みごたえが半端はんぱない。

キャロルを演えんじたドヌーブが艶あでやかで美うつくしい。

なんてこった 一体全体いったいぜんたい、、
衝撃しょうげき
衝撃しょうげき
衝撃しょうげきしかない

ホラー映画えいがとひとくちにジャンル分わけしても、その内容ないようは様々さまざまだ。９０年代ねんだいに流行りゅうこうした『羊ひつじたちの沈黙ちんもく』を代表だいひょうとするサイコ・ホラー、７０年代ねんだい～８０年代ねんだいに全盛ぜんせいだったのは『１３日にちの金曜日きんようび』などのスプラッタと『ジョーズ』のようなパニックもの、さらにオカルトものの代表だいひょう『エクソシスト』等とうと様々さまざまある。さらにヒッチコック作品さくひんのようなサスペンス色しょくの強つよいものもホラーと言いえなくもない。（『エイリアン』のようなＳＦ・ホラーと言いうものまである。）しかしながら、モダン・ホラーと冠かんむりのついているのはポランスキー作品さくひんだけではないか？少すくなくとも私わたしは、このジャンルに属ぞくすに値あたいする作品さくひんを他たに知しらない…。ポランスキー作品さくひんが何故なぜモダン・ホラーなのか？幽霊ゆうれいや悪魔あくま、強暴きょうぼうな動物どうぶつ（異い星ほし人じん）などは一切いっさい登場とうじょうせず、普通ふつうの人間にんげんの、普通ふつうの生活せいかつ（事故じこや災害さいがいに遭遇そうぐうしない）の中なかに潜ひそむ恐怖きょうふ（狂気きょうき）を描えがいているからか？いや、それならばヒッチ作品さくひんやサイコ・ホラーも同類どうるいだ。ポランスキー作品さくひんには、他たのホラー作品さくひんにはない、スタイリッシュさが溢あふれている。ホラーといえばひたすらヒトを怖こわがらせることを目標もくひょうとして作つくられるために、製作せいさく者しゃ（あるいは監督かんとく）が力ちからを入いれるのは、血ちなまぐさいビジュアルや、サスペンスをもりあげる音響おんきょう、常軌じょうきを逸いっした場面ばめんや人物じんぶつ設定せっていだと思おもう。もちろんこれらの要素ようそが全まったく無なくてはホラー映画えいがとは言いえないわけで、ポランスキー作品さくひんも同様どうようにこれらが効果こうか的てきに使つかわれてはいる。えてしてＢ級きゅう作品さくひんなどには、これらに力ちからをいれるあまり、不自然ふしぜんなストーリー展開てんかい、あり得えない状況じょうきょう設定せっていと、逆ぎゃくに笑わらってしまうものなどもあるくらいだ。それはそれで、まあ楽たのしいが、キャスティングにまで無頓着むとんじゃくなものはいただけない。やはりスクリーム女優じょゆうは美人びじんがいい。ポランスキーのホラーは、媒体ばいたいを通とおして目めや耳みみで感かんじる従来じゅうらいの恐怖きょうふとは異ことなり、直接ちょくせつ内面ないめんに入はいりこむ怖こわさがある。それでいて、どこか快楽かいらくに酔ようような、甘美かんびな感覚かんかくを芽生めばえさせ、麻薬まやくのような作用さようを与あたえる。『反撥はんぱつ』はモノクロ作品さくひんだが、その映像えいぞうは古ふるさを感かんじさせない。むしろモノクロだからこそ、その鮮あざやかな（時ときには淡あわい）色いろや、手触てざわり、臭くさいまで鮮明せんめいに感かんじることができるのかもしれない。特とくに強烈きょうれつな印象いんしょうを残のこすキャロル（カトリーヌ・ドヌーヴ）のブロンド。色いろだけでなく、柔やわらかな感触かんしょくや、シャンプーの香かおりまで想像そうぞうできる。清楚せいそな中なかに秘ひめられたエロティシズム。決けっして前面ぜんめんに押おし出だされず、チラチラと見みえ隠かくれするエロティシズムが甘美かんびな恐怖きょうふを生うむのだろう。物語ものがたりのメインテーマはキャロルの狂気きょうき。しかしそれは表面ひょうめん的てきなもので、実際じっさいはキャロルを通とおして、自分じぶん自身じしんの中なかにあるエロスや狂気きょうきを発見はっけんさせることだ。いつしか、キャロルの触さわるものを肌はだに感かんじ、キャロルの嫌悪けんおするものを、自分じぶんもまた嫌悪けんおするのだ。この奇妙きみょうな感覚かんかく、男性だんせいにはわからないだろう。女おんなであるが故ゆえに感かんじる生々なまなましい恐怖きょうふだ。（では何故なぜ、男おとこであるポランスキー監督かんとくにこの感覚かんかくがわかるだろう？）思春期ししゅんきと呼よばれる頃ころ、少女しょうじょはひたすら恋愛れんあいに憧あこがれる時ときがある。しかしそれは、ドロドロした大人おとなの恋愛れんあいではなく、美うつくしく清きよらかな恋愛れんあいだ。恋愛れんあいは崇高すうこうなもので、セックスは汚きたないものだった（これぞ少女しょうじょマンガの世界せかい！）。特とくにキャロルのように内気うちきで、現実げんじつ逃避とうひしたがる少女しょうじょにこの傾向けいこうが強つよい。これらの嫌悪けんおは多分たぶん相手あいてが男性だんせいに限かぎったことではないと思おもう。ただ男性だんせいの方ほうがより強つよい嫌悪けんおを抱いだくというだけのことだ。触さわられるという行為こういは、自分じぶんのテリトリーを侵害しんがいされるということ。キャロルのように、自分じぶんの殻からの中なかに必死ひっしで閉とじこもっている人間にんげんにとって、何なによりも絶たえがたい行為こういなのだ。初はじめのうち、キャロルの嫌悪けんおも、この程度ていどのものだった。自分じぶんのテリトリーである「家いえ」に入はいってくる侵入しんにゅう者しゃ。それも妻子さいしある人間にんげん。（恋愛れんあいに憧あこがれる若わかい娘むすめにはこれはたまらなく不潔ふけつなことだ）さらに、自分じぶんの歯磨はみがき用ようのコップに、その男おとこの歯はブラシが入はいっている。頭あたまで考かんがえる前まえに、生理せいり的てきにおこる嫌悪けんお感かん。しかしこれだけだったら、ただの潔癖けっぺき症しょうで済すまされるだろう。しかしキャロルの不幸ふこうは、自分じぶんでは気きづかないセックスに対たいする憧あこがれがあること。嫌悪けんおと憧あこがれがまざりあって、微妙びみょうな歪ひずみを生うむ。しかしこの感覚かんかくも、大人おとなになるにしたがって消きえて行いくものだ、普通ふつうなら…。しかし、普通ふつうにはすまないほど、キャロルは美うつくしすぎ、そして無む防備ぼうびすぎた。街まちを歩あるくだけで、下品げひんな男おとこ供きょうが口笛くちぶえを吹ふく。礼儀れいぎ正ただしいボーイ・フレンドさえも、欲望よくぼうをおさえきれない。静しずかに狂気きょうきにかられて行いくキャロルの美うつくしさ。乱みだれるブロンド、身体しんたいのラインが透すけるネグリジェ。床ゆかに寝転ねころがる仕草しぐさ…。男おとこが放はなっておかないのもうなずける。静しずかな狂気きょうきの象徴しょうちょうとして、効果こうか的てきに使つかわれるのは、壁かべの亀裂きれつとウサギの肉にく。キャロルの狂気きょうきが静しずかに進行しんこうして行いくと同おなじに腐くさって行いく肉にく。その静しずけさを破やぶって音おとを立たててひび割われる壁かべ。ほとんど音楽おんがくを使用しようしない中なか、この壁かべの音おとだけが、はっきりとした不安ふあん感かんを感かんじさせる。もし、早はやいうちに誰だれか、彼女かのじょの変化へんかに気付きづいていたら…、たとえば、彼女かのじょの姉あねが、愛人あいじんにうつつを抜ぬかさずにいたら…。しかし皮肉ひにくなことに、みんな彼女かのじょの狂気きょうきに気付きづかなかったのに、ただ一人ひとりいち早はやく彼女かのじょの異常いじょうに気付きづく人間にんげんがいた。誰だれあろう、キャロルが一番いちばん嫌悪けんおする姉あねの愛人あいじんだった。しかし、彼かれは姉あねと旅行りょこうに出でてしまった。数日すうじつ後ご、帰宅きたくした２人ふたりが目めにするものは、荒あれ果はてた部屋へやに、２人ふたりの男おとこの死体したい、そしてもはや精神せいしん的てきに崩壊ほうかいしたキャロルだった…。それにしても、死体したいを見みつけた時ときの姉あねのパニックぶり。感情かんじょうのＤＮＡが発達はったつしている女性じょせいの悲かなしい性せいだ…。テキパキと的確てきかくな判断はんだんを下くだし、正まさしく行動こうどうする愛人あいじんは、どんなに嫌悪けんおしても最終さいしゅう的てきには頼たよりになる男おとこの象徴しょうちょう…。この姿すがたをキャロルが見みられなくて残念ざんねんだ、少すこしは男性だんせい嫌悪けんおが薄うすれたかもしれないのに…。何なにを言いってもすべては後あとの祭まつり…、今いま、彼女かのじょの心しんはどこにいるのだろう？願ねがわくは、汚よごれのない世界せかいであることを…。