グラン・トリノ

○作品さくひん全体ぜんたい
思想しそうや思考しこうが凝こり固かたまった老人ろうじんがその心しんを次第しだいに変化へんかしていくヒューマンドラマではあるが、その根底こんていにあるのは妻つまが死しに、自身じしんも病やまいに冒おかされた状況じょうきょうでの「エンディングノート」。
昔むかしは国くにを守まもって戦たたかっていた男おとこは年老としおいて家族かぞくも守まもる対象たいしょうではなくなり、いつしか逆ぎゃくに心配しんぱいされる側がわになっている。守まもるべき領土りょうどは自宅じたくの庭にわになってしまった。過去かこを回顧かいこするばかりで目めの前まえの世界せかいが矮小わいしょう化かしているコワルスキー。その目めの前まえに現あらわれたのが、今いま一いち度ど世界せかいを開ひらかせてくれるスーだ。自身じしんの守まもりたいものを再ふたたび手しゅに入いれたコワルスキーが、幾度いくどもこぼれ落おちそうになる「守まもりたいもの」を静しずかに拾ひろい続つづける姿すがたは不器用ぶきようながらとてもカッコよく感かんじた。
自身じしんの命いのちが短みじかいことを悟さとって自みずから死しに場所ばしょを選えらぶような最期さいごは「旧態きゅうたい依然いぜん」というより「ヴィンテージ」という言葉ことばが相応ふさわしい。
ラストカットの街まちを走はしるグラン・トリノがその「ヴィンテージ」の輝かがやきを目め一いち杯はい表現ひょうげんしているようで、これがまたかっこよかった。

○カメラワークとか
・やっぱりラストカットが良よかったな。グラン・トリノが走はしり去さった後のちもFIXで撮とり続つづける道路どうろ。行いき交かう車くるまは様々さまざまだけど、同おなじ道路どうろを走はしっていて、その先さきも走はしり続つづける…と言いったような。作品さくひんの余韻よいんの残のこし方かたとしても素晴すばらしかった。