神様かみさまのカルテ : インタビュー

深川ふかがわ栄さかえ洋よう監督かんとく「乱暴らんぼうに撮とる」決意けついの先さきにあるもの

2005年ねんに「狼おおかみ少女しょうじょ」で劇場げきじょう長編ちょうへん映画えいが監督かんとくデビューを果はたし、「真木まき栗ぐりノ穴あな」（07）、「体育館たいいくかんベイビー」（08）を経へて、近年きんねんは「60歳さいのラブレター」「半分はんぶんの月つきがのぼる空そら」「白しろ夜行やこう」「洋菓子ようがし店てんコアンドル」など、次々つぎつぎと新作しんさくを発表はっぴょうし気鋭きえいの若手わかて監督かんとくとして名なを刻きざんでいる深川ふかがわ栄さかえ洋よう監督かんとく。その作品さくひん数すうと話題わだい性せいから、日本にっぽん映画えいが界かいからどれだけ求もとめられている監督かんとくであるかが伝つたわってくる。「神様かみさまのカルテ」では、櫻井さくらい翔しょうと宮崎みやざきあおいを主演しゅえんに迎むかえ、新あらたなヒューマンドラマを完成かんせいさせた。そこには“人間にんげんドラマを描えがくことに長たけた監督かんとく”と評ひょうされる理由りゆうが隠かくされていた。（取材しゅざい・文ぶん／新谷しんたに里さと映うつ、写真しゃしん／堀ほり弥生やよい）

同どう作さくは、地方ちほう病院びょういんで働はたらく青年せいねん内科ないか医い・栗原くりはら一いち止とめ（櫻井さくらい）が、ひとりの医師いしとして、人間にんげんとして成長せいちょうしていく姿すがたを描えがいた、現役げんえき医師いしのデビュー小説しょうせつの映画えいが化か。「主人公しゅじんこうの成長せいちょうは、自分じぶん自身じしんと重かさなるものがあった。僕ぼくに声こえをかけてくれた意味いみを感かんじ取とることができた」と、物語ものがたりの魅力みりょく、監督かんとくを引ひき受うけた心情しんじょうを語かたる。

「医者いしゃの技術ぎじゅつを見みせるわけではない、地方ちほう医療いりょうの厳きびしさをドキュメンタリータッチで見みせるわけでもない、けれど医者いしゃが抱かかえる個人こじん的てきな悩なやみが医者いしゃでない僕ぼくでも分わかる物語ものがたりだった。そこにひかれたんです。彼かれの成長せいちょうであれば描えがけると思おもったんですよね」。また、「狼おおかみ少女しょうじょ」の製作せいさく当時とうじにとあるきっかけで出会であい、いつか一緒いっしょに仕事しごとをしてみたいと願ねがっていた、「世界せかいの中心ちゅうしんで、愛あいをさけぶ」「クローズド・ノート 」などで知しられる春名はるな慶けい氏しがプロデューサーであることも決きめ手てだったという。

この映画えいがには“変かわっていくもの”と“変かわらないもの”が同居どうきょしている。そして、その変かわらないものを丁寧ていねいに描えがくことが、深川ふかがわ監督かんとくの描えがきたいものだった。「変かわっていくものは、最先端さいせんたんの医療いりょう技術ぎじゅつ。変かわらないものは、人ひとと人ひととのかかわり合あい方かた。現代げんだいでも人ひととのかかわり合あい方かたは変かわらないし、変かえてはいけないと思おもうんです。今回こんかい、一いち止とめと榛名はるな（宮崎みやざき）の夫婦ふうふを描えがくにあたって大切たいせつにしたのは、相手あいてが下したを向むいていたら下したを向むかせないために何なにかをしたり、道みちに迷まよったら道みちを示しめしたりする支ささえ合ごうい。僕ぼくの父ちちと母ははを見みるように一いち止とめと榛名はるなの結むすびつきを撮とっていきたかったんですよね」と、自みずからが育そだった家族かぞくの愛あいをモデルにしたと明あかす。

「僕ぼくの両親りょうしんはすごく仲なかのいい夫婦ふうふなんです。父ちちは内装ないそう職人しょくにんなので、わがままで利己りこ的てきでとても封建ほうけん的てき。けれど、母はははそんな父ちちを巧たくみにコントロールしている。もちろん、失敗しっぱいを積つみ重かさねて修得しゅうとくした業ごうだとは思おもいますけどね。そんな母ははの手練しゅれん手管てくだをこの作品さくひんで見みせていきたいなと。榛名はるなのような女性じょせいがいたら、道みちを間違まちがえずに生いきていけるんじゃないかなと思おもったので。というのは、僕ぼくは今いまとてもあやふやな世界せかいに身みを投とうじていて、これまでにも誘惑ゆうわくに負まけそうになったことがたくさんあった。そのとき、道みちを誤あやまらずに済すんだのは、両親りょうしんの愛情あいじょうをたくさん受うけてきたから。愛情あいじょうが行動こうどう規範きはんになっていると思おもっているんです」。深川ふかがわ監督かんとくが人間にんげんドラマを描えがくことに定評ていひょうがあるのは、注そそがれた愛あいを当あたり前まえだと思おもわずに感謝かんしゃする、豊ゆたかな心しんの持もち主ぬしだからなのかもしれない。

深川ふかがわ監督かんとくの中なかに渦巻うずまく愛情あいじょうは“深川ふかがわマジック”として俳優はいゆうに注そそがれている。櫻井さくらいは常つねに「自分じぶんは一いち止とめをこう演えんじたい」と主張しゅちょうするのではなく「監督かんとくはどう思おもうんですか？ 監督かんとくはどう感かんじたんですか？」と、深川ふかがわ監督かんとくの思おもい描えがく主人公しゅじんこうに近ちかづこうと努力どりょくを惜おしまなかった。宮みや﨑も榛名はるなのキャラクター設定せっていにおいて「これは一いち止とめくんの成長せいちょう物語ものがたりだからハルを掘ほり下さげる必要ひつようはないと思おもうんです」と、役者やくしゃにとって面白おもしろいはずの演技えんぎよりも、良よい作品さくひんになることを第だい一いちに考かんがえ「本当ほんとうにすごい女優じょゆうです」と深川ふかがわ監督かんとくを唸うならせた。役者やくしゃをそんな気持きもちにさせているのは、間違まちがいなく深川ふかがわ監督かんとくの“愛あい”であり、その愛あいは大だい女優じょゆう・加賀かがまりこの心しんも動うごかし、涙なみだを誘さそう感動かんどう的てきなシーンを誕生たんじょうさせた。末期まっきガン患者かんじゃの安曇あずみ（加賀かが）に一いち止とめが手術しゅじゅつのために病院びょういんを移うつらないかと話はなす場面ばめんはそのひとつだ。

「たとえば、台本だいほんに“静しずかに首くびを振ふる感かんじ”と書かかれていても、加賀かがさんは強つよく表現ひょうげんしたいと言いうんです。最後さいごの決断けつだんをした人間にんげんは強つよく出でるはずだと。なるほどなって思おもいました。どのシーンでも僕ぼくの考かんがえている安曇あずみさんを加賀かがさんは超こえようとするんですよね。加賀かがさんの姿すがたを見みて、役やくを生いきるとはとはこういうことを言いうんだと気きづかされ、安曇あずみさんのキャラクターを通とおして、第だい一線いっせんを切きり開ひらいてきた女優じょゆう・加賀かがまりこの生いきざまを見みた気きがしました。女優じょゆうとしてはもちろん、先人せんじんとして尊敬そんけいしています」。ちなみに、加賀かがまりことの出会であいは10年ねん以上いじょう前まえにまでさかのぼる。深川ふかがわ監督かんとくが無名むめいの時代じだい、作品さくひんを映画えいが館かんでかけるために加賀かがにコメントをお願ねがいしたのがきっかけ。 変かわらないもの＝人ひととのつながりがここにもあった。

映画えいが人じんからも観客かんきゃくからも期待きたいを寄よせられる、深川ふかがわ監督かんとくの今後こんごも気きになるところ。2012年ねんは「ガール」の公開こうかいが控ひかえるなど、さらなる一いち面めんを見みせてくれるはずだが、今後こんごチャレンジしたいことについては「乱暴らんぼうに撮とる」という意味深いみしんな答こたえが返かえってきた。

「僕ぼくは映画えいがを見みることが好すきで、映画えいがからいろいろなことを教おそわってきました。今いまも時間じかんができるとすぐに映画えいが館かんに行いっちゃうんですけど、映画えいがを見みると、作品さくひん自体じたいに、監督かんとくに、俳優はいゆうに驚おどろかされて、自分じぶんはまだまだだな、まだやってないことがあるなと感かんじるんです。でも、やっていないことはたくさんあっても、映画えいがを作つくり続つづけていると、作つくることが退屈たいくつになってしまうんですよね。だから、自分じぶんが退屈たいくつになりたくないから役者やくしゃを追おい込こむし、カメラマンも変かえる。自分じぶんを守まもってくれる人ひとを敢あえて廃除はいじょしているというか。しばらくはそういう方法ほうほうを続つづけていくと思おもいます。挑戦ちょうせんしたいのは、乱暴らんぼうに撮とっていくこと。今いまは繊細せんさいに映画えいがを撮とっているけれど、頭あたまを使つかっていない、勇気ゆうきを使つかっていないんです。頭あたまと勇気ゆうきを使つかって乱暴らんぼうに撮とってみたい。映画えいがの資本しほんがどう流ながれて、作つくられた映画えいががどう潤うるおうのかを見極みきわめながら、意味いみのあるものを作つくり続つづけたい。映画えいがしか作つくれないダメな人間にんげんなので（笑）」。この監督かんとくならば日本にっぽん映画えいが界かいの流ながれを変かえることができる、一石いっせきを投とうじることができる──未来みらいの自分じぶんを語かたる深川ふかがわ監督かんとくのその表情ひょうじょうには、そこはかとない決意けついが垣間見かいまみえた。