ドライヴ

「インファナル・アフェア」→「ディパーテッド」の逆ぎゃくを行いき、香港ほんこん映画えいが版ばんを観みてみたい！ 俳優はいゆうは、トニー・レオンか、レオン・ライか。ドニー・イェンは王道おうどうだけれど、見みるからに強つよすぎる。騒々そうぞうしく雑多ざったな香港ほんこんの街まち中ちゅうであれば、このドラマはどのような闇やみと光ひかりを生うむのだろう。そんな妄想もうそうが際限さいげんなくふくらむ、最近さいきん稀まれに見みる快かい作さくに出会であえた。
始はじまるなり、観客かんきゃくは暗闇くらやみに投なげ出だされる。目めが慣なれてくるにつれ、犯罪はんざいの渦中かちゅうに立たち合あっていると気付きづく。夜明よあけとともに、不穏ふおんな喧騒けんそうから一転いってん、渇かわき鬱屈うっくつした日常にちじょうへ。とはいえ、無表情むひょうじょうな主人公しゅじんこうの生気せいきのなさに変かわりはない。そんな彼かれの前まえに、くりくりとよく動うごく瞳ひとみの母子ぼしが現あらわれ、物語ものがたりが動うごき出だす。…そして、何なにがなんだかよく分わからないままに、観みる者ものも母子ぼしに魅了みりょうされ、物語ものがたりに引ひき込こまれていくのだ。
とにかく無駄むだがない。セリフも、シーンも、登場とうじょう人物じんぶつも、そして上映じょうえい時間じかんも。キャスト、スタッフが織おり成なすアンサンブルが素晴すばらしい。主演しゅえんのライアン・ゴズリングは言いうまでもないが、紅一点こういってんのキャリー・マリガンの可憐かれんさも貢献こうけん度どが高たかい。香港ほんこんリメイクするとしたら、彼女かのじょに匹敵ひってきするリアルタイムの女優じょゆうがパッと浮うかばないのが難点なんてんだ。かつてのマギー・チャン、もしくはセシリア・チャンあたりはパッと浮うかぶのだが…。
ちょっと古ふるくさい、もしくは泥どろくさい。クレジットのピンク色ぴんくいろが下品げひん。初はじめは少々しょうしょう気き恥はずかしく思おもえたあれこれも、観み終おえたあとはこの映画えいがの欠かかせない要素ようそ、と何処どこかいとおしく思おもえてしまう。それらが実じつは巧妙こうみょうな計算けいさんであったとしても、単たんなる「たまたま」だとしても。
映画えいがは、まだまだ捨すてたもんじゃない！　にんまりしながら席せきを立たつ快感かいかんを、久々ひさびさに味あじわえた。

古典こてん的てきストーリー、６０年代ねんだいふうのゴズリングの風貌ふうぼう、８０年代ねんだいふうＢＧＭ、そして００年代ねんだいふうのキタノバイオレンス。

本ほん作さくの主人公しゅじんこうはただ、どういう仕事しごとをしているかというだけの説明せつめいがあるだけで、一切いっさい何者なにものなのか分わからない。

しかし主人公しゅじんこうが何者なにものなのか、など必要ひつようない。
これはオトコの美学びがくを想像そうぞうしうる「雰囲気ふんいきの提供ていきょう」に全力ぜんりょく投球とうきゅうした映画えいが。

全すべての男子だんし、昔むかし男子だんし、今こん男子だんしの既すんで視し感かんに訴うったえ､主人公しゅじんこうの内面ないめんをそれぞれが補完ほかんするようになっている。
それは孤高ここうのヒーローであったり、トラビスであったり、デ・パルマだったり、武ぶであったり。

そのため、この主人公しゅじんこうの内面ないめんなど存在そんざいせず､心情しんじょうなど車くるまの中なかにも無なければ､車窓しゃそうにもあるわけがなく、どこにも存在そんざいしないのである。
もっというと、それぞれの世代せだいが補完ほかんできるように後半こうはんはあえて内面ないめんが崩壊ほうかいしている。

ゆえに本ほん作さくの主人公しゅじんこうは決けっしてカッケー（ぷっ）オトコの話はなしではない。
何者なにものかと言いわれると答こたえられないだろ？
当あたり前まえである。

ストーリーは正直しょうじきひどい。
これは「雰囲気ふんいきの提供ていきょうに邪魔じゃまをしないようにわざと」じゃなく、ほんとに何なにも考かんがえていないんじゃないだろうか。
だってあまりにもめちゃくちゃだもん。

オープニングは車内しゃないと車窓しゃそうの風景ふうけいしか映うつさない逃亡とうぼう劇げきだが、それほどの緊迫きんぱく感かんは無ない。
ただし全編ぜんぺん何なにかしら絶たえず音おとが鳴なっているが、うざいの一いち歩ほ手前てまえで緊張きんちょう感かんの持続じぞくには成功せいこうしていると思おもう。
８０年代ねんだいふうのダサシンセは個人こじん的てきに大だい好物こうぶつ。急きゅうに大だい音量おんりょうになったりするのも懐なつかしい。けどカーチェイスの車くるまと車くるまがなでる音おととかはちょっとうるさすぎたかな。

また印象いんしょう的てきな点てんではタケちゃんふうの最後さいごのシーンのあとの影かげの使つかい方かたがあったが、あれもはっきり言いってそんなに効果こうかは無ない。

オトコの美学びがくの雰囲気ふんいきにエロは必須ひっすのはずだが、エロがないのは、キャリー・マリガン出演しゅつえん決定けっていの時点じてんで封印ふういんしたか？男子だんしに捧ささぐなら､エロはちょっとは要いるよね。Ｖシネにもあるんだから。

ライアン・ゴズリングは古臭ふるくさい感かんじがなかなかいい。
立たち位置いちとしては、今後こんごポスト・ニコラス・ケイジとしてがんばってほしい。