グスコーブドリの伝記でんき

宮沢みやざわ賢治けんじ原作げんさくを土台どだいにした同名どうめい短編たんぺん『グスコーブドリの伝記でんき』を映画えいが『銀河ぎんが鉄道てつどうの夜よる』の杉田すぎたギサブロー監督かんとくが四半世紀しはんせいき振ぶりに挑戦ちょうせんした映画えいが作品さくひん。内容ないようは、主人公しゅじんこうグスコーブドリと三さん人にんの家族かぞくが住すむ地域ちいきが飢饉ききんに遭あう。飢饉ききんで両親りょうしん蒸発じょうはつし残のこされた妹いもうとネリと二人ふたりで生活せいかつする。突然とつぜん！ネリが人攫ひとさらいに遭あい一人ひとりぼっちになった主人公しゅじんこうグスコーブドリが最愛さいあいの妹いもうとネリを探さがす旅たびに出でる。妹いもうとと出で逢あえるのか？飢饉ききんから脱出だっしゅつする術じゅつはあるのか？社会しゃかいと自分じぶんの繋つながりは？自分じぶんの存在そんざいとは何なになのか？様々さまざまな問題もんだいを提起ていきする。
印象いんしょう的てきな台詞せりふは『どんな仕事しごとでもいい。ほんたうに役立やくだつ仕事しごとがしたいんです。』ブドリの心底しんそこからの叫さけびが胸むねを締しめ付つけました。それが最後さいごの言葉ことば『僕ぼくは今いま迄までに沢山たくさんの人ひとに生いかされてきた。その沢山たくさんの人ひとの為ために役立やくだたられるなら、僕ぼくはどうなっても構かまわない。何なんでもする！』に繋つながる。最後さいごに決心けっしんした様ように叫さけぶ場面ばめんは、映像えいぞうと台詞せりふの違和感いわかんを感かんじながらも印象いんしょう的てきでした。
印象いんしょう的てきな場面ばめんは、宮崎駿みやざきはやお監督かんとく2001年ねん作品さくひん『千せんと千尋ちひろの物語ものがたり』をリスペクトした様ような匂におい立たつ異い世界せかい風景ふうけいなど、映画えいがを通とおしてお互たがいの作品さくひんで対話たいわをしているかの様ような作品さくひんだった事ことです。お互たがいに年齢ねんれいも良よく似にた者もの同士どうしいい関係かんけいなのかもしれません。その他たにも銀河ぎんが鉄道てつどうの夜よるをもう一度いちどやってくれている場面ばめんやエレベーター🛗の中なかの家庭かてい教師きょうしと兄弟きょうだいがそのままの姿すがたで天てんに昇のぼるシーンは他たに表現ひょうげん無なかったのかと思おもうほどに直球ちょっきゅうでした。
印象いんしょう的てきな表現ひょうげんでは、蚕かいこが一斉いっせいに天てんに昇のぼって舞まい上あがるシーンの豪華ごうかさと背景はいけい美術びじゅつの自然しぜんの美うつくしさです。手ての込こんだ作画さくがとキャラクターの微妙びみょうな動うごきが素晴すばらしく緻密ちみつで、手塚てづかプロもいい仕事しごとするなと感心かんしんしてしまいます。
全体ぜんたい的てきに、突拍子とっぴょうしもない御伽おとぎ噺ばなしの進行しんこう具合ぐあいなので初はじめて観みる人ひとには面白おもしろく無ないかもしれません。原作げんさくも漫画まんがも突拍子とっぴょうしなさは変かわりませんが、それが宮沢みやざわ賢治けんじ作品さくひんの良よさや楽たのしさだったりします。銀河ぎんが鉄道てつどうの夜よるから25年ねん。技術ぎじゅつ進歩しんぽが格段かくだんに変化へんかしたアニメ業界ぎょうかいでCG合成ごうせいや実写じっしゃ合成ごうせいなど新あらたな表現ひょうげん方法ほうほうを模索もさくした面白おもしろい作品さくひんです。
個人こじん的てきな意見いけんですが、雨あめニモマケズ…の朗読ろうどくで、原本げんぽん通どおりヒドリノトキハ…をヒデリノトキハ…に変化へんかさせなかった所ところから宮沢みやざわ賢治けんじへの作品さくひん愛あいが伝つたわり楽たのしく観みる事ことが出来できました。自己じこ犠牲ぎせいが奇跡きせきを生うむというナウシカの映画えいが版ばんの様ような結末けつまつに、自身じしん復活ふっかつの無ない暗くらい終おわりが全すべての様ようにも見みられます。しかし、余あまりにも綺麗きれいで美うつくしい映像えいぞう表現ひょうげんだげに勘違かんちがいしてしまいます。最初さいしょの仄暗ほのぐらい水みずの底そこから上あがってきて、この世界せかいを領海りょうかい侵犯しんぱんしているのは貴方あなた！視聴しちょう者しゃですよとの表現ひょうげんは伝つたわり辛つらいのかなと残念ざんねんに思おもいます。
最後さいごのイーハトーヴを上うえに引ひいて行いくカメラアングルが天空てんくうの城しろラピュタの最後さいごの様ようで色いろんな意味いみで面白おもしろく観みる事ことの出来できる素晴すばらしい作品さくひんです。

宮沢みやざわ賢治けんじ先生せんせいは 1896年ねん8月がつ27日にち
　　　　　　　 1933年ねん9月がつ21日にちの生涯しょうがい
20世紀せいき以降いこう、東北とうほくでは飢饉ききんが最低さいていでも三さん回かい起おきている。一回いっかい目めの1905年ねんの冷害れいがいによる飢饉ききんを賢治けんじは記憶きおくに残のこしていると思おもう。この作品さくひん(短編たんぺん)は1932年ねんの発表はっぴょうだから、この小説しょうせつに限かぎった事ことではなく『雨あめニモマケズ』も『永劫えいごうの朝あさ(あめゆきとてきてけんじゃ)』も、そして『銀河ぎんが鉄道てつどうの夜よる』もそう言いった冷害れいがいによる飢饉ききんを意識いしきしていると思おもう。そもそも、彼かれは科学かがく者しゃで、このアニメは彼かれの思想しそうそのものと言いえる。
さて、火山かざんの研究けんきゅうに入はいる前まえに赤あかひげ(ヒデヨシ)の所ところで農作物のうさくもつの品種ひんしゅ改良かいりょう等とうに取とり組くむが、希望きぼう的てきに描えがかれている。しかし、実じつは賢治けんじ没ぼつ後ご一いち年ねん目めの1934年ねんに二に回かい目めの冷害れいがいによる飢饉ききんが東北とうほくを襲おそっている。この時ときの被害ひがいも大変たいへんなことなのだが、全滅ぜんめつではなく、4割わり減げんで収おさまっている。寧むしろ、品種ひんしゅ改良かいりょう等とうで最小限さいしょうげんに留とめられたのかもしれない。しかし、残念ざんねんながら、1930年ねんと言いう事ことは昭和しょうわの恐慌きょうこうが重かさなって、収おさまった言いえる訳わけが無ないのかもしれないが。そして、更さらにその後ご、戦争せんそうに突入とつにゅうするわけだから、東北とうほくの民みんの暗くらい現実げんじつは三さん十じゅう年間ねんかん以上いじょう続つづく。また、満蒙まもう開拓かいたく団だんと言いう実態じったいも東北とうほくの冷害れいがいを発端ほったんとしている。
さて、
アニメは間違まちがいなく東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいに対たいする復興ふっこうを意識いしきしている。製作せいさく年ねんが2012年ねんなので必然ひつぜんだ。
そして、
三さん回かい目めで、２０世紀せいき最後さいごの冷害れいがいが1993年ねんに起おきている。勿論もちろん、品種ひんしゅ改良かいりょうや食生活しょくせいかつの変化へんか等とうで、飢饉ききんには至いたらなかったが、経済けいざいに与あたえる悪影響あくえいきょうは日本にっぽん全国ぜんこくに及およんだ。1971年ねんからの減反げんたん政策せいさくに追おい打うちをかけ、食料しょくりょうの自給じきゅう率りつは大おおきく下さげた。
さて、
その原因げんいんは、なんと、ピナツボ火山かざんの噴火ふんかである。このアニメの結論けつろんは、火山かざんの噴火ふんかによる二酸化炭素にさんかたんその温暖おんだん化かと言いう事ことだった。グスコーブドリが命いのちをかけた事こと、それが間違まちがっていたのである。
さて、
では、このアニメは何なにを言いいたいのか？

アニメを見みて暗くらい気持きもちになった方ほうは、原作げんさくを読よむ事ことをおすすめする。前向まえむきな気持きもちになると思おもう。やはり、賢治けんじの童話どうわはアンデルセンに通つうじるものがあると思おもう。そして、最後さいごにいつも思おもう事ことは、

雨あめニモマケズの最後さいごの言葉ことば。
『・・・そう言いう者ものに私わたしはなりたい』つまり、今いまの自分じぶんはそう言いう人間にんげんではないと言いっている。

　公開こうかい後ごも評価ひょうかが低ひくかった作品さくひんだが、私わたしは宮沢みやざわ健治けんじの暗くらく、寒さむい冬ふゆを基もとに描えがいた数々かずかずの作品さくひんをアニメーションにすると、今いま作さくのような作品さくひんになるよなあ、と面白おもしろく鑑賞かんしょうした作品さくひん。

　多様たような緑みどりを配色はいしょくし、グスコー・ブドリの世界せかいを現あらわした作品さくひんの風ふう合あい、その中なかで、パープル色しょくをグスコー・ブドリ、ネリ兄妹きょうだいの顔色かおいろにしたセンスは素晴すばらしいと思おもった。

　又また、大仰おおぎょうな音楽おんがくを多用たようせず、静しずかに物語ものがたりを進すすめていく空気くうき感かんも良よかったと思おもう。

　グスコー・ブドリの抑制よくせいされた低音ていおんヴォイス（小栗おぐり旬しゅんさん）が受うけ入いれられなかったのかなあ、私わたしは良よいと思おもったけれど。

＜何なにが今いま作さくの評価ひょうかを低ひくくしたかは、何なんとなく分わかる気きがする。
　それは、”宮沢みやざわ健治けんじの世界せかい”を愛あいする人々ひとびとそれぞれの想おもいを映像えいぞうで表現ひょうげんするのは難むずかしすぎるからであろうと思おもった作品さくひん。＞

＜２０１２年ねん７月がつ９日にち　劇場げきじょうにて鑑賞かんしょう＞

宮沢みやざわ賢治けんじ映画えいがとしては最高さいこう傑作けっさくと言いっていいともいます。脚色きゃくしょくも賢治けんじテイスト満載まんさいでしたし、大おおきなテーマ「生せい」と「死し」が抽象ちゅうしょう的てきに描えがかれていてなかなか満足まんぞくです。