ストーリー
新品のシモーヌ・ペレールの下着。オスカー・デ・ラ・レンタのツーピース。ファブリスのネックレス。東京貿易の社長秘書、影山綾子の美しい裸身が美事に一流品で包まれてゆく。アラページュの香りを漂わせて、毎朝彼女は出社する。社内で彼女は、経理部の峰との噂もあるが、綾子はその類いの風評をてんとして受け付けない冷さで、村越社長からの仕事をテキパキと処理していた。コピー室の前を通りかかった綾子の耳に、異様な男女の声が聞えて来た。綾子は静かにドアを開けた。下半身もあらわな女から、体を離して驚いて振り返ったのは、とかくの噂のある総務部の北村課長だった。犯されていたのは新入社員の伊東和代である。「いま見たことは、誰にもいわんでくれ」と綾子に哀願する北村の必死の顔に、綾子は五年前の残業の夜のことを想い出した。綾子は、その夜北村に犯され、その代償として社長室付秘書の椅子を与えられたのだった。ある夜、綾子は村越から不思議な仮面パーティに誘われた。十数人の男女が、あるものは全裸で抱き合い、あるものはマリファナを吸っていた。その雰囲気のなかで、村越は美少年と絡みあい、綾子も一人の青年と踊りながら、徐々に体を開いていった。そんな綾子を会社の友達の朋子が、じっと仮面の影で見ていた。翌日、綾子と村越の間には、妙な空気が流れていた。やがて、村越は海外旅行に出発した。綾子は気晴しに、アーチェリーに出掛けた。そのハンター・コースで綾子は、背中に人の気配を感じた。仮面パーティにいた男、小田だった。顔は見えなくてもアラページュの香りで綾子を嗅ぎわけて、近寄って来たのだった。あの夜の陶酔が、アーチェリー場の林のなかで蘇った。そんなある日、綾子の部屋に和代がころがり込んで来た。和代は恋人の峰とのデート中に、暴漢に襲われたのだった。ちょうど居あわせた朋子が、アラページュを和代につけてやり、優しく慰めた。「私も以前、この香水を使ってたわ。この香りは、秘書の香りだって」。ヨーロッパから帰って来た社長の今度のパリみやげは「夜開飛行」だった。綾子は新しい香りを肌につけ、小田のパートナーとして、またパーティの恍惚のなかをさまよった。和代は、アラページュの香りに包まれた裸身を、北村の前にさらした。「分ってるとも、秘書の席が開いたら……」。その頃、村越の身には、危機が迫っていた--。
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