愛あいしてる、愛あいしてないのレビュー・感想かんそう・評価ひょうか

水みずがしたたる映画えいがには、不思議ふしぎと忘わすれ難がたいものが多おおい。ツァイ・ミンリャンの「Hole」、タルコフスキーの「ノスタルジア」や「ストーカー」、熊くま切きり和かず嘉よしみの「アンテナ」での土砂降どしゃぶり（原作げんさくでは蝉せみの声こえがさざめく晴天せいてんを大幅おおはばに変更へんこうし、成功せいこうしている）…。さて、本ほん作さくはどうだろう？
妻つまの浮気うわきさえ事件じけんにならない、停滞ていたいした若わかい夫婦ふうふ。妻つまが出でて行いくはずの日ひ、雨あめに降ふり込ごめられたふたりの元もとに子猫こねこが迷まよい込こんでくる。原作げんさくのタイトルロールである猫ねこ…以上いじょうに、飼かい主ぬしの夫婦ふうふがおもしろい。それぞれにマイペースで突飛とっぴな彼かれらの乱入らんにゅうで、俄然がぜん物語ものがたりは動うごき出だすか、と期待きたいがふくらんだ。しかし、結局けっきょく不発ふはつ。主人公しゅじんこうたちに絡からみきれず、単発たんぱつで終おわってしまうのが惜おしい。
性せいの匂においがしないかわりに、主人しゅじん公こうふたりは幾度いくどとなく共ともに飲のみ、食たべる。男おとこの淹いれるコーヒーは、香かおりまで伝つたわってきそうで魅力みりょく的てきだ。（そもそも、雨あめの日ひのコーヒーは格別かくべつに美味おいしい！）一方いっぽう、女おんなの方ほうはちょっと理解りかいに苦くるしむ。別わかれ話ばなしを切きり出だした車中しゃちゅうで、夫おっとの好このみでない飲のみ物ものしかないのに、なぜ敢あえて彼かれに選えらばせ勧すすめるのだろう？ 夫おっとへの冷さめた思おもいや苛立いらだちの表現ひょうげんとしても、芸げいが細こまかすぎる。
極きめ付つけは最後さいごのパスタ。これはどうにもいただけなかった。男おとこは、パスタを悠々ゆうゆうと茹ゆでてから野菜やさいを切きり、ちまちまと炒いためる。やっとパスタを投入とうにゅうして仕上しあげ、というところで、女おんなはサラダを作つくろうと提案ていあんする…！ パスタを作つくり慣なれているふたりと思おもえない手順てじゅんの悪わるさ。（パスタへの愛あいがあるならば、サラダ→パスタソース→パスタ、の順じゅんでしょう！） 男おとこを泣なかせたいのなら、作つくっておいたサラダのトッピングにタマネギを刻きざんで散ちらす、とすればよい話はなし。題材だいざいや予告よこくから覚悟かくごはしていたけれど、思おもいもよらぬモヤモヤが残のこった。茹うだりきったパスタを想おもうと、心しんが痛いたむ。
また、途中とちゅう幾いく度どとなく、陽光ようこう射さし込こむ（かつての）部屋へやが挿入そうにゅうされる点てんも、必要ひつよう以上いじょうに物語ものがたりがばらけてしまう印象いんしょうを受うけた。一度いちど二に度どであれば、展開てんかいの起点きてんとして効果こうかを上あげたかもしれないが…。原作げんさくは未読みどくだが、文字もじ世界せかい以上いじょうに、映像えいぞう世界せかいで「何なにか起おきそうで（表面ひょうめん上じょうは）何なにも起おきない」ドラマを描えがくのは難むずかしい、と改あらためて感かんじた。
監督かんとくはもちろん、妻つま役やくのイム・スジョンも、「箪笥たんす」で衝撃しょうげきを受うけて以来いらい、観み続つづけている。だからこそ、ことさらにモヤモヤが残のこった。アンニュイ過すぎず騒々そうぞうし過すぎず、身体しんたいは細ほそくても神経しんけいは図太ずぶとい、そんな軽かろやかな彼女かのじょを観みてみたい。