収容しゅうよう病棟びょうとう

あと一いち月がつ半はんくらいでサービス終了しゅうりょうとなるGYAO! 様さまのおかげで、劇場げきじょうで見みられなかったワンビン作品さくひんを見みることができた。
予備よび知識ちしきなしで見み始はじめた。長ながい長ながいドキュメンタリー。ワンビン監督かんとくのドキュメンタリーなので、説明せつめい、ナレーション一切いっさいなし。監督かんとくやスタッフの質問しつもんする声こえもない。
映うつし出だされる収容しゅうよう者しゃた地ちの名前なまえと収容しゅうよう年数ねんすうのみが字幕じまくで出でる。音楽おんがくも生活せいかつ音おんや収容しゅうよう者しゃたちの歌声うたごえしかない。
鉄格子てつごうし
冷つめたいコンクリート
ガタガタキーキーガシャンガシャンと、触ふれたら寒さむそうで冷つめたそうで痛やめそうな音おとがひぴきわたる、中庭なかにわを囲かこむ回廊かいろう形式けいしきの病棟びょうとう。ドアや檻おりに触ふれる音おと以上いじょうに時ときに大おおきな収容しゅうよう者しゃたちの声こえ、歌うた、叫さけびなども聞きこえる。大声おおごえで先生せんせいを呼よぶ声こえも。
ぐるぐると回廊かいろうを歩あるく人ひと、間違まちがえずに自分じぶんのベッドに辿たどり着つきそれぞれの流儀りゅうぎで休やすむ人ひと。二人ふたりで寝ねる人ひと。祈いのる人ひと。無言むごん歌かにもいたけれど、中国ちゅうごくでそもそも理由りゆうもよくわからないが絶望ぜつぼう的てきにひどいところに収容しゅうようされてしまいそこから逃にげたら罪つみだが、施設しせつそのものはオープンで家族かぞくが差さし入いれを持もって訪たずねてくる。まあここは病院びょういんなので見舞みまいということでは当あたり前まえだが、檻おり、柵しがらみ、鍵かぎで管理かんりされている収容しゅうよう病びょう棟とう中ちゅうでの家族かぞくとの会話かいわや関かかわりもまた面白おもしろい。
最初さいしょはどうして良よいのやら、何なにを感かんじるべきなのか、戸と惑歩あるくあまりにも不衛生ふえいせいで病院びょういんとしてのテイをなしてないこのような非ひ人間にんげん的てき非ひ人道的じんどうてきなシステムに圏けん央ひさし道どうと怒いかりを感かんじようとするのだが、なんかちがう。非ひ人間にんげん非ひ人道的じんどうてきなはずなのに、そこに映うつる人々ひとびとの一人ひとり一いち人にんの在あり方かたが人間にんげん的てきで人ひとの情感じょうかんが突出とっしゅつしてくる、それでとにかくずっと目めが釘付くぎづけになる映像えいぞう。このらワンビン映画えいがでは、走はしる、止とまる、注視ちゅうしする、絡からむ、撮影さつえいするカメラがその人ひとになる。まるで人ひと扱あつかいされてないような、自分じぶんでもしてないようなことなのか？と最初さいしょ思おもうがそうではなく、そういう悲劇ひげきもある中なかで。みんな自分じぶん自分じぶんにこのシステムを活用かつようしシステムを凌駕りょうがしているようにさえ思おもえる。もちろん権力けんりょく側がわ管理かんり側がわからは、人ひと扱あつかいされてないような収容しゅうよう施設しせつだ。でも、手錠てじょうをはめたり酷ひどいこともする医師いしたちは時ときにユーモアもあったり、高こう圧あつ的てきになるのだが医師いし、職員しょくいんもこの共同きょうどう体たいの一いち構成こうせい員いんとしてまぎれもなく機能きのう以上いじょうに絡からみあってそこには関かかわりあるものと存在そんざいしている。この中なかでの暖あたたかさ、この建物たてものの外そとの世界せかいの冷つめたさを感かんじるような。実際じっさい、無事ぶじ退院たいいん果はたした夫おっと、徘徊はいかい癖へきがあるのか、家いえにいても居場所いばしょもなく家いえでは父ちちか義父ぎふに煙けむたがられ外がいに出でれば妻つまに怒おこられひたすら近所きんじょの田舎道いなかみちを歩あるき大おおきな舗装ほそうされた道路どうろに出でて歩あるき続つづける。家族かぞくがよく面会めんかいに来くるお父とうさん。突然とつぜんここに連つれてこられ狼狽うろたえるお父とうさん、面会めんかいに来きた優やさしく気丈きじょうな娘むすめさんはお母かあさんが決きめた措置そち入院にゅういんだけどお母かあさんを恨うらんじゃダメこれが一番いちばんいいとお母かあさんが決きめたこととさとしながら父親ちちおやのここでの生活せいかつを案あんじ、取とり囲かこみ見みていた収容しゅうよう仲間なかまの自分じぶんと同おなじくらいかもっと若わかい男おとこに携帯けいたいを貸かして父親ちちおやに電話でんわさせてあげてる。家族かぞくも中なかの人ひともここではおおらかにふるまえてるようにさえ思おもう。明あきらかにきちんと折おり目め正ただしく祈いのりを捧ささげるおそらく回かい族ぞくの若者わかもの。男女だんじょ異ことなるフロアで自由じゆうにあえないが回かい族ぞくなのかイスラム教いすらむきょうどの女おんなと柵しがらみ越ごしに恋こいをする男おとこ。映画えいがラストに、2013年ねん、雲南うんなん省しょうの、精神病せいしんびょう者しゃの措置そち入院にゅういん施設しせつ、自分じぶんからくるものはなく、みな家族かぞくか公権力こうけんりょくによりおそらく同意どういもなく入院にゅういんさせられていると、字幕じまくが出でて知しる。まじめに祈いのる回かい族ぞくの彼かれは宗教しゅうきょうが措置そち入院にゅういん、収容しゅうようの理由りゆうかも知しれず、二人ふたりで寝ねる男おとこたちは同性愛どうせいあい者しゃとして隔離かくり拘束こうそくされているのかも知しれず、この字幕じまくで必かならずしも精神せいしん疾患しっかんが理由りゆうでもないと、な中なかの弾圧だんあつや抑圧よくあつの施策しさくとしての措置そちもあることがはっきりわかる。辺境へんきょうの雲南うんなん省しょう。今いまから10年ねん前まえの雲南うんなんの収容しゅうよう病棟びょうとうは、反はん右派うは闘争とうそうの煽あおりで砂漠さばくの収容しゅうよう所しょに入いれられた無言むごん歌かや死霊しりょう魂たましいに出でてくる人ひとたち、脈々みゃくみゃくと筋すじが通とおる中国共産党ちゅうごくきょうさんとうの統治とうち政策せいさくの2000年代ねんだい版ばんでもあり、これがより過酷かこくなウイグルでの強制きょうせい収容しゅうよう、労働ろうどう、に繋つながっているようだと思おもい至いたる。そう思おもうと、とにかくひどい。時間じかんの流ながれを大おおきく見みると本当ほんとうにひどい。
そしてというか、しかしながらというか、ワンビン監督かんとくの素材そざいを、撮影さつえい対象たいしょうを、撮影さつえい場所ばしょを、至近しきん距離きょりで最大限さいだいげんに公平こうへい中立ちゅうりつに見守みまもり、晒さらし暴あばき出だし、見みえないものを炙あぶり出だすように眼差まなざしを定さだめ求もとめ、あるがままの美びをカメラに収おさめスクリーンに乗のせ広ひろげる力ちから技わざの凄すごみ。

　１２日にちの土曜日どようびに観みて来きたのですが、考かんがえをまとめるのに、二日ふつかほどかかりました。前作ぜんさく「三さん姉妹しまい」が余あまりに淡白たんぱくな味あじわいだったので、今回こんかいは期待きたい半分はんぶん、不安ふあん半分はんぶんの気分きぶんで上映じょうえいに臨のぞみました。宮みや益えき坂ざかを登のぼり切きり、１０時じ５０分ふん頃ごろ、シアターイメージフォーラムに到着とうちゃく、１０時じ４５分ふん開館かいかんなのに外そとには多おおくの人ひとが列れつを作つくっていました。もぎりの要領ようりょうが悪わるいのです。非常ひじょうに暑あつい日ひで、汗あせまみれになり、座席ざせきに着ついた時ときには、既すでに８０パーセントの体力たいりょくを消耗しょうもうしていました。場内じょうないは余あまりク―ラ―が効きいていませんでした。
　非常ひじょうに生々なまなましい映画えいがです。登場とうじょうする「患者かんじゃ」はほぼ、男おとこ、です。女性じょせいの「患者かんじゃ」は描えがかれません。登場とうじょうする女性じょせいといえば、面会めんかいに来くる妻つまや看護かんご師しくらいでしょうか。とにかく男おとこ臭くさい映画えいがです。いろんな病やめる男おとこが現あらわれます。廊下ろうかで放尿ほうにょうする男おとこ、ベッドの下したの金盥かなだらいに放尿ほうにょうする男おとこ、全裸ぜんらになって廊下ろうかで水浴みずあびをする男おとこ、ひとつのベッドに同衾どうきんする二人ふたりの男おとこ・・・。しかし、男性だんせいの性器せいきにぼかしはかかりません。性的せいてきなことを連想れんそうさせない映像えいぞうだからでしょう。余あまりの生々なまなましさに気分きぶんが悪わるくなる人ひともいるかもしれません。
　しかし、一番いちばん、病やんでいるのはこのような不潔ふけつ極きわまりない病棟びょうとうを作つくり上あげた中国共産党ちゅうごくきょうさんとうです。人間にんげんを家畜かちく扱あつかいしてはいけないのです。この監督かんとくはドキュメンタリー映画えいが作家さっかとして、著名ちょめいですが、個人こじん的てきには「無言むごん歌か」のような劇映画げきえいがをもっと観みたいと思おもっています。中国ちゅうごくからの資本しほんを得えずに毎回まいかい、映画えいがを撮とっていると聞ききました。全まったく見上みあげた根性こんじょうの持もち主ぬしです。
　正直しょうじき、蒸むし暑あつい映画えいが館かんで４時じ間近まぢかく座すわっているのは大変たいへんです。しかし、今回こんかいは途中とちゅうでお茶ちゃや水みずを飲のんで、尿意にょういを催もよおし、小用しょうようを足たしに行いっても、大丈夫だいじょうぶです。緩ゆるやかなテンポの記録きろく映画えいがなので、話はなしの脈絡みゃくらくが判わからなくなるということはありません。事実じじつ、私わたしも強烈きょうれつな尿意にょういに襲おそわれ、一度いちど、中座ちゅうざしました。

撮影さつえい・編集へんしゅうする過程かていで、監督かんとくの手ては間違まちがいなく入はいっているのだが、何なにかを仕掛しかけたり煽あおったりすることなく、静しずかに、淡々たんたんと、カメラを回まわしていく。

王おう兵へい監督かんとくの作品さくひんはどれも長ながくて、知的ちてき耐たい性せいのない私わたしは必かならず寝ねてしまうのですが、それでもなお、訴うったえてくるものがあります。

この作品さくひんにおいて、描えがかれている、精神せいしん科か病棟びょうとうの社会しゃかい的てき入院にゅういんという現状げんじょうは、日本にっぽんも例外れいがいではありません。
限かぎられた資源しげん（人ひと・金かねほか）をどう振ふり分わけるか、社会しゃかいがどう対処たいしょするか（受うけ入いれるか）。

自分じぶんがこの病棟びょうとうに収容しゅうようされたら、と思おもうと、叫さけび出だしたい位くらいの絶望ぜつぼうを感かんじるのでした。

スクリーンに映うつし出だされる
まごうことなきワン・ビンの画が。
この美うつくしい映像えいぞうを観みることが既すでに快楽かいらくだ。

カメラは幾度いくども回廊かいろうを廻まわり、
徘徊はいかいを映うつし排泄はいせつを映うつす。
初はじめ抱だいた視点してんが別べつの視点してんに凌駕りょうがされ、
さらにそれも凌駕りょうがされていく。
形かたちを失うしなっていくような奇妙きみょうな感覚かんかく。

家族かぞくを想起そうきした罪悪ざいあく感かんと痛いたみの上うえに、
病やまいや自分じぶんの輪郭りんかくが見みえなくなっていくような浮遊ふゆう感かんが降ふり積つもる。
今日きょうという日ひと状況じょうきょうの寓話ぐうわを
見みつめているような思おもいがさらに重かさねられていく。

ワン・ビンと同どう時代じだいに生いきているのは楽たのしい。