黒衣くろごの刺客しかく : インタビュー

ホウ・シャオシェン監督かんとく、台湾たいわん映画えいが界かいの未来みらいを見据みすえて作つくった初はつの武たけ侠時代じだい劇げきを語かたる

台湾たいわんの巨匠きょしょうホウ・シャオシェン（侯孝賢ほうしゃおしえん）監督かんとく8年ねんぶりの新作しんさくで、第だい68回かいカンヌ映画えいが祭さいコンぺティション部門ぶもん監督かんとく賞しょうを受賞じゅしょうした「黒衣くろごの刺客しかく」が、9月12日にちから公開こうかいされる。唐とうの時代じだいを舞台ぶたいに、運命うんめいに翻弄ほんろうされた女おんな刺客しかくの強靭きょうじんな生いき方かたを静謐せいひつに描写びょうしゃし、ロケーション、美術びじゅつ、装飾そうしょくなど全編ぜんぺんがホウ監督かんとくの徹底てっていした美意識びいしきに貫つらぬかれた武たけ侠時代じだい劇げきだ。日本にっぽんから妻夫木つまぶき聡さとしと忽那くつな汐しお里さとが参加さんかしたことも注目ちゅうもくされている。キャスティングや5年ねんの歳月さいげつをかけた撮影さつえいの模様もよう、初はつの武たけ侠劇を手てがけた理由りゆうをホウ監督かんとくが語かたった。（取材しゅざい・文ぶん・写真しゃしん／編集へんしゅう部ぶ）

「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」以来いらい8年ねんぶりの新作しんさくは、学生がくせい時代じだいから愛読あいどくし、映画えいが化かを夢見ゆめみてきた唐とう代だいの伝奇でんき小説しょうせつが基もとになっている。また、今いま作さくが中国ちゅうごくと合作がっさくということも時代じだい劇げきを選えらんだきっかけとなった。「今いまは中国ちゅうごく資本しほんがとても大おおきくなりました。私わたしは台湾たいわん在住ざいじゅうですが、中国ちゅうごくの物語ものがたりでも歴史れきしものだったら、どこに住すんでいるのかは関係かんけいありませんし、共通きょうつうの話題わだいだと思おもったのです。映画えいが祭さいに8年ねんかかわり、現在げんざいの台湾たいわんの映画えいが界かいや台湾たいわんの若わかい映画えいが監督かんとくの状況じょうきょうを理解りかいしています。私わたしは台湾たいわんの監督かんとくとして、中国ちゅうごくの武たけ侠もので市場いちばが開あけるのであれば、それはひとつの道みちだと、後のちに続つづく人ひとたちが考かんがえてくれればよいと思おもったのです。そういう意味いみで、無事ぶじ完成かんせいしただけでほっとしました」

少女しょうじょ時代じだいに道みち姑しゅうと（女性じょせいの道士どうし）に預あづけられた隠かくれ娘むすめ（スー・チー）は成長せいちょうし、完全かんぜんな暗殺あんさつ者しゃに育そだて上あげられていた。隠かくれ娘むすめの標的ひょうてきは、かつて彼女かのじょの許嫁いいなずけでもあった暴君ぼうくんの田た委い安やす（チャン・チェン）。暗殺あんさつの任務にんむ中ちゅうに窮地きゅうちに追おい込こまれる隠かくれ娘むすめだったが、難破なんぱした遣唐使けんとうし船せんの日本にっぽん青年せいねん（妻夫木つまぶき）に助たすけられる。

「ミレニアム・マンボ」「百ひゃく年ねん恋歌こいうた」そして今いま作さくと、3作さく続つづけて主演しゅえんに起用きようしたスー・チーを「気きが強つよいだけでなく、何なに時間じかんでも立たっていることができる、非常ひじょうにエネルギーの強つよい女優じょゆう」と評ひょうする。アクションシーンでは練習れんしゅうと撮影さつえいを忍耐にんたい強つよく繰くり返かえしたそう。スローモーションなどは用もちいず、大おおげさな動うごきのないキレのある動うごきを披露ひろうしているが、殺陣さつじんに付つきものの鮮血せんけつは一切いっさい見みられない。「血ちは1滴てきも出でません。みんなが使つかっているから、あまり面白おもしろみがないと感かんじたんです」

妻夫木つまぶき演えんじる、遣唐使けんとうし船せんでやってきた日本人にっぽんじんの鏡かがみ磨みがきの青年せいねん役やくは、ホウ監督かんとくオリジナルのアイデアだ。「ヒロインが鏡かがみ磨みがきの青年せいねんのところに嫁よめに行いくという設定せっていは唐とうの小説しょうせつ通どおりです。私わたしが考かんがえたのは、遣唐使けんとうしの時代じだいですから、前年ぜんねんに鋳物いもの師しのお父とうさんが舟ふねに乗のれず、転覆てんぷくした舟ふねに乗のって助たすけられた青年せいねんという設定せっていを考かんがえました」

日本人にっぽんじん俳優はいゆうの中なかから妻夫木つまぶきを選えらんだ理由りゆうは「彼かれしか考かんがえられなかった」ときっぱり。「彼かれは非常ひじょうに人ひとに好すかれる人ひとだと思おもうのです。陰かげと陽ひだと陽ひの人ひと。ヒロインが陰かげの人ひとのタイプなので、対照たいしょう的てきな存在そんざいとして他ほかの人ひとは考かんがえませんでした。作つくった明あかるさがある人ひとはいますが、彼かれは、燦爛さんらん（さんらん）として、輝かがやくような地ちからの明あかるさを感かんじます。スタッフのみんなが妻夫木つまぶきさんのファンになりました」

「鏡かがみ磨みがきの青年せいねんは、船ふねが転覆てんぷくして日本にっぽんに帰かえれない。そういう場合ばあいは海路かいろを避さけて、新しん羅ら（朝鮮半島ちょうせんはんとう）をまわります。『珈琲こーひー時じ光ひかり』の時ときに浅野あさの忠信ただのぶさんと仕事しごとをしましたが、彼かれもとてもいい役者やくしゃでした。でも、彼かれの事ことを隠かくれ娘むすめが新しん羅らまで送おくっていくイメージが沸わかなかったのです。浅野あさのさんは海うみを自力じりきで泳およいで帰かえれそうな感かんじがしますよね（笑）。まったく違ちがう話はなしになりそうです。隠かくれ娘むすめは最初さいしょから最後さいごまで全まったく笑わらわない設定せっていにしました。ただ、最後さいごに妻夫木つまぶきさんが『隠かくれ娘むすめ（インニャン）』と声こえをかけた時ときにだけはにかむのです」とヒロインの心しんをくすぐるような妻夫木つまぶきの魅力みりょくを、男おとこらしいイメージの浅野あさの忠信ただのぶと対比たいひさせて説明せつめいする。

次回じかい作さく以降いこうの企画きかくについては「唐とうの時代じだいをもっと撮とってみたいけれど、アクションものかどうかはわかりません。アクションである必要ひつようもないと思おもうのです。また、現代げんだいが舞台ぶたいの作品さくひんもいいですね」と語かたる。カンヌ映画えいが祭さいの常連じょうれん監督かんとくとして知しられるが、その立場たちばに責任せきにんを感かんじるかと問とうと「映画えいがを一生いっしょう撮とり続つづけるだけです。映画えいが祭さいや賞しょうに対たいしてのプレッシャーというものはありません」と巨匠きょしょうの貫禄かんろくを見みせた。