スリー・モンキーズ

私わたしはスリーモンキーズ(2008)の映画えいがの良よさがよくわかっていないと思おもった。一度いちど、罠わなにハマると、悪循環あくじゅんかんを起おこしてしまう。死しに至いたることもあるし、気きをつけろというメッセージかなと思おもっているし、トルコの宗教しゅうきょう心しんや倫理りんり観かんの薄うすれていく現実げんじつにブレーキをかけているのかもしれない。後味あとあじの悪わるい話はなしだ。

この運転うんてん手しゅエユップ（Yavuz Bingöl ）、　は選挙せんきょを控ひかえた政治せいじ家かセルベットの罪つみの代かわりを金かねのため？引ひき受うけて（給料きゅうりょうや身代金みのしろきんをもらい刑けいも減へらしてもらう）監獄かんごくに６ヶ月かげつ入はいる。金かねの欲よくのために（息子むすこの教育きょういくのため？）に始はじまったことが、それでは済すまされず、殺人さつじんを犯おかすまでに発展はってんする。伴侶はんりょハジェル（Hatice Aslan）も？は働はたらいているが給料きゅうりょうは少すくなそう、息子むすこのイスマル（Ahmet Rıfat Şungar）は大学だいがくに失敗しっぱいしたようだが、なにもやる気きがなく、再度さいど挑戦ちょうせんする意欲いよくもなさそうだ。母親ははおやの忠告ちゅうこくも聞きかず、悪わるい道みちにはまって、何なにか犯罪はんざいを犯おかしているようだ？　なにか金かねのアドバイスをもらいに伴侶はんりょはハジェルは政治せいじ家かのところに行いき、アドバイスだけでなく、深ふかみにもハマる。それも、不倫ふりんに。なぜ、ここで、不倫ふりんにはしるのかと思おもうが、運転うんてん手しゅの夫おっとにはない政治せいじ家かの金かねの力ちからで大胆だいたんに行動こうどうできる魅力みりょくがあるのかも。『なんでも相談そうだんしなよ』と甘あまい声こえをかけられて有頂天うちょうてんになったが、それが、全すべて息子むすこに発覚はっかくし、問題もんだいが悪わるい方ほうに発展はってんしていっている。

ここで、電話でんわの待まち受うけになっているトルコ語ごでの曲きょくだが、『あなたの奴隷どれいになる。。。。』とかいう曲きょく。これを待まち受うけにしてる精神せいしん状態じょうたいにも少すこし疑問ぎもんを感かんじた。これは受うけ身みで主体性しゅたいせいのない女おんなと見みられても仕方しかたがない。しかし、2008年ねんというトルコ、モスリム 教きょうの国くにでの女性じょせいの立場たちばはいまより低ひくかったからね。政治せいじ家かのような権力けんりょく者しゃの罠わなにはまるし、本人ほんにんも罠わなにはまったら自主じしゅ性せいがないから、ぬけ出だし方かたを知しらなく夢中むちゅうになってしまう。政治せいじ家かも部下ぶかの運転うんてん手しゅが刑けいを終おえて戻もどってくると、つれなくあたり、もうこれっきりにしようと。燃もえ上あがったハジェルは、全まったくこの歌うたの通とおり、奴隷どれいのような精神せいしん状態じょうたいになって、自分じぶんを失うしなっていく。政治せいじ家かセルベットが殺ころされたとわかった時ときの涙なみだは果はたしてどんな涙なみだだったのだろう。疑問ぎもんに思おもう。

ジェイラン監督かんとくの初期しょきの作品さくひんだが、薄すすき気味ぎみの悪わるい犯罪はんざいミステリー映画えいがのような、会話かいわのない（見みなかったし、聞きかなかったし、言いわなかった）家族かぞく内ないの葛藤かっとうの話はなしだ。

一番いちばん苦手にがてなシーンは息子むすこが母親ははおやハジェルに平手打ひらてうちを加くわえ、エユップは精神せいしん的てきに虐待ぎゃくたいをするシーンだ。
私わたしは以前いぜんにDVのクラスをとったり、このコンファレンスに行いったりして　将来しょうらい　DVを受うけている人ひとの話はなし相手あいてになろうと思おもった時期じきがある。この時ときのことが頭あたまによぎり、後味あとあじが悪わるくて仕方しかたがなかった。

ヌリ　ジェイランの作品さくひんには大学だいがく入試にゅうしの厳きびしさや、卒業そつぎょうしても思おもった仕事しごとに就つけない話はなしがよくある。トルコの教育きょういく事情じじょうをよく表あらわしている。それに、野良猫のらねこや犬いぬも出でてくるので、人々ひとびとにおける犬いぬ猫ねこの存在そんざいは薄うすいようだ。それに加くわえて他たのモスリム教きょうの国くにより、宗教しゅうきょう意識いしきが少すくなく、宗教しゅうきょうは伝統でんとうのような雰囲気ふんいきで、苦くるしい時ときの神頼かみだのみのようにおもわせる。

イスタンブールの景色けしき、特とくに内海うちうみの見みえるYedikuleという街まちに住すんでいるエユップとその家族かぞく。エユップはもう一度いちど、監獄かんごくに入はいる決心けっしんをするだろうか。

スリー・モンキーズ(見みざる 言いわざる 聞きかざる)でいてしまうことにより、あれよあれよと殺伐さつばつと虚無きょむと葛藤かっとうの渦うずに飲のみ込こまれていってしまうノワール・サスペンス。「あのとき、見みていれば…言いっていれば…聞きいていれば…。」と、もしくはその逆ぎゃくを考かんがえてしまうと、人生じんせいと人間にんげん同士どうしと言いうのはいかに綱渡つなわたりの状態じょうたいにあるのかと思おもい知しらされる。父ちち、母はは、息子むすこの3人にんは、それぞれが人間にんげん臭くさくまた、それぞれが猿さるだ。ただ悪人あくにんではないというところが肝きもだ。終始しゅうしセリフを削そぎ落おとし映像えいぞうと音響おんきょうが与あたえる心臓しんぞうが締しめ付つけられるような緊張きんちょう感かんと、安易あんいな解決かいけつや、もはや安易あんいなバッドエンドさえ用意よういしてもらえないというアンチ娯楽ごらく映画えいがな訳わけだが、映画えいがが最後さいごの暗転あんてんを見みせたとき、「人生じんせいとは、そういうものだ。」と感慨深かんがいぶかく数すう倍ばいにも心拍しんぱく数すうの速はやくなった心臓しんぞうを落おち着つかせるほかない。「対価たいかと代償だいしょう」、「自己じこ犠牲ぎせいの顛末てんまつ」、「人ひとを愛あいし、憎にくみ、葛藤かっとうし、許ゆるす。」など、普遍ふへん的てきかつ本質ほんしつ的てきで鋭するどく重おもいテーマを盛もり込こんでいる。表情ひょうじょう一ひとつで登場とうじょう人物じんぶつの性格せいかくや、映画えいがの行間ぎょうかんで何なにを行おこなったのか。ということさえ切迫せっぱく感かんを持もって感かんじさせる役者やくしゃの演技えんぎも素晴すばらしい。シーンや物語ものがたりの本質ほんしつを映像えいぞうで表現ひょうげんするべくここぞというときの逆光ぎゃっこうのシーンや緊張きんちょうと緩和かんわの連続れんぞくなど、映画えいが論理ろんりとしても緻密ちみつで至極しごく上質じょうしつな演出えんしゅつ。カンヌの監督かんとく賞しょうに相応ふさわしい手腕しゅわんだ。決けっして幸福こうふくな物語ものがたりではなく、普遍ふへん的てきながら内包ないほうする狂気きょうきと暗雲あんうん立たち込こめる展開てんかいはシリアスにほかならないが、「人間にんげんは愚おろかな行為こういをしてしまう。だが、それこそが人間味にんげんみであり、ある種しゅの人間にんげん的てき魅力みりょくなのだ。」と、言いってしまいたくなる素晴すばらしい映画えいがだった。