聖ひじりの青春せいしゅん

本人ほんにんに寄よせる為ための役やく作づくりが伝つたわって来きました。
役者やくしゃ魂たましいを感かんじました。
羽生はぶ善治よしはるとの対局たいきょくシーンは圧巻あっかんでした。

将棋しょうぎに対たいする聖ひじりの気持きもちが正直しょうじき。
自分じぶんの体からだに対たいする恨うらみ言ごとが無ないのがすごい。

学生がくせい時代じだい、将棋しょうぎ好すきの友達ともだちが多おおかった関係かんけいで、当時とうじから将棋しょうぎのプロ棋士きしには興味きょうみがあり、特とくに、将棋しょうぎの主要しゅようタイトル７冠かんを取とった時ときの羽生はぶ善治よしはるのことは鮮明せんめいに記憶きおくしている。そんな羽生はぶ善治よしはるに拮抗きっこうする実力じつりょくを持もつプロ棋士きし・村山むらやま聖きよし（松山まつやまケンイチ）の物語ものがたりと聞きいては、観かん過すごすわけにはいかず、公開こうかい初日しょにちに鑑賞かんしょうした。

主人公しゅじんこう・村山むらやま聖きよし（松山まつやまケンイチ）は、幼おさない頃ころ、将棋しょうぎと出会であい、その魅力みりょくに惹ひかれていく。そして、障害しょうがいを抱かかえながらもメキメキと上達じょうたつし、ついにはプロ棋士きしとなり、羽生はぶ（東出ひがしで昌あきら大だい）と対戦たいせんするまでに成長せいちょうする。彼かれは、羽生はぶを倒たおして名人めいじんになることを夢見ゆめみて、病やまいに侵おかされながら、がむしゃらに人生じんせいを賭かけて将棋しょうぎの道みちを究きわめていく。やがて彼かれは病やまいに倒たおれるが、奇跡きせき的てきに回復かいふくを果はたし、再ふたたび羽生はぶとの復帰ふっき戦せんに挑いどんでいくが・・・。

全体ぜんたい的てきにみれば、凡庸ぼんようなシーンもあるし、ストリー展開てんかいに緩慢かんまんなところもある。しかし、何なにといっても、羽生はぶと主人公しゅじんこうの対局たいきょくシーンは圧巻あっかんであり、出色しゅっしょくの出来映できばえで見応みごたえ十じゅう分ふん。鬼気きき迫せまる形相ぎょうそうで将棋しょうぎ盤ばんを見詰みつめ、髪かみをかき乱みだし、苦悶くもんの表情ひょうじょうを浮うかべ、息遣いきづかいも荒あらく、将棋しょうぎを指さす二人ふたりの姿すがたは、対局たいきょくというよりは魂たましいのぶつかり合あいである。特とくに、羽生はぶとの復帰ふっき戦せんで、持もち時間じかんが無なくなり、一いち分間ふんかん差さしになった終盤しゅうばんの、腰こしを浮うかし、身震みぶるいしながらの主人公しゅじんこうの姿すがたは、主人公しゅじんこうの命いのちを削けずっているような壮絶そうぜつさがある。将棋しょうぎの駒こまを将棋しょうぎ盤ばんに置おく時ときの音おとは、本来ほんらいは心地ここち良よく聞きこえるものだが、ここでは、主人公しゅじんこうの命いのちのカウントダウン音おんのようで痛々いたいたしく切せつない。思おもわず、もう止とめてくれと叫さけびたくなる程ほどだ。

主人公しゅじんこうが羽生はぶに勝かった対局たいきょく後ご、居酒屋いざかやで二に人にんが語かたり合あうシーンが珠玉しゅぎょくの名言めいげん集しゅうになっている。対局たいきょくを離はなれて穏おだやかになった二人ふたりの台詞せりふのやり取とりが素晴すばらしい。主人公しゅじんこうに負まけて、死しにたい程ほど悔くやしいと羽生はぶが吐露とろすれば、負まけたくない一心いっしんで将棋しょうぎを指さしていると主人公しゅじんこうが返かえす。勝かちたいという、建たて前まえ、綺麗事きれいごとなく、負まけたくない、死しにたい、悔くやしいという言葉ことばがリアルであり、将棋しょうぎという勝負しょうぶの世界せかいに生いきる強者きょうしゃである二人ふたりの本音ほんねが聞きけた思おもいがする。

主人公しゅじんこうを演えんじる松山まつやまケンイチは、実在じつざいした主人公しゅじんこうの体形たいけいに迫せまる為ため、２０Ｋｇ近ちかくの増量ぞうりょうをして本ほん作さくに臨のぞんでいる。日本にっぽん映画えいがでは体型たいけいを変かえてまで役やく作づくりをする役者やくしゃは少すくないが、画面がめんから、その意気込いきごみが伝つたわってくる。全身全霊ぜんしんぜんれいを将棋しょうぎに賭かけた主人公しゅじんこうの生いき様ざまを見事みごとに体現たいげんしている。羽生はぶ善治よしはる役やくの東出ひがしで昌あきら大だいも松山まつやまケンイチに負まけない役やく作づくりをしている。本人ほんにんと見み間違まちがうほどの、立たち居振いふる舞まい、髪型かみがた、顔かおつき、体格たいかく、人柄ひとがらは、見事みごとである。

居酒屋いざかやのシーンで、主人公しゅじんこうは二ふたつの夢ゆめがあることを吐露とろするが、二ふたつの夢ゆめは叶かなえられなかった。しかし、将棋しょうぎに全すべてを賭かけて人生じんせいを速足はやあしで駆かけ抜ぬけていった主人公しゅじんこうは、人生じんせいを生いき切きったと言いえるのではと思おもう次第しだいである。

　せっかく名人めいじん戦せんで羽生はぶ善治よしはる（東出ひがしで）と対局たいきょくという段だんになって、膀胱ぼうこうがんが発覚はっかくする村山むらやま聖きよし（松山まつやま）。　女おんなを知しらずに29歳さいの若わかさで亡なくなった。とにかく、可哀かわいそうな青春せいしゅんというイメージが残のこる。しかし、羽生はぶ善治よしはるとの対戦たいせんまで漕こぎつけただけでも凄すごいとは思おもうし、彼かれと腹はらを割わって食堂しょくどうで対話たいわするというのも夢ゆめの断片だんぺんまで到達とうたつできたのかもしれない。