サバイバルファミリー

最近さいきんあまり聞きかなくなったけれど、「滑稽こっけい」という言葉ことばには、なかなかに複雑ふくざつな意味合いみあいが含ふくまれているように思おもう。笑わらいだけではない、その底そこや裏うらにある悲かなしさ、苦くるしさ、必死ひっしさ、真剣しんけんさなど…。矢口やぐち監督かんとくと言いえば、明あかるく楽たのしく。心しんの底そこから大笑おおわらいして、ぱっとしない親近しんきん感かんを持もてる登場とうじょう人物じんぶつたちの頑張がんばりを応援おうえんして、最後さいごはスカッと爽快そうかい！ そんなイメージが強つよい。一方いっぽうで、「ひみつの花園はなぞの」や「雨あめ女おんな」など、笑わらっていていいのか分わからなくなる、ちょっと居心地いごこち悪わるさや薄気味悪うすきみわるささえ覚おぼえる、一途いちずすぎるヒロインが登場とうじょうする作品さくひんもある。忘わすれ難がたい、滑稽こっけいな彼女かのじょたち。だからこそ私わたしは、矢口やぐち監督かんとく作品さくひんをずっと追おいかけている。おもしろそうだよね、と誰だれかを誘さそいやすい反面はんめん、いざ観みてみたら、ゾワッとする体験たいけんに出でくわすのではないか。その時とき、連つれは何なにを感かんじるのか。そんな、少すこし悪あく趣味しゅみな期待きたいを持もって、作品さくひんを観み続つづけているように思おもう。
朝あさ起おきたら、原因げんいん不明ふめいの一斉いっせい停電ていでん。さらには、ガスも水道すいどうもダメになる。当あたり前まえの生活せいかつが当あたり前まえでなくなり、そのうち何なにとかなるとは思おもえなくなってきたとき、さてどうするのか…。主人公しゅじんこう一家いっかは、答こたえが見みえないまま、とにかく西にしへ西にしへと流ながれていく。
矢口やぐち監督かんとく作品さくひんの主役しゅやくは、常つねに（望のぞんだわけではないが、行いき掛がかり上じょう）何なにかに一生懸命いっしょうけんめいだ。一生懸命いっしょうけんめいでいると、自分じぶんのことで精一杯せいいっぱいで、周まわりが見みえなくなる。そのくせ、彼かれらの頑張がんばりは、必かならずしも100パーセント報むくわれるわけではない。端はしから見みたら、どこか可笑おかしく、悲かなしく、奇妙きみょうでもある。大抵たいていの人ひとは、（たとえ周まわりには伝つたわらなくても）何なにかを一生懸命いっしょうけんめいやった経験けいけんがある。だからこそ、映画えいがの中なかの彼かれらの行ゆく末すえが、他人事たにんごとでいられなくなるのでは…などと思おもう。
震災しんさい6周年しゅうねんの前月ぜんげつから公開こうかいが始はじまり、ロケ地ちのひとつが仙台せんだい…ということもあるかもしれないが、本ほん作さくを観みていると、幾度いくどとなく震災しんさいのことを想起そうきせずにいられなかった。それも、「日常にちじょうとしての震災しんさい」を。ラップを掛かけた食器しょっきで食事しょくじをし、ラップを剥はがして後片付あとかたづけ終了しゅうりょう、という単調たんちょうな繰くり返かえし。調味ちょうみ料りょうしか残のこっていないスーパー、様々さまざまな行列ぎょうれつ、買かい物ものの個数こすう制限せいげん、久ひさしぶりに寝ねた布団ふとんの感触かんしょくなど、心しんがざわつかずにいられないエピソードが、次々つぎつぎに登場とうじょうする。
ロードムービーということもあり、一家いっかは、行いく先々さきざきで個性こせい豊ゆたかな面々めんめんと出会であう。あんな有名ゆうめい俳優はいゆうさんがこんな端役はやくに！と感かんじられるほどの大盤振おおばんぶる舞まいだ。（個人こじん的てきには、彼かれらの一部いちぶはやっぱり一般人いっぱんじんには見みえず、ちょっと残念ざんねん。）様々さまざまな出会であいで主人公しゅじんこうは成長せいちょうし…が定石じょうせきだけれど、本ほん作さくは、さほどの変化へんかはない。その分ぶん、心しん震ふるわす感動かんどうも待まち受うけない（良よい意味いみで）。物語ものがたりは、ある意味いみ当然とうぜん、な帰着きちゃくをする。そこが、個人こじん的てきには少すこし物足ものたりなく思おもえた。最後さいごの最後さいごは、文字通もじどおり蛇足だそくではなかったか、あのまま振ふり切きれた方ほうがよかったのに…などと。とはいえ、原状げんじょう復帰ふっきというのは、一見いっけんハッピーエンドのようで、実じつはかなり薄すすき気味ぎみの悪わるい、皮肉ひにくな結末けつまつなのかもしれない。
もっとあからさまに爽快そうかいさを掻かき消けし、モヤモヤや引ひっかかりをたっぷり残のこして欲ほしかった、というのが正直しょうじきな思おもいだ。けれども、ロボジー＝ミッキー・カーチスさんの飄々ひょうひょうとした佇たたずまいに再会さいかいできた分ぶん、評価ひょうかは甘あまく…。せっかく取とっつきよく、明あかるく楽たのしいコメディタッチに仕立したてた以上いじょうは、よりたくさんの人ひとに観みてほしい！と強つよく願ねがわずにいられない。忘わすれないため、滑稽こっけいであり続つづけるために。