ウェンディ＆ルーシー

ケリーライカート研究けんきゅう3弾だん
家いえとか住所じゅうしょとか住すむ所ところ無ないと携帯けいたいも持もてないし仕事しごとにも付つけないという貧困ひんこん地獄じごく車しゃ、、まあ日本にっぽんも似にた感かんじだが医療いりょう費ひも激高げっこうのアメリカはやはりかなりエグいなぁ。
犬いぬのルーシーとアコードに乗のって仕事しごとが一杯いっぱいあると言いうアラスカを目指めざすウェンディのロードムービーのはずが、金かね無なし、車くるま壊こわれ、万引まんびきしたら捕つかまって犬いぬがいなくなってしたってにっちもさっちも行いかなくなってしまった話はなし。
小ちいさな事ことでつまずき、慌あわてて判断はんだんをあやまり、どんどんバランスを崩くずして立たっている事こともできない状況じょうきょうに割わりと人間にんげんはなりやすい。犯罪はんざい物ぶつでもこれは定石じょうせきだけどケリーライカートはそんな設定せっていは選えらばず、こういう小ちいさなネタにグイグイ首くびを突つっ込こんでいき、それが普通ふつうに僕ぼくらにも起おきうる事ことを再さい認識にんしきさせ、息いきが出来できないような追おい詰つめられた感情かんじょうを掘ほり返かえす。そしてそれを見守みまもる人ひとの優やさしささを宝石ほうせきの様ように見みせる魔法まほうも上手うまい。

おっちゃん何故なぜか倉本くらもと聰さとしの「北きたの国くにから」思おもい出だしてしまいましたww

ほろ苦にがいお話はなしです。
人生じんせいは選択せんたくの連続れんぞく、出会であいと別わかれの連続れんぞく。
彼女かのじょはきっとアラスカにたどり着つくでしょう。

そして、ますます年齢ねんれい不ふ詳しょうのミシェル・ウィリアムズ。
一体いったい何なん歳さい設定せっていなのか全まったくわからないのです。
ボーイッシュで10代の少女しょうじょのように見みえるけれども、実際じっさいは20代だい後半こうはんだったりします。
ハリウッドのオーラを消けし去さって、華はなやかさのかけらもない役やくですが、ぴたりとはまって、とても魅力みりょく的てきでした。

鑑賞かんしょう後ごも、ウェンディ（ミシェル・ウィリアムズ）のハミングがいつまでも脳裏のうりでこだまするような作品さくひんです。

「旅たび」、「漂泊ひょうはくのアメリカ」を描えがいてきたライカート監督かんとくは、今回こんかいもカナダを目指めざして旅たびを続つづける女性じょせいに焦点しょうてんを当あてています。『リバー・オブ・グラス』（199４）が、監督かんとくのいうところの「道みちのないロードムービー」であるとすれば、本ほん作さくはしっかり旅たびの高揚こうよう感かんや解放かいほう感かんを味あじわうことができます。少すくなくとも序盤じょばんまでは。

ウェンディとルーシーの旅たびはしかし、ある事情じじょうにより足止あしどめを余儀よぎなくされます。ウェンディは何なにとか旅路たびじに戻もどろうとするけど…、という彼女かのじょの戸惑とまどいと奮闘ふんとうが序盤じょばん以降いこうの物語ものがたりを紡つむいでいきます。その果はてに彼女かのじょが下くだした結論けつろんを描えがくライカート監督かんとくの視線しせんは、これまでの作品さくひんと同様どうよう（そしてこの先さきの作品さくひんにも通つう底そこする）、苦にがい現実げんじつに直面ちょくめんした人ひとに対たいして、決けっして必要ひつよう以上いじょうには近ちかづかないけど、ここにしかし見守みまもり続つづける人ひとがいることを知しっておいてほしい、という想おもいが伝つたわってくるようです。

街まちの何気なにげない風景ふうけいを切きり取とって、驚おどろくほど精緻せいちな構図こうずを作つくり上あげるライカート監督かんとくの作図さくずは本ほん作さくでも際立きわだっています。それこそ一ひとつ一ひとつ挙あげればきりがないほどに。これが街まち一ひとつ作つくってしまうような大作たいさく映画えいがなら驚おどろかないんだけど、予算よさんも限定げんてい的てきな独立どくりつ系けいの制作せいさく体制たいせいでここまで撮影さつえいを制御せいぎょしていることに驚おどろきです。

物語ものがたりの筋すじを追おうことはそれほど難むずかしくなくても、結末けつまつまで観みてすっきり全すべてが見通みとおせるか、といえばちょっと微妙びみょうなところ（それこそがライカート作品さくひんの持もち味あじなんだけど）なので、その点てんは理解りかいしておいたほうがいいかも。

闇やみの中なかで、男おとこがウェンディに囁ささやく言葉ことばは、まるで彼女かのじょ自身じしんの境遇きょうぐうをい当いあてているかのようだ。
「ここが嫌きらいだ。ここの奴やつらが。」「俺おれはのけ者もの。礼儀れいぎよくしたいが、奴やつらがそうさせない。」「俺おれをゴミ扱あつかいで、何なんの権利けんりも認みとめない。」
だんだん熱ねつを帯おびていく彼かれの独ひとり言ごとを聞ききながら、ウェンディが恐怖きょうふを抱だいたのは、彼かれによる加害かがいの可能かのう性せい以上いじょうに、自みずからの行ゆく末すえの底そこ知しれなさだったのではないか。
「ここ」というのは、ウェンディが留とまる羽目はめになった、製粉せいふん工場こうじょうが閉鎖へいさされた不景気ふけいきな田舎町いなかまち。けれど、もちろんアメリカそのものでもある。
日本にっぽんでも、音おとを立たてて格差かくさや分断ぶんだんが広ひろがっているが、一いち歩ほ先さき行いくのがアメリカ。昨日きのう鑑賞かんしょうした、「ニューヨーク・オールド・アパートメント 」でも描えがかれていたが、富とめる者ものは、貧まずしき者ものを見下みくだすことに疑問ぎもんを抱いだかない。そもそも自己じこ責任せきにん論ろんは、持もって生うまれた境遇きょうぐうの幸運こううんさの違ちがいを、その本人ほんにんの努力どりょくの差さにすり替かえる、クソみたいなおめでた思考しこうに過すぎないのだが、なぜか人々ひとびとは、すんなりそれを受うけ入いれて過すごしている。
この映画えいがでも、抗あらがう姿すがたとして描えがかれるのは、闇やみに紛まぎれてでしか、日頃ひごろの不満ふまんをぶち撒まけられないこの男おとこだけ。
そこからどうしようもない絶望ぜつぼう感かんと無力むりょく感かんが漂ただよってくる。
ウェンディに優やさしく接せっする守衛しゅえいの男おとこに観みる側がわとしては救すくいを感かんじるが、個人こじんの優やさしさや思おもいやりでは根本こんぽん的てきな解決かいけつは得えられない。そのことを、彼かれが差さし入いれる少額しょうがく紙幣しへいできっちり描えがき出だす演出えんしゅつの見事みごとさ。そして、彼女かのじょが拠より所どころとして、依存いぞんしてきた車くるまとルーシーを手放てばなすことで、逆ぎゃくに新あらたな世界せかいへの希望きぼうの旅立たびだちを感かんじさせる、貨物かもつ列車れっしゃのラストシーンが良よかった。

この映画えいがの監督かんとくは、「ファーストカウ」の監督かんとくということを知しった。近所きんじょの映画えいが館かんでは、今週こんしゅう末まつからの公開こうかいなので、ぜひ観かんに行いきたい。

<ここからは、蛇足だそく>
「アラスカへ」ということは、北きたへ向むかっているんだなぁと…。
「北きたへ」と言いえば小林こばやし旭あさひ。昔むかし、職場しょくばの先輩せんぱいがカラオケで毎回まいかい歌うたっていたっけ。
日本にっぽんもアメリカも、夢ゆめ破やぶれ、人生じんせいにつまずくと北きたへ向むかうのは共通きょうつうしてるんだなぁと、妙みょうに納得なっとくした次第しだい。