運命は踊る
劇場公開日:2018年9月29日
解説
「レバノン」で第66回ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したイスラエルの名匠サミュエル・マオス監督が、実体験をもとに運命の不条理や人生のやるせなさを描いたミステリードラマ。テルアビブのアパートで暮らすミハエルとダフナ夫妻のもとに、軍の役人が息子ヨナタンの戦死を知らせにやってくる。ダフナはショックのあまり気を失い、ミハエルは平静を装いながらも役人の対応にいら立ちを覚える。やがて、戦死は誤報だったことが判明。ミハエルは怒りを爆発させ、息子を呼び戻すよう要求する。一方、ヨナタンは戦う相手のいない前哨基地の検問所で、どこか間延びした時間を過ごしていた。ある日、ヨナタンは若者たちの乗る車を取り調べするが……。第74回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞。
2017年製作/113分/イスラエル・ドイツ・フランス・スイス合作
原題または英題:Foxtrot
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2018年9月29日
スタッフ・キャスト
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受賞歴
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2018年10月29日
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鑑賞方法:映画館
イメージで語るのが映像の醍醐味だが、本作はその醍醐味に溢れている。玄関に飾られた抽象絵画、繰り返しのデザインが印象的な床のタイル、検問所を悠々と通貨するラクダ、鳥の大群、車に大きく描かれた金髪の美女など、セリフや人物の行動とともにそれらのイメージが雄弁に作品のテーマを語る。
邦題『運命は踊る』とあるが、運命とは超然的な力だ。個人がよかれと思って行動したことが、予期せぬ結果に収束する。これが運命だ。息子を助けたい親の行動が、息子を追い詰める。世の中はそんな風にままならないことだらけで、人は運命に導かれ結局同じ悲劇を繰り返す。原題はフォックストロットというダンスの一種から取っているが、その繰り返す運命の比喩だという。
これはイスラエルの物語だが、観客に突きつけるものはイスラエルの問題ではない。人間の運命の理不尽さが的確に描かれている。
2018年9月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
こんなタイプの映画は初めて観た。宣伝のチラシには本作が並外れた映画であることが記され、現にヴェネツィアでは審査員グランプリを獲得するほど激賞された作品だ。
正直言って、私にはこれが傑作なのかどうかは判断つきかねるところがある。むしろ、評価や満足などの「人の手によるラベリング」の域を超えて、不気味に体内へと侵食してくる映画のように思えてならなかった。
これまでにも「運命」というものを捉えた芸術作品は星の数ほどあったろう。しかしそれをこんなに特殊なカメラワークと構成、リズムとテンポ、語り口で描き出してしまうことに、胸の内側が静かに沸騰させられた。何よりも、眼前に生贄のごとく吊るされた運命を、これほど俯瞰して見つめた作品は他にないと思うのだ。近隣の国や地域と衝突を繰り返すイスラエル。だがこの映画は、宗教や政治、主義、主張、その全てを超えて、世界の共通言語として受け止められる。そう強く思った。
2020年4月6日
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鑑賞方法:DVD/BD
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「人生」を正確に描いている。
『どこで』間違ったのか。『なにが』間違いだったか。そもそもヨナタンの死は、間違いではなく『当っていた(決まっていた)』のか。どこでどうなっていれば、『息子が生きている世界』だったのか。
もしかしたら、誤報と軍の態度に激怒した夫が息子を呼び戻さなければ、事故に合わなかったのかも、『息子が生きている世界』だったかもしれない。しかし、息子は息子で誤射で殺してしまった罪の意識に追込まれ、いずれは自殺していたかもしれない。
この、息子の方で起きた事件が、「if」と考えたときにも、同じような結末を迎えてたのかもしれない。どちらにしても『息子の生きている世界』はなかったようにも思える。
戦地に送った時点で、決まっていたのかもしれない。
飼い犬は、蹴られても主人に寄り添おうとする。それは、エサをもらうため、生きるための行動かもしれないが。自然界に生きるらくだにとって、人工的な道路はただの通り道の一つに過ぎない。登場人物すべてが人間らしく、身勝手で、無責任で、弱くて。
最後ヨナタンが描いた絵は、ただの事件の罪悪感の記録だった。軍は、個人ではなく集合体だから。ヨナタンはそれを口外する事は許されない。
そして、その絵を解釈する夫婦は、どこか滑稽で。軍関係者のテキトーさを忘れ、どんな意味があるかなど深追いをせず、ただ自己投影する。
「どうやって、なぜ」死んだかわからなかった最初の知らせとは違い、
「家に帰る途中、事故で」死んだとわかっていた2人は、無意識にどこかで納得している。
原題の『FOXTROT』は、4拍子の社交ダンスという劇中にも出てくるステップの意味だけど、『運命は踊る』の邦題もぴったり。
劇中、ステップを踏みながら『どこへ行こうと必ずおなじ場所に戻ってくる』と泣き崩れるシーンは、戦地に送り出した時点で『息子が生きている世界』はなかったことを示唆している。どう選択しようと、そうなったいたんだろうなと。
ラストシーン、引きで見せる交通事故のシーンは、なんとも滑稽であっけなくて。でも運命を感じる。おもしろくはないです。が、素晴らしい映画。だと思う。
2020年2月10日
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鑑賞方法:VOD
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どういう道程であろうが運命には逆らえない、というテーマが裏でずっと流れてる。ある。作中、誤ってヨルタンが殺したあの4人が車ごと埋められたことについて「戦争はなんでも起こり得る」と上官が言った。が、戦争だけではなく人生の廻り合わせはなんでも起こりうる。で、同じ場所に戻る。ゼロ地点に。
「人生の」みたいな大きな枠組みで物語を捉えたくなる映画でした。