デッド・ドント・ダイ : 映画評論・批評
2020年3月24日更新
2020年6月5日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
オフビートな笑いとこだわりの引用に満ちた、ジャームッシュ流ゾンビ映画
「死者は死なない」と、題名こそ古典的ゾンビ映画の匂いがするものの、本作は絶叫ホラーでも、「ゾンビランド」のようなコメディでもない。なんせ監督は「パターソン」でおなじみの、インディペンデント映画ひとすじに我が道を行くジム・ジャームッシュ。コメディには違いないが、笑いのツボがかなりオフビートな変化球である。それをジャームッシュ映画の常連である贅沢なキャスト陣が、真顔で演じているところがたまらない。スター・ウォーズ・ネタでたびたびいじられるアダム・ドライバーや、「キル・ビル」のユマ・サーマンをもじった刀使いの葬儀屋に扮するティルダ・スウィントン、(ドナルド・)ラムズフェルドという愛犬を可愛がる人種差別主義者に扮するスティーヴ・ブシェミ、さらに「コーヒー・ゾンビ」に扮するイギー・ポップなど、多彩なキャラが目を楽しませてくれる。
ゾンビたちのカテゴライズも絶妙で、「シャルドネ(ワイン)・ゾンビ」「ファッション・ゾンビ」「スポ根ゾンビ」「スマホ・ゾンビ」とさまざま。生きる屍になってもなおスマホを求めるゾンビには、可笑しさとともにジャームッシュの皮肉の利いた批評精神も垣間みられる。
物語は、ゾンビ映画の因習を踏襲したシンプルなものだ。平凡な田舎町である日、ダイナーのウェイトレスが何者かによって猟奇的に殺害される。やがて町に奇妙な現象が起こり始めた矢先、墓からむくむくと死者たちが蘇り(墓石のひとつに、ジャームッシュが尊敬するサミュエル・フラー監督の名前が見える)、住人たちに襲いかかる。事態を予期していたかのように静観しているのは、森で野宿する怪しい世捨て人(トム・ウェイツ)だけ。でこぼこコンビの警官(ドライバー、ビル・マーレー)は、西部劇のガンマンよろしく、ゴーストバスターズならぬゾンビバスターズとなって出動する。
もちろん、ジャームッシュはここでゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロにオマージュを捧げることも忘れてはいない。たとえば町を訪れる、セレーナ・ゴメス扮するティーンとその友人たちが乗っている車は、ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」の冒頭に出てくるのと同じポンティアック・ルマンであり、ファンには嬉しい目配せと言える。
もっとも、こういうトリビア探しに躍起にならなくても、ゆるゆるとした笑いに身を任せているうちに、映画は瞠目のエンディングを迎える。このラストをどう解釈するか、ということはさておき、ジャンル映画ですら自分流に染め上げてしまうジャームッシュのこだわりは、あっぱれという他はない。
(佐藤久理子)
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