Winny : 特集とくしゅう

＜社会しゃかいの闇やみを暴あばく問題もんだい作さく＞全ぜん日本人にっぽんじんが観みるべき重大じゅうだい事件じけん
出でる杭くいを打うつ社会しゃかいはここから始はじまった…怪かい優ゆう・東出ひがしで昌あきら大だい
が“憑依ひょうい”の熱演ねつえん、豪華ごうか俳優はいゆう陣じんが渾身こんしんの芝居しばい刻きざむ野心作やしんさく

他人たにんと違ちがう目立めだったことをすれば叩たたかれる。いま日本にっぽんの社会しゃかいを覆おおっているこの閉塞へいそくした空気くうきはいつごろ生うまれたのだろうか？

まさにその問といの答こたえの一端いったんを示しめす、インターネット史上しじょう最大さいだいの事件じけんの真相しんそうを、ほぼ全すべての関係かんけい者しゃを実名じつめいのまま描えがいた衝撃しょうげき作さくが誕生たんじょうした。

3月がつ10日とおか公開こうかいの映画えいが「Winny」は、稀代きたいの天才てんさいプログラマー・金子かねこ勇いさむが不当ふとうな逮捕たいほから無罪むざいを勝かち取とるまでの7年ねんの道みちのりを描えがいた迫真はくしんのヒューマンドラマだ。

本稿ほんこうでは社会しゃかいの闇やみをえぐり出だす実録じつろくドラマとしての本ほん作さくの魅力みりょく、そしてそれを可能かのうにした、東出ひがしで昌あきら大だいら実力じつりょく派は俳優はいゆう陣じんの“怪かい演えんじ”について紹介しょうかいしていく。

映画えいが.comは本ほん作さくこそ、良作りょうさくを求もとめる映画えいがファンが観みるべき作品さくひんであり、何なによりこの事件じけんの真相しんそうについて多おおくの日本人にっぽんじんが知しるべきであると断言だんげんする――。

【特徴とくちょう】この映画えいがは“観みるべき問題もんだい作さく”…出でる杭くいを打うつ
日本にっぽん社会しゃかいを痛烈つうれつに批判ひはんする、骨太ほねぶとのヒューマンドラマ

2002年ねんに金子かねこ勇いさむ（演えんじ：東出ひがしで昌あきら大だい）が開発かいはつ・公開こうかいしたファイル交換こうかんソフト“Winny”。日本にっぽんのネット史しを変かえる可能かのう性せいに満みちた画期的かっきてきなシステムであり、瞬またたく間まにシェアを伸のばすが、その裏うらで著作ちょさく権けんを無視むしした映画えいがやゲーム、音楽おんがくの違法いほうアップロードする利用りよう者しゃが続出ぞくしゅつし、社会しゃかい問題もんだいとなっていた。

2003年ねん、違法いほうアップロードによる著作ちょさく権けん侵害しんがいでWinny利用りよう者しゃが逮捕たいほされる事件じけんが起おこり、さらに翌よく2004年ねんには、金子かねこ自身じしんも著作ちょさく権けん法ほう違反いはん幇助ほうじょの容疑ようぎで逮捕たいほされてしまう。金子かねこの弁護べんごを担当たんとうすることになったのは、サイバー犯罪はんざいに詳くわしい弁護士べんごし・壇だん俊光としみつ（演えんじ：三浦みうら貴たか大だい）。

このまま金子かねこが有罪ゆうざいになれば、日本にっぽんの技術ぎじゅつ者しゃが委縮いしゅくしてしまう。金子かねこと壇だんは技術ぎじゅつ者しゃの未来みらいと権利けんりを守まもるべく戦たたかうことを決意けついする――。

約やく7年ねんにおよぶ裁判さいばんでの戦たたかいを描えがく本ほん作さくだが、描写びょうしゃそのものは過度かどにドラマチックに煽あおりたてるものではない。では刺激しげき的てきな“問題もんだい作さく”たる本質ほんしつはどこにあるのか？ それは強靭きょうじんなテーマ性せい――現在げんざいの日本にっぽんを覆おおう“空気くうき”に対たいする鋭するどい批判ひはんにほかならない。

実じつは、金子かねこの逮捕たいほは“通常つうじょうはありえない”ものだった。Winnyを利用りようして違法いほう行為こういを犯おかした人ひとは逮捕たいほされてしかるべきだが、開発かいはつした本人ほんにんは違法いほう行為こういを犯おかしていないからである。劇げき中ちゅうのたとえを借かりれば、「包丁ほうちょうで刺さした人ひとは逮捕たいほできるが、包丁ほうちょうをつくった職人しょくにんは逮捕たいほできない」のだ。

しかし、現実げんじつの金子かねこ勇いさむ氏しは逮捕たいほされた。それはなぜなのか？　本ほん作さく「Winny」は、金子かねこが逮捕たいほされた顛末てんまつと裁判さいばんの様子ようすを克明こくめいに描えがき、強引ごういんな捜査そうさを繰くり返かえした警察けいさつへの疑問ぎもんを投なげかける。

さらに、その眼差まなざしは日本にっぽん社会しゃかい全体ぜんたいにまで注そそがれる。イノベーションをもたらす者ものの粗あらを探さがし、ミスや過失かしつをあげつらい、再起さいき不能ふのうになるまで叩たたく。そんな光景こうけいがこの十じゅう数すう年ねんだけでも何なん度ども繰くり返かえされてきた。その結果けっか「出でる杭くいは打うたれる」という意識いしきが社会しゃかい全体ぜんたいに浸透しんとうし、いつしか日本にっぽんは「天才てんさいが大成たいせいしない社会しゃかい」とまで言いわれるようになった。

このWinny事件じけんはそんな風潮ふうちょうを象徴しょうちょうするものといえる。では事件じけんの最大さいだいの“罪人ざいにん”は誰だれなのか？　金子かねこ？　警察けいさつ？　国家こっか？ マスコミ？ 大衆たいしゅう？　それとも……。裁判さいばんの行方ゆくえを映画えいが館かんの客席きゃくせきからのぞいているつもりが、実じつは我々われわれこそ証言しょうげん台だいに立たたされ「こんな社会しゃかいで本当ほんとうにいいんですか？」と問といかけられているのかもしれない。

実際じっさいの事件じけんをベースに精緻せいちな法廷ほうていドラマを淡々たんたんと描えがきつつ、登場とうじょう人物じんぶつたちの人間にんげん的てきな魅力みりょくを感かんじさせ、なおかつ現代げんだいに生いきる我々われわれに警鐘けいしょうを鳴ならす――。社会しゃかい性せいとエンタテインメント性せいの両立りょうりつと迫真はくしんの映像えいぞうクオリティはハリウッド映画えいがをも彷彿ほうふつとさせる。

演出えんしゅつ・脚本きゃくほんの松本まつもと優作ゆうさく監督かんとくは、勢いきおいとエネルギーを放出ほうしゅつする一方いっぽうで、ベテランの社会しゃかい派は監督かんとくのような円熟味えんじゅくみをもみせてくれるが、なんと撮影さつえい当時とうじ28歳さい。そんな新鋭しんえい監督かんとくの下したに主演しゅえんの2人ふたりに加くわえ、渡辺わたなべいっけい、吹越ふきこし満みつる、さらには吉田よしだ羊ひつじ、吉岡よしおか秀隆ひでたから多おおくの実力じつりょく派は俳優はいゆう陣じんが集たかったのは「面白おもしろい作品さくひんになる」「これを世よに送おくり出ださねば」という熱あつい野心やしんがあったからこそ！

ハイライトは、弁護べんご側がわが警察けいさつ、検察けんさつの“嘘うそ”を暴あばいていく反対はんたい尋問じんもんのシーン。演えんじたのは吹越ふきこし満みつる（弁護べんご）、渡辺わたなべいっけい（警察けいさつ）だ。超ちょう一流いちりゅうの演技えんぎと演技えんぎのぶつかり合あいを通つうじて、徹底てっていして法廷ほうていでの論戦ろんせん、つまり“言葉ことば”による戦たたかいを魅みせる。そして本件ほんけんがいかに矛盾むじゅんに満みちた不当ふとうなものであるかを明あきらかにしていくさまは圧巻あっかんで痛快つうかいだ。鋭するどい言葉ことばの槍やりに痺しびれるだろう！

【主演しゅえん・東出ひがしで昌あきら大だい】この男おとこ、怪かい優ゆうであり憑依ひょうい型がた――！
超ちょうリアルな演技えんぎと息いきを呑のむ存在そんざい感かんに、関係かんけい者しゃも驚おどろきの声こえ

やはり、本ほん作さくを語かたる上じょうで欠かかすことができないのは、金子かねこを演えんじた東出ひがしで昌あきら大だいの存在そんざいである。正直しょうじきに告白こくはくすれば、彼かれにまつわる一連いちれんの報道ほうどうを我々われわれも把握はあくしている。

しかし、今回こんかいはあくまでも、“映画えいがのなかのいち俳優はいゆう”としての東出ひがしで昌あきら大だいについて語かたらせていただく。本ほん作さくのために18キロも増量ぞうりょうしたという見みた目めの変化へんかも含ふくめ、もはや“怪かい演えんじ”という言葉ことばがふさわしいからだ。

今いま作さくの東出ひがしでの演技えんぎタイプをあえてカテゴライズするならば、“憑依ひょうい型がた”だ。先述せんじゅつの18キロの増量ぞうりょうはあくまでも見みた目めの変化へんかだが、その“器うつわ”に金子かねこ氏しが乗のり移うつったのか？ と思おもわせるほど別人べつじんになり切きっている。

取とり調しらべで言いわれるがまま調書ちょうしょにサインをしてしまうなど、他人たにんの言葉ことばを疑うたがおうとしない世間せけん知しらずなさまや、弁護べんご団だんのメンバーからも「つかみどころがない」と言いわれ、一番いちばんの味方みかたである壇だんに「金子かねこさん、勘弁かんべんしてくださいよ！」と呆あきれられるほどのマイペースぶり……。

そして、自身じしんの開発かいはつしたソフトについて、夢中むちゅうになって説明せつめいする様子ようすなど、生前せいぜんの金子かねこ氏しを知しる人々ひとびとが「生いき写うつしのよう」と口々くちぐちに語かたっている。特とくに、金子かねこ氏しの姉あねが「（映画えいがを観みて）弟おとうとが生いき返かえったようで、思おもわず涙なみだが出でてしまいました」と東出ひがしで宛あての手紙てがみにしたためるほどの怪かい演えんじをぜひ劇場げきじょうで目めに焼やき付つけてほしい。

【鑑賞かんしょうの手引てびき】
“あの映画えいが”が衝撃しょうげき受うけたなら、「Winny」は必見ひっけん

最後さいごに、読者どくしゃの皆様みなさまへ。本ほん作さくから得えられる衝撃しょうげきや感情かんじょうをより想像そうぞうしてもらいやすいように、いくつかの類似るいじ作さくをピックアップ。

特とくに、弁護士べんごしと被告ひこくの人間にんげんドラマが心しんを打うつ法廷ほうてい劇げきの名作めいさく、天才てんさいやイノベーターの内面ないめんをスリリングに描えがく傑作けっさくが好すきな映画えいがファンであれば、「Winny」は以下いかの作品さくひんと同おなじ棚だなに並ならぶ大切たいせつな作品さくひんとなるはずだ。

本ほん作さくの松本まつもと優作ゆうさく監督かんとくも好すきな作品さくひんに挙あげている近年きんねんの法廷ほうていドラマの名作めいさく。1968年ねんの民主党みんしゅとう大会たいかいにおけるデモ隊たいと警察けいさつの衝突しょうとつ事件じけんの7名めいの被告ひこく、彼かれらを支ささえる弁護士べんごしや支援しえん者しゃたちの戦たたかいをドラマチックに描えがく。

性的せいてき暴行ぼうこう容疑ようぎで逮捕たいほされた黒人こくじん青年せいねんの弁護べんごを担当たんとうする、白人はくじん弁護士べんごしを主人公しゅじんこうにした法廷ほうていドラマの金字塔きんじとう。裁判さいばんに挑いどむ人々ひとびとを通つうじ、社会しゃかいの差別さべつや空気くうき感かんを浮うき彫ぼりにする点てんで、「Winny」に深ふかく通つう底そこしている。

弁護士べんごしのアツい“想おもい”が「Winny」に通つうじる。犯おかしてもいない罪つみで死刑しけい宣告せんこくされた黒人こくじんの被告人ひこくにんを助たすけるため、新人しんじん弁護士べんごしのブライアンが立たち上あがる。が、仕組しくまれた証言しょうげんや白人はくじんの陪審ばいしん員いんたち、証人しょうにんや弁護士べんごしたちへの脅迫きょうはくなど、数々かずかずの困難こんなんに直面ちょくめんする。

「Facebook」の創設そうせつ者しゃマーク・ザッカーバーグの非凡ひぼんな才能さいのうと特異とくいなキャラクターを中心ちゅうしんに、Facebookがどのようにして世界せかいを席巻せっけんするに至いたったのかを描えがく。舞台ぶたいは2000年代ねんだいなので、ちょうど「Winny」の時代じだい背景はいけいとも一致いっちする。

しがないセールスマンが、あのマクドナルドの創業そうぎょう者しゃとなるまでを描えがいた実話じつわもの。「この男おとこは怪物かいぶつなのか、英雄えいゆうなのか」を観客かんきゃくに問とう物語ものがたり展開てんかいが「Winny」に通つうじる。

「天才てんさいを描えがいた映画えいが」というと、「ソーシャル・ネットワーク」と並ならんで即座そくざに連想れんそうする作品さくひん。「Winny」は、今いま作さくを含ふくめ上述じょうじゅつの作品さくひん群ぐんとは物語ものがたり展開てんかいやテイストがまったく同おなじというわけではないが、「天才てんさいの頭脳ずのうをのぞいてみたい」と考かんがえる人ひとはまず鑑賞かんしょうしてみるといい。