ジョジョ・ラビット

　オープニングに流ながれる「I Want To Hold Your Hand」ドイツ語ごバージョン（カバーではなくビートルズ演奏えんそう！）がフックになって、この物語ものがたりの世界せかいに引ひき込こまれていく。ナチスドイツが支配しはいする時代じだいのイメージにそぐわないカラフルな世界せかい観かん。あどけなく愛あいらしい主人公しゅじんこうジョジョ、明あかるくてユーモアのある母親ははおや。一見いっけん、子供こどもも無邪気むじゃきに見みていられる安全あんぜん仕様しようの作品さくひんなのかと錯覚さっかくする。

　しかしこの映画えいがは、語かたり口くちはそのままに、容赦ようしゃない現実げんじつをぼかさず淡々たんたんと差さし込こんでくる。物語ものがたりの中なかで観客かんきゃくは、自分じぶんの日常にちじょうの中なかで悲劇ひげきに遭遇そうぐうするのに近ちかい衝撃しょうげきを受うける。そして、ジョジョのヒトラーへの心酔しんすいとユニークな空想くうそうの世界せかいを生うんだ背景はいけいの悲かなしさ、残酷ざんこくさを実感じっかんとして知しることになる。
　ほのぼのした語かたり口くちとシビアな展開てんかいは「ライフ・イズ・ビューティフル」を彷彿ほうふつとさせる。ルックス以上いじょうに骨太ほねぶとな作品さくひん。

　サム・ロックウェルが、「スリー・ビルボード」「リチャード・ジュエル」に続つづき今いま作さくでも彼かれでないとと思おもわせるインパクトを残のこしている。自己じこの信条しんじょうを秘ひめて温あたたかく軽妙けいみょう洒脱しゃだつにふるまう母親ははおやを演えんじたスカーレット・ヨハンソン。映画えいが全体ぜんたいの温あたたかい空気くうきは主おもに彼女かのじょによるもの。どこかポップな感かんじの衣装いしょうがどれもよく似合にあっていて見みとれてしまう。
　ジョジョ役やくのローマン・グリフィン・デイビスは撮影さつえい当時とうじ１１歳さいだったそうだが、作品さくひんとインタビューを見みて、完全かんぜんに大人おとなの理解りかい力りょくを持もっていることに驚おどろいた。次つぎの作品さくひんを見みたい天才てんさい子役こやく。

　FOXサーチライト印しるしの作品さくひんに外はずれなし、ということをまた確信かくしんしてしまった作品さくひんでもある。

追記ついき

　その後ご再さい観賞かんしょう。
　あらかじめ流ながれを知しってから見みると、ディテールがより鮮明せんめいに見みえてきて1度目どめより深ふかく心しんに響ひびいた。
　キャプテンKは最初さいしょから色々いろいろと分わかっていたのだろう。ジョジョの家いえに来くるくだりやラストは彼かれの思おもいを想像そうぞうすると切せつなくなった。
　ジョジョの成長せいちょうのアイコンである靴くつ紐ひもに関かかわる描写びょうしゃは改あらためて素晴すばらしいと思おもった。
　いたずらに感動かんどうを煽あふらない描えがき方かただからこそ心こころ動うごかされるものがある。スタンダードになってゆくであろう特別とくべつな作品さくひん。

もちろん、子こを持もつ親おやにしてみれば、子こを第だい一いち優先ゆうせんにしていなかったような「あの結果けっか」は死しぬほど悔くやしいし、その前まえの足元あしもとだけの、からのしつこいほどの描写びょうしゃも「あれありき」でズルいんだけど、一応いちおう子供こども目線めせんの、という注釈ちゅうしゃくがつく映画えいがなので、素直すなおにそこは泣なかされた。

中盤ちゅうばんのお決きまりのゲシュタポ家宅かたく捜査そうさ、ジョジョの、ユダヤ人じんに対たいする「教育きょういく」とエルザの「嘘うそ」でつづられた本ほんが救すくう皮肉ひにく。

ラストの「ドイツが勝かった」。

すべてを失うしなったジョジョの嘘うそ。その嘘うそを解とき放はなった勇気ゆうきこそが靴くつ紐ひもを結むすばせる。

ジョジョの成長せいちょうのみを丹念たんねんに丁寧ていねいに追おった映画えいがだけど、その後ごの「敗戦はいせん国こくドイツ」の惨状さんじょうを知しっているものにとっては、いくらなんでも能のう天気てんきすぎる、という気持きもちもある。

だがそこで「Heroes」

これまでも映画えいがでこの曲きょくがアホのように使つかわれきたが、

We can be heroes for just one day

「敗戦はいせん国こくドイツ」の惨状さんじょうがこのあと二に人にんを待まち受うけている。にしても、この日ひだけは、という歌詞かしがぴったりくる。

この二人ふたりに限かぎらず、今いまは、今日きょうだけは、まずは自由じゆうを謳歌おうかし、踊おどろう。