ワンダーウォール　劇場げきじょう版ばん

私わたしはこの作品さくひんを観みる度たびにこれは自分じぶんの物語ものがたりだと思おもえる。
寮内りょうないでも賛否さんぴ両論りょうろんあったし、自分じぶんたちが住すんでいた寮りょうとは少すこし違ちがうなと感かんじる部分ぶぶんもあるけど、それはこの作品さくひんで訴うったえたいことの核心かくしんではないし、多おおくの制約せいやくがあるなかで役者やくしゃやスタッフの方々かたがたは自治じち寮りょうが置おかれた状況じょうきょうを、自分じぶんたちにできるやり方かたで少すこしでも多おおくの人々ひとびとに伝つたえられるよう頑張がんばってくださったと感かんじています。
この作品さくひんに携たずさわってくれた皆みなさんに本当ほんとうに感謝かんしゃしてる。

大だいファンの脚本きゃくほん家か、渡辺わたなべあやさんの作品さくひんなのにテレビドラマ版ばんを見みそびれてしまっていたので、劇場げきじょう版ばんは必かならず、と心しんに決きめて見みに行いきました。
この度たび2022/7/23は二に度目どめの鑑賞かんしょうでしたが、68分ふんという短みじかい上映じょうえい時間じかんの中なかに詰つまった「素晴すばらしく濃こくて深ふかいメッセージ」と「非常ひじょうに高たかいレベルの映像えいぞう音楽おんがく表現ひょうげん」を一人ひとりでも興味きょうみある方ほうに見みて頂いただきたいと思おもって紹介しょうかいします。

この映画えいがは、築ちく100年ねん近ちかくになる大だい学寮がくりょうの存続そんぞくか建替たてかえかの攻防こうぼうを描えがく物語ものがたりですが、その中なかに「寮りょうで生活せいかつする学生がくせいたちの、独特どくとくのキャラクターとそこに基もとづく自治じちや文化ぶんか」を鮮あざやかに、自由じゆうに、生いき生いきと、でも迷まよいある青あおき春はるとしての描写びょうしゃが包含ほうがんされています。

物語ものがたりを通つうじて、映画えいがは問といかけます。
長ながく学生がくせいと営いとなみを続つづけ、そして時代じだいとともに在あり続つづけた寮りょうの存在そんざいは、「経済けいざい至上しじょう主義しゅぎが社会しゃかいの幸福こうふくにとって一番いちばんに必要ひつようなのか」「私わたしたちが幸しあわせになるためには、この寮りょうで受うけ継つがれていることこそが本当ほんとうは必要ひつようなのではないか」ということを。
この問といは、まさにこの数すう十じゅう年ねんの間あいだに私わたしたちが忘わすれ去さろうとしている『大切たいせつにしなければいけないこと』を思おもい出ださせ、映画えいがのメッセージとなって心しんのなかに降おりてきます。

特とくに、最近さいきんの「生産せいさん性せいや効率こうりつ重視じゅうしの考かんがえ方かた」や「弱者じゃくしゃを切きり捨すて排除はいじょする」、多様たよう性せいとは嘘うそばかりの、世よの中なかの動うごきに嫌悪けんお感かんを覚おぼえる自分じぶんの感覚かんかくとこれほどシンクロした映画えいがは久ひさしぶりでした。
脚本きゃくほんを書かいたあやさんも「権力けんりょく側がわの人ひとが知しらないうちにどんどん社会しゃかいを変かえて行いこうとする恐おそろしさを感かんじる」と言いっています。私わたしも本当ほんとうにそう思おもいます。

昭和しょうわの青春せいしゅん時代じだいを思おもい出だし、あの頃ころの、今いまよりも自由じゆう闊達かったつな空気くうきを取とり戻もどしたいと思おもいませんか。
若わかい人ひとなら、そういう時代じだいの空気くうきに触ふれてみたいと思おもいませんか。
それは空むなしい理想りそうかもしれない。でも、理想りそうを追おうことは人間にんげんのとても大切たいせつな在あり方かたというか価値かちというか、そういうことだと思おもうのです。

現在げんざいはAmazonプライムで見み放題ほうだいメニューで上あがっていますので、会員かいいんの方ほうはいつでも見みれます。
渡辺わたなべあやさんの、絶妙ぜつみょうな距離きょり感かんと対話たいわで描えがかれる素敵すてきな世界せかい（私わたしはこの世界せかい観かんが本当ほんとうに大好だいすきなのですが）を体験たいけんし、この先さきの未来みらいをちょっと立たち止どまって考かんがえてみませんか。

個人こじん的てきに、映画えいがを見みていろいろ考かんがえることが好すきです。名古屋なごやで「映画えいがサロン」に参加さんかするようになってこの作業さぎょうは一層いっそう濃密のうみつなものになっています。これからもエンタメを通つうじて刺激しげきを受うけ、考かんがえ続つづけたいと思おもいます。

ドキュメンタリー風ふうだし、京大きょうだいの事ことを映画えいがにしてるとしかみえないですが、見事みごとにフィクションです、まるで現実げんじつの要素ようそゼロのシロモノです。
ロケ地ちが京都きょうと府庁ふちょうであることは良よいとして、内容ないようはまるでウソ丸出まるだしです。
現実げんじつを知しるものとしては、痛いたいですね、これが本物ほんものだと思おもわれることに。
完全かんぜんな創作そうさくだと割わり切きれば良よいのかもしれませんが、取材しゅざいを手抜てぬきするためのエセドキュメンタリーのような気きがして、嫌悪けんお感かんを覚おぼえました。
これは全部ぜんぶウソだとゆうこと前提ぜんていにして観みてください。