ブラック・ウィドウ

過去かこのシーンをじっくり描えがいた序盤じょばんは若干じゃっかんスロースタートな印象いんしょうをうけましたが、それが物語ものがたりをつらぬく大おおきなテーマにも繋つながっていて骨太ほねぶとのドラマが堪能かんのうできました。「シビル・ウォー　キャプテン・アメリカ」「アベンジャーズ　インフィニティ・ウォー」など、ある程度ていどMCU作品さくひんを見みていないと分わからないところもありますが、疑似ぎじ家族かぞくのお話はなしとして予備よび知識ちしきなしで見みても楽たのしめると思おもいます。
予告よこくで目めを引ひいた落下らっかしながらの超絶ちょうぜつアクションは、工夫くふうが凝こらされていてかなりの見みごたえがあり、劇場げきじょうでしか味あじわえない醍醐味だいごみがありました。

劇場げきじょう公開こうかい版ばんとしては『MCU』の幕開まくあけを担になうことになった映画えいが『ブラック・ウィドウ』。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)と『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18)の間あいだ、つまりブラック・ウィドウにとって空白くうはくの時間じかんを利用りようして、彼女かのじょの悲かなしい少女しょうじょ時代じだいと、類るいい稀まれなスパイとしてのスキルとアイデンティティを解とき明あかそうとするのが本ほん作さくの目的もくてきだ。だからあえて形容けいようするとしたら、『プリクエル&スピンオフ』が正ただしいかもしれない。

幼おさなくしてスパイになるべく運命うんめいづけられ、人ひととは違ちがう成長せいちょうのプロセスを踏ふんできたブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフが、どうしても手てに入いれたかったもの。それは"家族かぞく"だ。最さい新鋭しんえいのSFXを駆使くししてあらゆる角度かくどから躍動やくどうするヒロインの姿すがたを捉とらえるアクションシーンに、シリーズ他た作品さくひんと比較ひかくして見劣みおとりする部分ぶぶんは全然ぜんぜんない。反面はんめん、ここで描えがかれるのは、たとえそれが偽いつわりだとしても"家族かぞく"の結束けっそくを求もとめてやまないナターシャの献身けんしんぶり。それが、もう一ひとつの"疑似ぎじ家族かぞく"とも言いえるアベンジャーズの中なかで、まとめ役やくを請うけ負おってきた彼女かのじょの姿すがたと重かさなるとき、謎なぞめいたヒロインの本質ほんしつが明あきらかになるのだ。

ナターシャの"妹いもうと"で"姉あね"と協力きょうりょくして2人ふたりをスパイに育そだて上あげた暗黒あんこく組織そしき"レッドルーム"に立たつ向むかうエレーナを演えんじるフローレンス・ピューのコメディリリーフぶり、コミックブックに書かかれたブラック・ウィドウのファム・ファタール的てきイメージを見事みごとに払拭ふっしょくした監督かんとく、ケイト・ショートランドの斬新ざんしんな視点してんも含ふくめて、『MCU』に新あらたな女性じょせい像ぞうを持もち込こんだ本ほん作さく。最大さいだいの功労こうろう者しゃがブラック・ウィドウに本物ほんものの血肉けつにくを通かよわせ、弱よわさを強つよさに変換へんかんしてみせたスカーレット・ヨハンソンであることに疑うたがう余地よちはない。

　これまで何人なんにんもの先人せんじんたちが挑戦ちょうせんし、挫折ざせつして来きた演技えんぎ派はアクション女優じょゆうとしてのステイタスを手てに入いれた数少かずすくない俳優はいゆうの1人ひとり、スカーレット・ヨハンソンのサバイバルの歴史れきしが、映画えいがを背後はいごで力強ちからづよく支ささえているような気きがする。