名めい探偵たんていコナン　緋色ひいろの弾丸だんがん

偶然ぐうぜんか必然ひつぜんかわからないが、今いまの国民こくみん感情かんじょうに寄より添そった作品さくひんだった。タイトルの「弾丸だんがん」とは、真空しんくう超電導ちょうでんどうリニアのこと。これがオリンピックを模もしたワールドスポーツゲームのメイン会場かいじょう（ザハ案あんのデザインに近ちかい競技きょうぎ場じょうだ）に突つっ込こむ。そこから先さきは描写びょうしゃされていないが、開催かいさい直前ちょくぜんにメイン会場かいじょうでこれだけの大だい事故じこが起おきたら、開催かいさい不可能ふかのうなのではないかと思おもわれる。今いまの日本人にっぽんじんにとってこれ以上いじょう痛快つうかいな破壊はかいのカタルシスはないのではないか。
五輪ごりん開催かいさい中止ちゅうしの意見いけんがこれほど高たかまっていたのは、製作せいさく者しゃたちにとっては偶然ぐうぜんだろう、だが、そもそも、これをオリンピックイヤーにぶつけてきたのは偶然ぐうぜんじゃないはずだ。よくよく考かんがえたら、随分ずいぶんアナーキーなアイデアだ。
冒頭ぼうとう、過去かこのシーンでシカゴの競技きょうぎ場じょうの建設けんせつが間まに合あいそうにないというニュース映像えいぞうが挿入そうにゅうされる。特とくに物語ものがたりに絡からまない要素ようそなのだが、どうして建設けんせつが遅おくれている設定せっていにしたのだろうか。日本にっぽんの実際じっさいの国立こくりつ競技きょうぎ場じょう建設けんせつにかんする騒動そうどうを何なんとなく揶揄やゆしているようにも見みえる。
物語ものがたりそのものは、アクション要素ようそに比重ひじゅうを置おいた、いつもながらのコナン映画えいがだ。リニアモーターカーという移動いどうする舞台ぶたいを用意よういしたのだから、もっとガッツリ車内しゃないを中心ちゅうしんに展開てんかいしてもよかったのでは、という気きもするが、基本きほん的てきに今回こんかいも飽あきることなく最後さいごまで楽たのしめた。灰はい原ばらの活躍かつやくが多おおかったのも嬉うれしい。

本ほん作さくは、「ゼロの執行しっこう人じん」と❝対たい❞になるような作品さくひんだと私わたしは思おもっています。
まず「ゼロの執行しっこう人じん」では、「安室あむろ透とおる」(＝「降くだ谷たに零れい」)をメインにして、作品さくひんの独自どくじ性せいのため日本にっぽんの公安こうあん警察けいさつを使つかっています。
そして「緋色ひいろの弾丸だんがん」では、「赤井あかい秀一ひでかず」(＝「沖おき矢や昴すばる」)をメインにして、作品さくひんの独自どくじ性せいを出だすためアメリカのFBI(連邦れんぽう捜査そうさ局きょく)を使つかっています。そのため、本ほん作さくの冒頭ぼうとうシーンは、劇場げきじょう版ばんらしいクールな感かんじに仕上しあがっています。
「ゼロの執行しっこう人じん」の際さいは、公安こうあん警察けいさつにも種類しゅるいがある、ということがスパイスとなっていましたが、「緋色ひいろの弾丸だんがん」では、アメリカの公的こうてき機関きかんもFBIだけではない、など、構造こうぞうが似にています。
とは言いえ、これらはあくまでスパイスであって、「緋色ひいろの弾丸だんがん」では、日本にっぽんでも完成かんせい時期じきが見みえている「超ちょう伝導でんどうによるリニア新幹線しんかんせん」などが登場とうじょうし、少すこし先さきの世界せかいを描えがき出だしています。

本ほん作さくの最大さいだいのカギは何なにと言いっても「赤井あかいファミリーの相関そうかん関係かんけい」でしょう。
これは、最初さいしょに解説かいせつがコナンのナレーションで流ながれますが、全まったく知しらない人ひとに理解りかいさせるのは、正直しょうじき、困難こんなんだと思おもわれます。
しかも、これを押おさえていないと面白おもしろさが半減はんげんしてしまうので、見みる前まえには「赤井あかい秀一ひでかず」と弟おとうと「羽田はた秀吉ひでよし」と妹いもうと「世良せら真純ますみ」と母はは「メアリー」との関係かんけいだけはしっかり把握はあくしておいた方ほうがいいです。
(詳くわしくは、次つぎのコラム　https://eiga.com/extra/hosono/120/　にて解説かいせつしています)

さて、これらの予備よび知識ちしきが入はいっているのであれば、あとは次つぎから次つぎへと起おこる展開てんかいに身みを任まかせるだけです。
実写じっしゃ映画えいがだと「この展開てんかいが重かさなるのは数すう億おく分ぶんの1程度ていどだからあり得えない」などと考かんがえてしまうかもしれませんが、あくまで「名めい探偵たんていコナン」という子供こどもから大人おとなまでが楽たのしめる世界せかい観かんでの話はなしです。(確率かくりつ論ろんはさておき)いちおう論理ろんりは最初さいしょから最後さいごまでキチンとつながっているのです。
ここまでテンポ良よく、ダイナミックな展開てんかいを見みせるには、これがベストなのでは、と私わたしは思おもっています。
1回かい見みて全すべてを理解りかいできる人ひとは意外いがいと少すくないのかもしれません。たぶん1回かい目めより2回かい目めの方ほうが、より楽たのしめる作品さくひんだと思おもいます。