君きみが世界せかいのはじまり : 映画えいが評論ひょうろん・批評ひひょう

2020年ねん7月がつ28日にち更新こうしん

2020年ねん7月がつ31日にちよりテアトル新宿てあとるしんじゅくほかにてロードショー

思春期ししゅんきの世界せかいを再さい構築こうちくする営いとなみに、令れい和かず日本にっぽんの風かぜが吹ふく

好すきという気持きもちをうまく伝つたえられないもどかしさ。文学ぶんがくであれ映画えいがであれ“青春せいしゅん”と冠かんされる作品さくひんでたびたび描えがかれてきた感情かんじょう。「君きみが世界せかいのはじまり」の登場とうじょう人物じんぶつたちも同おなじ思おもいを抱かかえるが、本ほん作さくの魅力みりょくを語かたろうとする時ときも、それに近ちかいもどかしさを覚おぼえてしまう。

「おいしい家族かぞく」で長編ちょうへん監督かんとくデビューを果はたした1991年ねん生うまれ、大阪おおさか府ふ茨木いばらぎ市し出身しゅっしんのふくだももこによる第だい2作さく。彼女かのじょが自身じしんの体験たいけんを反映はんえいさせて書かいたであろう小説しょうせつ2編へん「えん」と「ブルーハーツを聴きいた夜よる、君きみとキスしてさようなら」を向井むかい康やすし介かい（「リンダリンダリンダ」）が脚本きゃくほん化かし、高校こうこう2年生ねんせい6人にんの数すう週間しゅうかんを描えがく群像ぐんぞう劇げきだ。

松本まつもと穂香ほにおいが演えんじる縁えん（ゆかり）は、親友しんゆうの琴きん子こから「ゆかり言いうよりエンっぽいわ」との理由りゆうでエンと呼よばれている。琴子ことこは男子だんしに滅法めっぽうモテる。そんな琴子ことこが一目惚ひとめぼれした陰かげのある業平なりひら、エンと親したしいが琴子ことこに憧あこがれるサッカー部ぶキャプテンの岡田おかだ。ショッピングモールの暗くらい階段かいだんで、それぞれの親おやへの鬱屈うっくつした思おもいを紛まぎらすかのように互たがいを求もとめる純じゅんと伊尾いお。

物語ものがたりの舞台ぶたいは、学校がっこうと自宅じたく、地元じもと商店しょうてん街がい、ショッピングモール。平成へいせいのいわゆる“セカイ系けい”作品さくひん群ぐんが半径はんけい5mの出来事できごとを描えがいたとするなら、本ほん作さくの世界せかいは半径はんけい5kmぐらいか。モールに象徴しょうちょうされるように何なんでも揃そろう便利べんりさがある一方いっぽうで、外界がいかいに開ひらかれず、抜ぬけ出だせない閉塞へいそく感かんが漂ただよう。血縁けつえんや地縁ちえんには居心地いごこちの良よさと鬱陶うっとうしさが相あい半なかばする。輪わのように閉とじた世界せかいを強調きょうちょうするかのごとく、エンの「まんまるの顔かお、まんまるの目め」、自転車じてんしゃで校庭こうていに描えがく円えん、太陽たいよう、たこ焼やきといった円形えんけいのモチーフが頻出ひんしゅつ。彼かれらのうち4人にんの片想かたおもいの連つらなりも円えん環たまき構造こうぞうだ。縁えんのあだ名ながエンである理由りゆうも、原作げんさく者しゃで監督かんとくのふくだが再さい構築こうちくする世界せかいの中心ちゅうしんに彼女かのじょを据すえたからだと考かんがえられる。

THE BLUE HEARTSの名曲めいきょく「人ひとにやさしく」の活用かつようも巧たくみだ。序盤じょばんでは、苛立いらだちを募つのらせた純じゅんがスマホで「気きが狂くるいそう」と検索けんさくして出会であうオリジナル音源おんげん。深夜しんやのモールに5人にんが忍しのび込こむ場面ばめんでは、楽器がっきを当あて振ふりする映像えいぞうに重かさなる、業平なりひら役やく・小室こむろぺいのバンドNITRODAYによるカヴァー音源おんげん。エンドロールでは松本まつもと穂香ほにおいによるアカペラ。救済きゅうさい、仲間なかまと自分じぶんへの励はげまし、目めの前まえにいる誰だれかへの語かたりかけと変化へんかするスタンスは、登場とうじょう人物じんぶつらのささやかな成長せいちょうの軌跡きせきと重かさなる。

ブルーハーツの登場とうじょうは昭和しょうわ末まつだし、均質きんしつ化かされた郊外こうがい都市としの斜陽しゃようは平成へいせいのありふれた風景ふうけいだ。だが令れい和わの今いま、コロナの時代じだいに公開こうかいされることで、若わかい世代せだいの共感きょうかんや中高年ちゅうこうねんの懐古かいこを呼よぶだけに留とまらない、特別とくべつな切実せつじつさと重おもみを感かんじさせる効果こうかが加くわわった。先行さきゆきが見通みとおせない世界せかいで、閉塞へいそく感かんに覆おおわれ、自分じぶんの将来しょうらいは、家族かぞくや大切たいせつな人ひととの関係かんけいはどうなるのかと不安ふあんを募つのらせるのは、今いまや若者わかものだけではないから。暗くらい時代じだいゆえに普遍ふへん性せいを増ますという因果いんがも、作品さくひんの魅力みりょくを簡明かんめいに伝つたえにくくする要素ようそかもしれない。