返かえし校こう　言葉ことばが消きえた日ひ

台湾たいわんが言論げんろん統制とうせい下かにあった「白色はくしょくテロ時代じだい」を背景はいけいにしたホラーのように見みえるが、廃墟はいきょと化かして、顔かおが鏡かがみで提灯ちょうちんをさげた化ばけ物ものが反はん政府せいふ分子ぶんしを処刑しょけいするために警邏けいらする学校がっこうは、言論げんろん統制とうせいされた社会しゃかいのイメージなのだ。つまり、作中さくちゅうのホラーハウス化かした学校がっこうは、相互そうご監視かんしと密告みっこくが日常にちじょう化かした言論げんろん統制とうせい社会しゃかいのメタファーだ。そしてそれは、拷問ごうもんの最中さいちゅうにウェイが見みた「悪夢あくむ」として観客かんきゃくの眼前がんぜんに表あらわれる。
社会しゃかい学者がくしゃの宮台みやのだい真司しんじは、なぜ東欧とうおうが第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごに密告みっこく社会しゃかい化かしたのか、について、こう説明せつめいしていた。「東ひがしロろーマ帝国まていこく以来いらい、民衆みんしゅうの『心しんの管理かんり』と『身体しんたいの管理かんり』を宗教しゅうきょう権力けんりょくが一元いちげん的てきに握にぎった。そのため、人々ひとびとは自分じぶんが正ただしい心しんの持もち主ぬしであることを示しめすため、正ただしくない心しんを持もつ者ものを告発こくはつする強迫きょうはく的てきな状態じょうたいに置おかれた。この伝統でんとうが密告みっこく社会しゃかいに親和しんわ的てきだった」と。
さて、いったん密告みっこく社会しゃかいが出来上できあがってしまうと、思想しそうやイデオロギーとは関係かんけいなく、嫉妬しっとや私怨しえんといった個人こじん的てき感情かんじょうを晴はらすために密告みっこくを利用りようするようになる。本ほん作さくでは、女学生じょがくせいのファンが、慕したっているチャン先生せんせいから、恋仲こいなかにある同僚どうりょう教師きょうしを遠とおざけるため、発禁はっきん本ほんの読書どくしょ会かいの存在そんざいを密告みっこくする。結果けっか、チャン先生せんせいまで逮捕たいほされ、処刑しょけいされてしまう。そして、ファンは密告みっこくしたことを告白こくはくし、良心りょうしんの呵責かしゃくから自殺じさつする。チャン先生せんせいから、生いきてさえいれば希望きぼうはある、と声こえをかけられたウェイは、読書どくしょ会かいについて供述きょうじゅつし、唯一ゆいいつの生存せいぞん者しゃとなる。
校内こうないを徘徊はいかいする、反はん政府せいふ分子ぶんし狩かりの化ばけ物ものの顔かおは、なぜ鏡かがみなのか。相互そうご監視かんしが常態じょうたい化かした社会しゃかいの構成こうせい員いんは、みな、どこか負おい目めを感かんじている。怖こわいのは、他たの誰だれでもない、自分じぶん自身じしんなのだ。ファン・レイシンは、自みずからの行おこないを後悔こうかいし、ウェイを助たすける決意けついをした時とき、その鏡かがみを壊こわすことができた。
ベトナム戦争せんそうで、今際いまわの際さいにある兵士へいしが見みた「悪夢あくむ」を描えがく、エイドリアン・ライン監督かんとく『ジェイコブス・ラダー』、学園がくえん祭さい前夜ぜんやを延々えんえんと繰くり返かえす「夢ゆめ」をモチーフにした、押井おしい守まもる監督かんとく『うる星せいやつら2　ビューティフル・ドリーマー』、学園がくえん生活せいかつが突如とつじょとして戦争せんそうへとつながる、同どう監督かんとく『東京とうきょう無む国籍こくせき少女しょうじょ』、読書どくしょが禁きんじられ、本ほんが焼やかれる近きん未来みらいの管理かんり社会しゃかいを描えがいた、フランソワ・トリュフォー監督かんとく『華氏かし451』等々とうとう、本ほん作さくは過去かこの様々さまざまな作品さくひんを想起そうきさせる。そうした間あいだテクスト性せいを持もち、暗くらい歴史れきし的てき事実じじつをホラーとして見みせる、台湾たいわん近代きんだい史しの一いち断面だんめんを描えがいた佳作かさくだ。