あの夜よる、マイアミで

アメリカの黒人こくじんセレブの中なかでも指折ゆびおりの4人にんが一緒いっしょに一いち晩ばんを過すごしたという実話じつわをもとにした舞台劇ぶたいげきを、俳優はいゆうでもあるレジーナ・キングが自みずからの初はつ監督かんとく作さくとして映画えいが化か。舞台ぶたいの映画えいが化かには、映画えいがの形式けいしきに徹底的てっていてきに翻案ほんあんしたものと、舞台ぶたいの表現ひょうげんに近ちかいものとに二分にぶんされるが、本ほん作さくはその中間ちゅうかんくらいの位置いちづけだろうか。確たしかに限定げんていされたロケーションの会話かいわ劇げきではあるのだが、手練しゅれんのカメラワークや編集へんしゅうセンスが光ひかっていて、安定あんていの職人しょくにん技わざという感かんじがする。キャラクターや会話かいわに重おもきを置おく内容ないようだけに、映像えいぞうにやたらと凝こったりしない作つくり方かたを選えらんだレジーナ・キングは、信用しんように足たる映画えいが監督かんとくなのではないか。

自分じぶんはサム・クックのファンだし、マルコムXやモハメド・アリの履歴りれきもある程度ていど知しっていたのでレジェンドたちのプライベートな姿すがた（もちろんフィクションとしてだが）がすんなり入はいってきたが、ちょっと彼かれらや歴史れきし的てき背景はいけいは知しっていた方ほうがいいとは思おもう。でもまあ、まずは本ほん作さくで、不世出ふせいしゅつのシンガー、サム・クックの軽妙けいみょうさも、シリアスな面めんも、素晴すばらしい歌声うたごえまでも見事みごとに演えんじたレスリー・オドムJr.のパフォーマンスから入はいってもらっても大丈夫だいじょうぶな気きがしますよ！

マイアミのコンベンション・ホールでカシアス・クレイがソニー・リストンを打うち負まかして世界せかいヘビー級きゅうチャンピオンになった夜よる、勝利しょうりの歓喜かんきを引ひき摺ずるクレイを、友達ともだちのマルコムX、サム・クック、ジム・ブラウンが囲かこむモーテルのスイートでの話はなし。これはあくまでフィクションだが、彼かれらの口論こうろんからは様々さまざまな情景じょうけいが見みえてくる。当時とうじ、信仰しんこうしていたイスラム教いすらむきょうへの不信ふしん感かんを増幅ぞうふくさせていたマルコムXと、彼かれの思想しそうに共鳴きょうめいして自みずからもムスリムに改宗かいしゅうし、モハメド・アリと改名かいめいするクレイの信頼しんらい関係かんけい、マルコムから白人はくじん社会しゃかいに迎合げいごうしていると批判ひはんされるクックの内的ないてき葛藤かっとう、黒人こくじん選手せんしゅを使つかい捨すての道具どうぐと見みなすフットボール界かいからおさらばして、ハリウッドで俳優はいゆうになると告白こくはくするブラウンの静しずかな決意けつい。。。全すべては1964年ねんの出来事できごとだが、何なにかを信しんじ、裏切うらぎられても、各々おのおのの思おもいを胸むねに差別さべつ社会しゃかいのアメリカを生いき抜ぬこうと誓ちかい合あう4人にんの姿すがたは、決けっして過去かこのものではない。現在げんざいも、そして、未来永劫みらいえいごう続つづくであろう苦闘くとうの象徴しょうちょうなのだ。たった1夜やの出来事できごとに永遠えいえんを見出みいだした基もとになる舞台劇ぶたいげきの脚本きゃくほんが見事みごとだが、これが監督かんとくデビューのレジーナ・キングは、密室みっしつを頻繁ひんぱんに動うごき回まわる4人にんをオーバーヘッド・ショットや鏡かがみを使つかったショットを駆使くししながら、躍動やくどう感かんを演出えんしゅつすることに成功せいこうしている。だから、膨大ぼうだいな台詞せりふを追おう観客かんきゃくの頭あたまだけでなく、目めもフル稼働かどうさせるのだ。本ほん作さくは「サウンド・オブ・メタル　聞きこえるということ」と並ならんで、Netflixが席巻せっけんしそうな今年ことしの賞しょうレースに殴なぐり込こみをかけたアマゾンの勝負しょうぶ作さく。作品さくひん選えらびに関かんしてはアマゾンのセンスもなかなかだと思おもう。