仕掛しかけ人じん・藤枝ふじえだ梅安ばいあん

　原作げんさくや過去かこのドラマを見みたことはないが、製作せいさく側がわの時代じだい劇げきへの本気ほんきを感かんじて興味きょうみを惹ひかれた。ビジュアルは、坊主ぼうずのトヨエツがちょっと地味じみかなあと思おもったが、それは杞憂きゆうだった。トータルで渋しぶくかっこよく仕上しあがった作品さくひんの中なかで、トヨエツの梅安ばいあんはパズルのピースのようにぴったりとはまっていた。
　ちなみに本ほん作さくは二部作にぶさくであるため、話はなしの途中とちゅうでもやっとした終おわり方かたをするのではと心配しんぱいしていたが、第だい一部いちぶだけできちんと話はなしが一区切ひとくぎりつくように作つくってあり、そのことも好感こうかん度どを引ひき上あげた。本ほん作さくは江戸えどでの物語ものがたりで、次つぎ作さくは京きょうに舞台ぶたいを移うつす。

　「起おこり」や「蔓づる」といった聞きき慣なれない用語ようごが出でてくるが、序盤じょばんで巨大きょだいな漢字かんじ表記ひょうきを出だしてきちんと説明せつめいしてくれる。江戸えどと次つぎ作さくの京きょうの２か所しょを舞台ぶたいにするところは、東日本ひがしにっぽんと西日本にしにほんへのサービスのようでもある（違ちがうか）。あるいは、監督かんとくのインタビューやエンドロールの英語えいご併記へいきを見みるに世界せかいへの発信はっしんも見据みすえているようだったので、海外かいがい受うけを狙ねらった面めんもあるのかも知しれない（原作げんさくを知しらないので、適当てきとうな想像そうぞうです）。
　設定せっていの周知しゅうちに関かんしてはとにかく親切しんせつで、折々おりおりに彦次郎ひこじろうの声こえで説明せつめいを入いれてくれるので、原作げんさくを知しらなくてもよく理解りかいできた。

　室内しつないや夜よるなどの陰影いんえいにリアリティがある画面がめん。現代げんだいに寄よせ過すぎていない、整ととのった言葉ことば遣づかいが耳みみに心地ここちいい。
　悪人あくにんは見みるからに、どこまでも悪人あくにんらしい（オープニングでいきなりグヘヘ……の石丸いしまる謙二郎けんじろう、分わかりやすい！）。天海あまみ祐希ゆき演えんじるおみのの、悪女あくじょとして振ふり切きったかっこよさ。短みじかい場面ばめんでもインパクトがすごくて、でもほっとさせる役回やくまわりの高畑たかはた淳子じゅんこ。池波いけなみ作品さくひんの料理りょうり本ほんまで出だしている「分ぶんとく山やま」野崎のさき総そう料理りょうり長ちょうが作つくった、簡素かんそだが美味おいしそうな料理りょうりの数々かずかず（公式こうしきサイトでレシピも見みられる）。
　そして何なにといっても梅安ばいあんと彦次郎ひこじろうの、緊張きんちょう感かんと気安きやすさと、ほんの少すこしほっこりする雰囲気ふんいきが同居どうきょするバディ感かんがたまらない。どこを取とっても完成かんせい度どが高たかい。
　梅安ばいあんがワイヤーアクションで塀へいを駆かけ登のぼるシーンがあって、これはありなのか……と思おもっていたら、原作げんさくでもそんな場面ばめんがあるらしい。
　吹ふいただけで爪楊枝つまようじがそんなに飛とんで刺ささるか？とも思おもうが、これはケレン味あじというものでしょう。

　過剰かじょうな愁嘆場しゅうたんばがないのもいい。妹いもうととの再会さいかいと、自分じぶんが兄あにであることをおみのに伝つたえないまま、仕事しごとを全まっとうしたことによる永遠えいえんの別わかれ。幼おさない頃ころ彼女かのじょをかわいがり、理不尽りふじんに引ひき離はなされた梅安ばいあんの胸中きょうちゅうはいかばかりだっただろう。その思おもいを激情げきじょう的てきに見みせることはないが、彦次郎ひこじろうが眠ねむった後のち、ひとり夜空よぞらを眺ながめるそのまなざしに全すべてが滲にじんでいた。このように抑おさえた表現ひょうげんは、今時いまどきではかえって新鮮しんせんだ。

　エンドロールの後のちに、けっこうがっつり次じ作さくの予告よこく映像えいぞうがある（見落みおとしても次回じかい丁寧ていねいに説明せつめいしてくれそうではあるが）。キャストに椎名しいな桔平きっぺいの名前なまえがあったけど見みかけなかったなと思おもったら、このおまけ映像えいぞうにだけ出でてきた。今回こんかいの鑑賞かんしょう前まえに見みた予告よこくの中なかで佐藤さとう浩市こういちがやたら目立めだっていたが、今回こんかいは出番でばんなし。
　きちんと作つくられた、質しつのよい娯楽ごらく時代じだい劇げきを見みたという感かんじ。次つぎ作さくも見みます。