ブラックバード　家族かぞくが家族かぞくであるうちに

観みてて引ひき込こまれるが、尊厳そんげん死しについてはもう少すこしちゃんと掘ほって欲ほしい。一番いちばん難むずかしいのはここに至いたる過程かていだろうから、難むずかしい部分ぶぶんを避さけたように映うつる。
母はは娘むすめ間あいだの理解りかい度どもテーマの割わりに浅あさいような。見みせる演技えんぎは皆みなさん立派りっぱ。

ビートルズですきな曲きょくは？といったら、きっと、いくつか挙あげても、あとになってそういえばあれ挙あげてなかった──という感かんじになる気きがする。
映画えいがのベストも、あとになってからそういえばあれ挙あげてなかった──という感かんじになりそうなのがいやだな。きっとみなさんだってそうだろう。

それでもいくつか挙あげてみることにするがHey Bulldog、A Day in the Life、I'm Only Sleeping、In my Life、When I'm Sixty-Four、Happiness Is a Warm Gun、She Came in Through the Bathroom WindowからのGolden Slumbersなどなど、がすきだ。
でも、おそらく口くちで言いう時ときには、そういうこまっしゃくれたこと（玄人くろうとっぽい気取きどったセレクト）を言いわないでたんじゅんにブラックバードと言いうだろう。

監督かんとくRoger Michellがインタビューでタイトルについて語かたっている。

『ある時点じてんの脚本きゃくほんの中なかで、登場とうじょう人物じんぶつの何人なんにんかがポールマッカートニーの曲きょく「ブラックバード」を歌うたうシーンがあり、そのときパッとひらめいて、映画えいがをブラックバードと名付なづけることにした。その後ご、さまざまな理由りゆうでそのシーンは消きえたが、タイトルは強固きょうこに映画えいがにしがみついていた。』

おそらく（ブラックバードの）you were only waiting for this moment to ariseというフレーズが映画えいがの内容ないようにしっくりきたのだろう。
リリー（サランドン）は進行しんこう型がたの奇病きびょうをわずらい治療ちりょう法ほうや緩和かんわ治療ちりょう法ほうがなく悪化あっかしていくことが解わかっている。だから安楽あんらく死しを決意けついしてそれを家族かぞくらに知しらせるというドラマだった。
すなわち死しを悲嘆ひたんでなく「飛とび立たつ時ときを待まっていた鳥とり」のように捉とらえようとする映画えいがだった。

話はなしがややズレるかもしれないが──。

先般せんぱん（2024/07）とある体操たいそう選手せんしゅが喫煙きつえんなどを理由りゆうに五輪ごりん出場しゅつじょう権けんを剥奪はくだつされた。──ことを受うけて、ひろゆきが喫煙きつえん者しゃは増ふえたほうがいい、との持論じろんを展開てんかいした。なぜなら喫煙きつえんをする者ものは年金ねんきん受給じゅきゅうへ至いたる前まえに癌がんになったり気管きかんを患わずらって死しぬから。結果けっか的てきに国くにの負担ふたんが軽減けいげんされる、というひろゆきらしい突つき放はなした感かんじのロジックだった。

が、すぐに医療いりょう関係かんけい者しゃの反論はんろんがあった。喫煙きつえん者しゃはたいがい入退院にゅうたいいんもしくは要よう介護かいご状態じょうたいを10年ねんあるいは20年ねんあるいはそれ以上いじょう存生ぞんじょうした後のちに亡なくなっていく。なんにせよピンコロで逝ゆくわけではないから、喫煙きつえん者しゃが増ふえると国くにの負担ふたんが減へるなんてことはあり得えない。むしろ医療いりょう負担ふたんが著いちじるしく増大ぞうだいするだろう。──。

日本にっぽんの高齢こうれい化か社会しゃかいを考かんがえたとき（身みも蓋ぶたもないいいかたをすると）高齢こうれい者しゃはしんでいったほうがいいが、それは議論ぎろんにすることができない。
人間にんげん社会しゃかいでは死しが大おおきいので仕方しかたがないが、しを望のぞむ者ものは、ただじぶんの運命うんめい（生いき死じに）をコントロールしたい──と言いっているだけであって、世よを儚はかなんで（はかなんで）、あるいはじぶんの境遇きょうぐうを憂うれいてということではない。
たんにピンピンコロリで逝ゆきたいと言いっているだけだ。
超ちょう高齢こうれい化か社会しゃかいの日本にっぽんでは、たとえ病やまいにおかされていなくても、もういいや──と思おもった高齢こうれい者しゃにしぬ権利けんりを与あたえる法律ほうりつを制定せいていしていく、ということを本気ほんきで考かんがえる政治せいじ家かや政党せいとうがあってもいい。

リリーは悲嘆ひたんのなかで安楽あんらく死しを望のぞんだのではなく、誰だれかの世話せわになってチューブで液体えきたい養分ようぶんを摂取せっしゅすることになる前まえに逝ゆきたいと言いっているのであり、それはごく自然しぜんな望のぞみだろう。
ビレ・アウグストのサイレントハート（2014）のリメイクとのことだが、世話せわになる前まえに逝いける法律ほうりつをつくる議論ぎろんが超ちょう高齢こうれい化か社会しゃかいの日本にっぽんではじまってほしいと思おもっている。

主役しゅやくは当初とうしょダイアンキートンが抜擢ばってきされていたが降板こうばんしてスーザンサランドンになったとのこと。
スーザンサランドンというひとはロートルな感覚かんかくでいうと大おおきい女優じょゆうだった。目めのことだが。
ルイマルがアメリカへ移住いじゅうしていくつか映画えいがをつくった中なかにアトランティックシティ（1980）という映画えいががあった。サランドンの役やくはいずれカードディーラーになるべく研鑽けんさんを積つんでいる牡蠣かきバーの店員てんいんだった。じぶんの身体しんたいが生臭なまぐさいような気きがするので毎晩まいばん上半身じょうはんしん裸はだかになってレモンを塗ぬる──シーンを覚おぼえている。婀娜あだっぽい人ひとだった。

役者やくしゃ揃ぞろいの映画えいがでウィンスレットもサムニールもMia Wasikowskaもいるが、重おもいテーマのわりにはなんとなくあっさり。重おもいテーマだからあっさりで良よかったのかもしれない。が、テーマよりミニマルなビーチハウスときれいな画がのほうが印象いんしょうに残のこった。
スタッフやキャストらはALSや筋すじ萎縮いしゅく性せい側がわ索さく硬化こうか症しょうの人々ひとびとに取材しゅざいしているそうで、尊厳そんげん死しについてなにがしかの考量こうりょうとなることを望のぞんでつくられている意図いとはわかるが、尊厳そんげん死しのことより世代せだい間あいだファミリードラマとして見みた。
imdb6.6、rottentomatoes64％（オーディエンスメーターなし）。

ちなみにRoger Michellはノッティングヒルの恋人こいびと（1999）の監督かんとくで、そのことばかり聞きかれるからインタビュー嫌きらいなんだそうだ。そりゃあんなエポックな人気にんき作さくつくったらしょうがないよね。
なおRoger Michell監督かんとくは2021年ねん9月がつ22日にち、65歳さいで亡なくなった。死因しいんは明あきらかにされていない。