ベルイマン島とうにて

巨匠きょしょうイングマール・ベルイマンの作品さくひんが好すきな人ひとにとって、フォーレ島とうはまさに聖地せいちに等ひとしい場所ばしょ。その草木くさきや吹ふき抜ぬける強風きょうふう、打うち寄よせる波なみを、映像えいぞうを通つうじてひしひしと感かんじられるという点てんでは、本ほん作さくは非常ひじょうに貴重きちょうで、なおかつ画期的かっきてきな一いち作さくだ。そして、主人公しゅじんこう”クリス”はおそらく本ほん作さくの監督かんとくミア・ハンセン＝ラブの投影とうえいでもあるのだろう。ベルイマンが愛あいしたこの地ちにインスピレーションを得えながら脚本きゃくほん執筆しっぴつに没頭ぼっとうするクリスの姿すがたには、映画えいがづくりにおいて着想ちゃくそうが降おりてくる瞬間しゅんかんとじっくりと向むき合あう誠実せいじつさがみて取とれる。物語ものがたりにおいて全まったく魔法まほう的てきな場面ばめんは描えがかれないが、その点てん、作つくり手しゅの意識いしきが徐々じょじょに研とぎ澄すまされていく様ようは非常ひじょうにスピリチュアル。己おのれの分身ぶんしんともいうべき存在そんざいにあらゆる感情かんじょうを吹ふき込こんで”劇げき中ちゅう劇げき”が形作かたちづくられていく本ほん作さくの構造こうぞうもまた穏おだやかなれどスリリングで興味深きょうみぶかいものがあった。観賞かんしょう後ごはきっと多おおくの人ひとが無性むしょうにベルイマンの映画えいがを観みたくなることだろう。

ミア・ハンセン＝ラブ監督かんとく作さくを「EDEN エデン」「未来みらいよ こんにちは」と観みたがあまり乗のり切きれなかった記憶きおくがあり、本ほん作さくも途中とちゅうまでは入はいり込こめずにいた。だが、主人公しゅじんこうの女性じょせい監督かんとくクリス（ビッキー・クリープス）が次回じかい作さくの脚本きゃくほんとしてパートナーの監督かんとくトニー（ティム・ロス）に語かたり聞きかせる内容ないようが、劇げき中ちゅう劇げきとして－－より正確せいかくには映画えいが中ちゅう映画えいがだけれども－－、あたかも完成かんせいした作品さくひんのようにミア・ワシコウスカが演えんじるエイミーが主役しゅやくの映像えいぞうに切きり替かわるあたりから俄然がぜん面白おもしろくなる。

この映画えいが中ちゅう映画えいがのシークエンス（入いれ子こと考かんがえれば内側うちがわの物語ものがたり）が思おもいのほか長ながく、もちろん折おりに触ふれクリスとトニーの外側そとがわの物語ものがたりに戻もどってくるのだが、きちんと時間じかんを計はかったわけではないものの、体感たいかんとして外側そとがわ6、内側うちがわ4ぐらいの比率ひりつではなかろうか。そして終盤しゅうばんになると次第しだいに外側そとがわと内側うちがわの境界きょうかいが曖昧あいまいになり、ラストでは鮮あざやかな解決かいけつ策さくで二ふたつの物語ものがたりがつながるのだ。この仕掛しかけの巧たくみさには大おおいに感心かんしんさせられた。

“ベルイマン島とう”こと、スウェーデンのフォーレ島とうの景観けいかんも素晴すばらしく、柱状ちゅうじょうの奇岩きがんがニョキニョキ伸のびた海岸かいがんや、時ときが止とまったような建物たてものや風車かざぐるま小屋こやなどが、作中さくちゅうの2組くみのカップルの心しん模様もようを美うつくしく盛もり上あげていた。