ヴィム・ヴェンダース　プロデュース　ブルーノート・ストーリー

ほんの2〜3世代せだい前まえの人達ひとたちが生いきた世界せかいの恐おそろしさを改あらためて知しるとともに、その中なかで自分じぶん達たちの音楽おんがくを育そだててきた黒人こくじん社会しゃかいの強つよさを感かんじた。音楽おんがくが溢あふれていた往時おうじのハーレムとはどんなところだったのだろう。

ミュージシャン達たちとのやり取とりは、スクリーンに出でてきたような綺麗事きれいごとだけではなかったと言いうことも匂におわされている。

それでも、ライオンとウルフのダンスについて語かたるミュージシャン達たちの様子ようすから、二人ふたりがどれだけ信頼しんらいされ愛あいされていたのかが良よく伝つたわってくる。

音楽おんがくファンであれば誰だれもが知しるブルーノートのレーベル誕生たんじょう史し。主人公しゅじんこうはレーベル創設そうせつ者しゃであるライオン&ウルフ。ナチスによる迫害はくがいを受うけた自身じしんの経験けいけんと黒人こくじんアーティストの処遇しょぐうを重かさね合あわせたことがレーベルの根本こんぽんとなっており、レーベルの存在そんざい意義いぎには深ふかい意味いみがあった。レーベル運営うんえいもマーケティング優先ゆうせんではなく、あくまでも自身じしんの感性かんせいを頼たよりとしたリリース展開てんかいをしており、その感性かんせいとシンクロしたアーティストに対たいしてはアーティスト以外いがいの側面そくめん(周囲しゅういから煙けむたがられる部分ぶぶん)へも配慮はいりょが施ほどこされていた。ジャケットのコンセプトについても触ふれられていたが、思おもい返かえせばそのメッセージは知しらぬ間あいだに我々われわれの意識いしきに刻きざまれている。愛あいやセンスといった言葉ことばの深ふかい意味いみを教おしえてくれた。
補足ほそく的てきな感想かんそうですが、当時とうじの白人はくじんが黒人こくじんを殴なぐる等ひとしする差別さべつ映像えいぞうは今いままで見みたことない程ほどに過激かげきでショックでした。

今年ことし2月がつ、ロシアがウクライナに侵攻しんこうした。一いち日にちも早はやい停戦ていせんを求もとめる声こえが世界中せかいじゅうで叫さけばれているが、一向いっこうに出口でぐちは見みえない。歴史れきしは繰くり返かえすというが、戦火せんかの拡大かくだいが不安ふあんだ。ウクライナのゼレンスキー大統領だいとうりょうは、米べい議会ぎかいでロシアの侵攻しんこうを喩たとえて「真珠湾しんじゅわん攻撃こうげき」と言いったそうだが、プーチンの暴挙ぼうきょはポーランドに侵攻しんこうしたヒトラーに喩たとえることもできるのではないのでだろうか。

歴史れきしにイフは無ないのだが、この映画えいがで明あきらかになるのは、ブルーノートレコードというレーベルを作つくった2人ふたりのドイツ人じんは、ナチス政権せいけん下かでのユダヤ迫害はくがいから逃のがれアメリカに渡わたってきたということだ。ならば、ヒトラーがいなければ、あの名作めいさくの数々かずかずを生うみ出だしたブルーノートレコードは、なかったということになってしまうじゃないか！でも考かんがえてみれば、黒人こくじんミュージシャンが魂たましいの音楽おんがくを生うみ出だすことができたのは、酷ひどい人種じんしゅ差別さべつに苦くるしんでいたからかもしれないと思おもうと、悲かなしい歴史れきしがあるからこそ、それに対抗たいこうする芸術げいじゅつが生うまれてきたといえるのかもしれない。

この映画えいがを観みてわかることは、力ちからを持もつ者ものが力ちからで力ちからの無ない者ものを従したがわせようとするとき、芸術げいじゅつはより美うつくしく、より強つよく、人ひとの心しんを打うつものになるということだろう。今いまのこの現実げんじつが、より強つよく美うつくしい芸術げいじゅつを生うむ力ちからになり、戦争せんそうと差別さべつ、貧困ひんこんを無なくす原動力げんどうりょくとして人々ひとびとの心しんを動うごかすに違ちがいない。

僕ぼくは今いま、ブルーノートの名作めいさくを聴きき直なおしながら、新あたらしいムーブメントを生うみ出だした先人せんじんたちの愛あいに触ふれている。その愛あいが、ウクライナの人ひとたち、あるいはこの戦争せんそうを支持しじする者ものにも届とどいてほしい。この世界せかいから暴力ぼうりょくという手段しゅだんが永久えいきゅうに無なくなり、誰だれもが幸しあわせに暮くらせる世界せかいが来くるよう心しんから祈いのる。

普段ふだんジャズは聴きかないが音楽おんがくを愛あいする人ひとのお話はなしは素敵すてき！
黒人こくじんジャズミュージシャンの素晴すばらしい音源おんげんを時代じだいに抗あらがいながら遺のこした功績こうせきは文句もんくなしに賞賛しょうさん！
帰かえったらブルーノートのCDを聴きかなきゃ。