「母親ははおやになりきれない母ははとただ母ははを守まもりたかった娘むすめと」母性ぼせい　ニコさんの映画えいがレビュー（感想かんそう・評価ひょうか）

　子供こどもを産うみ育そだてても視点してんが娘むすめのままの女性じょせい。ルミ子るみこほど極端きょくたんで、かつ自みずからを正ただしいと信しんじている人間にんげんはさすがに多おおくはないだろうが、心しんのどこかにそのような視点してんが残のこっている女性じょせいは結構けっこういるのではと思おもう。
　いびつな母性ぼせいという主題しゅだいは「ロスト・ドーター」を思おもい出ださせる。あの作品さくひんは母性ぼせいを欠かいた主人公しゅじんこうと彼女かのじょの抱かかえる罪悪ざいあく感かんの話はなしだったが、見みていて自然しぜんに母性ぼせい神話しんわについて考かんがえさせられた。

　今回こんかい、原作げんさくは読了どくりょうしている。
　母親ははおやはこういうつもりで言いったことを、娘むすめはこういう印象いんしょうで受うけ止とめていた……といった対比たいひを表現ひょうげんして母はは娘むすめの行いき違ちがいを描えがくような作品さくひんなのかと思おもっていたが、そのような場面ばめんは原作げんさく・映画えいが共どもに思おもったより少すくない。ごくざっくり言いえば、いつまでも娘むすめでいたい母親ははおやが、不幸ふこうに見舞みまわれながらも、一貫いっかんして自分じぶんの娘むすめに嫉妬しっとしたりコントロールしようとしたりする話はなしだ。特とくに前半ぜんはん、ナレーションの多おおさに驚おどろく。本ほんを読よみ返かえしているような気分きぶんになった。物語ものがたりの大筋おおすじもほぼ原作げんさく通どおり。
　ルミ子るみこを中心ちゅうしんとした３代だいの母子ぼし関係かんけいを中心ちゅうしんに、出でてくる登場とうじょう人物じんぶつはおしなべて歪いがんでいる。特とくに田所たどころ家かに移うつり住すんでからは、周囲しゅういの癖くせの強つよさはルミ子るみこの母性ぼせいの問題もんだいが霞かすむほどで、ちょっと焦点しょうてんがぼやけた気きがした。
　そんな田所たどころ家かの中なかでも、清佳さやかの母ははとしてより義理ぎりの娘むすめとして義母ぎぼに気きに入いられることを基準きじゅんに行動こうどうするルミ子るみこ。義母ぎぼの高畑たかはた淳子じゅんこがあまりに怪かい演えんじ過すぎて（一番いちばん原作げんさくに沿そったイメージだったが、さらに盛もられていたような）、さすがにルミ子るみこがちょっとかわいそうになってしまった。
　しかしその強烈きょうれつ過すぎる義母ぎぼの、律子りつこが出でて行いった時ときの反応はんのうが本ほん作さくの中なかで一番いちばん人間にんげん臭くさくて、ルミ子るみこの母はは娘むすめ関係かんけいと対照たいしょう的てきだった。大地だいち真央まおが演えんじたルミ子るみこの実母じつぼなどは、ああいう役柄やくがらではあるが、あまりに演劇えんげきじみている。原作げんさくの非ひ日常にちじょう的てきな言葉ことば遣づかいの台詞せりふがほぼそのまま使つかわれていたことも、その印象いんしょうを補強ほきょうした。あのように、ある意味いみ作つくり物もののような「理想りそう的てき過すぎる母親ははおや」だったからルミ子るみこが親おや離ばなれ出来できず、母親ははおや観かんにゆがみが生しょうじたということだろうか。
　これは原作げんさくに対たいする感想かんそうにもなってしまうが、ルミ子るみこがあのように育そだった理由りゆうの部分ぶぶんを、もうすこしじっくり描えがいて欲ほしかった。

　個人こじん的てきには、血ちの繋つながった母はは娘むすめの年季ねんきの入はいったいざこざというのは根深ねぶかいもので、どうにか凪ないだとしても基本きほん的てきに一生いっしょうわだかまりが残のこるものと思おもっている。嫌悪けんおだけでなく愛憎あいぞう相しょう半なかばするとはいえ、母親ははおやが娘むすめに嫉妬しっとし続つづけて首くびまで締しめたなら尚なお更さらだ。だから、最後さいごに社会しゃかい人じんになった清佳さやかが妊娠にんしんした時ときに、JUJUの解決かいけつソングが流ながれる中なか母親ははおやに電話でんわ報告ほうこく、なんて流ながれには抵抗ていこうを覚おぼえた。
　原作げんさくでは、清佳さやかの妊娠にんしんを聞きいたルミ子るみこは「おばあちゃんが喜よろこぶわ」と喜よろこび、清佳さやかは「ママはどう思おもってるの」と思おもいつつ尋たずねない。なんだかルミ子るみこは娘むすめ視点してんを脱却だっきゃくできていないようにも見みえる。それでも父親ちちおやの浮気うわき問題もんだいなども１ページ分ぶん程度ていどの文章ぶんしょうで決着けっちゃくがついて、大団円だいだんえんのようなのだ。

　ちなみに、小説しょうせつの方ほうは簡単かんたんな叙述じょじゅつトリックが施ほどこされていて、節々ふしぶしで登場とうじょうする女性じょせい高校こうこう教師きょうし＝清佳さやかであることは終盤しゅうばんまで伏ふせられている。映画えいがでは教師きょうしになった清佳さやかも必然ひつぜん的てきに永野ながの芽め郁いくが演えんじたためトリックにはなっていないが、それなら原作げんさくに沿そって合間あいま合間あいまに教師きょうしとしてのトークを挟はさむ必要ひつようがあったのかな？冒頭ぼうとうにあのシーンを置おいたのだから、ラストで初はじめてその後ご教師きょうしになった姿すがたを見みせた方ほうが、終盤しゅうばんまで清佳さやかの生死せいしが分わからず緊張きんちょう感かんが加味かみされたかな、という気きもした。