帰かえらない日曜日にちようび

<映画えいがのことば>
「君きみはいつ作家さっかになった？」
「覚おぼえてない。」
「嘘うそだな。」
「きっかけは三さん度どあったわ。生うまれた時ときと、タイプライターをもらった時とき。」
「三みつめは？」
「覚おぼえてないわ。」

本ほん作さくは「名家めいかの子息しそくと孤独こどくなメイドのラブストーリー」という前ぜん評判ひょうばんでした。

その前ぜん評判ひょうばんにすっかり洗脳せんのうされてしまっていたのかも知しれませんが、実じつは、本ほん作さくを観み始はじめた時点じてんでは、婚約こんやく者しゃがありながら、こっそり（堂々どうどうと？）他家たけのメイドとも関係かんけいを持じ
つ、お屋敷やしきのボンボンの放蕩ほうとう物語ものがたりかと、推測すいそくしていました。当初とうしょは。正直しょうじきなところ。

ところが、観みていくうちに、どうやら、そういう雲行くもゆきでもなさそうと気きづきました。
ジェーンは、なぜ（どういったきっかけで、どういう理由りゆうから）婚約こんやく者しゃがいるポールとこういう関係かんけいを結むすぶ間柄あいだがらになったのでしょうか。
ジェーンの様子ようすからして、ポールにぞっこんという様子ようすもなく、婚約こんやく者しゃのある男性だんせいとの逢瀬おうせを、むしろ楽たのしんでいる節ふしも、ジェーンには見受みうけられたように思おもわれます。評論ひょうろん子こには。

本ほん作中さくちゅうでは、ニヴン家かのメイドとなるまでの彼女かのじょの生いきざまは描写びょうしゃされていないのですけれども。
しかし、孤児こじ院いんの出身しゅっしんということであれば、天涯孤独てんがいこどく、自分じぶん自身じしんが生いきることだけを考かんがえればよいという、ある意味いみ「自由じゆうな身みの上うえ」だったようです。
そのせいの生来せいらい（性的せいてきな側面そくめんも含ふくめた）奔放ほんぽうな性格せいかくだったのではないかだと受うけとりました。
あとに同棲どうせい？することになるドナルドとの関係かんけい性せいも含ふくめて。
（孤児こじということだが、若わかき日ひのニヴン家かのメイドと時代じだいの彼女かのじょから、その生おい立たちを窺うかがい知しることはできなかったようにも、評論ひょうろん子こは思おもいました。）

もともと、当家とうけのメイドに過すぎないジェーンが、他家たけの家族かぞくの一員いちいんであるポールと本当ほんとうの恋仲こいなかになどなりようはずもない―。
身分みぶん階層かいそうがはっきりとしていた（当時とうじの）イギリス社会しゃかいのありようからして、そのことは、ジェーンにしてみれば「百ひゃくもしょうち、二に百ひゃくも合点がてん」だったはずですから。

彼女かのじょのそういうミステリアスな生いき様ざまが、その数奇すうきな運命うんめいとともに、本ほん作さくの全体ぜんたいを通つうじての「味付あじつけ」になっていたように思おもいます。

そしてモチーフとなっている女性じょせいがどちらも作家さっかということからも、本ほん作さくは、別べつ作品さくひん『あちらにいる鬼おに』のイギリス版ばんだとも言いえるようにも思おもわれます。

第だい一いち次じ大戦たいせん下かて、生活せいかつのちょっとしたところにも戦争せんそうの影かげー閉塞へいそく感かんが窺うかがわれるという世相せそうの中なかで、ジェーンは芸術げいじゅつ家か（彼女かのじょは後のちに小説しょうせつ家かとなる）としての自由じゆうな生いき様ざまを貫つらぬいていたと評ひょうしたら、それは評論ひょうろん子この勝手かってな憶測おくそくー独断どくだんというものでしょうか。
（そのことは、婚約こんやく者しゃのあるポールとの、本当ほんとうに屈託くったくのない性行為せいこういにも表あらわれていたと、評論ひょうろん子こには思おもえてならないのです。）

原題げんだいの「マザリング・サンデー」の「マザリング（愛撫あいぶ）」も、ジェーンとポールとの性愛せいあい関係かんけいを、実じつは暗示あんじしているように思おもえてなりません。評論ひょうろん子こには。

彼女かのじょがポールの両親りょうしんからも（彼かれの婚約こんやく者しゃであるエマを差さし置おいてまで、彼かれの父親ちちおやが所有しょゆうする）競走きょうそう馬ばの残のこり一本いっぽんの脚あしの所有しょゆう者しゃと目めされていたことも、そのように理解りかいしました。
評論ひょうろん子こは。

佳作かさくてはあったと思おもいます。

<映画えいがのことば>
「書かくしかなかったの。
しんどい作業さぎょうだったけど。
素晴すばらしい日々ひびだった。」

<映画えいがのことば>
記憶きおくを呼よび起おこし、
それを描写びょうしゃして自分じぶんのものにする。
そして、言葉ことばで再現さいげんする。
君きみならできる。
やってくれ。
僕ぼくらのために。
そして、君きみのために。

（追記ついき）
別べつ作品さくひん『女王じょおう陛下へいかのお気きに入いり』でアン女王じょおうを演えんじたオリビア・コールマンの出演しゅつえん作品さくひんということで、観みることにした一本いっぽんになります。
彼女かのじょが主演しゅえんというわけではないことは分わかっていたのですけれども。それが、本ほん作さくの鑑賞かんしょうの、いわば「入口いりくち」だったという訳わけです。
いわばほんのちょい役やくなのですけれども、本ほん作さくの中なかでは、けっこう重要じゅうような役回やくまわりだったのではないかと、観賞かんしょう後ごには思おもわれました。

本ほん作さくの原題げんだいは、前記ぜんきのとおり「マザリング（愛撫あいぶ）・サンデー」ということですけれども。
ポールの回想かいそうからも、彼女かのじょは（シェーリング家か・ニヴン家かの子供こどもたちを含ふくめて、文字もじどおり子供こども時代じだいから）子供こどもたちを、慈（いつく）しみ、深ふかい愛情あいじょうをもって育そだてていたことが、窺うかがわれるようです。
ダブル・ミーニングとして、原題げんだいの意味いみは、そこにもあったように思おもわれます。
評論ひょうろん子こには。

（追記ついき）
女性じょせいの側がわが使つかう避妊ひにん具ぐ（ペッサリー）のことを、別名べつめいでは「オランダ帽ぼう」というようです。ネットで見みてみると、考案こうあん者しゃはドイツ人じん医師いしのようですけれども。（当時とうじは？）避妊ひにん法ほうの研究けんきゅうが進すすんでいたオランダに渡わたって改良かいりょうされたようなので「オランダ帽ぼう」と呼よばれるようになったもののようです。
評論ひょうろん子こは、初はじめて知しりました。
本ほん作さくを観みて。

原題げんだい：Mothering Sunday
人生じんせいの転換てんかん点てん。
自分じぶんの原点げんてん。
マザリング・サンデー。
母ははなる日曜日にちようび、か。

【映画えいが感想かんそう文ぶん】人生じんせいの転換てんかん点てん、自分じぶんの原点げんてんを描えがく「帰かえらない日曜日にちようび」

●余韻よいんが漂ただよう作品さくひん
物語ものがたりの展開てんかいや登場とうじょう人物じんぶつの心情しんじょうを、過剰かじょうに説明せつめいすることなく、観客かんきゃくの想像そうぞう力りょくに委ゆだねる絶妙ぜつみょうな間合まあいが印象いんしょう的てきだった。
特とくに、ジェーンとポールの関係かんけい性せいや、彼かれらを取とり巻まく時代じだい背景はいけいなどが、直接的ちょくせつてきな説明せつめいではなく、表情ひょうじょうや仕草しぐさ、沈黙ちんもくの瞬間しゅんかんを通つうじて巧たくみに描えがかれている。

この余韻よいんを残のこした表現ひょうげんが小説しょうせつを読よみたいと思おもわせてくれる動機どうきになっていると感かんじる方ほうも多おおいのではないだろうか。

また、この映画えいがは1924年ねん、1948年ねん、1980年代ねんだいと3つの時代じだいを行いき来きする構成こうせいになっており、それぞれの時代じだいの移うつり変かわりも、過度かどな説明せつめいを避さけ、観客かんきゃくの想像そうぞう力りょくを刺激しげきする形かたちで表現ひょうげんされている。女優じょゆうが若わかかったので時とき系列けいれつの変化へんかがわかりにくかったが、この時間じかん軸じくの移動いどうが、物語ものがたりに奥行おくゆきを与あたえ、余韻よいんを深ふかめる要素ようそとなっている。

さらに、映像えいぞう美びや音楽おんがくも、この「絶妙ぜつみょうな間合まあい」を支ささえる重要じゅうような要素ようそとなっている。美うつくしい自然しぜん描写びょうしゃや、時代じだいを反映はんえいした衣装いしょうやインテリア、そして情感じょうかん豊ゆたかな音楽おんがくが、セリフや行動こうどうだけでは表現ひょうげんしきれない感情かんじょうや雰囲気ふんいきを巧たくみに伝つたえていて良よかった。

●まとめ
映画えいがの中なかで直接的ちょくせつてきな説明せつめいを避さけ、「行間ぎょうかんを詰つめすぎない」ことで、観客かんきゃくに自由じゆうな解釈かいしゃくの余地よちを与あたえ、映画えいがを見み終おわった後のちも長ながく心しんに残のこる余韻よいんを生うみ出だしている。

これによって、単たんなる物語ものがたりの消費しょうひではなく、観客かんきゃく自身じしんの経験けいけんや感情かんじょうと結むすびつき、深ふかい共感きょうかんや思索しさくを促うながす効果こうかがあるように思おもう。

具体ぐたい的てきには、鑑賞かんしょう後ご「帰かえらない日曜日にちようび(※)」(原題げんだい：Mothering Sunday)というタイトルを通とおして、観みる人ひとそれぞれの心しんに「人生じんせいの転換てんかん点てん。自分じぶんの原点げんてん。」についての問といを投なげかけているように感かんじた。個人こじん的てきにこの問といかけによって、一層いっそう印象いんしょうに残のこる作品さくひんとなっている。

※邦題ほうだいはややネガティブな印象いんしょうを受うけてしまう。しかし、この日曜日にちようびがあったからこそ、その後ごのジェーンの成長せいちょうに繋つながっていると捉とらえると、やはり原題げんだいの方ほうが良よかったのではないかと思おもわずにはいられない。

イギリス人じん小説しょうせつ家かの回顧かいこ。思おもいがけず美うつくしい映画えいがに出会であった。
身分みぶんの違ちがう二人ふたりが出会であい恋こいをした、最後さいごの言葉ことばはさよなら。
そして彼かれは。。
ジョシュオコナー目当めあてで見みた映画えいがが思おもいがけず良質りょうしつな映画えいが脚本きゃくほんでした。オコナーは変かわらず自然しぜんな演技えんぎ。オデッサ初はつ見みながら見事みごとに演えんじ切きった。そしてそしてなんとコリンファースが出演しゅつえん。これだけでもご褒美ほうび、いつも変かわらずパーフェクト演技えんぎで大好だいすきな俳優はいゆう。もっとヒットしてもいい作品さくひん。