かがみの孤城こじょう

「河童かっぱのクゥ」の監督かんとくさんだ！と、親子おやこで公開こうかいをずっと待まっていた本ほん作さく。子こは「図書としょ室しつにあるみたいだけれど、なかなか借かりれなくて」と、原作げんさく未読みどくのまま。私わたしはだいぶ前まえに読よんで「ほう…」と息いきを呑のんだ記憶きおくはある。それぞれに、ぼんやりとしたイメージのまま、スクリーンに向むき合あった。
　始はじまりは、雨あめ。「学校がっこうに行いかないのではなく、行いけない」と母親ははおやに伝つたえることすらできずにいる、主人公しゅじんこう•こころの気持きもちそのままの天気てんき。うつうつと日々ひびをやり過すごしていた彼女かのじょに、突然とつぜん転機てんきが訪おとずれる。光ひかり出だした自室じしつの鏡かがみの向むこうは、不思議ふしぎな城しろ。そこに集あつめられた7人にんは、皆みなどうやら学校がっこうに行いってないらしい。城しろのどこかに隠かくされた鍵かぎを見みつけ出だせば、願ねがいはかなう。けれども、引ひき換かえに城しろでの記憶きおくは失うしなう。彼かれらは、とまどいながらも城しろと日常にちじょうを行いき来きする生活せいかつになじんでいき、不思議ふしぎな一いち年ねんを過すごすことになる。
　夏休なつやすみをはさんで、彼かれらの日々ひびは流ながれるように過すぎていく。まるで本ほんのページをめくるように。城しろでのゆるやかな共同きょうどう生活せいかつの中なか、互たがいを少すこしずつ知しり、自分じぶんにも目めを向むけられるようになったころ、3月がつという期限きげんはもう目めの前まえに迫せまっている。城しろでの生活せいかつ（鍵かぎ探さがし）、城しろの外そとの生活せいかつ…「進路しんろ」にどう向むき合あい、何なにを選択せんたくするのか。彼かれらの心しんに、再さいびさざなみが立たつ。たっぷりあると思おもった一いち年ねんが、早はやくも終おわりに近ちかづいている、と気きづく学生がくせい時代じだいの冬ふゆの慌あわただしさが、ふっと鮮あざやかによみがえった。
　見みつけ出だせない鍵かぎ、城しろのあちこちに付つけられた印しるし、知しっているようで知しらない、お互たがいのこと。謎なぞに次つぐ謎なぞだが、ヒントが画面がめんのあちこちに散ちりばめられているのが心しんにくい。直接的ちょくせつてきな文字もじと違ちがい、画面がめんから「何なにか」を拾ひろい出だせる利点りてんが生いかされている。城しろの中外ちゅうがいさまざまな部屋へやの装飾そうしょく、彼かれらの服装ふくそうや顔立かおだちなど、「もしかして…」、「そういえば！」という気きづきに満みちていて、観みているときも観みてからも、わくわくとした。
　鏡かがみに「引ひきずり込こまれた」こころたちが、クライマックスでは、大切たいせつな人ひとを「引ひっ張ぱり出だそう」と必死ひっしに手てを差さし伸のべる。時ときや場所ばしょを越こえ、互たがいにどこかで支ささえ、支ささえられている。さらには、かつての自分じぶんが、未来みらいの自分じぶんや誰だれかを支ささえてくれる。シンプルながら力強ちからづよい、画面がめんいっぱいに描えがかれた腕うでの曲線きょくせんが忘わすれがたい。
　最後さいごに「城しろの謎なぞ」が明あかされ、物語ものがたりは幕まくを静しずかにおろす。（ちなみに、オルゴールの曲きょくはシューマンのピアノ曲きょく集しゅう「子供こどもの情景じょうけい」の「トロイメライ（＝夢想むそう•夢心地ゆめごこち）」。）城しろの住人じゅうにん「オオカミさま」の顔かおは明あかさず、仮面かめんをはずした手元てもとにとどめる描写びょうしゃに、またしても感嘆かんたんした。
　観み終おえて「ほおー…」と言葉ことばを失うしなう5年生ねんせいをよそに、時とき系列けいれつの行いき来きがいまだ苦手にがてな1年生ねんせいは「なんかよくわかんなかった！謎なぞだらけだった！」を連発れんぱつ。そのくせ、翌日よくじつ書かいた作文さくぶんは、本ほん作さくイチ押おしの内容ないようだった。ふーん、それはそれは…と思おもったので、私わたしも一文いちぶん。5年生ねんせいは、さらに原作げんさく本ほんを読よみたくなったらしい。「あの子こいいな」と言いった子こは、物語ものがたりではさほど目立めだたない彼かれだった。子この知しらない面めんを垣間見かいまみた気きがして、再さいびほほう、と思おもった。
〜追記ついき〜
「必かならず鑑賞かんしょう後ごに開封かいふうすること」と書かかれた赤あかい袋ふくろに入はいった来場らいじょう者しゃプレゼント。いそいそと開あけて、「わあ！」と親子おやこで見みせ合あった。文字もじどおり、最高さいこうのプレゼント。思おもうだけで、顔かおがほころぶ。