あちらにいる鬼おに : 特集とくしゅう

【これは男女だんじょ3人にんの“魂たましいの結むすびつき”の物語ものがたり】
ラストシーンで愛あいの底力そこぢからを知しったとき、
きっとあなたの心しんが“泣なけてしまう”

妻子さいしある男おとこを愛あいしてしまった。だがそこに修羅場しゅらばは起おこらない。生しょうじるのは絆きずなと連帯れんたい。男女だんじょを超こえた“魂たましいの結むすびつき”の始はじまりだった――。

11月11日にちから全国ぜんこく公開こうかいされる映画えいが「あちらにいる鬼おに」は、容易よういな理解りかいを拒こばみつつも、類るいまれな美うつくしさと驚異きょうい的てきな力強ちからづよさをもって、観みる者ものを圧倒あっとうする“感動かんどう作さく”である。

瀬戸内せとうち寂聴じゃくちょうと作家さっか・井上いのうえ光晴みつはる、その妻つまの三角さんかく関係かんけいをモデルに描えがいたセンセーショナルな傑作けっさく小説しょうせつが原作げんさく。映画えいがのラストに示しめされる“愛あいの底力そこぢから”を知しったとき、きっとあなたの心しんは揺ゆれ動うごき、積つみ重かさねてきた感情かんじょうが一気いっきに開放かいほうされ、最後さいごには“泣なけてしまう”だろう。

この記事きじでは、本ほん作さくの見みどころ解説かいせつと、試写ししゃで鑑賞かんしょうした観客かんきゃくの「共感きょうかんした」などのコメント、そして現実げんじつとのドラマチックな“つながり”について記述きじゅつしていく。ぜひとも映画えいが館かんで鑑賞かんしょうし、胸むねに宿やどる一筋縄ひとすじなわではいかない情動じょうどうを確たしかめてほしいと思おもう。

【物語ものがたりと解説かいせつ】瀬戸内せとうち寂聴じゃくちょうらがモデルの人間にんげんドラマ
傑作けっさく小説しょうせつが待望たいぼうの映画えいが化か、驚きょうがくの“愛あいの形かたち”を描えがく

原作げんさくは作家さっか・井上いのうえ荒野あらのによる同名どうめい小説しょうせつ。

荒野あらのが自身じしんの両親りょうしんである作家さっか・井上いのうえ光晴みつはると妻つま・郁子むべ、そして瀬戸内せとうち寂聴じゃくちょうの三角さんかく関係かんけいをモデルに、登場とうじょう人物じんぶつの名前なまえや状況じょうきょうにフィクションを交まじえ描出びょうしゅつ。その衝撃しょうげき的てきな愛あいの形かたちは日本にっぽん中ちゅうに大だい反響はんきょうを巻まき起おこした。

刊行かんこう当時とうじ、件けんの瀬戸内せとうち寂聴じゃくちょうが同書どうしょの帯おびに「作者さくしゃの父ちち井上いのうえ光晴みつはると、私わたしの不倫ふりんが始はじまった時とき、作者さくしゃは五ご歳さいだった」と寄稿きこうしたことでも知しられている。

「髪かみを洗あらってやるよ」。それは、男おとこと女おんなでいられる最後さいごの夜よるのことだった。

1966年ねん、講演こうえん旅行りょこうをきっかけに出会であった長内おさないみはる（寺島てらしましのぶ）と白木しらき篤郎とくろう（豊川とよかわ悦司えつし）は、それぞれに妻子さいしやパートナーがありながら男女だんじょの仲なかとなる。

もうすぐ第だい二に子しが誕生たんじょうするという時ときにもみはるの元もとへ通かよう篤郎とくろうだが、自宅じたくでは幼おさない娘むすめを可愛かわいがり、妻つま・笙子しょうこ（広末ひろすえ涼子りょうこ）の手料理てりょうりを絶賛ぜっさんする。

奔放ほんぽうで嘘うそつきな篤郎とくろうにのめり込こむみはる、全すべてを承知しょうちしながらも心しん乱みだすことのない笙子しょうこ。

緊張きんちょうをはらむ共犯きょうはんとも連帯れんたいともいうべき3人にんの関係かんけい性せいが生うまれる中なか、みはるが突然とつぜん、篤郎とくろうに告つげた。

「わたし、出家しゅっけしようと思おもうの」。

たしかに本ほん作さくは「妻子さいしある男おとこが別べつの女性じょせいと愛あいし合あう筋書すじがき」ではあるが、従来じゅうらいのいわゆる“不倫ふりんもの”とはまた別べつのアプローチで、人間にんげんの営いとなみにクローズアップしている。

関かかわる女性じょせいのほとんどを夢中むちゅうにさせる白木しらき。彼かれと逢瀬おうせを重かさね、深ふかみにハマっていくみはる。そしてとうに夫おっとの不貞ふていは承知しょうち済ずみで、ときに入院にゅういんする愛人あいじんのお見舞みまいにまで出でかける妻つま・笙子しょうこ。

みはると笙子しょうこは幾度いくども顔かおを合あわせる。有あり体ていに言いえば修羅場しゅらばになるところを、興味深きょうみぶかいことに彼女かのじょたちは“同どうじ男なんを愛あいした”という共通きょうつう点てんから、同志どうしのような連帯れんたい感かんを育はぐくんでいくのだ。

男女だんじょや論理ろんりや何なにもかもを超越ちょうえつした“魂たましいの絆きずな”としか言いいようのない強つよい結むすびつき……。

なぜ、そのような関係かんけいがうまれるのだろうか？　物語ものがたりは観客かんきゃくが抱かかえる問といや疑問ぎもんに“ある答こたえ”を提示ていじしながら、「昼顔ひるがお」「浮雲うきぐも」などかつての名作めいさくとはまた異ことなる、しかし重要じゅうようなメッセージを投なげかけていく。

キャストとスタッフも強烈きょうれつな布陣ふじんだ。

主人公しゅじんこうとなる長内おさないみはる（瀬戸内せとうち寂聴じゃくちょうがモデル）役やくは、日本にっぽんを代表だいひょうする俳優はいゆう・寺島てらしましのぶ。自分じぶんの“女性じょせい性せい”の終焉しゅうえんを予感よかんする一方いっぽうで、白木しらきとの愛あいに溺おぼれ、やがて出家しゅっけへと続つづく人生じんせいを、静しずかな激情げきじょうと豊ゆたかな知性ちせいをもって演えんじきった。なお、寺島てらしまは実際じっさいに髪かみの毛けを剃すり上あげて役やくづくりに臨のぞんでいる。

そして白木しらき（井上いのうえ光晴みつはるがモデル）役やくは豊川とよかわ悦司えつし。妻子さいしへの愛あいを持もちながら他たの女性じょせいとも寝ねる男おとこの精神せいしん性せいを、抜群ばつぐんの魅力みりょくをもって表現ひょうげんした。

白木しらきの妻つま・笙子しょうこ（井上いのうえの妻つま・郁子むべがモデル）役やくには広末ひろすえ涼子りょうこ。夫おっとの女性じょせい関係かんけいに葛藤かっとうしながらも腹はらをくくっている、強つよさとも違ちがう覚悟かくごのような心境しんきょうを、常つねにほほ笑えみを湛たたえて体現たいげんしている。

監督かんとくは「ヴァイブレータ」「やわらかい生活せいかつ」などの名手めいしゅ・廣木ひろき隆一りゅういち。ときに耽美たんびに、ときに詩的してきに、ときにエロティックに、そしてときに感動かんどう的てきに描出びょうしゅつし、唯一ゆいいつ無二むにの作品さくひん世界せかいを形作かたちづくった。

【観客かんきゃくの感想かんそう】試写ししゃ会かいを実施じっし、その反響はんきょうは――？
人間にんげん模様もように共感きょうかん・感動かんどう「心しんに訴うったえる傑作けっさく」

では実際じっさいに鑑賞かんしょうした観客かんきゃくは、どのように感かんじたのだろうか？　公開こうかいに先さきがけて実施じっしした試写ししゃ会かいでの観客かんきゃくコメントをもとに浮うき彫ぼりにしてみよう。

多おおく上あがった声こえは、「芝居しばいの熱量ねつりょう」や「気きづけば涙なみだしていた」という感動かんどうや、そして「不思議ふしぎと登場とうじょう人物じんぶつ全員ぜんいんに共感きょうかんしていた」という感想かんそうだった。

まずは作品さくひん全体ぜんたいの感想かんそうについて。壮絶そうぜつな三角さんかく関係かんけいをどう感かんじるかで評価ひょうかがわかれそうだが、観客かんきゃくの多おおくがポジティブにとらえているようだ。

「不倫ふりんという言葉ことばでは表現ひょうげんしきれない特殊とくしゅな関係かんけいが見みどころ」という評ひょうや、「心しんに訴うったえてくる傑作けっさく」という絶賛ぜっさん評ひょうも。感想かんそうの端々はしばしから、筆ふでに力ちからがこもっている様子ようすが伝つたわってくる。

そのほか「こんなにも情熱じょうねつ的てきで本能ほんのうの赴おもむくままの人生じんせいがあったとは」「三角さんかく関係かんけいが切せつない人間にんげん物語ものがたりに昇華しょうかされている名作めいさく。実話じつわに基もとづいているなんて信しんじられない」など驚おどろきの声こえも多おおく上あがっており、予想よそうを超こえる映画えいが体験たいけんを堪能たんのうした様子ようすがうかがえる。

寺島てらしましのぶ、豊川とよかわ悦司えつし、広末ひろすえ涼子りょうこらの演技えんぎ力りょくにも称賛しょうさんと圧倒あっとうの声こえが集あつまった。上述じょうじゅつの高たかい満足まんぞく度どは、キャスト陣じんの熱演ねつえんが観客かんきゃくの心しんを揺ゆさぶった結果けっかだとも言いえそうだ。

「あの3人にんだからこそ、普通ふつうでは共感きょうかんできない特殊とくしゅな関係かんけい性せいの物語ものがたりをまた見みたいと思おもえる作品さくひんにしている」という感想かんそうや、メインキャストだけでなく「バイプレーヤーも、ありえないと思おもうほど生々なまなましかった」といった賛辞さんじも。芝居しばいのクオリティは一いち級きゅう品ひんと言いえそうだ。

また、具体ぐたい的てきな場面ばめんでは、寺島てらしまの剃髪ていはつシーンに特とくに注目ちゅうもくが集あつまっていた。「剃髪ていはつのシーンは、静しずかに時ときが流ながれていた」「寺島てらしましのぶさんの実際じっさいに剃髪ていはつをした体当たいあたりの熱演ねつえんに心しんを奪うばわれました」。それまでの“人生じんせい”を精算せいさんする――そんな儀式ぎしきで、みはるが何なにを思おもうのか。寺島てらしまが表情ひょうじょうの細部さいぶで、得とくも言いわれぬ感情かんじょうを表現ひょうげんしきる見事みごとな場面ばめんだ。

映画えいがの登場とうじょう人物じんぶつと、自分じぶん自身じしんの心情しんじょうが重かさなったとき、その映画えいが体験たいけんはかけがえのないものとなる。その点てん、本ほん作さくはどうなのだろうか？　不倫ふりんという、現代げんだい社会しゃかいでは忌避きひ感かんの強つよいアンモラルが題材だいざいだが、「自分じぶんごと化かできた」「登場とうじょう人物じんぶつに共鳴きょうめいした」との声こえも多おおかった。

「なぜ、篤郎とくろうをそこまで愛あいするのか。私わたしには理解りかいしづらい。でも、みはると笙子しょうこの哀かなしい怒いかりや、どうしようもないほどの愛あいは、観みていてどんどん共感きょうかんしてしまった」「観みる前まえは『誰だれにも共感きょうかんできない』と思おもっていたのに、不思議ふしぎと全員ぜんいんの気持きもちに歩あゆみ寄よれた」など……。

もちろん、「彼かれ・彼女かのじょらとは、自分じぶんは違ちがう行動こうどうをとるだろう」との声こえも確たしかにある。あなたはどう思おもうだろうか？　劇場げきじょうで鑑賞かんしょうし、ぜひ確たしかめてみてほしいと思おもう。

登場とうじょう人物じんぶつたちが織おりなす魂たましいの結むすびつきは、観客かんきゃくの胸むねに“感動かんどう”を呼よび起おこしたようだ。

特とくにクライマックス付近ふきんのシーンには称賛しょうさんが集中しゅうちゅうした。「出家しゅっけを決きめた（みはるの）気持きもちに涙なみだ」「病院びょういんでのシーン、本妻ほんさいと愛人あいじんの表情ひょうじょう・行動こうどうにこちらも涙なみだ……」「物語ものがたりに引ひき込こまれ、気きづけば涙なみだしていた」。これらの感想かんそうは、観みる者ものそれぞれの人生じんせいを映うつし出だし、それが主人公しゅじんこうの心境しんきょうと重かさなって、胸むねを熱あつくさせたことの証あかしと言いえる。

また、「ドロドロしすぎていない」「観みた後のちに、清々すがすがしい気持きもちになった」との声こえも。爽さわやかな気分きぶんで映画えいが館かんを出でることができるので、あまり身構みがまえず、気軽きがるに鑑賞かんしょうしてみるのも一興いっきょうだ。

【鑑賞かんしょうの手引てびき】現実げんじつとのドラマチックな“つながり”
これを知しれば、「あちらにいる鬼おに」がさらに深ふかくなる

最後さいごに、現実げんじつと本ほん作さく「あちらにいる鬼おに」にまつわるエピソードに言及げんきゅうし、特集とくしゅうを締しめくくっていこう。

登場とうじょう人物じんぶつのモデルとなった上記じょうき3人にんは、やはり現実げんじつでも強つよい絆きずなで結むすばれていたといっても過言かごんではない。

2021年ねん11月9日にちに99歳さいで死去しきょした瀬戸内せとうち寂聴じゃくちょうは、2022年ねん9月がつ15日にち、岩手いわて県けん二戸ふたど市しの天台寺てんだいじの霊園れいえんに分骨ぶんこつされた。天台寺てんだいじ霊園れいえんは瀬戸内せとうちが開設かいせつ。そして、井上いのうえ光晴みつはる（1992年ねん没ぼつ）と妻つま・郁子むべも同所どうしょに納骨のうこつされており、それは瀬戸内せとうちにすすめられたものだという。

映画えいがファンならば一いち度どは耳みみにしたことがあるかもしれない。原はら一男かずお監督かんとくによる映画えいが「全身ぜんしん小説しょうせつ家か」は、実際じっさいの井上いのうえ光晴みつはるの晩年ばんねんを追おった傑作けっさくドキュメンタリーだ。

「ゆきゆきて、神かみ軍ぐん」などで知しられる原げん監督かんとくが映うつし出だしたのは、井上いのうえ光晴みつはるの“虚構きょこうと現実げんじつ”。癌がんにより死しに至いたるまでの5年間ねんかんをとらえ、第だい68回かいキネマ旬報きねまじゅんぽうベスト・テンでは日本にっぽん映画えいが第だい1位いを、第だい49回かい毎日まいにち映画えいがコンクールでは日本にっぽん映画えいが大賞たいしょうを受賞じゅしょうするなど、国内こくないの主要しゅような映画えいが賞しょうを独占どくせんした。

同どう作さくでは、実際じっさいの井上いのうえ光晴みつはるらがどんな人物じんぶつだったのかを観みることができる。豊川とよかわ悦司えつしらの芝居しばいとのリンクも当然とうぜん、多おおくあり、「あちらにいる鬼おに」とあわせて鑑賞かんしょうすれば非常ひじょうに味あじわい深ぶかい体験たいけんとなるだろう。