ヴィレッジ

　予告よこくで勝手かってに連想れんそうしていたイメージがある。閉鎖へいさ的てきな村民そんみんが住すむ村むらの超ちょう法規ほうき的てきな掟おきて、ホラーチックなサスペンス。
　ふたを開あけてみるとその予想よそうとは少すこし違ちがった。まず、明あきらかにおかしな村民そんみんは大橋おおはし父子ふしの２人ふたりだけだった。序盤じょばんに面めんをかぶった村民そんみんの行進こうしんという思おもわせぶりな場面ばめんはあったが、警察けいさつはきちんと機能きのうしていたし、道みちの駅えきのような施設しせつも地域ちいき住民じゅうみんに馴染なじんでいた。ごみ処理しょり場じょうの人間にんげん関係かんけいも、透とおるがいなくなった後のちは普通ふつうに和なごやかなものになった。犯罪はんざい者しゃの息子むすこである優ゆうを村むら全体ぜんたいが疎うとんじていたなら、透とおるが消きえた後のちも疎外そがいされていたはずだが、そんなことは全まったくなかった。

　藤井ふじい監督かんとくは、本ほん作さくの村むらを日本にっぽん社会しゃかいの縮図しゅくずだと思おもって撮とったと言いっている。
　しかし、本ほん作さくで描えがかれた悲劇ひげきは、村むら全体ぜんたいの在あり方かたに起因きいんするというより、ひとえに大橋おおはし家かの人間にんげんたちの特殊とくしゅ性せいが引ひき起おこしたもののように見みえる。
　大橋おおはし家かはその地ちに代々だいだい根付ねついた横暴おうぼうな権力けんりょく者しゃ（ありがちな暗喩あんゆとしては政治せいじ家か）、周囲しゅういの村民そんみんは彼かれらに物申ものもうせず横暴おうぼうを許ゆるしてしまっている民衆みんしゅうの象徴しょうちょう、といった感かんじなのだろうか。
　村むらの閉鎖へいさ性せい、そこで未来みらいを担になう若者わかものの犯おかした罪つみ、という要素ようそは、映画えいが「ノイズ」を思おもい出ださせる。こちらの話はなしの方ほうが、誇張こちょうされてはいたが、閉鎖へいさ的てきな村落そんらくの隠蔽いんぺい体質たいしつをよく描えがいていた。

　冒頭ぼうとうで、能のうの「邯鄲かんたん（かんたん）」からのエピグラフが示しめされる。物語ものがたりの中なかで「邯鄲かんたん」の筋すじについての説明せつめいがあり、光吉みつよしが能のうを舞まう描写びょうしゃや邯鄲かんたん男おとこの面めんも登場とうじょうする。
　ここまで「邯鄲かんたん」をフィーチャーしているのに、この村むらで起おこることと「邯鄲かんたん」の物語ものがたりのメッセージが、今いまひとつ噛かみ合あっていないように見みえた。
　監督かんとくはインタビューで本ほん作さくを「一いち炊の夢ゆめの青年せいねんの転落てんらく劇げき」と表現ひょうげんしている。邯鄲かんたんの物語ものがたりのピースのひとつを借かりた、くらいの関係かんけい性せいということだろうか。美咲みさきに助たすけてもらっていろいろと上手うまく行いきかけたけどそれらは所詮しょせん夢ゆめのようなものだった、という……何なんだか絶望ぜつぼう的てきだし、全体ぜんたいの流ながれから見みるとそこが本筋ほんすじだとは思おもえない。

　監督かんとくは人ひとによって解釈かいしゃくが違ちがってくる作品さくひんを目指めざしたそうだが、日本にっぽんの縮図しゅくず的てき設定せっていと能のうの演目えんもく、加くわえて環境かんきょう問題もんだいを並ならべたことで、結果けっか的てきにポイントが分散ぶんさんし、メッセージが不明瞭ふめいりょうになっている気きがした。どれか削けずった方ほうがよかったように思おもえる。
　人ひとによって解釈かいしゃくが変かわる良作りょうさくは、受うけ止とめる側がわの個々ここにとっては明瞭めいりょうなメッセージが見みえているものだ。思おもわせぶりなものを複数ふくすう入いれ込こむ手法しゅほうは、焦点しょうてんがぼやけるだけで、それは「人ひとによって解釈かいしゃくが変かわる作品さくひん」とは言いえないのではないだろうか。

　もともと横浜よこはま流星りゅうせいの演技えんぎを見みたくて鑑賞かんしょうしたのだが、その点てんでは大だい満足まんぞくだった。絶望ぜつぼうしきって生気せいきの消きえた瞳ひとみ、その後ご美咲みさきに心しんを開ひらいてからの優ゆうの表情ひょうじょうの違ちがい、追おい詰つめられた時ときの眼光がんこうなど、迫真はくしんの演技えんぎだった。
　一ノ瀬いちのせワタルは、さすがの怖こわさ。演技えんぎだと頭あたまでは分わかっていても、横浜よこはま流星りゅうせいの命いのちの心配しんぱいをしてしまった。
　本当ほんとうに死しにそうなほど透とおるが優ゆうをタコ殴なぐりにしていたので、死体したい遺棄いきをせず警察けいさつに届とどけ出でれば正当せいとう防衛ぼうえいが成立せいりつしていたのでは、という気きもする。