藤津ふじつ亮太りょうた氏しに聞きく、東京とうきょう国際こくさい映画えいが祭さい「ジャパニーズ・アニメーション」部門ぶもんの狙ねらいと作品さくひん選択せんたくの経緯けいい

藤津ふじつ：去年きょねんもそうでしたが、基本きほん的てきにレトロスペクティブ（※回顧かいこ上映じょうえい）的てきなものと、今いまのアニメをプレゼンテーションする2本立ほんだてで考かんがえています。
　前者ぜんしゃについては、日本にっぽんのアニメーションの歴史れきしを代表だいひょうする方ほうのひとりである大塚おおつか康生やすおさんが今年ことし3月がつに亡なくなられたことが大おおきいです。大塚おおつかさんは戦後せんごの日本にっぽんアニメ産業さんぎょうの黎明れいめい期きから活躍かつやくされてきたアニメーターで、高畑たかはた勲いさおさんと宮崎駿みやざきはやおさんの東映動画とうえいどうが時代じだいの先輩せんぱいにあたります。「太陽たいようの王子おうじホルス」（1968）はこの3人にんが組くんだ作品さくひんで、その後ごも「ルパン三さん世せい」「じゃりン子こチエ」など、いろいろなかたちで一緒いっしょに仕事しごとをされてきました。また、テレコム・アニメーションフィルムなどで後進こうしんの育成いくせいに力ちからを注そそいだ教育きょういく者しゃとしての一いち面めんもある方ほうです。今いまのアニメをつくっている人ひとたちへの影響えいきょうも大おおきく、これは振ふり返かえるべきだろうと考かんがえました。
　今いまのアニメについては「犬いぬ王おう」（2022）ほか2本ほんの新あたらしい作品さくひんと今年ことし公開こうかいされた「漁港ぎょこうの肉にく子こちゃん」（21）をラインナップしました。今年ことしは映画えいが祭さいのひとつの役割やくわりである新あたらしい作品さくひんをいち早はやく見みられることが実現じつげんできたらと思おもっていて、公開こうかいが決きまっている作品さくひんにお声こえがけしてプログラムを組くむことができました。
　特撮とくさつは今年ことし生誕せいたん50周年しゅうねんをむかえる「仮面かめんライダー」を漠然ばくぜんと想定そうていしていたのですが、どういう切きり口くちでやるかちょっと悩なやんでいたんです。というのも、去年きょねん特集とくしゅうした「スーパー戦隊せんたい」シリーズは色いろ違ちがいの5人にんのヒーローが活躍かつやくするという統一とういつしたコンセプトがあったのですが、「仮面かめんライダー」は最低限さいていげんの要素ようそがどんどんミニマムになっていって今いまは基本きほん的てきにベルトぐらいなんですよね。バイクのライダーの部分ぶぶんも若干じゃっかんあやしくなってきていますから。

藤津ふじつ：50周年しゅうねんですから、原点げんてんを確認かくにんするという意味いみでシンプルに昭和しょうわの「仮面かめんライダー」だけを紹介しょうかいするという考かんがえ方かたもあったと思おもうんです。ただそれだと回顧かいこ趣味しゅみすぎないかなとも思おもって、未来みらいにつながるかたちで取とりあげられたらなと。そんななか東映とうえいの方ほうとの打うち合あわせのなかで、今こん発表はっぴょうされている3つの新あたらしいプロジェクトとからめるのはどうでしょうという話はなしをいただいて。「シン・仮面かめんライダー」（2023）、「仮面かめんライダーBLACK SUN」（22）、そして「仮面かめんライダーW」のスピンアウトである「風ふう都と探偵たんてい」のアニメ化か（22）、それぞれの原点げんてんを確認かくにんするという切きり口くちがでてきて、過去かこを確認かくにんしつつ未来みらいを予想よそうするのはいいなと思おもったんです。それで、これから発表はっぴょうされる新作しんさくのオリジンを確認かくにんするかたちになりました。

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藤津ふじつ：ジャパニーズ・アニメーション部門ぶもんの上映じょうえい枠わくは10本ほんというボリュームで、そのなかで作品さくひんをどう割わり振ふるかは悩なやましいところなんです。なるべく新作しんさくをかけたいのでそこに4本ほんを使つかって残のこりを特撮とくさつとわけあうと、3本ほんで大塚おおつかさんのお仕事しごとを語かたる構成こうせいにする必要ひつようがありました。
　記録きろく映画えいが「飄々ひょうひょう～拝啓はいけい、大塚おおつか康生やすお様さま～」（15）はご本人ほんにんや周辺しゅうへんの方ほうに取材しゅざいをしていて、作品さくひん単体たんたいだけではカバーできない要素ようそを取とり入いれることができると思おもっていれました。同おなじ趣向しゅこうで「大塚おおつか康生やすおの動うごかす喜よろこび」（04）という作品さくひんもあるのですがこちらはソフト化かされていて、「飄々ひょうひょう」はソフト化かもされていなくて劇場げきじょうで限定げんてい的てきに上映じょうえいされただけなんです。見みられにくいものが見みられるのが映画えいが祭さいの役割やくわりのひとつですから、こちらを1本ほん目めに選えらびました。
　そうすると、アニメ作品さくひん2本ほんで大塚おおつかさんのキャリアをどうプレゼンテーションするかということになり、まずは東映動画とうえいどうが時代じだいの作品さくひんだろうと思おもいました。スタッフとして参加さんかされた「白蛇しろへび伝でん」（1958）もいいんですけど、もう少すこし皆みなさんが大塚おおつかさんの名前なまえと紐ひもづけて覚おぼえている作品さくひんのほうがいいだろうとなると、さきほどお話はなしした「太陽たいようの王子おうじホルス」か「わんぱく王子おうじの大蛇おろち退治たいじ」（63）だろうなと。そうなったとき、大塚おおつかさんがいちアニメーターとして腕うでをふるったキャリアの最初さいしょの頃ころの代表だいひょう作さくとして、「わんぱく王子おうじ」のクライマックスで月岡つきおか貞夫さだおさんと2人ふたりで描えがかれたというヤマタノオロチと戦たたかうシーンをピックアップするのはありなのかなと考かんがえたんです。
　もう1本ほんはベテランとしての円熟えんじゅく期きに入はいられたお仕事しごととして、小田部おたべ羊ひつじ一いちさんと共同きょうどうで作画さくが監督かんとくを担当たんとうされた「じゃりン子こチエ」（81）がいいだろうと。こちらも「ルパン三さん世せい　カリオストロの城しろ」（79）との二に択よになるのですが、「カリオストロの城しろ」は皆みなさん大好だいすきで何なん度ども見みている方ほうが多おおいでしょうし、今年ことしが「ルパン三さん世せい」50周年しゅうねんということもあって上映じょうえいや放送ほうそうも多おおくされるだろうと「じゃりン子こチエ」を選えらびました。

(C) 2021 "INU-OH" Film Partners

藤津ふじつ：現在げんざいの4本ほんに決きまるまでには、当然とうぜんのことながらいろいろな可能かのう性せいを追求ついきゅうしています。どのタイトルに決きまっても、このフレーズを入いり口くちにすれば今年ことしのアニメを上手うまくとらえられるだろうと思おもったんです。また、新作しんさく映画えいがについては普段ふだんアニメを見みない映画えいがファンの方ほうに、とりあえずこの監督かんとくの名前なまえを憶おぼえておくといいですよとプレゼンテーションする気持きもちもこめています。その意味いみで、「犬いぬ王おう」は世界せかい的てきにも注目ちゅうもくされている湯浅ゆあさ政明まさあき監督かんとくの新作しんさくであり、文学ぶんがくを題材だいざいにした日本にっぽんのアニメとしては珍めずらしいタイプの作品さくひんです。
　「グッバイ、ドン・グリーズ！」（22）は、テレビアニメ「宇宙うちゅう（そら）よりも遠とおい場所ばしょ」のいしづかあつこさんが自分じぶんの脚本きゃくほんで映画えいがをつくるというのは画期的かっきてきなことであり、ぜひ上映じょうえいできたらと思おもいました。また、時代じだいの流ながれもあると思おもうのですが、最近さいきん特とくに長編ちょうへん作品さくひんでは女おんなの子こを主人公しゅじんこうにしたものが多おおいんですよね。そんななか少年しょうねん3人にんを主人公しゅじんこうにした「グッバイ、ドン・グリーズ！」は、「主人公しゅじんこうの背負せおうもの」というテーマでも深ふかめていけるのではないかと考かんがえました。

(C) BNP, FUJITV/おしゃれサロンなつなぎ

「フラ・フラダンス」（21）は、東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいから10年ねんの節目ふしめに被災ひさい地ちを舞台ぶたいにしたアニメをつくるプロジェクトの1本ほんです。新しん社会しゃかい人じんとして働はたらく女性じょせいの苦労くろうを温あたたかい目線めせんで描えがいていて、作つくり手しゅが何なにをこめて彼女かのじょを主人公しゅじんこうとして描えがこうとしているかを考かんがえると、今年ことしのアニメが見みえてくるのではないかと思おもいました。「漁港ぎょこうの肉にく子こちゃん」の原作げんさく小説しょうせつも、原作げんさく者しゃの西にし加奈子かなこさんが被災ひさい地ちの宮城みやぎ県けん石巻いしのまき市しと女川おながわ町まちを訪おとずれたことで着想ちゃくそうが浮うかんだそうで、震災しんさいから10年ねんが経たつ今いまの時代じだいにどのような物語ものがたりをつくるかという共通きょうつう点てんがあるはずです。そして、それはどういう主人公しゅじんこうをつくるかということにもつながってくるのではないかと思おもっています。

藤津ふじつ：僕ぼくは作品さくひんをとらえるとき、まず主人公しゅじんこうが作品さくひんのなかでどういう時間じかんを生いきたのだろうかと考かんがえます。キャラクターが集団しゅうだんで出でてくる作品さくひんでもセンターをはる主人公しゅじんこうに注目ちゅうもくすることが多おおくて、それはキャラが魅力みりょく的てきだからということもあるんですけど、やっぱり主人公しゅじんこうがドラマの結節けっせつ点てんになっているからなんですよね。作つくり手しゅは主人公しゅじんこうをとおして作品さくひん世界せかいを感かんじてほしいはずで、主人公しゅじんこうをどのような窓口まどぐちに設定せっていしているかを考かんがえると、作品さくひんの構造こうぞうがすごく分わかりやすくなるんです。
　一方いっぽうで、観客かんきゃくの窓口まどぐちにならないタイプの主人公しゅじんこうもいます。その場合ばあい、客観きゃっかん的てきにこの人ひとを見みてください、好すきにならなくてもいいです、となることが多おおいのですが、その場合ばあいでも観客かんきゃくと主人公しゅじんこうの間あいだには必かならず接点せってんがあって、その接点せってんは作品さくひんを考かんがえることとダイレクトにつながっていると思おもうんです。

藤津ふじつ：どのマスタークラスでも、なるべく多角たかく的てきに話はなしを深ふかめていければと思おもっています。「大塚おおつか康生やすおの足跡あしあと」では大塚おおつかさんと一緒いっしょに仕事しごとをした方ほう、それを外側そとがわから見みた人ひとなど、いろいろな角度かくどから振ふり返かえることができたらいいなと思おもい、関係かんけい者しゃの方ほうに出演しゅつえんを打診だしんしているところです。
　「『仮面かめんライダー』の未来みらい」は、去年きょねんの「スーパー戦隊せんたい」シリーズのマスタークラスを想定そうていしていただくといいと思おもいます。プロデューサー、監督かんとく、脚本きゃくほん家か、それぞれの立場たちばから「仮面かめんライダー」を語かたるかたちを予定よていしています。
　「2021年ねん、主人公しゅじんこうの背負せおうもの」では上映じょうえい作品さくひんの監督かんとくや作品さくひん関係かんけい者しゃに登壇とうだんしてもらい、主人公しゅじんこうを入いり口くちにして最終さいしゅう的てきには作品さくひんの主題しゅだいにせまることができたらと思おもっています。その入いり口くちのひとつとして、「いそうな人ひと」を描えがくための工夫くふうについて伺うかがえればと考かんがえています。観客かんきゃくに主人公しゅじんこうだと感かんじてもらって感情かんじょうのトリガーを押おすためには、作品さくひんそれぞれのフックや描写びょうしゃがあるはずですから。もうひとつ、日本にっぽんの商業しょうぎょうアニメはターゲット論ろん的てきに主人公しゅじんこうの性別せいべつが決きまるところがあるのですが、そうした縛しばりや制限せいげんのようなものを感かんじることがあるのか、また男おとこの子こ主人公しゅじんこう、女おんなの子こ主人公しゅじんこうのそれぞれの可能かのう性せいについてどう考かんがえているのかみたいなことも聞きいてみたいと考かんがえています。

(C) はるき悦えつ巳み／家内やない工業こうぎょう舎しゃ・東宝とうほう・ユニバーサルミュージック・TMS

藤津ふじつ：全体ぜんたいをつなぐテーマを設定せっていするとしたら「人間にんげんをどう描えがくか」になると思おもいます。これはアニメが絵えであることにまつわる根強ねづよい問題もんだいで、キャラクターは描えがけるけれど、はたしてそれは人間にんげんなのかという難むずかしい議論ぎろんがあります。大塚おおつか康生やすおさんは、おそらく人間にんげんも描えがけるはずと思おもってやられてきたと思おもうのですが、それはきっと実写じっしゃのアプローチとは違ちがうアニメならではの方法ほうほうだったはずです。
　例たとえば、今回こんかい上映じょうえいする「じゃりン子こチエ」に出でてくる（竹本たけもと）テツは、大塚おおつかさんの色いろが濃こくでているキャラクターで、ああした人物じんぶつの面白おもしろさやそこに人間味にんげんみを感かんじることができる存在そんざい感かんというものは、日本にっぽんのアニメのなかで今いまも脈々みゃくみゃくと生いき続つづけていると思おもうんです。それはアニメーターが担当たんとうする絵えに関かんする部分ぶぶんや「主人公しゅじんこうの背負せおうもの」で伺うかがう予定よていのキャラクターの描えがき方かたについても関かかわってくるはずです。そういうことを皆みなさんと一緒いっしょに考かんがえていければいいなと思おもっています。