「世よに出ださないといけない」「真実しんじつを描えがく」　東出ひがしで昌あきら大だい＆松本まつもと優作ゆうさく監督かんとくが語かたる、「Winny」事件じけん映画えいが化かの意義いぎ

2023年ねん3月がつ12日にち 10:00

東出昌大と松本優作監督 — 東出ひがしで昌あきら大だいと松本まつもと優作ゆうさく監督かんとく

東出ひがしで昌あきら大だいと三浦みうら貴たか大だいが主演しゅえんを務つとめる映画えいが「Winny」が、3月がつ10日とおかから公開こうかいされた。描えがかれるのは、ファイル共有きょうゆうソフト「Winny」の開発かいはつ者しゃである金子かねこ勇いさむさんの実話じつわを基もとにした“Winny”事件じけん。金子かねこさん役やくを務つとめた東出ひがしで、本ほん作さくのメガホンをとった松本まつもと優作ゆうさく監督かんとくに話はなしを聞きいた。

本ほん作さくは、2018年ねんに起業きぎょう家か・古橋ふるはし智史さとし氏しが企画きかくし、「ホリエモン万博ばんぱく」の「CAMPFIRE映画えいが祭さい」にてグランプリに輝かがやいた作品さくひんだ。「CAMPFIRE映画えいが祭さい」とは、応募おうぼされた企画きかくからクラウドファンディングで資金しきん調達ちょうたつに成功せいこうした4組くみの企画きかく者しゃが、観客かんきゃくと審査しんさ員いんの前まえで映画えいが企画きかくのプレゼンを行おこない、審査しんさ員いんによる投票とうひょうでグランプリを決定けっていするもの。審査しんさ員いんは、「CAMPFIRE」代表だいひょう取締役とりしまりやく・家いえ入にゅう一真かずまさ氏し、伊藤いとう主税ちからプロデューサーらが務つとめた。

2002年ねん、開発かいはつ者しゃの金子かねこ勇いさむ（東出ひがしで）は、簡単かんたんにファイルを共有きょうゆうできる革新かくしん的てきなソフト「Winny」を開発かいはつし、試用しよう版ばんを「2ちゃんねる」に公開こうかいをする。彗星すいせいのごとく現あらわれた「Winny」は、本人ほんにん同士どうしが直接ちょくせつデータのやりとりができるシステムで、瞬またたく間まにシェアを伸のばしていくが、その裏うらで大量たいりょうの映画えいがやゲーム、音楽おんがくなどが違法いほうアップロードされ、ダウンロードする若者わかものも続出ぞくしゅつ。次々つぎつぎに違法いほうアップロードした者ものたちが逮捕たいほされていく中なか、開発かいはつ者しゃの金子かねこも著作ちょさく権けん法ほう違反いはん幇助ほうじょの容疑ようぎをかけられ、2004年ねんに逮捕たいほされてしまう。サイバー犯罪はんざいに詳くわしい弁護士べんごし・壇だん俊光としみつ（三浦みうら）が弁護べんごを引ひき受うけることになるが、第だい一いち審しんでは有罪ゆうざい判決はんけつを下くだされてしまう。

金子かねこさんは、2013年ねんに急性きゅうせい心筋梗塞しんきんこうそくで死去しきょしている。2月に行おこなわれた本ほん作さくの完成かんせい披露ひろう試写ししゃ会かいでは、役やく作づくりのために18キロ増量ぞうりょうしたという東出ひがしでが、撮影さつえい前まえに壇だん弁護士べんごしらと共ともに模擬もぎ裁判さいばんを行おこなったことなどが語かたられた。それだけでも、東出ひがしでが真摯しんしに作品さくひんと向むき合あってきたことが伝つたわってきたが、舞台ぶたい挨拶あいさつ中ちゅうには金子かねこさんの実姉じっしからの手紙てがみが紹介しょうかいされ、“金子かねこ勇いさむ”として現場げんばにいる東出ひがしでを見みて涙なみだしたことや、東出ひがしでが金子かねこさんのお墓参はかまいりをし、きれいに掃除そうじをしてくれたことへの感謝かんしゃも綴つづられていた。

――本ほん作さくの企画きかくを聞きいたとき、どういう部分ぶぶんに一番いちばん惹ひかれましたか。

松本まつもと監督かんとく：自分じぶんはもともと「CAMPFIRE映画えいが祭さい」に別べつのイベントで登壇とうだんしていました。そのとき、企画きかくの古橋ふるはしさんが「Winny」についての話はなしをしていたのを覚おぼえていて、伊藤いとうプロデューサーともその時ときに挨拶あいさつはしていました。そこから数すうヶ月かげつくらい経たってからお話はなしをいただいたところから始はじまっているので、最初さいしょは事件じけんについて詳くわしく知しらなかったんです。

撮影さつえいが始はじまるぎりぎりまでは、映画えいがとしてうまくいくかわからなかったです。Winny事件じけんは重大じゅうだいな出来事できごとですが、大おおきなアクションがあるわけでもないので、映画えいがとして成立せいりつさせられるかは不安ふあんでした。でも、壇だん先生せんせいや金子かねこさんのご遺族いぞくの方ほうなど、いろんな方ほうへの取材しゅざいを通とおして、これはちゃんと世よに出ださないといけないという意思いしが強つよくなっていきました。どこか他人事たにんごとだったことが、段々だんだんと自分じぶん事ごとになっていく感覚かんかくです。確実かくじつにいいものに仕上しあげないといけないという気持きもちで臨のぞんでいました。

東出ひがしで：僕ぼくはお話はなしをいただいてから台本だいほんを読よむまで時間じかんがあったので、自分じぶんなりにWinny事件じけんのことを調しらべていました。また、台本だいほんをいただいてから監督かんとくにお会あいするまでも時間じかんがあったので、台本だいほんについてもしっかり話はなせるくらいになっていたいと思おもっていました。台本だいほんを読よんでからは監督かんとくと同おなじく、金子かねこさんの真実しんじつを世よに出ださないといけないと感かんじたので、実際じっさいに監督かんとくにお会あいしてからは、すぐにチーム一丸いちがんとなって進すすんでいった感覚かんかくです。

――金子かねこさんについて残のこっている資料しりょうは少すくないと聞ききました。そんななか、東出ひがしでさんはどのように役やく作づくりを行おこなっていきましたか。

東出ひがしで：まずは外見がいけんから役やく作づくりをしました。あとは、壇だん先生せんせいや金子かねこさんのお姉あね様さまにお話はなしを聞ききました。例たとえば、壇だん先生せんせいからは「昔むかし、金子かねこさんって身振みぶり多おおいよねって言いったら、両手りょうてを顔かおの前まえで大おおきく振ふりながら『そんなことないです』って言いっていた」というお話はなしを聞ききしたので、そういう天然てんねんさも取とり入いれていきました。

――外見がいけんを近ちかづけるために、18キロ増量ぞうりょうされたそうですね。

東出ひがしで：玄米げんまいと鶏肉とりにく、生なま卵たまご、ブロッコリー、プロテインをひたすたら食たべて増ふやしました。胃いに負荷ふかがないものを食たべないと、胃いが持もたないそうです。

松本まつもと監督かんとく：痩やせるより太ふとる方ほうが大変たいへんらしいですね。

東出ひがしで：本当ほんとうにしんどかったです。ボクサー役やくもやりましたが、減量げんりょうより増量ぞうりょうの方ほうがずっときつかったです。作品さくひんが終おわって痩やせられるのは楽たのしみでしたが、金子かねこさんを演えんじるのが終おわってしまうのは、すごく寂さびしかったです。

松本まつもと監督かんとく：東出ひがしでさんは本当ほんとうにすごかったですよ。まず、衣装いしょう合あわせのときに驚おどろきました。劇げき中ちゅうに使つかう写真しゃしんとかも撮影さつえいするのですが、そのときにスタッフ全員ぜんいんがびっくりしました。もうすでに金子かねこさんだったんですよ。実際じっさいに撮影さつえいしながらも、金子かねこさんのご遺族いぞくの方ほうの反応はんのうを見みて、魂たましいが入はいっている感かんじもしました。ご遺族いぞくの方ほうは、東出ひがしでさんを見みられて過か呼吸こきゅうになるくらい泣なかれていました。裁判所さいばんしょで座すわっている様子ようすを最初さいしょに見みられたそうで、当時とうじのことがリンクしたこともあると思おもいます。ただ、金子かねこさんを演えんじた東出ひがしでさんの佇たたずまいや話はなし方かたなどは、金子かねこさんを知しるどなたに聞きいても似にていると言いっていました。役やくとして仕草しぐさを取とり入いれるのって、やりすぎると芝居しばいくさくなったり、ものまねになったりしてしまいます。とても難むずかしいことですが、東出ひがしでさんはそのバランスがすごく絶妙ぜつみょうでした。

東出ひがしで：ありがとうございます。監督かんとくの演出えんしゅつのおかげです（笑）。

――お二に人にんは撮影さつえいを通とおしてお互たがいどんな印象いんしょうをお持もちになりましたか？

松本まつもと監督かんとく：東出ひがしでさんに最初さいしょお会あいしたときは、僕ぼくらの認識にんしきではまだ正式せいしきに主演しゅえんを引ひき受うけていただいていない状態じょうたいだったので、軽かるいご挨拶あいさつ程度ていどになると思おもっていたのですが、さっきおっしゃっていたみたいにものすごく「Winny」について調しらべられていたので、驚おどろきました。これまでの出演しゅつえん作品さくひんを拝見はいけんしてはいましたが、どういう方ほうかはわかっていませんでした。俳優はいゆうさんはそうあるべきだと思おもいますし、ミステリアスな部分ぶぶんが魅力みりょく的てきだとも思おもいますが、一ひとつのことに熱中ねっちゅうしている感覚かんかくが、僕ぼくの中なかで金子かねこさんがプログラミングに向むかう姿勢しせいもこうだったんじゃないかなって重かさなったんです。最初さいしょにお会あいしたときから金子かねこさんの役やくをお願ねがいしたいと思おもいました。

東出ひがしで：先日せんじつ、俵たわら万智まちさんのインタビューを拝読はいどくしたのですが、事実じじつは作品さくひんにならない、そこに嘘うそだとしても演出えんしゅつを込こめて、事実じじつよりも真実しんじつを際さい立たてさせると作品さくひんになるというようなことをおっしゃっていました。事実じじつを歪曲わいきょくさせるということではなく、真実しんじつを届とどけにいくと。

この真実しんじつというのがWinny事件じけんにおいて何なにだったのかを考かんがえたとき、壇だん先生せんせいたちが「Winny事件じけんに携たずさわった全員ぜんいんが敗者はいしゃだ」とおっしゃっていたんです。弁護べんご団だん、警察けいさつ、検察けんさつ、全員ぜんいんです。でも、裁判さいばんで戦たたかった7年ねんが不毛ふもうだったとは誰だれも言いわない、みんな誇ほこりに思おもっていると。これは真実しんじつだと思おもっています。ただ、みんなが気概きがいを持もって生いきているという真実しんじつを描えがくには、“人間にんげん愛あい”がないと作品さくひんとして成なりたないんです。松本まつもと監督かんとくのデビュー作さく「Noise ノイズ」を見みたときに、どん底ぞこにいる人ひとにも光ひかりが差さし込こむ人間にんげん愛あいみたいなものが、監督かんとくの作品さくひんにはあると思おもいました。だから、今回こんかい「Winny」もこういう作品さくひんになったんだなと思おもいます。

――東出ひがしでさんは、壇だん弁護士べんごしを演えんじた三浦みうら貴たか大だいさんとの共演きょうえんシーンが多おおかったと思おもいます。ご共演きょうえんされていかがでしたか。

東出ひがしで：三浦みうらさんは人間にんげん的てきな優やさしさがある方ほうだと思おもいます。壇だん先生せんせいは、ご自身じしんでも言いっていましたが、好戦こうせん的てきなところもある方ほうです。でも、壇だん先生せんせいの正義せいぎ感かんとか弱者じゃくしゃに寄より添そう弁護士べんごしの鑑かんのような気持きもちは、誰だれかを救すくいたいという優やさしさが大おおきいからだと思おもうんです。金子かねこさんの横よこに立たつ壇だん先生せんせいの優やさしさが希薄きはくだったら、映画えいがのなかの2人ふたりのような雰囲気ふんいきにはならなかったと思おもいます。三浦みうらさんの中なかにある優やさしさが現場げんばを包つつんでくれました。ただ、壇だん先生せんせいご本人ほんにんが実際じっさいに見みている前まえで壇だん先生せんせいを演えんじているので、それは大変たいへんだったと思おもいます。