本格ほんかく的てきな夏山なつやまシーズンの到来とうらいを前まえに、富士山ふじさんでは今年ことしから導入どうにゅうされた事前じぜん登録とうろくシステムの受うけ付つけが始はじまっている。山梨やまなし側がわから入山にゅうざんする人気にんきの吉田よしだルートでは、通行つうこう料りょうの徴収ちょうしゅうや登山とざん道どうの閉鎖へいさを伴ともなう通行つうこう規制きせいなど、大幅おおはばにルールが変更へんこうされており、開山かいさんを前まえに混乱こんらんも予想よそうされている。危険きけんな弾丸だんがん登山とざんの抑制よくせいやオーバーツーリズムによる混雑こんざつ緩和かんわのために導入どうにゅうされた事前じぜん予約よやくだが、どんな効果こうかや懸念けねんがあるのか。専門せんもん家かに見解けんかいを聞きいた。（取材しゅざい・文ぶん＝佐藤さとう佑輔ゆうすけ）

　今年ことしの富士山ふじさんの山開やまびらきは、例年れいねん通どおり山梨やまなし側がわが7月がつ1日にち、静岡しずおか側がわが7月がつ10日とおか。閉山へいざん日びはいずれも9月がつ10日とおかで、実質じっしつ的てきな登山とざんシーズンは2か月げつあまりとなる。山梨やまなし側がわ、静岡しずおか側がわともに今年ことしから導入どうにゅうされた事前じぜん登録とうろくシステムでは、入山にゅうざん日時にちじや山小屋やまごや予約よやくの有無うむなどを登山とざん日び前日ぜんじつまでに登録とうろく。弾丸だんがん登山とざん（山小屋やまごや宿泊しゅくはくを伴ともなわない夜間やかんの登山とざん）をやめるよう登山とざん者しゃに呼よびかけている。

　これに加くわえ、4つのルートのうち全体ぜんたいの6割わり超ちょうの登山とざん者しゃが集中しゅうちゅうする山梨やまなし側がわの吉田よしだルートでは、以前いぜんから任意にんいで実施じっししている1000円えんの富士山ふじさん保全ほぜん協力きょうりょく金きんに加くわえ、新あらたに登山とざん道どう使用しよう料りょうとして1人ひとりあたり1回かい2000円えんを事前じぜん決済けっさいで徴収ちょうしゅう。登山とざん道どう使用しよう料りょうはキャンセルの場合ばあいでも返金へんきんは行おこなわないとしている。また、午後ごご4時じから翌よく午前ごぜん3時じまでの時間じかん帯たいは通行つうこう規制きせいとしてゲートを封鎖ふうさ。1日にちの登山とざん者しゃ数すうが4000人にんを上回うわまわったときにも登山とざん道どうを閉鎖へいさし、弾丸だんがん登山とざんや登山とざん道どうの混雑こんざつを抑制よくせいしていく。

　登山とざんにおいて、入山にゅうざん料りょうの徴収ちょうしゅうや事前じぜん予約よやく制せいの導入どうにゅうといった前例ぜんれいはあるのだろうか。山岳さんがくライターの森山もりやま憲一けんいち氏しは、「男体山なんたいさんや両神山りょうかみさんなどごく一部いちぶで、神社じんじゃや土地とちの所有しょゆう者しゃが個人こじんで課かしている例れいはありますが、行政ぎょうせいによる公的こうてきな形かたちでの介入かいにゅうは国内こくないでは今回こんかいの富士山ふじさんが初はじめての試こころみとなるのではないでしょうか」と見解けんかいを語かたる。

「前提ぜんていとして、登山とざんという文化ぶんか自体じたい、これまでは登山とざん者しゃの自主じしゅ的てきなマナー任まかせで、法律ほうりつやルールなどが未み整備せいびなままに発展はってんしてきたという歴史れきしがあります。山やまでは一般いっぱんに登山とざん道どうを歩あるくことが求もとめられますが、実じつは登山とざん道どうというものは法的ほうてきには定義ていぎされていません。富士山ふじさんでは開山かいさん期間きかんが定さだめられていますが、閉山へいざん中ちゅうに登のぼっても罰則ばっそくがあるわけではなく、実際じっさいきちんと装備そうびを整ととのえ冬山ふゆやまの富士山ふじさんに登のぼっている熟練じゅくれんの登山とざん者しゃもいます。登山とざん届とどけも義務ぎむ化かされているのは長野ながの県けんの一部いちぶ山岳さんがくや火山かざんや岩場いわばなどの危険きけん地域ちいきのみで、全国ぜんこくほとんどの山やまでは法的ほうてきに提出ていしゅつが義務付ぎむづけられているものではありません」

　異例いれいの試こころみとなる今回こんかいのルール改定かいていには、富士山ふじさんが長年ながねん抱かかえてきた登山とざん道どうの混雑こんざつ緩和かんわや近年きんねん問題もんだい視しされている危険きけんな弾丸だんがん登山とざんの抑制よくせいに一定いっていの効果こうかが期待きたいされる一方いっぽう、導入どうにゅうに至いたる議論ぎろんが不透明ふとうめいなことや、山梨やまなし側がわ・静岡しずおか側がわで規定きていが異ことなることなどから、混乱こんらんの声こえも上あがっている。富士山ふじさんの登山とざん者しゃ数すうは山やまガールブームや世界せかい遺産いさん登録とうろくの機運きうんが高たかまった2010年ねんの約やく32万まん人にんがピークで、14年ねん以降いこうはコロナ禍かを除のぞいても20万まん人にん台だいを推移すいい。その間あいだ、混雑こんざつ解消かいしょうの議論ぎろんは平行へいこう線せんをたどっており、森山もりやま氏しも今回こんかいの決定けっていには唐突とうとつな印象いんしょうを抱だいているという。

「理由りゆうとして考かんがえられるのは、コロナ禍かで山小屋やまごやの予約よやく制せいが一般いっぱん的てきとなり、それまでは受うけ入いれられるだけ受うけ入いれていた山小屋やまごやにも定員ていいんの概念がいねんが浸透しんとうしたこと。もうひとつは昨年さくねん盛さかんに報ほうじられた外国がいこく人じん登山とざん者しゃによるトラブルが原因げんいんではないでしょうか。入山にゅうざん料りょうの徴収ちょうしゅうや小屋こや泊はく以外いがいでの夜間やかん登山とざん禁止きんしから、“山小屋やまごや利権りけん”を勘かんぐる声こえもありますが、山小屋やまごや側がわとしては利用りよう者しゃを抑制よくせいするような今回こんかいの決定けっていは、コロナ前まえであれば相当そうとうな反発はんぱつがあったはず。お金かね目的もくてきというより、登山とざん者しゃをフィルタリングすることで、無法者むほうものを排除はいじょしたいという意図いとが大おおきいのではないでしょうか」

　あらためて、今回こんかいの決定けっていにより、今後こんごどのような問題もんだいが想定そうていされるのか。

「まず、天候てんこうに大おおきく左右さゆうされる登山とざんと予約よやく制せいはなじまない。予約よやくした日ひに台風たいふうが直撃ちょくげきしても、返金へんきんがないならと強行きょうこうしてしまう登山とざん者しゃもいるでしょう。また、吉田よしだルートのみ入山にゅうざん料りょうや通行つうこう規制きせいを設もうけることで、少すくなからず静岡しずおか側がわに人ひとが流ながれることは容易よういに予想よそうがつく。山小屋やまごやのキャパシティーが小ちいさい静岡しずおか側がわに人ひとが押おし寄よせては本末転倒ほんまつてんとうで、県けん単位たんいによる縦割たてわり行政ぎょうせいではなく、国くにが一括いっかつして足並あしなみをそろえた運用うんようをする必要ひつようがあります。

　あと、よく混同こんどうされますが、弾丸だんがん登山とざんは宿泊しゅくはくを伴ともなわない夜間やかん登山とざんで、健脚けんきゃく者しゃが朝あさ一番いちばんで登のぼり始はじめてその日ひのうちに下山げざんする日帰ひがえり登山とざんとは別べつ。入山にゅうざんが午後ごご4時じまでというのは妥当だとうですが、下山げざんしてきた登山とざん者しゃが午後ごご4時じでゲートが閉しまってしまい出でられないという場合ばあいにはどう対応たいおうするのか。実際じっさいに運用うんようを始はじめてからいろいろな問題もんだいが起おこるのは明白めいはくなので、今後こんごどう改善かいぜんしていくかが重要じゅうようです」

　真まっ当とうな登山とざん者しゃからすると、いろいろと制約せいやくが多おおく窮屈きゅうくつな印象いんしょうもある事前じぜん予約よやく制せい。“日本一にっぽんいちの山やま”が今後こんごどのような道みちをたどるのか、注目ちゅうもくしたい。