映画えいが『プロミスト・ランド』（6月がつ29日にち公開こうかい、飯島いいじま将すすむ史し監督かんとく）に主演しゅえんした俳優はいゆう・寛ひろし一郎いちろう（27）。本ほん作さくでは禁きんじられた熊くま狩かりに挑いどむマタギの青年せいねんを演えんじているが、今年ことしは計けい5本ほんの映画えいがが公開こうかいされる。デビュー7年ねん、27歳さいの現在地げんざいちは？（取材しゅざい・文ぶん＝平ひら辻つじ哲也てつや）

　2月がつには家臣かしん役やくの『身代みがわり忠臣蔵ちゅうしんぐら』、6月がつには本ほん作さく、9月6日にちには主人公しゅじんこう（河合かわい優ゆう実み）の恋人こいびと役やくの『ナミビアの砂漠さばく』（山中やまなか瑤子ようこ監督かんとく）、9月13日にちには江戸えど時代じだい、アイヌの交易こうえきを通つうじて、生いき方かたを見出みいだす主人公しゅじんこうを演えんじた『シサム』（中尾なかお浩之ひろゆき監督かんとく）、冬ふゆには木村きむら拓哉たくや主演しゅえんの『グランメゾン・パリ』（塚原つかはらあゆ子こ監督かんとく）が控ひかえる。

「去年きょねん、ちょっと“貯金ちょきん”したんです。映画えいがが1年ねん後ごぐらいになるので、出演しゅつえん作さくが増ふえました」

『ナミビアの砂漠さばく』は5月の第だい77回かいカンヌ国際映画祭かんぬこくさいえいがさい監督かんとく週間しゅうかんでワールドプレミア上映じょうえいされ、観客かんきゃくの反はん応おうも生なまで感かんじた。カンヌはベルリン、ベネチアと並ならぶ世界せかい三さん大だい映画えいが祭さいの一ひとつで最高峰さいこうほうの映画えいが祭さいだ。

「一緒いっしょにお客きゃくさんと映画えいがを見みて、直じかにお客きゃくさんが感想かんそうを言いってくれる機会きかいって、僕ぼくらにはないんですよ。舞台ぶたいの人ひとやミュージシャンにはそういう経験けいけんがあるんでしょうけど、映画えいがの人間にんげんはどこか孤独こどくなんです。自信じしんがあっても、作品さくひんを受うけ入いれてもらえるのか不安ふあんもあります。そこで、お客きゃくさんの声こえを直接ちょくせつ聞きけたのは、ものすごく大おおきな幸しあわせでした。英語えいごが全部ぜんぶ分わかるわけでもないですが、感情かんじょうが伝つたわってきたんです」

　寛一かんいち郎ろうは自身じしんを「映画えいがの人間にんげん」だと捉とらえているが、昨年さくねんは初舞台はつぶたいも経験けいけんした。実在じつざいしたドイツ人じん孤児こじカスパー・ハウザーを題材だいざいとしたペーター・ハントケの戯曲ぎきょく『カスパー』（演出えんしゅつウィル・タケット）だ。幼少ようしょう期きから16年間ねんかん監禁かんきんされた男おとこが言葉ことばを知しることで変化へんかしていく姿すがたが描えがかれる。

「すごくいい経験けいけんになりました。毎日まいにち同おなじ台本だいほんで、しかも演出えんしゅつ家かが外国がいこく人じん。言葉ことばを題材だいざいとしたものだったので。舞台ぶたいをやると、お芝居しばいの体からだ幹みきがつくと言いわれ、いろんな方ほうから勧すすめられてきたのですが、その意味合いみあいも分わかりました。本当ほんとうに毎日まいにち、悔くやしい思おもいもしましたし、チャレンジの日々ひびでした。いい機会きかい、めぐり合あわせがあれば、舞台ぶたいはやってみたいです」

　出演しゅつえん本数ほんすうを増ふやし、フィールドを広ひろげたことで見みえてきたこともある。

「これまではチグハグしていたところもあったのですが、最近さいきん、自分じぶんの現在地げんざいちが分わかってきた気きもしているんです。自分じぶんが今いま、どこにいて、どこへ行いきたいのか、なんとなく見みえてきた気きがします」

　やっていきたいのは映画えいが。祖父そふ・三さん國連こくれん太郎たろうさん、父ちち・佐藤さとう浩市こういち（63）も歩あゆんできた道みちだ。

「やる以上いじょうはたくさんのお客きゃくさんに見みてもらいたいですし、映画えいがには興行こうぎょう的てきな部分ぶぶんも大事だいじです。ただ、僕ぼくが出でたい、やりたいと思おもっているのは、時代じだいを経へても残のこっていく映画えいがです。この『プロミスト・ランド』もそうですけど、価値かちのある映画えいがを作つくっていきたいし、僕ぼく自身じしんもそれが見みたいんです」

　これまでの出演しゅつえん作品さくひんには大正たいしょうを舞台ぶたいに女おんな相撲すもうとアナキストの物語ものがたり『菊きくとギロチン』、江戸えど時代じだいのエコ社会しゃかいと恋こい模様もようを描えがく『せかいのおきく』（23）など挑戦ちょうせん的てきな題材だいざいも多おおい。作品さくひん選えらびはどのようにしているのか。

「マネジャーと話はなし合あって決きめています。マネジャーのことは信頼しんらいしていますし、僕ぼくが好すきなものを分わかっていますので、しっかりやりたい作品さくひんをやれているという感覚かんかくがあります」

　父ちち・佐藤さとう浩市こういちとの関係かんけいも良好りょうこう。話題わだいの中心ちゅうしんは常つねに仕事しごとなのだという。

「仕事しごと以外いがいの話はなしはしませんね（笑）。そういう会話かいわができない家族かぞくなんです。映画えいがの話はなし、芝居しばいの話はなしが家族かぞくの会話かいわっていう感かんじ。あの人ひとも、好すかれて嫌きらわれてきた人間にんげんですから、仕事しごとする際さいに、どういうことを心こころがければいいのかとか、人ひととしてのことは教おそわりました。自分じぶんがやったことは必かならず返かえってくるといった話はなしもしてくれました。言葉ことばでなくても、彼かれを見みたら分わかる部分ぶぶんもあります。昔むかしから態度たいどで教おしえてくれるという感かんじ。ただ、最近さいきんは丸まるくなったというか、柔やわらかくなってきましたよ（笑）。昔むかしは一言ひとこともしゃべれないぐらい怖こわかったですから」と笑わらう。

　三さん國こくと佐藤さとうは『人間にんげんの約束やくそく』（86）、『美味おいしんぼ』（96）と数少かずすくない共演きょうえんしかなかったが、寛一かんいち郎ろうと浩市こういちは阪本さかもと順治じゅんじ監督かんとくの『一いち度ども撃うってません』（20）『せかいのおきく』で2度どの“共演きょうえん”を果はたしている。

「（父ちちは）目標もくひょうではないけれど、ライバルではあるかもしれない。彼かれの目めの黒くろいうちに闘たたかっておきたいという気持きもちはあります。僕ぼくは彼かれではないし、彼かれにはなれない。自分じぶんの色いろを見みつけていかないと思おもっています」と寛一かんいち郎ろう。父ちちとの本格ほんかく競演きょうえんもそのうち見みられるかもしれない。

□寛ひろし一郎いちろう（かんいちろう）1996年ねん8月がつ16日にち、東京とうきょう都と出身しゅっしん。2017年ねん、『心しんが叫さけびたがってるんだ。』で映画えいが初はつ主演しゅえん。『菊きくとギロチン』（18）ではキネマ旬報きねまじゅんぽうベスト・テン新人しんじん男優だんゆう賞しょうなど多数たすう受賞じゅしょうする。22年ねんには出演しゅつえん作さく『ホテルアイリス』『月つきの満みち欠かけ』が公開こうかいされたほか、NHK大河たいがドラマ『鎌倉かまくら殿どのの13人にん』に出演しゅつえん。さらに、23年ねんには初舞台はつぶたい『カスパー』で主演しゅえんを務つとめた。主おもな出演しゅつえん作さくは『チワワちゃん』（19）、『一いち度ども撃うってません』（20）、『劇場げきじょう』（20）、『泣なく子こはいねぇが』（20）、『AWAKE』（20）、『せかいのおきく』（23）。今後こんごも『ナミビアの砂漠さばく』（9月がつ6日にち）、主演しゅえん『シサム』（9月がつ13日にち）、『グランメゾン・パリ』（冬ふゆ）が控ひかえる。