2003年ねんのプロデビュー以来いらい、日本にっぽん総合そうごう格闘技かくとうぎ界かいのトップを走はしり続つづけてきた青木あおき真しん也（41）。複数ふくすうの書籍しょせきも出版しゅっぱんし、文筆ぶんぴつ家かとしての顔かおも持もつ。また自みずから「note」でも発信はっしんをし続つづけ、青木あおきの“考かんがえ方かた”へのファンも多おおい。ENCOUNTでは青木あおきが格闘技かくとうぎの枠わくに捉われず、さまざまなトピックスについて持論じろんを語かたる連載れんさい「青木あおきが斬きる」を5月に始動しどう。連載れんさい2回かい目めのテーマは「箱庭はこにわ化か～なぜクソリプは生うまれるのか～」。（取材しゅざい・文ぶん＝島田しまだ将すすむ斗と）

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　今年ことし1月がつの試合しあいを最後さいごにMMAの試合しあいから遠とおざかっていた青木あおき真しん也が5月がつ末まつにアジア最大さいだいの格闘技かくとうぎ団体だんたい「ONEチャンピオンシップ」との再さい契約けいやくを発表はっぴょうした。インタビュー記事きじではなぜONEなのか、再さい契約けいやくの心境しんきょうを告白こくはくしているが、X上うえには明あきらかに記事きじを読よんだとは思おもえない“クソリプ”も飛とんでいた。

「理解りかいできていないんだなというのが一番いちばん怖こわい。それが一番いちばん問題もんだいだと思おもっていて、それは壁かべであり、創つくっている側がわからすると本当ほんとうはあってはならないし残念ざんねんなことですよね。でもそれを首根くびねっこ捕つかまえて読よんでくれるようにしようとは思おもわないんですよ」

“クソリプ”にイラッとはするが怒いかりではない。それは、そもそも“クソリプ”をするユーザーとは考かんがえ方かたやルールが違ちがうから。

「言葉ことばが分わかったとしても文脈ぶんみゃくの最後さいごまで読よみ解どけない。それは宗教しゅうきょう・宗派しゅうはが違ちがうから。牛肉ぎゅうにくが好すきなやつは豚肉ぶたにく好すきにならないじゃん。それが分わからないんです」

　今回こんかいのテーマでもある“クソリプ”が生うまれる構図こうずについて青木あおきなりの解釈かいしゃくをこう説明せつめいする。

「いまはコンテンツの流ながれとして箱庭はこにわがいくつも点在てんざいしている。格闘技かくとうぎだったらRIZINが好すきな人ひと、K-1が好すきな人ひと、箱はこ推おしのファン、選手せんしゅのファンがいっぱいいるわけですよ。でも選手せんしゅサイドにはそれは分わからないから、そこでクソリプとされるものが生うまれるんですよ。

　逆ぎゃくに言いうとそれって『俺おれたちの客きゃくじゃねぇな』という選別せんべつでもあるんですよね。一番いちばん分わかりやすい多様たよう性せいですよね。アテンションを集あつめにいっていないが故ゆえの『俺おれたちの客きゃくじゃない』」

　続つづけて「これまで説明せつめいした構造こうぞうを理解りかいできていないから批判ひはん的てきなコメントが出でてくるわけです。他者たしゃに対たいして『俺おれ牛肉ぎゅうにく好すきなんだけど、お前まえも好すきだろ』って押おし付つけちゃうんですよ。それがいま起おきている現状げんじょう。これはもっと加速かそくしていくと思おもいます」と“クソリプ”について分析ぶんせきした。

　青木あおきはよく「バカだなぁ」という言葉ことばを使つかう。これは何なにかを揶揄やゆしているわけではなく自分じぶんと考かんがえ方かたが違ちがう人ひとを見みたときに「あいつバカだなぁ」と出でてくるそうだ。逆ぎゃくに会話かいわの中なかで出でてくる「賢かしこい」という言葉ことばは「僕ぼくはあの人ひとの考かんがえ方かたを分わかってますよ」の同意どういの意思いし表示ひょうじになっていることも指摘してきした。

　現代げんだいにはこの「バカだなぁ」という感情かんじょうが点在てんざいしている。例たとえば、自分じぶんの知しらないアーティストやアイドルに対たいして「あの方かたたちは何なにをやっているんだろう？」という気持きもちになるかもしれないが、そのアーティストたちが東京とうきょうドームで何なん万まん人にんもの観客かんきゃくを集あつめてライブをしていることもある。外そとから見みたらよく分わからないが、中なかではひとつのカルチャーが育そだっている、これが「箱庭はこにわ化か」だ。

　箱庭はこにわ化かを加速かそくさせたのがSNSであることは想像そうぞうに難かたくない。しかしSNSができるよりも前まえの時代じだい、ネットの普及ふきゅうをリアルタイムで目撃もくげきしてきた世代せだいは“インターネット”に対たいして別べつの見方みかたをしていたという。

「なんか俺おれたちのちょっと上うえの世代せだいってインターネットってすごく開ひらかれていて、もっと政治せいじを、野球やきゅうを、すべてのジャンルで開ひらかれた意見いけんができる革命かくめい的てきなものだっていう意識いしきがあったのよ。正直しょうじき俺おれも最初さいしょはインターネットは全ぜん世界せかいとつながれて可能かのう性せいがあるものだと思おもった」

　ネットの本格ほんかく的てきな普及ふきゅうから数すう十じゅう年ねんたった。当初とうしょ想像そうぞうしていたものと「全然ぜんぜん違ちがってた」と振ふり返かえる。

「ネットは自分じぶんの好すきな人ひとと好すきなジャンルで結むすび合あえるわけじゃん。だからより一層いっそうコミュニティー化かしていくんですよ。それがいまのエンタメであり、今いまの全すべてのものと言いえますね」

　興味きょうみのある情報じょうほうを検索けんさくしているだけでSNSで表示ひょうじされるものは自分じぶんの好すきなものだらけになっていく。クリエイター側がわはnote、X、YouTube、voicyなどさまざまな媒体ばいたいを個人こじんで持もつことができるため、箱庭はこにわを作つくりやすい。一方いっぽうでSNS流行りゅうこう前まえはチケットの「手て売うり」のように直接ちょくせつつながりを持もつことが必要ひつようだった。

　一番いちばん分わかりやすい例れいが「選挙せんきょ」だ。東京とうきょう都とでは都知事とちじ選せんが「七夕たなばた決戦けっせん」と名付なづけられ、報道ほうどう、選挙せんきょ活動かつどうともに熱ねつが帯おびてきている。選挙せんきょには箱庭はこにわ化かしていく上うえで大切たいせつなことが隠かくされている。

「経団連けいだんれんとか団体だんたいいろいろあるけど、結局けっきょく選挙せんきょって自分じぶんたちの票田ひょうでんを持もっているかどうかじゃないですか。握手あくしゅをどれだけしたかということじゃないですか。SNSができて思想しそう、共感きょうかん、信念しんねんを簡単かんたんに伝つたえられるようになって商売しょうばいはしやすくなったが、みんなが見落みおとしていて、実じつは一番いちばん大事だいじなことはこの“つながり”なんですよね」

　業界ぎょうかい問とわず著名ちょめい人じんなどの「ポップアップショップ」が昨今さっこんはやっている。ファンはグッズを直接ちょくせつ購入こうにゅうすることができ、時間じかんが合あえば推おしている著名ちょめい人じんにリアルで会あうことができるイベントだ。ネット上じょうで完結かんけつせず、一見いっけん手間てまのようにも見みえるが、こうしたつながりを持もつイベントの大切たいせつさをとある格闘かくとう家かを例れいに説とく。

「ある格闘かくとう家かが地方ちほうに行いってその土地とちの道場どうじょうに行いって、道着どうぎを着きて一緒いっしょに練習れんしゅうするんですよ。そしてその地元じもとの大おおきなショッピングモールとかでポップアップショップをやる。これが人ひと集あつまるんですよ。自分じぶんでつながりを作つくって客きゃくも呼よべるわけです。彼かれは優秀ゆうしゅうなビジネスパーソンだと思おもいます。だから商売しょうばいにおいて箱庭はこにわを作つくるのは怠なまけない方ほうがいいですよ」

　現代げんだいではSNSのフォロワー数すう、再生さいせい回数かいすうはもちろん大事だいじ。より踏ふみ込こんだつながりを持もつにはアナログな方法ほうほうが一番いちばん強つよい。「『お願ねがいします』って握手あくしゅすることですよね」とうなずいた。

　青木あおきは格闘かくとう家かや文筆ぶんぴつ家かとしての活動かつどう以外いがいにオンラインショップの運営うんえいもしている。Tてぃーシャツにタオル、シールなどさまざまなオリジナルグッズを販売はんばいしているが、売うり上あげが全すべてではなく自身じしんのファンとつながるツールのひとつでもある。

「あれはさ、全部ぜんぶ自分じぶんで発送はっそうして、メッセージも一いち筆ぴつ入いれているんだよ。ありがたいことに買かってくださる方ほうが多おおいんだけど、それがつながりなんだよね。みんなが雑ざつにするところを雑ざつにしちゃいかんのですよ。これが本当ほんとうに妙みょうで、手てを抜ぬきがちなところを手てを抜ぬかない。それが大事だいじなんだよ。

　グッズの位置付いちづけすらも利益りえきを得えるものではなくて、つながりとして感謝かんしゃをするものになっていくと。『ライブはグッズで』っていうのはメジャーアーティストの話はなしで小ちいさい個人こじん商店しょうてんはひたすら丁寧ていねいにやっていくしかないですよね。自分じぶんで言いうのもあれだけど、自分じぶんの客きゃくの質しつは抜群ばつぐんだと思おもう。本当ほんとうにありがたい」

　昨年さくねん末まつにはアオキロックTてぃーシャツを販売はんばい。何なに百ひゃく枚まいも注文ちゅうもんがあったが、クレームはほぼなかった。これはアパレル関係かんけい者しゃも驚おどろくレベルだといい、さらにグッズのリピート購入こうにゅう者しゃも多おおかった。

「週しゅうに1回かい、アパレル担当たんとう者しゃとミーティングをするんだけど、販路はんろを広ひろげていくことよりも、今いまいるお客きゃくさんのケアをすることを大事だいじにしてます。俺おれが表ひょうに出でていくからクソリプはどうしても生うまれる。試合しあいしているからそれは仕方しかたないよね。でも、今いまいるお客きゃくさんに対たいして心地ここち良よい空間くうかんだけは維持いじしないといけないっていうのはすごい意識いしきしてるんだよ」

　SNS社会しゃかいでは著名ちょめい人じんが悪あく目立めだちすると「○○ファンの治安ちあん悪わるい」「○○ファンは痛いたい」などとその著名ちょめい人じんのファンまで批判ひはんの的まとになることがある。これは青木あおきにとっても「怖こわい」こと。

「めちゃくちゃ怖こわい。だから秋山あきやま（成なり勲くん）戦せんの後のちとか気きを付つけました。アテンションを集あつめることをやめようと思おもった。あのときって数字すうじが出でちゃったし、売うり上あげはめっちゃ上あがった。注目ちゅうもくが集あつまったけど、いつもと違ちがうお客きゃくさんだなっていうのは当然とうぜん分わかりました。それで誤解ごかいというか曲解きょっかいが増ふえたんですよね」

　試合しあい前まえから自みずからも秋山あきやまをあおり、注目ちゅうもくの一いち戦せんとなったが、その後ごは自分じぶんなりの方法ほうほうで本来ほんらいのファンに対たいしてケアした。

「秋山あきやま戦せんの後のちにグラップリング戦せんをやったのよ。これをめちゃくちゃ分わかりづらくしました。青木あおき真しん也の客きゃくじゃないと分わからない難解なんかいなものに。試合しあいの内容ないよう自体じたいもそうだし、その前後ぜんごも好すきな人ひとでないと分わからないようにしたんですよ。フィルターを作つくってわざと売うり上あげを下さげたんです」

　今年ことし1月がつの試合しあいに向むけた会見かいけんでは「格闘技かくとうぎの試合しあいを見みるというよりも小説しょうせつだったりドラマだったり、映画えいがを見みるような感覚かんかくで見みて」と発言はつげん。ファイトキャンプ中ちゅう、ケージに入はいる前まえ、試合しあい後ご、その全すべてにメッセージが込こめられている。考かんがえるための「余白よはく」を大事だいじにする青木あおきが自身じしんの「表現ひょうげん」について分わかりやすく説明せつめいした。

「僕ぼくの試合しあいってどれくらい青木あおきの意図いとをくみ取とれるか競争きょうそうみたいなところがあるじゃん（笑）。メッセージを各所かくしょに散ちりばめているんですよね。独特どくとくではあるんだけど、それが客きゃくと僕ぼくとの勝負しょうぶでもあるから。全部ぜんぶ分わかりやすいわけじゃない。あとで答こたえ合あわせをしたときに『これは分わからなかったな～』みたいなものもあるものに仕上しあげてる」

　1月がつの試合しあいでは普段ふだんシャツを着用ちゃくようし、入場にゅうじょうしてくるところを裸はだかで登場とうじょう。それは「ケンドーカシンがハイアン・グレイシーとやったときに裸はだかで入場にゅうじょうしたから」。そこまで分わかって観戦かんせんしたファンはいるのか、というレベルまで細こまかく創つくっている。これを分わかったファンは、外そとから見みればマニアであるが、なによりも青木あおきからメッセージを受うけ取とれた人ひとだ。これこそがつながりだ。

　認知にんち度どを上あげることももちろん必要ひつよう。その上うえで分わかりづらくていい。これが青木あおきの創つくる世界せかい観かん。「『これ何なに言いってんだろう』っていうのを混まぜていかないと面白おもしろくないですよね」。

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「青木あおき真しん也」の言葉ことばのなかには「これどういうことだろう？」とすぐに理解りかいできないものもある。咀嚼そしゃくするまで時間じかんがかかることもあるが、ここで素通すどおりせず、立たち止どまるこの時間じかんが大切たいせつだと思おもう。時短じたん、タイムパフォーマンスが求もとめられる時代じだいでは、発信はっしん者しゃ側がわが分わかりやすく伝つたえることや拡散かくさんされることばかりに目めがいきがち。しかし、受うけ手て側がわがすぐに答こたえを求もとめず、出ださず、自分じぶんの頭あたまで考かんがえて丁寧ていねいに向むき合あうことがネット社会しゃかいに生いきる現代げんだい人じんには必要ひつようだと思おもう。

□青木あおき真しん也（あおき・しんや）1983年ねん5月がつ9日にち、静岡しずおか県けん生うまれ。第だい8代だい修おさむ斗と世界せかいミドル級きゅう王者おうじゃ、第だい2代だいDREAMライト級きゅう王者おうじゃ、第だい2代だい、6代だいONEライト級きゅう王者おうじゃ。小学生しょうがくせい時じに柔道じゅうどうを始はじめ、2002年ねんには全日本ぜんにほんジュニア強化きょうか指定してい選手せんしゅに。早稲田大わせだだい在学ざいがく中ちゅうに総合そうごう格闘かくとう家かに転向てんこうし03年ねんにはDEEPでプロデビューした。その後ごは修おさむ斗と、PRIDE、DREAMで活躍かつやくし、12年ねんから現在げんざいまでONEチャンピオンシップを主戦しゅせん場じょうにしている。これまでのMMA戦績せんせきは59戦せん48勝しょう11敗はい。14年ねんにはプロレスラーデビューもしている。文筆ぶんぴつ家かとしても活動かつどうしており『人間にんげん白しろ帯たい 青木あおき真しん也が嫌きらわれる理由りゆう』（幻冬舎げんとうしゃ）、『空気くうきを読よんではいけない』（幻冬舎げんとうしゃ）など多数たすう出版しゅっぱん。メディアプラットフォーム「note」も好評こうひょうで約やく5万まん人にんのフォロワーを抱かかえている。

青木あおき真しん也のnote
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